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しおりを挟む腹は満たされたのにすっかり気疲れしながら食事を終えた阿賀野は、台所と続き間になっている居間に移動した。
リビングといえば、阿賀野の家には大きなカウチソファと、ガラステーブル、映画を見る時には大きい方がいいだろうという理由だけで買ったものの、大きすぎた感の否めない70型の薄型テレビと埃をかぶりつつある再生機ぐらいしかない。実に殺風景なものだが、真柴宅のリビングには生活感があった。
和室になっているそこの真ん中には年季の入った座卓があり、真ん中にはみかんの入ったカゴが置かれていた。くたくたになった座布団が座卓を挟んでテーブルの向かいにあり、真柴は普段ここでテレビを見ているのか、と思いながら、腰を下ろした。
(祖父母と住んでいたんだよな…)
壁にそっておかれたいくつかのキャビネットの上には、どこかの土産なのか、小さな木彫り細工や写真立てが置かれている。
居間にいるとわかるように、一応テレビをつけて台風情報が流れているちゃんねるに切り替えながら、写真を眺めた。
いくつか飾ってある写真のなか、アクリル板に挟み込むタイプの写真立てを目にした阿賀野は、よく見ようと少し伸びあがった。
「これは……」
写真には、三人映っていた。どうやら多馬屋の前で撮影したものらしく、古ぼけた立て看板が見切れていた。
おそらく松前が言っていた、多馬村へ来たころの中学生の真柴だろう。今よりも少し白い肌をしていたが、体は既に大きい。けれど半袖の制服に包まれた体を縮こめるようにして立っており、表情もどこか冴えなかった。
真柴の左右には、男性が二人立っていた。右隣りにはほっそりとした男性が、左隣には中学生の真柴よりも頭半分ほども上背のある男性が立っている。二人とも壮年を過ぎた年頃のようで、父兄には見えなかった。
「……文月さんと、鷹介さんか?」
名前が中性的だったので男女の判断が出来かねていたが、おそらく右側に立っているのが真柴の祖母にあたる文月で、左側に立っているのが鷹介だ。
真ん中で挟まれている真柴の表情は薄暗いが、二人の表情は明るい。鷹介は真柴と肩を組み、文月は真柴の手を引き寄せて両手で握っていた。
今はもう亡い二人の姿を確認してから再度他の写真立てを見ると、鷹介の写真はトラクターに乗っているところを撮影した一枚だけだったが、文月の写真は多くあった。
こたつに入って真柴と一緒に写っているものや、縁側でうたた寝をしているもの、なにげない日常のワンシーンや、まだ若い姿の文月が真柴と似た子どもと手を繋いでいるものなど、それこそ真柴の写真よりも多くあった。
―――こんなこと言っちゃあこそばゆいけどよ、文月さんを愛してんだなぁって思ったよ。
松前の言葉が脳裏を過ぎる。
生まれつき匂いが強く、鷹介と会うまでは生きづらい環境に置かれていたという文月。実際がどうだったのか、阿賀野にはわからない。けれども、写真の中の文月は、真柴とどこか似た面立ちで、けれども怯えも恐縮もなく、幸せそうに笑っていた。
(真柴くんにも、こんな風に笑ってほしいな)
テレビでは台風が通過する街の被害状況を忙しなく伝えている。
窓の外は吹き荒れる雨と風でざわざわとさざめいている。
けれども阿賀野の心はどこか凪いでいて、ぽつりとそんなことを思った。
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