誤解なんですが。~とある婚約破棄の場で~

舘野寧依

文字の大きさ
5 / 7

5

しおりを挟む
 国王からの無慈悲な宣言にデニスが黙り込む。しかしその代わりに取り巻きたちが騒ぎ出した。

「おまえたちとは……、まさか陛下! わたしたちも殿下と同じ平民になれとおっしゃるのですか!?」

 宰相の三男がうろたえた様子で申し立てる。

「おまえたちがわが国の上位貴族のみならず、国賓の前でいたしたこと、もはや申し開きも効かぬわ。明らかに身分が上の公爵夫人に対する所業、とうてい許されるものではない」
「ぼ、僕たちは知らなかったのです! メリッサ嬢が王位継承権を持っているなんて!」
「……上位貴族だったおまえがなぜ知らぬ。いや、この馬鹿とつるんでいたほどだから、同レベルなのはしかたないのか」

 祭司長の末子の訴えを国王が無情に切り捨てた。それを騎士団長の次男が慌てて取り繕う。

「た、確かに我々の確認不足だったかもしれません。ですが、わたしたちは殿下のご命令どおりに動いたにすぎないのです」

 すると、国王が殺気をはらんだ目で騎士団長の次男を睨みつけた。

「……この期に及んでくだらぬ言い訳をするか。それなら、なぜおまえたちがデニスを諫めぬ。おまえたちが公爵夫人をデニスの婚約者と勘違いしていたとしても、公爵令嬢であるとは思っていたのだな? それでもおまえたちよりも身分は上だ。あのような騒ぎを起こしてただで済むと思っておったのか?」
「そ、それは……」

 追及されて騎士団長の次男は国王から視線を外した。これでは、そうですと言ったも同然である。

「それに、デニスの命令だとしても、女性を、それも身籠もった者を突き飛ばすというような非道、どう申し開きしても騎士とは認められん。おまえの行いを嘆いた騎士団長は責任を取ると申して、自刃じじんして果てたぞ」
「なっ、なぜ父上が……!?」

 父である騎士団長が自ら死を選んだことに、その次男が驚愕して叫ぶ。
 このようなことになっても、いまだに重大なことを引き起こしたと認識していない騎士団長の次男に国王は怒りをあらわにした。

「それは今申したとおりだ。おまえの存在自体が騎士の名折れ。騎士見習いとしても、なぜこのような初歩的なことも守れぬのか不思議でならぬわ」
「で、ですが、わたしたちは公爵夫人が身籠もっているとは知らなかったのです! ですから、これはすべてキャロルの策略のせいです!」

 父の死を嘆くこともなく保身をはかる騎士団長の次男に、デニスとキャロル、そして取り巻きたち以外の者は、あふれ出る嫌悪を抑えることができなかった。
 このような愚か者のために、忠義者である騎士団長が死を選んだというのに、これでは彼も浮かばれまい。


「──どこまでも卑怯な者たちだ。罪を認めず、己の身だけを案ずるとは」

 新たな声に国王が目を向けると、今まで妻のメリッサに付いていたサヴェリオがいつのまにか入室してきていた。

「サヴェリオ様、メリッサは……!」

 モスカート公爵夫人が心配を隠せぬ様子でサヴェリオに近寄った。

「多少痣になりましたが、他は大丈夫なようです。……それからメリッサが懐妊しているというのは周囲の思い違いでした。今朝ほどメリッサに月のものが来たようで、最近体調を崩していたのもそう思わせる要因だったのでしょう」

 すると、モスカート公爵夫人は、喜びとがっかりのなかばのような複雑な表情になった。

「ま、まあそうでしたの。メリッサが懐妊していなかったのは残念ですが、まだこれからがありますものね」
「そ、そうですわね。愚息の母のわたくしが言うのもなんですが、不幸中の幸いでしたわ」

 公爵夫人に合わせて、王妃もほっとしたように息をついた。そして、モスカート公爵も安堵したような表情を浮かべている。

「マヌエル公爵夫人が身籠もっていないのならば、わたしたちは罪には問われませんね!」
「まったく、父上も死に損だな」
「これで平民になるのは殿下だけだね」
「きっ、貴様ら……っ!」

 言いたい放題の取り巻きたちに、デニスが怒りから顔を真っ赤にする。
 それを周囲の者たちが蔑んだ目で見やった。

「……なにを言っておる? 公爵夫人が怪我を負ったことはマヌエル公も申しておったであろう。たとえ夫人が懐妊していなくても、おまえたちの罪は消えてなくならぬわ。第一、おまえたちはそれぞれの家から既に勘当されておる」
「えっ、そんな、まさか……っ!」

 国王に冷たく言い切られて、取り巻きたちが仰天する。
 それに対して、デニスは取り巻きたちを指差して嘲笑った。

「はははぁっ! ざまを見ろ! このわたしを見捨てて、貴様らだけ助かろうとするからだ! これでおまえらも平民だ! この後もこき使ってやるから覚えていろ!」

 彼らの暴走の元凶であるデニスの思い上がった様子に、周りの者たちは不快を隠せない。
 一番の原因は無礼な平民のキャロルであるが、彼が少しでも確認していたら、メリッサがなにも関わっていないことに気づいたはずなのである。

「……まったく呆れるわ。わたしは、おまえたちがこのまま平民として平穏な暮らしができるなどとは一言も言っておらん。おまえたちがしでかしたこと、相応の罪としてあがなってもらう」

 国王はデニスとその取り巻きたちを睨み据えると、厳然と言い放った。
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

弟が悪役令嬢に怪我をさせられたのに、こっちが罰金を払うだなんて、そんなおかしな話があるの? このまま泣き寝入りなんてしないから……!

冬吹せいら
恋愛
キリア・モルバレスが、令嬢のセレノー・ブレッザに、顔面をナイフで切り付けられ、傷を負った。 しかし、セレノーは謝るどころか、自分も怪我をしたので、モルバレス家に罰金を科すと言い始める。 話を聞いた、キリアの姉のスズカは、この件を、親友のネイトルに相談した。 スズカとネイトルは、お互いの身分を知らず、会話する仲だったが、この件を聞いたネイトルが、ついに自分の身分を明かすことに。 そこから、話しは急展開を迎える……。

だから言いましたでしょ

王水
恋愛
それまでと違い、華やかな世界に、素敵な男性たちに囲まれ、少女は勘違いをした。

婚約破棄ですか……。……あの、契約書類は読みましたか?

冬吹せいら
恋愛
 伯爵家の令息――ローイ・ランドルフは、侯爵家の令嬢――アリア・テスタロトと婚約を結んだ。  しかし、この婚約の本当の目的は、伯爵家による侯爵家の乗っ取りである。  侯爵家の領地に、ズカズカと進行し、我がもの顔で建物の建設を始める伯爵家。  ある程度領地を蝕んだところで、ローイはアリアとの婚約を破棄しようとした。 「おかしいと思いませんか? 自らの領地を荒されているのに、何も言わないなんて――」  アリアが、ローイに対して、不気味に語り掛ける。  侯爵家は、最初から気が付いていたのだ。 「契約書類は、ちゃんと読みましたか?」  伯爵家の没落が、今、始まろうとしている――。

婚約者様への逆襲です。

有栖川灯里
恋愛
王太子との婚約を、一方的な断罪と共に破棄された令嬢・アンネリーゼ=フォン=アイゼナッハ。 理由は“聖女を妬んだ悪役”という、ありふれた台本。 だが彼女は涙ひとつ見せずに微笑み、ただ静かに言い残した。 ――「さようなら、婚約者様。二度と戻りませんわ」 すべてを捨て、王宮を去った“悪役令嬢”が辿り着いたのは、沈黙と再生の修道院。 そこで出会ったのは、聖女の奇跡に疑問を抱く神官、情報を操る傭兵、そしてかつて見逃された“真実”。 これは、少女が嘘を暴き、誇りを取り戻し、自らの手で未来を選び取る物語。 断罪は終わりではなく、始まりだった。 “信仰”に支配された王国を、静かに揺るがす――悪役令嬢の逆襲。

なんでも私のせいにする姉に婚約者を奪われました。分かり合えることはなさそうなので、姉妹の関係を終わらせようと思います。

冬吹せいら
恋愛
侯爵家令嬢のミゼス・ワグナーは、何かあるとすぐに妹のリズのせいにして八つ当たりをした。 ある日ミゼスは、リズの態度に腹を立て、婚約者を奪おうとする。 リズはこれまで黙って耐えていた分、全てやり返すことにした……。

【完結済】監視される悪役令嬢、自滅するヒロイン

curosu
恋愛
【書きたい場面だけシリーズ】 タイトル通り

田舎娘をバカにした令嬢の末路

冬吹せいら
恋愛
オーロラ・レンジ―は、小国の産まれでありながらも、名門バッテンデン学園に、首席で合格した。 それを不快に思った、令嬢のディアナ・カルホーンは、オーロラが試験官を買収したと嘘をつく。 ――あんな田舎娘に、私が負けるわけないじゃない。 田舎娘をバカにした令嬢の末路は……。

好きだった幼馴染みに再会→婚約者を捨ててプロポーズした侯爵令息

星森
恋愛
侯爵家の令息エドモンドは、幼い頃に結婚を誓い合った幼馴染コレットへの執着を捨てられずにいた。 しかし再会した彼女は自分を避け、公爵令息アランと親しくする姿ばかりが目に入る。 嫉妬と焦燥に駆られたエドモンドは、ついに“ある計画”に手を染めてしまう。 偶然を装った救出劇、強引な求愛、婚約破棄── すべてはコレットを取り戻すためだった。 そして2人は……? ⚠️本作はAIが生成した文章を一部に使っています。

処理中です...