ひとりの少女を守るために70億の命を犠牲になんてできないから、ひとりの少女を犠牲にしてみた結果、事態がさらに悪化した件。

あめの みかな

文字の大きさ
19 / 123

第2章 第11話

しおりを挟む
 リサを含めた5人の死体で、目の前の男の空腹は何日満たされるのだろうか。
 意識が遠退いていく中で、そんなことを考えていると、部屋にもうひとり雨合羽を着た男が入ってくるのが見えた。
 仲間がいたのか。仲間はひとりとは限らない。仲間がいたら5人分の人肉などあっという間になくなってしまうだろう。

 もうひとりの雨合羽の男は、拳銃を手にしていた。
 最初に現れた雨合羽の男に一瞬で距離を詰め、ダガーナイフで応戦されそうになると、右手首につけていた腕時計でそれを弾き、もう1本のナイフが刺さる直前に体を屈めて避けた。
 その一瞬のうちに、二人目の雨合羽は、最初の雨合羽のナイフを2本とも手刀で叩き落としており、さらに顎に銃口を突き付けてもいた。

「悪かったよ……こいつを着ていれば、暴徒じゃないって思われるだろ……?」

 最初の雨合羽は両手を上げ、もう自分には敵意はないと命乞いを始めた。

「だから、ついな……まさか、本物に出くわすなんて……思いもよら」

 ゼロ距離から顎に発砲された拳銃は、命乞いを聞く必要はない、そんな時間は与えない、という二人目の雨合羽の強い意思を感じた。

 雨合羽を着ていれば暴徒じゃないと思われる。
 まさか本物に出くわすなんて。

 最初の雨合羽は、二人目の雨合羽の偽物であり、二人目の雨合羽は暴徒ではなく暴徒狩りをしている。
 つまりは、そういうことなのだろう。

 言葉にならない声を上げ、リサに駆けよった「雨合羽の男」の顔は、まだ幼く、まるで少年のようで……
 リサはその顔に見覚えがあることに気づいた。
 少年の名前も知っていた。

「そっか……君が『雨合羽の男』になっていたんだね……」

 少年は口を開こうとするのだがやはり言葉にならず、リサの言葉には答えられないようだった。
 世界を憎み、人を憎み、そして自分を一番憎みながら生きる彼は、復讐の鬼と化した代償なのか、言葉を失っていた。

「さすがにそこまでは思いつかなかったな……
 でも、もしかしたらわたしは本当に……」

 わたしは本当に預言者だったのかもしれない。
 リサは最期にそう思い、少年の腕の中で息を引き取った。


 少年の手には、リサに駆け寄った際だろうか、いつの間にか何かを握らされていた。
 それは何かの暗証番号のようだった。

 少年は、リサの部屋にあった金庫を見つけ、暗証番号を入力して開けた。
 その中には手書きで書かれた小説が何十冊もあった。

 作者名は「破魔矢リサ」とあり、小説を読むことなど滅多にない少年でも名前くらいは知っているような有名な小説家だった。
 彼女が2018年に書いた小説を少年は読んだことはなかったが、その内容は4年後の2022年に少年と彼の恋人の身に起きた出来事そのものだったと聞いたことがあった。
 預言の書だったのではないかとか、彼女自身も預言者なのではないかと噂されていた人だった。

 少年に金庫を開けさせたのは、ここにある小説を読めということだろうか。
 それとも後世に残るようにしてほしかったのだろうか。

 彼女の真意はわからなかったが、どちらにせよここにそのままにしておくわけにはいかないと少年は考えた。

 少年は彼女を含めた家族5人の遺体を庭に埋めると、金庫をタカミのマンションに移すことにした。

 預言の書と呼ばれる小説を書いた、預言者と呼ばれた彼女がこの街に住んでいることを知っていたら、もっと早く出会いたかった。話してみたかった。
 だが、リンやマヨリ、橋良らのようにまた守れなかった。

 いつかすべての災厄が終わり、すべて元通りとはいかないまでも、彼女が遺した小説を出版できる日は来るのだろうか。
 その日が来ることを願って、少年は金庫の中の小説をまだ読まないと決めた。

 今、自分に出来るのは、ちゃんと人を守れる「雨合羽の男」になることだけだ。

 それ以外に自分に出来ることなど何もないのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。

昼寝部
キャラ文芸
 俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。  その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。  とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。  まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。  これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。

裏切りの代償

中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。 尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。 取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。 自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

処理中です...