恋の闇路の向こう側

七賀ごふん

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お迎え

#10

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そこまで考えてるんだ。やっぱり俺と違って偉い。

「川音は? 進学するんだろ? 行きたい大学は決まってるのか」
「うーん。考え中」
「成績良いから、進学しないのは勿体ないぞ」

やってきた電車に乗り、貴島はシートに座った。隣の座面をぽんぽんと叩き、俺にも座るよう促す。
「川音」
「あ、うん」
隣に腰掛け、視線は前に向ける。鞄を靴の上に置き、ふぅと息をついた。
「もう二年だけど、将来のこととか考えられない。……いや、考えたくないんだろうな」
「はは。皆そうだよ」
貴島はそう笑うけど、俺は輪をかけてだと思う。
まだまだ、彼の隣にいるこの瞬間を噛み締めていたい。
ずっとこうしていられたらいいのに。

「でも、俺も特にそうかも。……卒業した後のことなんて考えたくないよな。やっとこうして、お前といられるようになったのに」
「……っ!!」

それは……その言葉は、心の中の深いところに浸透していった。

貴島は俺が欲しい言葉を的確に拾い過ぎだ。
彼がどんどん遠い存在になっていく気がして、怖くて悲しかったけど。また、飛び上がりたいぐらいの喜びに襲われてる。

「貴島。このあと用事ある?」
「いや」
「じゃ、ちょっと付き合って!」

学校から離れてようやく、優等生の仮面を外せる。
誰の目も気にせず、懐かしいあの頃に戻れる。
貴島と一秒でも長くいたいから、俺の家の最寄り駅に彼を誘っていた。


「ただいまー」
「おかえり、深白。あら、友達?」
「うん。ほら、島根にいた時の幼馴染。転校してきたんだよ」
「え! じゃあ、月仁くん!? 久しぶりねぇ~! 大きくなって!」
「あ、本当にお久しぶりです」

俺の家。……の隣にある店の引き戸を開けると、母が目を輝かせてやってきた。厨房の奥では父が何事かと覗いている。

「急に転校してきたんじゃ大変だったでしょう。困ったことがあったら深白に言ってね」
「ありがとうございます。本当にいつも助けてもらってます」

貴島はまた、そつなくお辞儀をした。俺とタイプが違う……という俺は家ではダラダラしてるから、貴島が相当礼儀正しく見えたんだろう。父も母も「は~っ」と感嘆の声を上げていた。

両親は、俺が物心ついた時から割烹料理屋をしている。元々は島根の小さな町で営んでいたけど、六年前一大決心して都心に移転したのだ。
それもあり俺は貴島と離れ離れになった。幼馴染の貴島のことは両親もよく知っていたから、時々申し訳ないことをしたと零すことがあった。

だから、貴島がこっちに来ると伝えた時は両親も喜こんでいた。

「川音君、空港まで俺に会いに来てくれて……すごく嬉しかったです」
「あら、そんなの当たり前よ。深白ったら、ここ最近ずっと月仁くんのこと話してたのよ。また一緒に学校行ける! って大喜びしちゃって」
「母さん、そこまで! 父さんお願い、ちょっと厨房借りていい?」
「あぁ」

これ以上母に喋らせてはいけない。羞恥心を押し殺し、貴島の手を引いて奥へ向かった。
開店は夜からなので、今は仕込みの時間だ。貴島には奥のカウンター席に座ってもらい、俺はブレザーを脱いで手を洗った。

「貴島、何食いたい?」

厨房から声を掛ける。店の手伝いは盛り付けぐらいしかしないけど、家では炊事当番もするからある程度のものは作れる。
せっかくだし貴島になにか振る舞おうと思った。でも彼はいつも以上に無表情で、静かだ。

「な……何でも」

いい、と言って、頬を赤らめている。
どうしたんだ……?
急に様子がおかしくなったから、ちょっと考えた。そこで異様に姿勢が良いことに気付き、緊張してるのだと分かった。

お客さんもいないし、父と母は離れたところで仕事してるし、気にしなくていいのに。
珍しく年相応に固くなってる貴島に苦笑し、調理器具を取り出した。
「深白。鯛つかっていいぞ」
「やったぁ! サンキュー」
「その代わり、月仁くんに美味いもん食べさせてやれよ」
若干プレッシャーだけど、せっかく良い食材を使わせてもらえるのだから頑張ろう。

貴島は緊張してるみたいだけど、彼に見られてる俺も同じ気持ちだ。
( 集中集中…… )
むず痒いのを堪え、簡単なご飯を貴島に渡した。自分の分も用意し、彼の隣に座る。
「赤天じゃん。久しぶりに食ったけど、すごい美味い」
「あはは、良かった。俺も久しぶり。貴島が来るって知って、食べたくなって取り寄せたんだよな」
ほうじ茶を入れて彼に手渡す。
貴島はなおも静かだったけど、味わうことに集中している様子だった。

「鯛めしも美味い……」

鯛めしと言えば愛媛って感じだけど、俺達の地元も鯛めしは愛されてる。薬味や大根おろし、卵の白身も乗せて、豪華な一品だ。それをかき込むと、どんなに寒い日も一瞬で温まる。

貴島は最後の一口を口に入れ、微笑んだ。

「お前の作った飯が食えるなんて。……夢みたいだ」





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