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最終章 第8´話(レインルート)
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奇数翼の穏健派の女王たちは世界各地に落下した飛翔艇を基地として使っていたらしい。
ロシア方面を攻めていた飛翔艇は、ロシアとウクライナの国境近くに落下し、そこに派遣され基地としたのが7翼のアシーナたちだということだった。
「ロシアがここから北西にあたるってことは、ぼくたちが今いるのは一体どこなんだ?」
「ここは、3年前まで日本海と呼ばれていた場所の中心から少し東にあたります」
「ここが日本海?」
どこにも海などなかった。
ロシアにあったという、アシーナの基地の残骸から、ただ荒野がずっと続いていただけだった。
「タカミさんが一度お亡くなりになってから、一年にも満たない間に、大量破壊兵器と大量破壊魔法の激しい撃ち合いが起きたのです。
ロシアや中国をはじめ、ユーラシア大陸の大半は焦土と化し、日本海もまたそれによって干上がってしまったのです」
だから荒野が続いていたということだろうか。
信じられなかった。だがレインがタカミに嘘をつく理由など、どこにもなかった。
彼女の言葉を信じるしかなかった。
「じゃあ、ヨーロッパは? アメリカや南アメリカは? アフリカやオーストラリアや南極は?」
「アメリカは、3年前の戦いのときにわたしがふたりの女王に放った大陸破壊魔法を翼で弾かれて……」
そうだった。アメリカはタカミが一度死ぬ前にすでに、大陸ごと消し飛んでしまっていたのだ。
ヨーロッパもまた焦土と化してしまったという。南アメリカやアフリカ、オーストラリアもまた。
世界中の島々は跡形もなく消え去り、海中に没した日本列島もすでにその海ごと存在しないということだった。
手付かずのまま残っているのは、南極大陸と、大陸ではないものの巨大な氷の塊である北極だけだということだった。
「日本海だけでなく、太平洋や大西洋もその半分ほどが干上がり、荒野となってしまいました。
南極大陸や北極の氷は干上がった海を後々補充するために残しておいたのだと思います。
機械の体や千年細胞を持つ者は、水がなくても生きていけますが、エーテルがなくては生きてはいけません。
エーテルは清く美しい水からのみ生まれます。かつてのアリステラのようなエーテルの枯渇を招くことを避けるためには、南極大陸や北極を残しておく必要があったのでしょう」
それも今となっては無意味なものとなってしまいましたが、とレインは続けた。
「どうして?」
タカミは、子どものように訊ねることしか出来なかった。
3年間も医療ポッドの中にいたと聞いたときから、嫌な予感はしていた。
だから人類や世界の現状を早く把握したかったのだが、現状はタカミが想像していたよりもはるかに深刻だった。
レインは、タカミの問いに対し、どう答えるのか正解なのか考えているようにも見えたし、答えること自体をためらっているように見えた。
「人類は滅びてしまったんだね」
「そうです……」
「穏健派の女王たちも、強硬派の女王たちも、強硬派についた王族の末裔たちも……」
「はい……新生アリステラもまた……」
「この世界に今生きているのは、ぼくとレイン、それにユワだけなんだね」
レインはこくりと頷いた。
「だから君はさっきぼくに、ユワのことを想うなら、自分とは仲良くしない方がいいと言ったんだね」
頷いたまま、伏し目がちになっていた彼女の瞳から大粒の涙がこぼれた。
「人類の新たな始祖として子孫の繁栄を願うなら、ぼくは君に、ぼくとの間に出来た子どもを産んでもらわなければいけない。
けれど、一人の女性が一生に産める子どもの数は限られている。
千年細胞を持つぼくは死ぬことはないし、子どもたちにも千年細胞は遺伝すると思う。
それでも、ぼくは何十人何百人と君に子どもを産んでもらわなければいけない。
そのためには、ぼくは君にぼくが持つ千年細胞を分け与えなければいけない」
そして、
「それは、ユワさんには出来ない、わたしにしか出来ないことですから……」
そういうことだった。
ユワを、子どもを産めないからという理由で、女性として否定するということだった。
それは同時に、レインを女性としてではなく、子どもを産むための道具としてしか見ないということでもあった。
タカミには、そのどちらも選べなかった。
「ねぇ、レイン」
タカミは彼女に優しく声をかけた。
「ぼくたちは、人類という種についての考え方を一度改めるべきなんじゃないのかな」
レインは顔を上げ、不思議そうにタカミの顔を見た。
「今この星に残されたぼくたち3人の中で、人類と呼べる存在は何人いると思う?」
「それは、3人ともです。ユワさんは機械の体ですが、ちゃんと心がありますから」
「そうだね。でも、機械の体だから子どもが産めない、そういう理由で、ぼくもレインも、無意識のうちにユワを人類という種から外して考えてしまってるよね」
「そうですね……そうかもしれません……」
「ぼくだって、既存の人類の枠からは、かなりはみ出た存在なんだよ。
骨は全部ヒヒイロカネ、細胞は全部千年細胞、体のほとんどがエーテルが元になってできてるんだ。
体の形を自由に変えられるし、手足がちぎれてもすぐに新しく生えてくる。おまけに不老不死。
ユワとぼくは、進化のために使われた方法が無機物か有機物かの違いしかないんだよ。ふたりとも、大気中にエーテルさえあれば生きていけてしまうんだから」
「ですが、タカミさんには子種がありますわ」
「確かにそれはあると思う。
だけど、それが既存の枠組みの中の人類の女性、つまりは今のレインだね、レインとの間に子どもを作れるかどうかは正直なところ疑問じゃないかな。
レインの体は、炭素を骨組みとしてさまざまな元素が結合して、筋肉や骨、DNAなどを作ってるんだ。
ぼくはもう、体の元になっている素材から、レインとは違うんだよ」
純粋な人類であるレインを下に見ているような言い方をしていないか、タカミは言葉を選びながら話した。
話しながら、自分やユワの身体は進化と呼べるものかどうかすら怪しいものだと思った。
タカミもユワも、使い物にならなくなった身体を、新しいものに取り替えただけとも言えるからだった。
ロシア方面を攻めていた飛翔艇は、ロシアとウクライナの国境近くに落下し、そこに派遣され基地としたのが7翼のアシーナたちだということだった。
「ロシアがここから北西にあたるってことは、ぼくたちが今いるのは一体どこなんだ?」
「ここは、3年前まで日本海と呼ばれていた場所の中心から少し東にあたります」
「ここが日本海?」
どこにも海などなかった。
ロシアにあったという、アシーナの基地の残骸から、ただ荒野がずっと続いていただけだった。
「タカミさんが一度お亡くなりになってから、一年にも満たない間に、大量破壊兵器と大量破壊魔法の激しい撃ち合いが起きたのです。
ロシアや中国をはじめ、ユーラシア大陸の大半は焦土と化し、日本海もまたそれによって干上がってしまったのです」
だから荒野が続いていたということだろうか。
信じられなかった。だがレインがタカミに嘘をつく理由など、どこにもなかった。
彼女の言葉を信じるしかなかった。
「じゃあ、ヨーロッパは? アメリカや南アメリカは? アフリカやオーストラリアや南極は?」
「アメリカは、3年前の戦いのときにわたしがふたりの女王に放った大陸破壊魔法を翼で弾かれて……」
そうだった。アメリカはタカミが一度死ぬ前にすでに、大陸ごと消し飛んでしまっていたのだ。
ヨーロッパもまた焦土と化してしまったという。南アメリカやアフリカ、オーストラリアもまた。
世界中の島々は跡形もなく消え去り、海中に没した日本列島もすでにその海ごと存在しないということだった。
手付かずのまま残っているのは、南極大陸と、大陸ではないものの巨大な氷の塊である北極だけだということだった。
「日本海だけでなく、太平洋や大西洋もその半分ほどが干上がり、荒野となってしまいました。
南極大陸や北極の氷は干上がった海を後々補充するために残しておいたのだと思います。
機械の体や千年細胞を持つ者は、水がなくても生きていけますが、エーテルがなくては生きてはいけません。
エーテルは清く美しい水からのみ生まれます。かつてのアリステラのようなエーテルの枯渇を招くことを避けるためには、南極大陸や北極を残しておく必要があったのでしょう」
それも今となっては無意味なものとなってしまいましたが、とレインは続けた。
「どうして?」
タカミは、子どものように訊ねることしか出来なかった。
3年間も医療ポッドの中にいたと聞いたときから、嫌な予感はしていた。
だから人類や世界の現状を早く把握したかったのだが、現状はタカミが想像していたよりもはるかに深刻だった。
レインは、タカミの問いに対し、どう答えるのか正解なのか考えているようにも見えたし、答えること自体をためらっているように見えた。
「人類は滅びてしまったんだね」
「そうです……」
「穏健派の女王たちも、強硬派の女王たちも、強硬派についた王族の末裔たちも……」
「はい……新生アリステラもまた……」
「この世界に今生きているのは、ぼくとレイン、それにユワだけなんだね」
レインはこくりと頷いた。
「だから君はさっきぼくに、ユワのことを想うなら、自分とは仲良くしない方がいいと言ったんだね」
頷いたまま、伏し目がちになっていた彼女の瞳から大粒の涙がこぼれた。
「人類の新たな始祖として子孫の繁栄を願うなら、ぼくは君に、ぼくとの間に出来た子どもを産んでもらわなければいけない。
けれど、一人の女性が一生に産める子どもの数は限られている。
千年細胞を持つぼくは死ぬことはないし、子どもたちにも千年細胞は遺伝すると思う。
それでも、ぼくは何十人何百人と君に子どもを産んでもらわなければいけない。
そのためには、ぼくは君にぼくが持つ千年細胞を分け与えなければいけない」
そして、
「それは、ユワさんには出来ない、わたしにしか出来ないことですから……」
そういうことだった。
ユワを、子どもを産めないからという理由で、女性として否定するということだった。
それは同時に、レインを女性としてではなく、子どもを産むための道具としてしか見ないということでもあった。
タカミには、そのどちらも選べなかった。
「ねぇ、レイン」
タカミは彼女に優しく声をかけた。
「ぼくたちは、人類という種についての考え方を一度改めるべきなんじゃないのかな」
レインは顔を上げ、不思議そうにタカミの顔を見た。
「今この星に残されたぼくたち3人の中で、人類と呼べる存在は何人いると思う?」
「それは、3人ともです。ユワさんは機械の体ですが、ちゃんと心がありますから」
「そうだね。でも、機械の体だから子どもが産めない、そういう理由で、ぼくもレインも、無意識のうちにユワを人類という種から外して考えてしまってるよね」
「そうですね……そうかもしれません……」
「ぼくだって、既存の人類の枠からは、かなりはみ出た存在なんだよ。
骨は全部ヒヒイロカネ、細胞は全部千年細胞、体のほとんどがエーテルが元になってできてるんだ。
体の形を自由に変えられるし、手足がちぎれてもすぐに新しく生えてくる。おまけに不老不死。
ユワとぼくは、進化のために使われた方法が無機物か有機物かの違いしかないんだよ。ふたりとも、大気中にエーテルさえあれば生きていけてしまうんだから」
「ですが、タカミさんには子種がありますわ」
「確かにそれはあると思う。
だけど、それが既存の枠組みの中の人類の女性、つまりは今のレインだね、レインとの間に子どもを作れるかどうかは正直なところ疑問じゃないかな。
レインの体は、炭素を骨組みとしてさまざまな元素が結合して、筋肉や骨、DNAなどを作ってるんだ。
ぼくはもう、体の元になっている素材から、レインとは違うんだよ」
純粋な人類であるレインを下に見ているような言い方をしていないか、タカミは言葉を選びながら話した。
話しながら、自分やユワの身体は進化と呼べるものかどうかすら怪しいものだと思った。
タカミもユワも、使い物にならなくなった身体を、新しいものに取り替えただけとも言えるからだった。
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