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第三章:愛されし姫君
第18話 新婚
「アイシャ様、誠におめでとうございます。本当に喜ばしい日でございますわ」
アイシャが正式にカルラートの妃となった翌日。
ライサがうきうきと海綿を掴みながら満面の笑顔で言った。
「……ありがとう」
ライサに風呂に入れてもらいながら、アイシャは微笑んだ。
大国の王妹として、まずは第一段階だけでも到達したことに、アイシャは喜びを覚える。
しかし、まだこれはまだ最初の取っかかりだ。
これで安心はせずに、王妃らしく振る舞えるように、ハーメイの皆とも仲良くやっていこう。
アイシャは風呂から上がると、ライサやハーメイの侍女達に朝の支度に取りかかられた。
「共同の間で、既に陛下がお待ちですわ。朝食をご一緒しようということです」
それを聞いてアイシャは少しだけ焦る。
確かカルラートは朝一番から執務が入っていたはずだ。
「まあ、それならあまり待たせてはいけないわね」
アイシャは早々に朝の支度を終えて、王と王妃の共同の間に入った。
そこの卓上には既に朝食の用意がしてあって、その傍でカルラートが立って待っていた。
「カルラート、もしかしてかなり待たせてしまったかしら? ごめんなさい」
アイシャが慌ててカルラートに頭を下げると、彼は首を振った。
「いや、それほど待っていない。……それにいきなり言い出したわたしも悪いしな」
「そんなこと……」
アイシャはそこまで言って言葉に詰まる。
……もしかして、昨夜の行為のことを気にかけてこんな席を設けてくれたのだろうか。そう思うと、アイシャは彼の気持ちがありがたく、ふわりと優しい気分になった。
二人が朝食の席に着くと、カルラートはアイシャのために料理を取り分け、それから彼女をしげしげと見つめた。
「な、なにかしら?」
おかしな格好はしていないはずだが、こうも見られると、昨夜のこともあり、アイシャはなんだか気恥ずかしくなってくる。
「いや、そなたとこうして向かい合って朝食を取っているのが、なにか不思議な気がしてな」
「そ、そう……?」
なにが不思議なのかよく分からなかったので、アイシャはそれだけ返した。
「ああ、本当にそなたがわたしのものになったのかと少し感慨深かった」
「そ……」
アイシャは、そこで初めてカルラートの言わんとすることが分かり、赤面した。
「可愛らしいな、アイシャ」
真っ赤になったアイシャを見て、カルラートが愛しそうにくすくす笑う。
「も、もう、からからわないで」
「からかってなどいないぞ。正直な感想を述べただけだ」
……それはなおさら悪いと思うのだけれども、気のせいだろうかとアイシャはしばし悩む。
しかし、これでカルラート自身から正式に王妃と認められたのだ。
アイシャの気のせいかもしれないが、ハーメイの侍女も更に彼女に親切になったようだ。
「そ、それはそうと、この後、あなたは執務なの?」
なんとかこの気恥ずかしい話題を変えようと、アイシャがカルラートに尋ねると、彼は少しつまらなそうにした。
「ああ、まあな。できればこの後、そなたと庭園でも巡りたかったが、オルグレンがうるさいので仕方ない」
幾分拗ねているようなカルラートが、少々笑いを誘う。
「庭園は逃げないし、わたしは侍女をつけて見て回るから大丈夫よ」
アイシャがくすくす笑いながら言うと、カルラートは少しばかり不満そうな顔をした。
「……そなたは冷たいな」
「え?」
冷たくした覚えはないのだが、そう受け取られてしまったのかと、アイシャは少し焦る。
「あのカルラート、わたしは別にあなたに冷たくしたわけじゃないわよ」
「……分かっている。わたしが勝手に拗ねているだけだ」
「拗ねているって、カルラート子供みたい」
思ってもいなかった彼の言葉に、アイシャは噴き出してしまった。
国王なのに、存外、彼は子供っぽいところがある。
「それだけ、そなたと一緒にいる時間が減るだろう。新婚だっていうのに、オルグレンはまったく配慮をしないんだからな」
そう言って深く溜息をついたカルラートの様子があまりにも切実に見えたので、アイシャは思わず言ってしまった。
「ま、まあ、昼間は無理でも夜ならいくらでも会えるじゃない」
「それはそうだな」
アイシャの意見で俄然元気を取り戻したカルラートは、笑顔になると勢いよく朝食を平らげだした。
「え……、カルラートどうしたの?」
今のアイシャの言葉で、カルラートの取ったその行動がよく分からず、アイシャは少し困惑する。
「執務を早く切り上げることが出来れば、それだけそなたと夜に一緒にいられるだろう?」
「そ、それはそうだけれど……」
……なにか、ものすごい勘違いをされていると思うのは気のせいだろうか?
もしかして、彼に誘っていると思われたら適わない。
それで、アイシャはそのカルラートの誤解を解こうと、恐る恐る言った。
「あの、わたしが言ったのは夜なら話せる機会があるってことなんだけれど」
遠慮がちのアイシャの言葉にも、カルラートは見事にそれを否定してくれた。
「つれないことをいうな。新婚で夜といえば、やることはひとつしかないだろう」
「そうじゃなくて、わたしはぜひ話し合いがしたいの!」
アイシャはそう主張したが、有無を言わせない笑顔でカルラートに言われた。
「遠慮するな、アイシャ」
「え、遠慮なんてしていない、けど……」
戸惑いがちのアイシャの言葉がカルラートに届くことはもちろんなかった。
かくして、その夜にカルラートは意気揚々として現れた。
そして、夜の夫婦の話し合いが事実上中止となったのは言うまでもない。
アイシャが正式にカルラートの妃となった翌日。
ライサがうきうきと海綿を掴みながら満面の笑顔で言った。
「……ありがとう」
ライサに風呂に入れてもらいながら、アイシャは微笑んだ。
大国の王妹として、まずは第一段階だけでも到達したことに、アイシャは喜びを覚える。
しかし、まだこれはまだ最初の取っかかりだ。
これで安心はせずに、王妃らしく振る舞えるように、ハーメイの皆とも仲良くやっていこう。
アイシャは風呂から上がると、ライサやハーメイの侍女達に朝の支度に取りかかられた。
「共同の間で、既に陛下がお待ちですわ。朝食をご一緒しようということです」
それを聞いてアイシャは少しだけ焦る。
確かカルラートは朝一番から執務が入っていたはずだ。
「まあ、それならあまり待たせてはいけないわね」
アイシャは早々に朝の支度を終えて、王と王妃の共同の間に入った。
そこの卓上には既に朝食の用意がしてあって、その傍でカルラートが立って待っていた。
「カルラート、もしかしてかなり待たせてしまったかしら? ごめんなさい」
アイシャが慌ててカルラートに頭を下げると、彼は首を振った。
「いや、それほど待っていない。……それにいきなり言い出したわたしも悪いしな」
「そんなこと……」
アイシャはそこまで言って言葉に詰まる。
……もしかして、昨夜の行為のことを気にかけてこんな席を設けてくれたのだろうか。そう思うと、アイシャは彼の気持ちがありがたく、ふわりと優しい気分になった。
二人が朝食の席に着くと、カルラートはアイシャのために料理を取り分け、それから彼女をしげしげと見つめた。
「な、なにかしら?」
おかしな格好はしていないはずだが、こうも見られると、昨夜のこともあり、アイシャはなんだか気恥ずかしくなってくる。
「いや、そなたとこうして向かい合って朝食を取っているのが、なにか不思議な気がしてな」
「そ、そう……?」
なにが不思議なのかよく分からなかったので、アイシャはそれだけ返した。
「ああ、本当にそなたがわたしのものになったのかと少し感慨深かった」
「そ……」
アイシャは、そこで初めてカルラートの言わんとすることが分かり、赤面した。
「可愛らしいな、アイシャ」
真っ赤になったアイシャを見て、カルラートが愛しそうにくすくす笑う。
「も、もう、からからわないで」
「からかってなどいないぞ。正直な感想を述べただけだ」
……それはなおさら悪いと思うのだけれども、気のせいだろうかとアイシャはしばし悩む。
しかし、これでカルラート自身から正式に王妃と認められたのだ。
アイシャの気のせいかもしれないが、ハーメイの侍女も更に彼女に親切になったようだ。
「そ、それはそうと、この後、あなたは執務なの?」
なんとかこの気恥ずかしい話題を変えようと、アイシャがカルラートに尋ねると、彼は少しつまらなそうにした。
「ああ、まあな。できればこの後、そなたと庭園でも巡りたかったが、オルグレンがうるさいので仕方ない」
幾分拗ねているようなカルラートが、少々笑いを誘う。
「庭園は逃げないし、わたしは侍女をつけて見て回るから大丈夫よ」
アイシャがくすくす笑いながら言うと、カルラートは少しばかり不満そうな顔をした。
「……そなたは冷たいな」
「え?」
冷たくした覚えはないのだが、そう受け取られてしまったのかと、アイシャは少し焦る。
「あのカルラート、わたしは別にあなたに冷たくしたわけじゃないわよ」
「……分かっている。わたしが勝手に拗ねているだけだ」
「拗ねているって、カルラート子供みたい」
思ってもいなかった彼の言葉に、アイシャは噴き出してしまった。
国王なのに、存外、彼は子供っぽいところがある。
「それだけ、そなたと一緒にいる時間が減るだろう。新婚だっていうのに、オルグレンはまったく配慮をしないんだからな」
そう言って深く溜息をついたカルラートの様子があまりにも切実に見えたので、アイシャは思わず言ってしまった。
「ま、まあ、昼間は無理でも夜ならいくらでも会えるじゃない」
「それはそうだな」
アイシャの意見で俄然元気を取り戻したカルラートは、笑顔になると勢いよく朝食を平らげだした。
「え……、カルラートどうしたの?」
今のアイシャの言葉で、カルラートの取ったその行動がよく分からず、アイシャは少し困惑する。
「執務を早く切り上げることが出来れば、それだけそなたと夜に一緒にいられるだろう?」
「そ、それはそうだけれど……」
……なにか、ものすごい勘違いをされていると思うのは気のせいだろうか?
もしかして、彼に誘っていると思われたら適わない。
それで、アイシャはそのカルラートの誤解を解こうと、恐る恐る言った。
「あの、わたしが言ったのは夜なら話せる機会があるってことなんだけれど」
遠慮がちのアイシャの言葉にも、カルラートは見事にそれを否定してくれた。
「つれないことをいうな。新婚で夜といえば、やることはひとつしかないだろう」
「そうじゃなくて、わたしはぜひ話し合いがしたいの!」
アイシャはそう主張したが、有無を言わせない笑顔でカルラートに言われた。
「遠慮するな、アイシャ」
「え、遠慮なんてしていない、けど……」
戸惑いがちのアイシャの言葉がカルラートに届くことはもちろんなかった。
かくして、その夜にカルラートは意気揚々として現れた。
そして、夜の夫婦の話し合いが事実上中止となったのは言うまでもない。
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