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第16話

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「おお!!!」



 石田家馬回りの平岡は、感嘆の声をこぼす。



 島津家に小早川家、共に大いに威嚇している、その様さまはまるで戦場を飲み込まんがばかりであった。



 その声に平岡は震えた。



「殿!!!御両名、約束をお守りくださいました!」

 今にも泣きそうになりながら平岡は言う。



「うん。」

 と、津久見は笑顔で応えながら、島津・小早川隊の方を見た。



 すると、そこに

「御免!」

 と、威勢の良い声を放ち、ズカズカと入って来る者がいた。



 津久見は驚き、後ろにのけぞる。



「どちら…様?」



「治部様!!戦況が好転してまいりましたな!!」



「あ。はい。」

(誰だろうこの人…。)

 津久見はジロジロと男を見る。



 身長は170㎝くらいで、甲冑を着ていても分かるその筋肉質な体。

 切れ長な目、口元には無精ひげ。



「これぞ好機!というものでございますな!」

 と、言いながら泣いている平岡に目をやる。

「おぬし何を泣いておる!?」

「い、いえ!」

 と、平岡は涙を拭いながら言う。

「戦場で泣くようでは武士ではないぞ!ほれ!!」

 と、平岡の背中を強く叩く。

「痛っ!!」

 と、平岡は悶絶するとその男は大きく笑った。

「はははは。しゃきっとせい!」



 そんなやり取りをしていると、左近が陣幕に入って来た。

「ふう。今日はやたらと小便が出るわい。ん?」

「おう左近殿!!!」

「おうこれは喜内殿!」

 と、二人は挨拶を交わし何やら戦況の報告をしている。



 喜内殿と呼ばれたその男は、身振り手振りで戦況を報告する。

 たまに、大きなリアクションをして、左近を笑わせた。

 津久見はそんな男を見て、

(ユーモアのある人なのかな…)

 とだけ思った。



「して、喜内殿。何故本陣に!?」

「あ!忘れておりました。申し訳ございませぬ。」

 と、おどけて見せ、続ける

「いや、わが横山隊も相手方、織田有楽斎を追い込んだりと、中々の戦ぶりでしてな、それにさっきの島津殿や小早川殿の咆哮。身が震えましたぞ。」

「そうか。それで?」

 と、左近は真顔で言う。

「え!いや。その。あの。…。」

「いかがいたした?」

「いや、治部様が京よりお持ちになられた、アレを…。」

「アレ?とは?」

 と、左近が詰めると、喜内は陣の奥を指した。



 指の先には、布にくるまれた大きな物体が置いてあった。



「大筒か?」

「はい。あれを今撃ち込めば、と。いつ撃たれるのかなと。」

「それを言いに来たのか?」

「は。今が好機にございます。こちらを敵方に今撃ち込んで、総攻撃すれば…。」



 と、二人が言う大筒とは、三成が京より持参させてきた、南蛮由来の大筒であった。



「そうじゃな。確かに今が機。よし。」

 と、左近は振り返ると、三成に言う

「殿!一発ぶっ放してまいりまする!」

「え!?」



 と、もう二人はゴロゴロと、大筒を移動させ始めた。

 周りの足軽も手伝うと、あっという間に砲台に準備ができた。

 喜内はきゃきゃっと、大興奮である。



「ま、待て左近!!!そんなもの撃ち込んだら、沢山の人が死ぬぞ!!」

 と、椅子から立ち上がり、大筒に近づく。

「ん?殿?確かに…。」

(そうじゃ。できるだけ人を殺さずと、殿は言われておったな…。)

 と、左近は顎に手をやりながら上を向いて考えた。

「ジジジジジジ・・・・。」

「ん?」

 と、左近は音に気が付き、大筒に目をやる。

 そこには、好奇心一杯の喜内が、大筒の導火線に火をつけていた。

「あ!」

 左近は言う。



 火はドンドン進んでいく。

「ちょ!何してんの!!」

 と、津久見は走りだした。



「え?」

 と、喜内は振り返る。

 猛スピードで三成が走ってきていた。

 火種は尚も進む。

(やばい!)

 と、津久見は思うと、思いっきり飛んだ。



「どーーーーーん!」

 と、物凄い爆音がした。



 発射してしまった。

 が、大筒の照準は斜めに変えられていた。



 津久見が飛び蹴りで、間一髪銃口は、明後日の方向に向いていた。



 大筒は白い煙をあげている。

 その横に、白目をむいて、泡を吹く津久見がいた。

 第16話 完
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