18 / 102
第17話 慌てふためく東軍
しおりを挟む
「ズドーン!!」
轟音が鳴る。
またも、本多正信は崩れるように、手を耳に当て身をかがめた。
「な、な、なんじゃ。」
家康の周りにまたも護衛の兵が取り囲む。
「も、も、物見を出せ~!」
と、正信は指示を出す。
「殿。大丈夫でございますか?」
と、よろめきながら正信は家康に近づく。
「どけ!」
と、護衛の兵に手を振りながら、這う這うほうほうの体で、家康の元にたどり着く。
「殿?」
「…。」
家康は喋らない。しかし、家康と旧知の正信には、家康の焦りが目に見える。
(爪を噛まんな?)
と、訝しめに家康を見ていた。
家康は爪をよく噛む、癖がある。
今のこの状況下では、爪を噛んで、叱咤激励を送っている様なものだが、
それがない。むしろ、この戦に嫌気がさしているようにも見える。
(それにわしは確かに見た。西軍の攻めが緩んできたことに対して、眉を上げた所を。あれはなんだったのだろうか)
「報告!先程の轟音!石田三成本陣より発射された南蛮筒と思われます!」
「何!?南蛮筒?三成め、そんな物を持ってきておったか。して、被害は!?」
「は!着弾は、誰もおらぬ黒田長政隊の横の池に!」
「なんと!ははははは!」
と、正信は笑う。
「三成め!さすがは噂に違わぬ戦下手じゃ。大筒の使い方も分からぬと見えるわ。」
と、さらに笑う。
そこに、また伝令が走る。
「報告!黒田長政隊徐々に後退。それに伴い加藤嘉明隊も後退を始めました。」
「なんと!あのヒョロヒョロ弾に怖気付いたか!!!」
と、怒りを露わにする。
「…。」
家康は、戦況を見極めるように、目を細めている。
しばらくすると、
「御免!」
と、突如威勢の良い声が響いき、一人の男が入って来た。
全身真紅の甲冑。脇には、金色に輝く前立てが二本そびえたつ兜を携えている。
所謂、朱漆塗紺糸威桶側二枚胴具足《しゅうるしぬりこんいとおどしおけがわにまいどうぐそく》を身に纏った、井伊直政であった。
「殿!」
家康を見つけると、近づきながら言う。
「殿!恐れ多くもこの直政、前線を離れまして、お伝えしたき事が。」
「直政!いかがした!」
正信が答える。
(このおじきは好かんなあ)
と、直政は思いながら家康に向かって言う。
「殿!三成めでございますが。あれは戦を止めたいように見えまする。」
「なんじゃと!」
正信が言う。
「島津・小早川両隊のあの威嚇にしろ、先程の大筒にしろ。何かかの者たち…。」
「なんじゃ!」
正信は威勢を張る。
「戦を望んでおらぬような…。我らにここを引けとの、意思の様な…。」
「馬鹿な!そもそもこの戦は…。」
「おじきは黙っててくだされ!」
「…。」
正信は、直政の威に怯え、黙りこけた。
「先程の大筒。照準を合わせるのは、その手の者であれば、容易なもの。わざと何もいない所へ、撃たれたものかと…。」
「…。」
家康は喋らない。
「現に、私が、ここに来ていても、我が隊は、睨み合いが続いております。躍起に戦っておるのは、福島隊位かと…。」
「…。」
「殿。そこで…。」
直政は家康の耳元で、呟く。
正信には何を言っているか分からない。
直政が言い終わると、
「コクっ」
と、だけ頭を動かす。
その眼は、直政に全てを託すように真っすぐ見つめていた。
「では。」
と、直政は出て行く。
「直政はなんと!!?」
と、正信は家康に詰め寄るが、家康は何も言わず、空を見上げていた。
曇り空に、一筋の陽ひかりが差し込めていた。
轟音が鳴る。
またも、本多正信は崩れるように、手を耳に当て身をかがめた。
「な、な、なんじゃ。」
家康の周りにまたも護衛の兵が取り囲む。
「も、も、物見を出せ~!」
と、正信は指示を出す。
「殿。大丈夫でございますか?」
と、よろめきながら正信は家康に近づく。
「どけ!」
と、護衛の兵に手を振りながら、這う這うほうほうの体で、家康の元にたどり着く。
「殿?」
「…。」
家康は喋らない。しかし、家康と旧知の正信には、家康の焦りが目に見える。
(爪を噛まんな?)
と、訝しめに家康を見ていた。
家康は爪をよく噛む、癖がある。
今のこの状況下では、爪を噛んで、叱咤激励を送っている様なものだが、
それがない。むしろ、この戦に嫌気がさしているようにも見える。
(それにわしは確かに見た。西軍の攻めが緩んできたことに対して、眉を上げた所を。あれはなんだったのだろうか)
「報告!先程の轟音!石田三成本陣より発射された南蛮筒と思われます!」
「何!?南蛮筒?三成め、そんな物を持ってきておったか。して、被害は!?」
「は!着弾は、誰もおらぬ黒田長政隊の横の池に!」
「なんと!ははははは!」
と、正信は笑う。
「三成め!さすがは噂に違わぬ戦下手じゃ。大筒の使い方も分からぬと見えるわ。」
と、さらに笑う。
そこに、また伝令が走る。
「報告!黒田長政隊徐々に後退。それに伴い加藤嘉明隊も後退を始めました。」
「なんと!あのヒョロヒョロ弾に怖気付いたか!!!」
と、怒りを露わにする。
「…。」
家康は、戦況を見極めるように、目を細めている。
しばらくすると、
「御免!」
と、突如威勢の良い声が響いき、一人の男が入って来た。
全身真紅の甲冑。脇には、金色に輝く前立てが二本そびえたつ兜を携えている。
所謂、朱漆塗紺糸威桶側二枚胴具足《しゅうるしぬりこんいとおどしおけがわにまいどうぐそく》を身に纏った、井伊直政であった。
「殿!」
家康を見つけると、近づきながら言う。
「殿!恐れ多くもこの直政、前線を離れまして、お伝えしたき事が。」
「直政!いかがした!」
正信が答える。
(このおじきは好かんなあ)
と、直政は思いながら家康に向かって言う。
「殿!三成めでございますが。あれは戦を止めたいように見えまする。」
「なんじゃと!」
正信が言う。
「島津・小早川両隊のあの威嚇にしろ、先程の大筒にしろ。何かかの者たち…。」
「なんじゃ!」
正信は威勢を張る。
「戦を望んでおらぬような…。我らにここを引けとの、意思の様な…。」
「馬鹿な!そもそもこの戦は…。」
「おじきは黙っててくだされ!」
「…。」
正信は、直政の威に怯え、黙りこけた。
「先程の大筒。照準を合わせるのは、その手の者であれば、容易なもの。わざと何もいない所へ、撃たれたものかと…。」
「…。」
家康は喋らない。
「現に、私が、ここに来ていても、我が隊は、睨み合いが続いております。躍起に戦っておるのは、福島隊位かと…。」
「…。」
「殿。そこで…。」
直政は家康の耳元で、呟く。
正信には何を言っているか分からない。
直政が言い終わると、
「コクっ」
と、だけ頭を動かす。
その眼は、直政に全てを託すように真っすぐ見つめていた。
「では。」
と、直政は出て行く。
「直政はなんと!!?」
と、正信は家康に詰め寄るが、家康は何も言わず、空を見上げていた。
曇り空に、一筋の陽ひかりが差し込めていた。
2
あなたにおすすめの小説
帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす
黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら
俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。
赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。
史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。
もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。
俺得リターン!異世界から地球に戻っても魔法使えるし?アイテムボックスあるし?地球が大変な事になっても俺得なんですが!
くまの香
ファンタジー
鹿野香(かのかおる)男49歳未婚の派遣が、ある日突然仕事中に異世界へ飛ばされた。(←前作)
異世界でようやく平和な日常を掴んだが、今度は地球へ戻る事に。隕石落下で大混乱中の地球でも相変わらず呑気に頑張るおじさんの日常。「大丈夫、俺、ラッキーだから」
対ソ戦、準備せよ!
湖灯
歴史・時代
1940年、遂に欧州で第二次世界大戦がはじまります。
前作『対米戦、準備せよ!』で、中国での戦いを避けることができ、米国とも良好な経済関係を築くことに成功した日本にもやがて暗い影が押し寄せてきます。
未来の日本から来たという柳生、結城の2人によって1944年のサイパン戦後から1934年の日本に戻った大本営の特例を受けた柏原少佐は再びこの日本の危機を回避させることができるのでしょうか!?
小説家になろうでは、前作『対米戦、準備せよ!』のタイトルのまま先行配信中です!
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
名もなき民の戦国時代
のらしろ
ファンタジー
徹夜で作った卒論を持って大学に向かう途中で、定番の異世界転生。
異世界特急便のトラックにはねられて戦国時代に飛ばされた。
しかも、よくある有名人の代わりや、戦国武将とは全く縁もゆかりもない庶民、しかも子供の姿で桑名傍の浜に打ち上げられる。
幸いなことに通りかかった修行僧の玄奘様に助けられて異世界生活が始まる。
でも、庶民、それも孤児の身分からの出発で、大学生までの生活で培った現代知識だけを持ってどこまで戦国の世でやっていけるか。
とにかく、主人公の孫空は生き残ることだけ考えて、周りを巻き込み無双していくお話です。
うちの冷蔵庫がダンジョンになった
空志戸レミ
ファンタジー
一二三大賞3:コミカライズ賞受賞
ある日の事、突然世界中にモンスターの跋扈するダンジョンが現れたことで人々は戦慄。
そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。
剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?ただいまお相手募集中です!
月芝
ファンタジー
国の端っこのきわきわにある辺境の里にて。
不自由なりにも快適にすみっこ暮らしをしていたチヨコ。
いずれは都会に出て……なんてことはまるで考えておらず、
実家の畑と趣味の園芸の二刀流で、第一次産業の星を目指す所存。
父母妹、クセの強い里の仲間たち、その他いろいろ。
ちょっぴり変わった環境に囲まれて、すくすく育ち迎えた十一歳。
森で行き倒れの老人を助けたら、なぜだか剣の母に任命されちゃった!!
って、剣の母って何?
世に邪悪があふれ災いがはびこるとき、地上へと神がつかわす天剣(アマノツルギ)。
それを産み出す母体に選ばれてしまった少女。
役に立ちそうで微妙なチカラを授かるも、使命を果たさないと恐ろしい呪いが……。
うかうかしていたら、あっという間に灰色の青春が過ぎて、
孤高の人生の果てに、寂しい老後が待っている。
なんてこったい!
チヨコの明日はどっちだ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる