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だんらん
#2
しおりを挟む「お父さんとお母さんが元気そうで良かった。お店も繁盛してるみたいだし」
店を出て、駅へ向かって歩く。
月仁はかすかに微笑みながら、ポケットに手を入れた。
「まぁ、すごいポジティブな人達だからね。閑古鳥が鳴いてものらりくらりやると思うよ」
「ははっ」
月仁には困ってる風に言ってしまったけど、何だかんだ仕事をしてる両親が好きだ。
夜更けまで店を開くから独りの時間も多かった。お店の賑わいと対照的で、寂しいこともあったけど……夜中に作ってもらえるご飯も、それはそれで嬉しくて。
「深白は実家を継ぐのもアリかもな」
「う~ん。……それも、あの人達次第かなぁ」
俺というより、彼らが引退後店を持ち続けるのかも分からない。だからひとまず進学を目指すことにした。
三歩先すら見えない未来。でも、彼が傍にいれば何とかなる気がしている。
「月仁、またウチに来てよ。夜飯ならいつでも作るから」
「……ありがと」
遠慮しなくていいと彼が言ってくれたから、素直に伝えることができた。
行きよりずっと、足取りが軽い。
心も弾んでるのか、スキップしそうになった。
「深白。さっきの話だけど」
「うん?」
「俺は本当に、お前のこと一番に想ってるから」
風に乗って届いた声は、低いけど温かかった。
足を止めて振り返ると、月仁はゆっくり手を差し出した。
「絶対ひとりにしない。……約束する」
小指を前に出される。
何故か懐かしい香りがした。遥か昔にも、こんなことをした気がする。
高校生になって指切りは珍しいかもしれない。でも、嬉しくて俺も小指を差し出した。
「やっぱ月仁は優しいなぁ」
「お前にだけだよ」
「あはは」
そんなことないのに、おどけるところも好きだ。
でも“優しい”とは別に、月仁は俺に甘すぎる気もするけど。
( どっちかって言うと甘えてほしいんだよな )
その為にしっかりしようと奮起したわけだし。
ただそんなことを知らない月仁は、俺にめいっぱい世話を焼いてくる。
「何かあったらすぐ連絡しろよ。帰りも気をつけて、暗い道はなるべく避けて」
「ほいほい」
めっちゃ心配してくれたけど、家は駅から十分もかからない。俺としては月仁の方が心配だから、改札口で背中を軽く叩いた。
「家着いたら、一応連絡して」
「……分かった」
彼は小さく頷く。そのまま行ってしまうと思いきや、自分の鞄につけてたキーホルダーを俺に渡した。
「月仁、これは?」
「預けとく」
そう言うと、今度こそ改札を抜けた。
「じゃあな」
「あ、うん!」
ほんの少し踵を浮かし、彼の後ろ姿が見えなくなるまで佇む。
突然家に誘ってしまったけど……すごい嬉しい一日になってしまった。
それにお互い「好き」って言い合ったよな……。
あれは誘導尋問に近いし、もちろん“友人”として、というのも分かるけど……思い出すと何故か胸の奥がギューッてなる。
熱でもあるんじゃないか、と思うほど、顔も熱い。
俺、本当に月仁を友人として好きなんだろうか。
それにしては一喜一憂し過ぎだ。名前を呼ばれただけで嬉しいし、触れられると心臓が止まりそうになる。
こんなのおかしい。
「はぁ……」
こんな変なことを考えてるのも知られたくないな。
踵を返して家に帰ろうとしたとき、ふと月仁に渡されたキーホルダーを握り締めてることを思い出した。
これ何だろ?
カラビナがついてる。変わった形をしてるからキーホルダーとは違う気がしてよく見ると、どうも防犯ブザーのようだ。
心配してくれるのは嬉しいけど、そこまで弱そうに見られてたとは。
情けなさに項垂れるが、彼なりの好意だ。ぎゅっと握り締め、家路についた。
「ただいま~」
本日二回目の帰宅。裏から入ると、母が笑顔で顔を覗かせた。
「月仁君、送ってあげられた?」
「うん。でも逆に心配されて、こんなん渡されたけど」
防犯ブザーをちらつかせると、母はあら、と表情を曇らせた。
「多分、苦労もあったんじゃないかしら。久しぶりに会ってびっくりしたけど、彼すごい美形だったもの」
「あぁ……そっか」
なるほど。確かに月仁は高校生にあるまじき魅力があるから、プライベートでも狙われることがありそうだ。
これは自衛用に持ってたんだろう。なら尚さら俺が奪っちゃいけない。
「これは明日返す。……何か手伝うことある?」
「ありがと。それじゃお皿洗い頼めるかしら?」
はーい、と返事して、一旦自室で着替える。
店に行こうとしたときスマホの通知音が鳴った。
「お。月仁」
月仁からのメッセージだ。無事家に着いたことを知らせてくれていた。
こういう安全確認、何かカップルみたい……。
「いやいや! 友達だから!」
何馬鹿言ってるんだ。
セルフツッコミして、頬を叩く。
世界で一番大切な幼馴染を気遣うのは普通のこと。何も特別な意味はない。
そのはず……だよな。
深呼吸し、彼のメッセージに返信する。
『また明日』と添え、スマホを置いた。
落ち着け俺。月仁が言う“好き”も、友人としてに決まってるんだから。
友達として大好きなんだ。
ため息を飲み込み、部屋を出る。
ただ厨房に入って冷たい水に触れても、しばらく顔が熱かった。
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