【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ

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第1章 復讐の魔女

第33話 ディアナ

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 雨の降る王都。
 汚い路地裏。
 小さき身体を震わせ、ボロボロの服を着て、傷だらけの手で暗い空を眺める。

 あぁ……ここで死ぬのね私。
 ……こんな所で死にたくなかったわ。
 でも、もう無理よね……

 私は絶望した表情で天を仰ぐ。
 空からざあざあと音を立てて雨は降り注いでいた。

 そんな中、遠くから足音が近づいてきた。

 誰? 私を殺しに来てくれたの?
 私は音の方をじっと見た。
 フードを被りローブを纏った小柄な人が見えた。

 フードを取った黒髪黒瞳の女の人が、優しい眼差しで私を見た。

 その女の人は私に訊ねた。

「生きたい? じゃあ来て」

 私は俯いた。
 生きたいかどうかわからなかったから。
 すると女の人は強引に私の身体を抱きしめる。

「生きたいでしょ? じゃあ来るの?」

 優しい声色に、私はわんわん泣いた。
 雨と私の涙。大粒だったのはどっちだったのだろう。

 女の人はノエルと名乗った。
 なんでも、私のように捨てられた子供たちを保護して回っているらしい。

「私もノエルのように大きくなったら、ノエルみたいに優しい人になれるかな?」

 私がそう言うと、ノエルは微笑んで私の頭を撫でる。
 撫でられていると安心するな……
 私は幸せを感じながらそう思ったのだった。

 しかし現物は厳しかった。
 多くはない仲間たちだったが慎ましく暮らし、ノエルの笑顔に励まされる。

 そんな日々が数年続いたある日、ノエルの笑顔が消えた。

 私ももう12歳。ノエルの力になれる。私の魔力は占い師の能力。
 まだ全然だけど、きっとノエルの助けになれる。
 そしてまた幸せな日々が続くと私は信じていた。

「ディアナ、さっきのお婆ちゃん誰?」

「知らない。ノエルが近づくなっていうから近づかなかった」

「ふ~ん? ま、いっか。そんなことより明日、ローゼマリー王女様の5歳のお祝いがあるんだって。凄いんだよ! 子供は誰でもお城の前でお菓子をただで配るんだって! みんなで一緒に行こ!」

「ノエルも行くかなあ?」

「ノエルはもう20歳だし対象外だって~。みんなで行ってきなさいってさ~」

 その子は楽しみにしてた。
 他のみんなもそうだ。
 私はノエルがいない寂しさもあったけど、私もノエルがいなくても平気なようにならなくっちゃと、翌日みんなとお城へ向かった。

 私たちが着くと凄い行列だった。
 でもお菓子を配るお城の兵士さんたちは優しく、私たち孤児にも分け隔てなく接してくれる。

「ローゼマリー王女様ってどんな人なのかなあ?」

 仲間の1人が羨望の眼差しでお城を見上げる。

「どうせ我儘で傲慢で、貧乏で住む場所もない人のことを考えもしない性悪王女に決まってるわよ。ノエルが私たちに住処と居場所を与えてくれた。ノエルのほうが絶対立派」

 私はそう言って、その子の手を引いて家へ帰ろうとすると、歓声が上がる。
 どうやら王女様が城壁から現れて、手を振っているようだ。

 チラリと見る。
 可愛らしい、なんの苦労もしていないのがわかる笑顔だった。
 金髪、碧眼、白いドレス。
 絶対に成長したら美少女になるだろう顔。

 フン。ノエルの黒髪黒瞳のほうが綺麗だし! と無理矢理思い込んでいった。

 その日、ノエルは初めて家に戻って来なかった。

 翌日、王都は大パニックになった。
 なんと王様と王妃様と、昨日5歳の誕生日で盛大なお祝いが街でも行われていた王女様が病死したというのだ。

「ふ~ん。そんなこともあるんだね。これからどうなるんだろう?」

「一番偉い人でもあっさり死んじゃうんだ……」

 不安そうに怯える仲間たち。

「私たちにはノエルがいるから大丈夫よ」

 そう言いつつも奇妙な胸騒ぎがした。
 その日もノエルは帰って来なかった。

 私は王様と王妃様と王女様を喪い、嘆き悲しむ王都の街を走り続ける。

 開花した占い師としての勘なのか、はたまたただの当てずっぽうなのかはわからない。
 でもなんとなくノエルが危ないと直感したのだ。

「折角、立派な王様と王妃様で活気が出てきたのになあ」

「ローゼマリー王女様も聡明って、もっぱらの噂だったのになあ」

「フリッツ・レスティア宰相様がまだ若いのが救いだな」

「次の王様は誰になるのかねえ」

 そんな大人たちの会話が耳に入る。
 私には関係ない話だ。
 だって4年前にノエルに拾われて、私は命を永らえ生きているのだ。
 ノエル以外必要ない。
 ノエルさえ生きて私の側にいてくれたらいい。
 そう思いつつ、直感に従い裏路地を駆けてゆく。

 するとノエルの声が聞こえてきた。
 口角が上がる。

 良かった。ノエル! もう! 2日も無断で何処へ行ってたの!
 ま~た、捨てられた子供でも見つけたんでしょ?
 しょうがないなあ。私にも任せてよ。
 私もノエルみたいに生きる希望のない子たちに居場所を作ってあげるんだから!

 そんなことを考えながら、私はノエルを驚かせようと、建物の陰から顔を出そうとして足が止まる。

「そんな! 私は確実に殺した! この漆黒の剣で! カエサル王とローラ妃をこの手で殺した!」

 え? 何を言ってるの? ノエル……

「ほう? ベルガー王国がわざと嘘を言っていると? ハハハハハ、何人か重臣に探りを入れた。あのレスティア宰相すら病死と信じて疑ってない。これはどういうことだ? それにローゼマリー王女は誘拐しろと言ったはずだ。王女まで病死? 一体何がどうなってるんだか」

 声はしゃがれた声だった。
 聞き覚えがあった。
 たしか、王女の誕生日前日にノエルが会っていたお婆ちゃんだ……

「王妃の転移魔法で逃げられたんだ! そうだ……魔女ディル……魔女ディルを頼れと言っていた!」

「ディル?」

 老婆の声のトーンが一段と低くなる。
 私は恐怖で動けなかった……

「ディルを探す! だからお願いします! どうか見逃してください! あの子たちを……私たちの居場所を……奪わないで!」

 ノエルが土下座する。
 こんな弱った声、初めて聞いた……

 怖い、嫌だよ。何が起こってるの?
 私はそっと覗き込んだ。
 フードを被った黒ずくめの老婆は、歪んだ笑みを浮かべていた。

「ディルなら改竄魔法ぐらい出来るか。横取りされたか。……してやられたわい。まあ良い、ノエルよ。今回の報酬はなしじゃ。子供たちを連れ出さないだけマシと思うんじゃな。ホーッホッホッホ」

 老婆は消えた。
 ノエルの持っていた漆黒の剣を回収して。

 恐怖で固まっていた足を無理矢理動かして、崩れ落ちて放心状態のノエルに抱きついてゆく。

「ノエル! 何があったの! ねえ! ノエル!」

 でもノエルは反応しない。

「お金……お金が貰えなかった。……子供たちの居場所が……アハ……アハハハハ」

「ねえ! ノエル! 私だよ! ノエルに救われたディアナだよ! 私を見て! 私ももう12歳! みんなだっている! お金を稼げば良いの? じゃあ稼ぐからノエルは心配しないで!」

 それでも無反応のノエルを担いで家へと向かう。

 みんなの顔を見せれば……みんなと一緒にノエルを励ませば、きっとノエルもいつものノエルに戻るはずと信じて。
 でも、それすら叶わなかった。

 家が燃えていた。

「ディアナ! ノエル⁉」

「何これ! 何があったの⁉」

「わかんない! 火の気なんてないのにいきなり燃えたの!」

「みんなは! 他のみんなは⁉」

「無事! みんな外にいた!」

 ホッとする私だったけど、背中に乗せているノエルはガタガタと震えだした。

「フフ、これが報いなのね。ジワリ嬲り、そして一気に総取り。フフ……アハハハハハハ」

 ノエルの笑い声は止まらない。

「私は失敗した……連中は絶対失敗を許さない。きっと命で償わされる。子供たちもきっと……そんなことはさせない!」

 背中が軽くなった。
 燃え盛る私たちの家。

 私たちが絶句して、絶望して、絶叫する中。

「連中を知ってる私が消えれば良いのよ。……うふ、アーッハッハッハ!」

 ノエルは炎の中で高笑いしながら、燃え崩れ落ちる家で踊っていた。

「いやあああああああ! ノエルううううううううう!」

 騒ぎを聞きつけた大人の誰かが、私をガッシリ捕まえていた。
 なんでこんな時にも私の邪魔をするの!
 離せ離せ離せ!

 ……自由に身体を動かせるようになったのは数時間後。
 ノエルの死を受け入れたのは……更にその翌日だった。

 それからはよく覚えていない。

 旅に出た。占い師でお金を稼ぎながら。

 ベルガー王国が徐々に悪政で乱れてゆくのを肌で感じながら。

 魔女ディル。改竄魔法。
 2つのキーワードを心に刻みつけながら。
 
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