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103話 最初で最後の里帰り②
しおりを挟む「よ…ようこそ、いらっしゃいました……ルーフェス様、ルエル…様…」
クリプト伯爵邸の応接室に通された私達は、見るからに顔色が悪く、カタカタと体を震わせるお母様を前に、ソファに腰かけた。
長期視察中でお父様が家にいない今、私達を迎え入れるのは、クリプト伯爵夫人であるお母様でなければならない。
「ただいま戻りました」
本当はただいま。なんて思ってもいないけど、わざとらしく、笑顔で伝える。
お母様の隣には仏頂面のエレノアもいて、一言も発しないまま、そっぽを向いていた。
ついこの間は、猫撫で声満載でメトに色目を使っていたのに、全く相手にされなかったからか、態度が露骨に変わりすぎね。
「あ、あの……本日は、どのようなご用件で……」
「その前に何か言うことは無いのか?先日、そちらの娘が、非常識にも、姉の旦那である俺に言い寄って来て、迷惑をかけられたんだけど?」
「言い寄ったなんて…!私はただ、親切心でメト様に声をかけただけです!それなのに、2時間も氷の牢に閉じ込められてーー!」
「エ、エレノアちゃん!お願い!落ち着いて!」
必死でエレノアを宥めるお母様。
あら、二時間も氷が溶けなかったんですね。あのまま、街のど真ん中で、領民の好奇の目にされされながら、氷の牢に閉じ込められていたなんて、考えただけで笑えるわ。
「ほ、本当に申し訳ございませんでした……!まさか、娘がまた、姉の結婚相手に言い寄るなんて思ってもおらずーーー心から謝罪致します!お金もお支払います!ですからどうか、夫には内密にして下さい…!」
頭を深く下げ、謝罪と要求を口にする。
エレノアに甘いお母様と違い、お父様はもう、エレノアを見限っている。エレノアを家に入れているのも、お父様に隠していますものね。
「お願いよエレノアちゃん…!エレノアちゃんも、謝って頂戴!」
『何で私が』が、エレノアの正直な気持ちでしょうけど、お母様の必死のお願いに、渋々、頭を下げた。
「…申し訳ございませんでした。ほら、もうこれでいいでしょう?!」
一切、心のこもっていない謝罪。本当にそんな軽い謝罪一つで許してもらおうと思ってるなら、片腹痛いわ。
今までクリプト伯爵令嬢の立場と、その容姿で甘やかされて生きてきたエレノア。
きっとこれからも、誰かが私を助けてくれる。可愛い私は、皆にちやほやされるのが当然だと、信じて疑っていないのでしょうね。
ーーーそんなはず、無いのにねーーー
「エレノア、貴女、カインと離婚するの?」
「……ええ。ごめんね、ルエルお姉様。折角ルエルお姉様から頂いたのに、途中で捨てることになっちゃって。なんだったら、お返ししようか?」
「結構よ、いらないわ」
貧乏貴族になったカインに、貴女の望む魅力なんて無いものね。評判もがた落ち、領土も殆どを奪われ、もうただひっそりと、雑草のように生きていくしか道が無いマルクス伯爵家。
そんなマルクス伯爵家に嫁ぎたい令嬢は、今後一切現れないでしょうね。
でもね、それはーーー貴女も同じなの。
「可哀想なエレノア……カインと離婚したら、このまま一生を、独りで孤独に生きていくことになるのね」
私は、悲劇のヒロインぶるエレノアに寄せて、これからの妹の未来を嘆き、悲しんであげる優しい姉をイメージして、呟いた。
「ーーーは?何言ってるのお姉様?そんなワケ無いじゃない!カイン様と離婚したら、すぐに私に相応しい男性を見つけて、再婚するわよ!私はね、ルエルお姉様と違って、ハズレ嫁じゃないの!子供だって産めるって証明出来たし!こんなに可愛い私なら、男なんて選びたい放題なのよ!」
やっぱりエレノアみたいに、演技で泣くのは難しいわね。噓泣きだけは、エレノアの方が私より優れてるみたい。良かったわね、ほんの一つでも、私に勝てるところがあって。
「エレノア……貴女こそ何言ってるの?エレノアが再婚なんて出来るワケ無いじゃない。エレノアみたいな、正真正銘のハズレ嫁が」
「はーーぁ?!ルエルお姉様まで、私をハズレ嫁だなんてーー!!」
あれだけ散々、私のことをハズレ嫁だなんて罵倒してきたのに、いざ自分が言われると、そんなに怒るのね。
「ねぇ、エレノア。貴女の悪評が、どれ程、社交界に広がってると思う?姉の旦那を寝取った略奪女。勝手に離婚届を提出した女。姉の不名誉な噂を捏造して、広めた嘘つき女。子供を捨てて家出をした母親失格女。ルーフェス公爵家に無謀にも喧嘩を売った、頭の悪い馬鹿な女ーーーそんな女を、自分の妻にしたいと思う男性が、社交界にいるかしら?」
いるワケないよね?貴女は、自分だけは例外だと思い込んでるようだけど、貴女もカインと同じ、ハズレなんだよ。
「嘘…嘘よ!だって私は、こんなに可愛いのよ?!今だって、遊んでる男が沢山いるの!」
……エレノア、貴女、まだカインと離婚していないんだから、既婚者でしょう?モテ自慢みたいに不貞を暴露してどうするのよ。
「呆れた……ただ、簡単にやれる都合の良い女ってだけでしょう?エレノアと結婚したいなんて、その中の誰か言ってる?」
「え?あ、あれ?」
動揺からか、両手で頭を抱えるエレノア。
まさか自分が遊び相手にされていると気付いて無かっただなんて、可哀想なくらい惨めね。
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