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第三章:愛されし姫君
第19話 ルドガーの動揺
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「──どうやら、アイシャ様とハーメイ国王は結ばれたようです」
ハーメイにやっていたライノスからの報告を聞いて、ルドガーは一瞬絶句した。
……とうとうこの日が来てしまった。
アイシャをハーメイに送り出した時に覚悟はしていたはずだが、カルラートに焦らされる真似をされていた分、驚愕は大きい。
「……そうか」
なんとかそれだけ言うと、ルドガーはライノスの報告を更に促した。
「ハーメイ国王はこの国に対する反発よりも、アイシャ様を選んだようですね。その前にアイシャ様がハーメイ国王に妾妃を娶らないのかと尋ねられたことが今回のことに及んだ要因のようです」
「アイシャが……」
大国の姫として嫁した者が自ら妾妃の話題を出すなど、なんと気の毒なことだろう。
そんなことをするまで、アイシャは正妃としてあの国の行く末を憂えていたのだろうか。
お飾りの王妃として扱われていたというのに、アイシャは優しすぎる。
いやしかし、それもあるだろうが、そんな話題を出せるのは、アイシャがあの男を愛していないからだろう。
元より政略なのだから、ルドガーにはそれが当たり前のように思えた。
「どうやら、アイシャ様は絶対にハーメイ国王に手を出されないと思われていたようですね。……それがどうやら、ハーメイ国王の逆鱗に触れたらしいです」
「……そうか」
きっと、アイシャは無邪気にカルラートに妾妃の話をしたのだろう。それが、アイシャを憎からず思っていたやつの気に障ったということか。
時に無邪気な言葉は残酷な結果をもたらす。
今回は、アイシャの言葉がそれだ。
清らかだったアイシャはこれでとうとう純潔を失ってしまった。
それを思うとルドガーはやるせない気持ちになる。
こうなることが分かっていてハーメイにやったというのに、いざとなったら感情が理性についていかなかった。
「……二人の夫婦仲はどうだ」
「とてもよろしいようですよ。特にハーメイ国王の方がアイシャ様に夢中のようで、あの国の宰相に執務の量をどうにかしろと掛け合っていました」
一時は初夜の寝所にも訪れなかったカルラートのあまりの変わりようがおかしいらしく、ライノスは忍び笑いを漏らした。
「一国の王ともあろう者がどうにかしているな」
ルドガーも彼に同調するようにカルラートを嘲笑する。
……本当は、彼女の動向が気になって仕方がなく、ハーメイに嫁がせたことを悔やんでいる時点で、ルドガーも同じ穴の狢なのだが。
「……ところで、今アイシャはどうしている」
「アイシャ様は先程庭園におられましたが。追尾してみましょうか」
ライノスはそう言うと、他人の魔力を辿る能力を使った。
この能力は優秀な魔術師でも扱えるものが少ない。
その稀少さ故、ライノスはアイシャが嫁いだハーメイの密偵になったのだが、真実はルドガー以外知らなかった。
しばらく空中に庭園の花々が見えたかと思うと、ライサやハーメイの侍女に伴われたアイシャの姿が映しだされた。
美しい灰桜色の髪をなびかせて微笑む姿は、普段彼女に冷たく当たっていたルドガーには絶対に見せないもので、彼は無意識に胸元を掴んでいた。
微笑むアイシャは相変わらず可憐ではあったが、それでも以前とは違い、どこか艶やかだった。
アイシャ……、おまえがそんなふうに美しくなったのは、あの男のためか?
ふいにカルラートに対する嫉妬がわき起こり、それを抑えるために、ルドガーは痛いほど両手を握りしめた。
これからアイシャがカルラートを愛してしまう可能性は否定できない。
政略とはいえ、カルラートは秀麗な容姿で、そして今は彼女に夢中だというのだから。
『アイシャ、ここにいたのか』
そんな時に恋敵が現れて、ルドガーは思わず顔を歪ませた。
『カルラート? 執務はどうしたの?』
驚いたように聞いたアイシャの体をカルラートは迷いもなく抱き寄せる。
『オルグレンに任せてきた』
『もう、後で大変になっても知らないから』
困ったように眉を下げて言うアイシャにカルラートはやや不満そうに呟いた。
『そなたはつれないな。わたしはこんなにそなたに会いたいというのに』
『……毎日会えるじゃない』
カルラートに抱きしめられながら、困ったようにアイシャが言った。
『それはそうだが、夜以外にもそなたに会いたい』
言外にアイシャを抱いていることを匂わせて、そしてカルラートは彼女にそっと口づける。
「……もうやめろ!」
ルドガーが執務机の報告書を手で無理矢理払ったため、数枚の紙が舞い落ちる。
驚いたライノスがハーメイの映像を送るのをやめたため、トゥルティエール王の執務室は元の静寂に包まれた。
「陛下……、あなた様はアイシャ様を……」
ただならぬルドガーの様子に、ライノスが気遣わしげに彼を見てくる。
この男にはいつか自分の気持ちを知られてしまうかもしれないと思っていたが、それは今この時でも仕方がないとルドガーには思えた。
このライノスは使える男だ。それ故、最大限に活躍してもらわねばならない。
ルドガーは魔術師の名を呼ぶと、更に新たな任務を彼に言い渡した。
ハーメイにやっていたライノスからの報告を聞いて、ルドガーは一瞬絶句した。
……とうとうこの日が来てしまった。
アイシャをハーメイに送り出した時に覚悟はしていたはずだが、カルラートに焦らされる真似をされていた分、驚愕は大きい。
「……そうか」
なんとかそれだけ言うと、ルドガーはライノスの報告を更に促した。
「ハーメイ国王はこの国に対する反発よりも、アイシャ様を選んだようですね。その前にアイシャ様がハーメイ国王に妾妃を娶らないのかと尋ねられたことが今回のことに及んだ要因のようです」
「アイシャが……」
大国の姫として嫁した者が自ら妾妃の話題を出すなど、なんと気の毒なことだろう。
そんなことをするまで、アイシャは正妃としてあの国の行く末を憂えていたのだろうか。
お飾りの王妃として扱われていたというのに、アイシャは優しすぎる。
いやしかし、それもあるだろうが、そんな話題を出せるのは、アイシャがあの男を愛していないからだろう。
元より政略なのだから、ルドガーにはそれが当たり前のように思えた。
「どうやら、アイシャ様は絶対にハーメイ国王に手を出されないと思われていたようですね。……それがどうやら、ハーメイ国王の逆鱗に触れたらしいです」
「……そうか」
きっと、アイシャは無邪気にカルラートに妾妃の話をしたのだろう。それが、アイシャを憎からず思っていたやつの気に障ったということか。
時に無邪気な言葉は残酷な結果をもたらす。
今回は、アイシャの言葉がそれだ。
清らかだったアイシャはこれでとうとう純潔を失ってしまった。
それを思うとルドガーはやるせない気持ちになる。
こうなることが分かっていてハーメイにやったというのに、いざとなったら感情が理性についていかなかった。
「……二人の夫婦仲はどうだ」
「とてもよろしいようですよ。特にハーメイ国王の方がアイシャ様に夢中のようで、あの国の宰相に執務の量をどうにかしろと掛け合っていました」
一時は初夜の寝所にも訪れなかったカルラートのあまりの変わりようがおかしいらしく、ライノスは忍び笑いを漏らした。
「一国の王ともあろう者がどうにかしているな」
ルドガーも彼に同調するようにカルラートを嘲笑する。
……本当は、彼女の動向が気になって仕方がなく、ハーメイに嫁がせたことを悔やんでいる時点で、ルドガーも同じ穴の狢なのだが。
「……ところで、今アイシャはどうしている」
「アイシャ様は先程庭園におられましたが。追尾してみましょうか」
ライノスはそう言うと、他人の魔力を辿る能力を使った。
この能力は優秀な魔術師でも扱えるものが少ない。
その稀少さ故、ライノスはアイシャが嫁いだハーメイの密偵になったのだが、真実はルドガー以外知らなかった。
しばらく空中に庭園の花々が見えたかと思うと、ライサやハーメイの侍女に伴われたアイシャの姿が映しだされた。
美しい灰桜色の髪をなびかせて微笑む姿は、普段彼女に冷たく当たっていたルドガーには絶対に見せないもので、彼は無意識に胸元を掴んでいた。
微笑むアイシャは相変わらず可憐ではあったが、それでも以前とは違い、どこか艶やかだった。
アイシャ……、おまえがそんなふうに美しくなったのは、あの男のためか?
ふいにカルラートに対する嫉妬がわき起こり、それを抑えるために、ルドガーは痛いほど両手を握りしめた。
これからアイシャがカルラートを愛してしまう可能性は否定できない。
政略とはいえ、カルラートは秀麗な容姿で、そして今は彼女に夢中だというのだから。
『アイシャ、ここにいたのか』
そんな時に恋敵が現れて、ルドガーは思わず顔を歪ませた。
『カルラート? 執務はどうしたの?』
驚いたように聞いたアイシャの体をカルラートは迷いもなく抱き寄せる。
『オルグレンに任せてきた』
『もう、後で大変になっても知らないから』
困ったように眉を下げて言うアイシャにカルラートはやや不満そうに呟いた。
『そなたはつれないな。わたしはこんなにそなたに会いたいというのに』
『……毎日会えるじゃない』
カルラートに抱きしめられながら、困ったようにアイシャが言った。
『それはそうだが、夜以外にもそなたに会いたい』
言外にアイシャを抱いていることを匂わせて、そしてカルラートは彼女にそっと口づける。
「……もうやめろ!」
ルドガーが執務机の報告書を手で無理矢理払ったため、数枚の紙が舞い落ちる。
驚いたライノスがハーメイの映像を送るのをやめたため、トゥルティエール王の執務室は元の静寂に包まれた。
「陛下……、あなた様はアイシャ様を……」
ただならぬルドガーの様子に、ライノスが気遣わしげに彼を見てくる。
この男にはいつか自分の気持ちを知られてしまうかもしれないと思っていたが、それは今この時でも仕方がないとルドガーには思えた。
このライノスは使える男だ。それ故、最大限に活躍してもらわねばならない。
ルドガーは魔術師の名を呼ぶと、更に新たな任務を彼に言い渡した。
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