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第6章 第4話

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 この巨漢の暴徒らしき男はショウゴが殺したのだろうか。

 いや、違う。

 ショウゴの拳銃は、彼の正確な射撃で頭を撃ち抜いたとしても、顔の半分が吹き飛ぶまでの威力はない。
 だとしたら、この男は自分のマシンガンで自害したとでもいうのだろうか。

 キャビンと壁に挟まれて死んでいる女性は、タンクローリーが突っ込んできたときに犠牲になったのだろう。
 だが何故その顔が笑っているのだろうか。

 タカミにはその女性に見覚えがあった。
 彼らが住む最上階のすぐ下の階に住んでいる、双子なのか顔がとてもよく似た姉妹のどちらかだった。確か鳳(おおとり)という苗字だった。
 鳳姉妹はタカミたちが最上階に住むようになり、しばらくした頃に引っ越してきた。
 その頃に一度か二度、挨拶を交わしたことがあった。

 巨漢の男がタンクローリーの運転手なのだとすれば、先に死んだのはこの女性だろう。ひかれ、潰されて死んだのだ。
 これは事故で、だから男は自害を選んだということだろうか。
 マシンガンで自分の頭を撃ち抜いて?
 そんなものを所持しているような暴徒が、事故で人を殺したからといって自害などするだろうか。

 この場には別の誰かがいた?
 その誰かがこの男を殺し、マシンガンで自害したように見せかけた?

「タカミさん」

 自分の名前を呼ぶショウゴの声が聞こえた。
 彼はロビーの隅にある管理人室にいた。タカミはほっと胸を撫で下ろした。

「無事でよかったよ」

「でも……」

 ショウゴは、すぐそばのゲーミングチェアに寝かされていた女性に目をやった。
 その椅子を見て、タカミはこのマンションの管理人がまだ若い男だったのをふと思い出した。顔や名前は思い出せないがスマホばかりいじっている人だった。
 女性は寝ているというより、気をうしなっているように見えた。タンクローリーに潰された女性と同じ顔をしていた。

「いきなりタンクローリーが突っ込んできて、アナスタ……じゃなくて、えっと、この人の目の前で、あの人が死んじゃってね……」

 ショウゴは一度、女性の名前を言いかけて、何故かやめた。
 外国人の名前のようだったが、外国人やハーフには見えなかった。
 彼女の名前を自分に告げられない理由でもあるのだろうか。

 ふたりとも怪我をしている様子はなかったから、とりあえず安心した。

「その人は下の階の人だね。一体何があったんだ?」

 タカミの問いに、ショウゴは何と答えていいかわからないという顔をした。

「説明が難しいみたいだね」

「何から話したらいいか……
 たぶん、俺が話すより、監視カメラの映像を見てもらった方が早いと思う」

 ショウゴから使い方がわかるかどうかを聞かれた。
 モニターに何分割もされて映し出されている現在の映像ではなく、記録された映像を見る方法が彼にはわからないということだった。
 タカミも自室のパソコンからのハッキングで過去に何度も記録された映像を見ていたが、機械を直接触るのははじめてだった。
 だが、たぶん説明書を探して読むまでもないだろう。

 マウスを動かし、左クリックをすれば、分割されて表示されている映像のひとつを選んでモニター全体に拡大することができ、右クリックで画面下にメニューが現れる。
 メニューから検索を選び、何月何日何時何分からの映像が見たいかを、キーボードで入力すればいいようだった。

 監視カメラの機能に特化しているだけで、操作自体はマウスとキーボードで行うようだ。パソコンとほとんど変わらなかった。
 録画は1ヶ月を過ぎると自動的に消去されるようになっており、必要に応じてUSBメモリやDVDに映像をコピーすることが出来るようだ。

「あとは管理者用のパスワードさえわかればなんとか」

 ハッキングしていた頃に解析ソフトでパスワードを炙り出していたが、さすがに覚えていなかった。
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