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だんらん
#1
しおりを挟む貴島の横顔は、ほんのり赤く色づいていた。
火傷でもしたんじゃないかと言うほど。耳まで赤くなってる。
「口に合ったみたいで良かった」
「美味くないわけない」
「それは言い過ぎだろ」
笑って返すも、貴島は真剣な表情のままだ。両手を合わせ、「ご馳走様でした」と呟いた。
「すごいな、川音」
「別に何も。毎日やってれば、それっぽいもんは作れるよ」
「いいや、お前は特別だよ。頑張れば何でもできる。俺なんかいなくても」
え。
一体どういう意味だろう。
思わず見返すと、貴島は俯き、少し暗い面持ちをしていた。
貴島が何を思ってるのか、俺には分からない。
でもひとつだけ言えることがある。
「俺は、貴島がいたから頑張れたんだよ。……貴島にまた会えると思ったから。だから、お前がいないんじゃ何もできない」
本音だった。
ある意味盛大なポンコツ宣言だけど……どうしようもなく事実だ。
「弱くて泣き虫で、学校が怖かった時期も、お前が引っ張ってくれるから通えてた。でもお前はどこに行っても人気だから……お前の隣にいても恥ずかしくないように、必死にやってきたんだよ」
「川音……」
決死の告白に、貴島は驚いていた。
恥ずかしくて、顔から火が出そうだ。笑われるのは仕方ないけど、引かれないか心配で心配で……息するのもやっとだった。
「空港で会った日、昔のままでいい、って言ってくれたけど。それじゃ駄目なんだ。俺は貴島の隣にいる資格がない」
「資格って何だよ。むしろ俺みたいな転校生の方が肩身が狭いよ。お前は学校代表みたいだし……傍にいて当たり前、みたいな顔するなって思われてる」
「そんなことない!」
「なら、お前だってそうだよ。そんなことない」
言葉の打ち返し。熱くなり、しばらく無言で見つめ合う。
でも次第に可笑しくなって、吹き出してしまった。
「つまり、俺達の自意識過剰。ってことで良いだろ?」
「そだな。別に一緒にいてもいい。………んだよな」
「当たり前だろ」
貴島は俺の方に椅子を向ける。
「他人にどう思われたっていい。俺はお前といたくて 転校してきたんだ。お前といられないなら、何もこの学校じゃなくて良かったと思ってる」
「ほんと?」
「本当。……どれだけお前に会いたかったと思ってんたよ」
彼は口角を上げ、俺の頭を撫でた。温もりを確かめるように、下ろした手を優しく頬に添える。
「幼馴染ってことを隠したって何も問題ない。俺はお前から離れる気ないしな」
「ん……」
何かすごいこと言われてる気がするんだけど。嬉しいの方が勝って、あまりツッコめない。
狼狽える俺に、貴島はさらに質問してきた。
「お前は? 俺のこと嫌い?」
「なっ! 嫌いなわけないだろ!」
「じゃあ好き?」
「あぁ!」
強い語調で返す。すると俺達の後ろを通りがかった父が足を止めた。
「最近は、男同士でもそういう……意思確認が流行ってるのか?」
ワッッ。
一番聞かれたくないひとに聞かれてしまった。
青ざめる俺と対照的に、貴島は平然と頷いてみせた。
「そうですね。やっぱり大事なことなので、定期的に実施してます」
面談か? とツッコみたくなったけど、父がまたはぁ~っと納得して去って行ったからヨシとした。
胸を撫で下ろしてると、貴島は冷静な顔で腕を組み、告げた。
「川音は俺のことが好きで、俺も川音が好き。これで解決だな」
「解決?」
何が? と目を丸くすると、鼻先をつつかれた。
「まだよそよそしい。俺に遠慮してるだろ」
「あ……」
「最近は声掛けるの躊躇ったり。遠巻きに視線感じたりもしてたから、どうしたのかと思ってたんだ。周りなんて気にしないで、堂々としてろよ」
貴島は目を細め、わずかに前に屈んだ。
「昔みたいに、一緒にいよう? 深白」
「……っ」
再会してから初めて、名前で呼ばれた。
それがたまらなく嬉しくて、考えるより先に頷いてしまっていた。
「うん。……月仁」
そのひと言を振り絞るのは、中々勇気が必要だった。
昔は当たり前のように呼んでたけど、再会したら妙に気恥ずかしくて苗字呼びになってしまったんだ。
でも声に出して、音にした瞬間、俺は本当に彼が好きなんだと痛感した。
せめてこれがバレないといいけど。目を合わせたまま動けないから、かなり際どい。
「……あ! そろそろ時間かも」
「あぁ」
壁にかかった時計を見て、席を立つ。もう少ししたら暖簾を出さないといけない。食器を片付けようとすると、月仁も手伝ってくれた。
「お皿洗いたいけど、厨房の中入るのはまずい?」
「あ、俺がやるからヘーキヘーキ」
ひとまず洗い場に置いて、彼の手を引く。お金を払おうとしたから、それは俺と母で全力で止めた。
「月仁君、また遊びに来てね。今度は旦那がちゃんとご飯作るから」
「俺だってちゃんと作ったよ!」
「はいはい、ありがと。深白、月仁君のこと駅まで送りなさいよ?」
「お忙しいときに来てすみません。ありがとうございます」
月仁が頭を下げると、父と母は嬉しそうに手を振った。
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