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第6章 第6話
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13年前のタカミにとって、首相暗殺テロ未遂事件をはじめとする千のコスモの会が起こしたいくつかの事件は、教祖や幹部たちの逮捕までがハッカーとしての仕事であり、現実世界の事件を舞台としたゲームでしかなかった。
現実の事件をエンターテイメントとして楽しんでいたのはタカミだけではなかった。
幼い頃から堅苦しい小説ではなく、漫画でミステリーを楽しんできたタカミたちの世代にとって、現実の事件は探偵ごっこの格好の材料だった。
当時はSNSが流行し始めた時代でもあり、国民全員が探偵となり推理を披露し始めた時代でもあった。
子どもが行方不明になれば親を疑い、
「インタビューに淡々と答えているのはおかしい。泣かないのはおかしい」
「何故母親だけが顔を出し、父親は顔も名前も出さないのか。犯人だからじゃないのか」
「母親が犯人だ、父親はそれに気づいていて、だから顔を出さないに違いない」
「そもそもその場に子どもは本当にいたのか。目撃者が母親に頼まれて嘘をついているのではないか」
「顔を出さない父親こそ犯人だ」
「今すぐ自首しろ」
「子殺しの犯罪者」
一通り探偵ごっこが終わると、今度は誹謗中傷を始め、
「この子は発達障害だったのではないか」
「この親は『代理ミュンヒハウゼン症候群』ではないのか」
「代理ミュンヒハウゼン症候群というのはさ」
それだけでは飽き足らず、お医者さんごっこも始める。
それを良しとはしないスタイルを取りながらもまとめサイトを作り広告収入を稼ぐ者も無数にいた。
一回り以上も年が離れた一条たちの世代や、タカミよりも下のショウゴたちの世代にとっても、それは同じだろう。
現実の事件は、退屈な日常において非常に重要であり、大航海時代の胡椒のような貴重なスパイスだった。
事件が解決した後も、遺族や加害者家族の人生は続いていく。一生その事件を抱えて生きていく。
タカミも、ごっこ探偵たちも、そこまでの想像力を持たず、新しい事件で同じことを繰り返していた。
アリステラの女王が人類を「野蛮なホモサピエンス」と呼ぶのは、戦争や暴力による解決しかできないだけではなく、人類のそんな愚かさと醜さを知っているからかもしれない。
タカミは映像を元に戻す。
『その前にひとつだけいいですか。
あなたは?
なぜ、彼女と、アナスタシアさんと同じ顔をしているんです?』
『私はアナスタシア様に仕えるメイド兼ボディーガード。
名は鳳アンナ(おおとり あんな)と申します』
ふたりは姉妹ではなかったというわけか。
タカミが過去に一度か二度会った女性は「鳳」と名乗っていたから、映像の中でショウゴと話している女性だったのだろう。
ショウゴは気を失っていた女性について「アナスタ……」と、その名前を呼びかけていた。
彼女がアナスタシア=朝倉レインであり、タンクローリーに潰されてしまった女性が鳳アンナというわけだ。
他人にしては、あまりに顔が似すぎていた。教祖か教団がアンナをレインの影武者にするために顔を整形させたのかもしれない。
教祖は確か、イニシエーション、儀式と称して信者の女性ら数十人と性的な関係を持ち、子どもを生ませていた。
もしかしたら、鳳アンナもまた教祖の子どもであり、顔が似ているのはふたりの母親が姉妹だったのかもしれない。
朝倉姓を与えられた子どもは、至高神の化身である教祖の力を受け継いだとされる者のみだった。男子が5人、女子が4人、長男をはじめとし四女までのわずか9人だけが、正当な教祖の子として数えられる。
教祖に信者たちが信じるような千里眼や未来予知能力が本当にあったとは到底思えないが、同じ父親を持ちながらも子どもたちの教団内での立場は大きく異なっていた。
朝倉姓を与えらなかった子どもは、子として数えられることもなく、教団内での名前であるコスモネームすら与えられない。
だから一方はアナスタシア様と呼ばれ、もう一方はアンナと呼ばれる。
ふたりが腹違いの姉妹というのは、タカミの憶測でしかなかったが、アンナが死んでしまった以上、もはやそれを確かめるすべはないかもしれない。アナスタシアがそれを知っているかどうかわからないからだ。
『我が教祖・朝倉現人があの当時、首相暗殺を幹部ら数人に指示したのは、小久保ハルミ女史が発見した千年細胞が大きく関わっているのです』
『我が教祖は小久保女史による千年細胞発見の報道がなされた際、非常にお喜びになられておりました』
『我が教祖はその後、小久保女史の研究が闇に葬られるようになると、一部の愚かな権力者たちが千年細胞を独占しようとしている、と』
我が教祖、我が教祖、我が教祖、きっとそう呼ぶように育てられたのだろう。これが洗脳というものかと思うと、タカミは彼女に同情を禁じ得なかった。
『その者たちが、我々の目的を邪魔している、と仰られたのです。
そして、当時の首相をはじめとする一部の権力者たちの暗殺を、幹部ら数人に指示されました』
だが、その教祖がまさか、千年細胞をめぐる国家機密まで知り得ていたとは思いもしなかった。
千年細胞と当時の首相との関係は、タカミでさえこの日一条から教えられるまで知らなかったことだ。
同じ党に所属しながらも、当時の首相とは別の派閥に属し、大臣に選ばれることがなかったような、そんな権力者たちに比較的近しい立場の者と関わりがあり、リークがあったのかもしれない。
だとすれば、その者は教祖を利用しテロを起こさせ、権力者たちを一掃するつもりだった可能性が高い。
政治家たちは組織票を求めて様々な新興宗教と深い関係を持つものだ。たとえそれが反社会的な活動をしている組織だとしてもだ。
時には、新興宗教の教祖が自称する「神」や「メシアの生まれ変わり」などといったことさえも、さも信じているかのように振る舞い、信者たちに自分に投票させるように促す。
そして、使い物にならなくなれば、警察を動かし、教団そのものを解体させる。
日本人は冠婚葬祭を様々な宗教の儀式で行い、無神教だとよく言われていた。
だが、日本という国自体は、政治家たちが票欲しさに新興宗教に都合の良い政治を行っており、特に海外ではカルト教団と認定される存在に実質支配されていると言っても過言ではなかった。
日本という国は、近い将来終わる日が来る。そんな予想は当時からしていた。
だが、それより先に世界の終末が始まることは、当時のタカミには想像もつかなかったことだった。
現実の事件をエンターテイメントとして楽しんでいたのはタカミだけではなかった。
幼い頃から堅苦しい小説ではなく、漫画でミステリーを楽しんできたタカミたちの世代にとって、現実の事件は探偵ごっこの格好の材料だった。
当時はSNSが流行し始めた時代でもあり、国民全員が探偵となり推理を披露し始めた時代でもあった。
子どもが行方不明になれば親を疑い、
「インタビューに淡々と答えているのはおかしい。泣かないのはおかしい」
「何故母親だけが顔を出し、父親は顔も名前も出さないのか。犯人だからじゃないのか」
「母親が犯人だ、父親はそれに気づいていて、だから顔を出さないに違いない」
「そもそもその場に子どもは本当にいたのか。目撃者が母親に頼まれて嘘をついているのではないか」
「顔を出さない父親こそ犯人だ」
「今すぐ自首しろ」
「子殺しの犯罪者」
一通り探偵ごっこが終わると、今度は誹謗中傷を始め、
「この子は発達障害だったのではないか」
「この親は『代理ミュンヒハウゼン症候群』ではないのか」
「代理ミュンヒハウゼン症候群というのはさ」
それだけでは飽き足らず、お医者さんごっこも始める。
それを良しとはしないスタイルを取りながらもまとめサイトを作り広告収入を稼ぐ者も無数にいた。
一回り以上も年が離れた一条たちの世代や、タカミよりも下のショウゴたちの世代にとっても、それは同じだろう。
現実の事件は、退屈な日常において非常に重要であり、大航海時代の胡椒のような貴重なスパイスだった。
事件が解決した後も、遺族や加害者家族の人生は続いていく。一生その事件を抱えて生きていく。
タカミも、ごっこ探偵たちも、そこまでの想像力を持たず、新しい事件で同じことを繰り返していた。
アリステラの女王が人類を「野蛮なホモサピエンス」と呼ぶのは、戦争や暴力による解決しかできないだけではなく、人類のそんな愚かさと醜さを知っているからかもしれない。
タカミは映像を元に戻す。
『その前にひとつだけいいですか。
あなたは?
なぜ、彼女と、アナスタシアさんと同じ顔をしているんです?』
『私はアナスタシア様に仕えるメイド兼ボディーガード。
名は鳳アンナ(おおとり あんな)と申します』
ふたりは姉妹ではなかったというわけか。
タカミが過去に一度か二度会った女性は「鳳」と名乗っていたから、映像の中でショウゴと話している女性だったのだろう。
ショウゴは気を失っていた女性について「アナスタ……」と、その名前を呼びかけていた。
彼女がアナスタシア=朝倉レインであり、タンクローリーに潰されてしまった女性が鳳アンナというわけだ。
他人にしては、あまりに顔が似すぎていた。教祖か教団がアンナをレインの影武者にするために顔を整形させたのかもしれない。
教祖は確か、イニシエーション、儀式と称して信者の女性ら数十人と性的な関係を持ち、子どもを生ませていた。
もしかしたら、鳳アンナもまた教祖の子どもであり、顔が似ているのはふたりの母親が姉妹だったのかもしれない。
朝倉姓を与えられた子どもは、至高神の化身である教祖の力を受け継いだとされる者のみだった。男子が5人、女子が4人、長男をはじめとし四女までのわずか9人だけが、正当な教祖の子として数えられる。
教祖に信者たちが信じるような千里眼や未来予知能力が本当にあったとは到底思えないが、同じ父親を持ちながらも子どもたちの教団内での立場は大きく異なっていた。
朝倉姓を与えらなかった子どもは、子として数えられることもなく、教団内での名前であるコスモネームすら与えられない。
だから一方はアナスタシア様と呼ばれ、もう一方はアンナと呼ばれる。
ふたりが腹違いの姉妹というのは、タカミの憶測でしかなかったが、アンナが死んでしまった以上、もはやそれを確かめるすべはないかもしれない。アナスタシアがそれを知っているかどうかわからないからだ。
『我が教祖・朝倉現人があの当時、首相暗殺を幹部ら数人に指示したのは、小久保ハルミ女史が発見した千年細胞が大きく関わっているのです』
『我が教祖は小久保女史による千年細胞発見の報道がなされた際、非常にお喜びになられておりました』
『我が教祖はその後、小久保女史の研究が闇に葬られるようになると、一部の愚かな権力者たちが千年細胞を独占しようとしている、と』
我が教祖、我が教祖、我が教祖、きっとそう呼ぶように育てられたのだろう。これが洗脳というものかと思うと、タカミは彼女に同情を禁じ得なかった。
『その者たちが、我々の目的を邪魔している、と仰られたのです。
そして、当時の首相をはじめとする一部の権力者たちの暗殺を、幹部ら数人に指示されました』
だが、その教祖がまさか、千年細胞をめぐる国家機密まで知り得ていたとは思いもしなかった。
千年細胞と当時の首相との関係は、タカミでさえこの日一条から教えられるまで知らなかったことだ。
同じ党に所属しながらも、当時の首相とは別の派閥に属し、大臣に選ばれることがなかったような、そんな権力者たちに比較的近しい立場の者と関わりがあり、リークがあったのかもしれない。
だとすれば、その者は教祖を利用しテロを起こさせ、権力者たちを一掃するつもりだった可能性が高い。
政治家たちは組織票を求めて様々な新興宗教と深い関係を持つものだ。たとえそれが反社会的な活動をしている組織だとしてもだ。
時には、新興宗教の教祖が自称する「神」や「メシアの生まれ変わり」などといったことさえも、さも信じているかのように振る舞い、信者たちに自分に投票させるように促す。
そして、使い物にならなくなれば、警察を動かし、教団そのものを解体させる。
日本人は冠婚葬祭を様々な宗教の儀式で行い、無神教だとよく言われていた。
だが、日本という国自体は、政治家たちが票欲しさに新興宗教に都合の良い政治を行っており、特に海外ではカルト教団と認定される存在に実質支配されていると言っても過言ではなかった。
日本という国は、近い将来終わる日が来る。そんな予想は当時からしていた。
だが、それより先に世界の終末が始まることは、当時のタカミには想像もつかなかったことだった。
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