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国王からの無慈悲な宣言にデニスが黙り込む。しかしその代わりに取り巻きたちが騒ぎ出した。
「おまえたちとは……、まさか陛下! わたしたちも殿下と同じ平民になれとおっしゃるのですか!?」
宰相の三男がうろたえた様子で申し立てる。
「おまえたちがわが国の上位貴族のみならず、国賓の前でいたしたこと、もはや申し開きも効かぬわ。明らかに身分が上の公爵夫人に対する所業、とうてい許されるものではない」
「ぼ、僕たちは知らなかったのです! メリッサ嬢が王位継承権を持っているなんて!」
「……上位貴族だったおまえがなぜ知らぬ。いや、この馬鹿とつるんでいたほどだから、同レベルなのはしかたないのか」
祭司長の末子の訴えを国王が無情に切り捨てた。それを騎士団長の次男が慌てて取り繕う。
「た、確かに我々の確認不足だったかもしれません。ですが、わたしたちは殿下のご命令どおりに動いたにすぎないのです」
すると、国王が殺気を孕んだ目で騎士団長の次男を睨みつけた。
「……この期に及んでくだらぬ言い訳をするか。それなら、なぜおまえたちがデニスを諫めぬ。おまえたちが公爵夫人をデニスの婚約者と勘違いしていたとしても、公爵令嬢であるとは思っていたのだな? それでもおまえたちよりも身分は上だ。あのような騒ぎを起こしてただで済むと思っておったのか?」
「そ、それは……」
追及されて騎士団長の次男は国王から視線を外した。これでは、そうですと言ったも同然である。
「それに、デニスの命令だとしても、女性を、それも身籠もった者を突き飛ばすというような非道、どう申し開きしても騎士とは認められん。おまえの行いを嘆いた騎士団長は責任を取ると申して、自刃して果てたぞ」
「なっ、なぜ父上が……!?」
父である騎士団長が自ら死を選んだことに、その次男が驚愕して叫ぶ。
このようなことになっても、いまだに重大なことを引き起こしたと認識していない騎士団長の次男に国王は怒りをあらわにした。
「それは今申したとおりだ。おまえの存在自体が騎士の名折れ。騎士見習いとしても、なぜこのような初歩的なことも守れぬのか不思議でならぬわ」
「で、ですが、わたしたちは公爵夫人が身籠もっているとは知らなかったのです! ですから、これはすべてキャロルの策略のせいです!」
父の死を嘆くこともなく保身をはかる騎士団長の次男に、デニスとキャロル、そして取り巻きたち以外の者は、あふれ出る嫌悪を抑えることができなかった。
このような愚か者のために、忠義者である騎士団長が死を選んだというのに、これでは彼も浮かばれまい。
「──どこまでも卑怯な者たちだ。罪を認めず、己の身だけを案ずるとは」
新たな声に国王が目を向けると、今まで妻のメリッサに付いていたサヴェリオがいつのまにか入室してきていた。
「サヴェリオ様、メリッサは……!」
モスカート公爵夫人が心配を隠せぬ様子でサヴェリオに近寄った。
「多少痣になりましたが、他は大丈夫なようです。……それからメリッサが懐妊しているというのは周囲の思い違いでした。今朝ほどメリッサに月のものが来たようで、最近体調を崩していたのもそう思わせる要因だったのでしょう」
すると、モスカート公爵夫人は、喜びとがっかりの半ばのような複雑な表情になった。
「ま、まあそうでしたの。メリッサが懐妊していなかったのは残念ですが、まだこれからがありますものね」
「そ、そうですわね。愚息の母のわたくしが言うのもなんですが、不幸中の幸いでしたわ」
公爵夫人に合わせて、王妃もほっとしたように息をついた。そして、モスカート公爵も安堵したような表情を浮かべている。
「マヌエル公爵夫人が身籠もっていないのならば、わたしたちは罪には問われませんね!」
「まったく、父上も死に損だな」
「これで平民になるのは殿下だけだね」
「きっ、貴様ら……っ!」
言いたい放題の取り巻きたちに、デニスが怒りから顔を真っ赤にする。
それを周囲の者たちが蔑んだ目で見やった。
「……なにを言っておる? 公爵夫人が怪我を負ったことはマヌエル公も申しておったであろう。たとえ夫人が懐妊していなくても、おまえたちの罪は消えてなくならぬわ。第一、おまえたちはそれぞれの家から既に勘当されておる」
「えっ、そんな、まさか……っ!」
国王に冷たく言い切られて、取り巻きたちが仰天する。
それに対して、デニスは取り巻きたちを指差して嘲笑った。
「はははぁっ! ざまを見ろ! このわたしを見捨てて、貴様らだけ助かろうとするからだ! これでおまえらも平民だ! この後もこき使ってやるから覚えていろ!」
彼らの暴走の元凶であるデニスの思い上がった様子に、周りの者たちは不快を隠せない。
一番の原因は無礼な平民のキャロルであるが、彼が少しでも確認していたら、メリッサがなにも関わっていないことに気づいたはずなのである。
「……まったく呆れるわ。わたしは、おまえたちがこのまま平民として平穏な暮らしができるなどとは一言も言っておらん。おまえたちがしでかしたこと、相応の罪として贖ってもらう」
国王はデニスとその取り巻きたちを睨み据えると、厳然と言い放った。
「おまえたちとは……、まさか陛下! わたしたちも殿下と同じ平民になれとおっしゃるのですか!?」
宰相の三男がうろたえた様子で申し立てる。
「おまえたちがわが国の上位貴族のみならず、国賓の前でいたしたこと、もはや申し開きも効かぬわ。明らかに身分が上の公爵夫人に対する所業、とうてい許されるものではない」
「ぼ、僕たちは知らなかったのです! メリッサ嬢が王位継承権を持っているなんて!」
「……上位貴族だったおまえがなぜ知らぬ。いや、この馬鹿とつるんでいたほどだから、同レベルなのはしかたないのか」
祭司長の末子の訴えを国王が無情に切り捨てた。それを騎士団長の次男が慌てて取り繕う。
「た、確かに我々の確認不足だったかもしれません。ですが、わたしたちは殿下のご命令どおりに動いたにすぎないのです」
すると、国王が殺気を孕んだ目で騎士団長の次男を睨みつけた。
「……この期に及んでくだらぬ言い訳をするか。それなら、なぜおまえたちがデニスを諫めぬ。おまえたちが公爵夫人をデニスの婚約者と勘違いしていたとしても、公爵令嬢であるとは思っていたのだな? それでもおまえたちよりも身分は上だ。あのような騒ぎを起こしてただで済むと思っておったのか?」
「そ、それは……」
追及されて騎士団長の次男は国王から視線を外した。これでは、そうですと言ったも同然である。
「それに、デニスの命令だとしても、女性を、それも身籠もった者を突き飛ばすというような非道、どう申し開きしても騎士とは認められん。おまえの行いを嘆いた騎士団長は責任を取ると申して、自刃して果てたぞ」
「なっ、なぜ父上が……!?」
父である騎士団長が自ら死を選んだことに、その次男が驚愕して叫ぶ。
このようなことになっても、いまだに重大なことを引き起こしたと認識していない騎士団長の次男に国王は怒りをあらわにした。
「それは今申したとおりだ。おまえの存在自体が騎士の名折れ。騎士見習いとしても、なぜこのような初歩的なことも守れぬのか不思議でならぬわ」
「で、ですが、わたしたちは公爵夫人が身籠もっているとは知らなかったのです! ですから、これはすべてキャロルの策略のせいです!」
父の死を嘆くこともなく保身をはかる騎士団長の次男に、デニスとキャロル、そして取り巻きたち以外の者は、あふれ出る嫌悪を抑えることができなかった。
このような愚か者のために、忠義者である騎士団長が死を選んだというのに、これでは彼も浮かばれまい。
「──どこまでも卑怯な者たちだ。罪を認めず、己の身だけを案ずるとは」
新たな声に国王が目を向けると、今まで妻のメリッサに付いていたサヴェリオがいつのまにか入室してきていた。
「サヴェリオ様、メリッサは……!」
モスカート公爵夫人が心配を隠せぬ様子でサヴェリオに近寄った。
「多少痣になりましたが、他は大丈夫なようです。……それからメリッサが懐妊しているというのは周囲の思い違いでした。今朝ほどメリッサに月のものが来たようで、最近体調を崩していたのもそう思わせる要因だったのでしょう」
すると、モスカート公爵夫人は、喜びとがっかりの半ばのような複雑な表情になった。
「ま、まあそうでしたの。メリッサが懐妊していなかったのは残念ですが、まだこれからがありますものね」
「そ、そうですわね。愚息の母のわたくしが言うのもなんですが、不幸中の幸いでしたわ」
公爵夫人に合わせて、王妃もほっとしたように息をついた。そして、モスカート公爵も安堵したような表情を浮かべている。
「マヌエル公爵夫人が身籠もっていないのならば、わたしたちは罪には問われませんね!」
「まったく、父上も死に損だな」
「これで平民になるのは殿下だけだね」
「きっ、貴様ら……っ!」
言いたい放題の取り巻きたちに、デニスが怒りから顔を真っ赤にする。
それを周囲の者たちが蔑んだ目で見やった。
「……なにを言っておる? 公爵夫人が怪我を負ったことはマヌエル公も申しておったであろう。たとえ夫人が懐妊していなくても、おまえたちの罪は消えてなくならぬわ。第一、おまえたちはそれぞれの家から既に勘当されておる」
「えっ、そんな、まさか……っ!」
国王に冷たく言い切られて、取り巻きたちが仰天する。
それに対して、デニスは取り巻きたちを指差して嘲笑った。
「はははぁっ! ざまを見ろ! このわたしを見捨てて、貴様らだけ助かろうとするからだ! これでおまえらも平民だ! この後もこき使ってやるから覚えていろ!」
彼らの暴走の元凶であるデニスの思い上がった様子に、周りの者たちは不快を隠せない。
一番の原因は無礼な平民のキャロルであるが、彼が少しでも確認していたら、メリッサがなにも関わっていないことに気づいたはずなのである。
「……まったく呆れるわ。わたしは、おまえたちがこのまま平民として平穏な暮らしができるなどとは一言も言っておらん。おまえたちがしでかしたこと、相応の罪として贖ってもらう」
国王はデニスとその取り巻きたちを睨み据えると、厳然と言い放った。
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