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第2章 英雄の最期
第13話 ドワーフの学者
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「面白い話をしているな」
ふと、後ろから声をかけられた。
振り向くと、そこにはフィーリアの父であるクルトさんが長い髭を撫でながら立っていた。
どうやら奥さんにやられて気絶から醒めたようだ。
「人間の小娘にしては博識だが、まだまだ経験不足の魔女。傭兵として剣の腕は立つが、他人との付き合いが下手で機微に疎い少年。それに、エルフはひよっこで力の使い方も満足に出来ぬようだな。フィーリアめ、どんな連中を連れて来たかと思えば赤子のような者ばかりではないか」
あれ? 喧嘩を売られている?
長椅子にドンと座るクルトさんは、マジマジと私の顔を見つめてきた。
「我らが偉大なるシュタイン王が魔族との戦争後、再び人と距離を置いた理由を知っておるか?」
「いえ……ただ大陸暦55年に起きた人間同士の大乱。そのせいで、それ以前の記録が失われ、以降の時代でエルフも竜族もドワーフも文献に出てこなくなりました。それが、どういう過程でそうなったのかを記す本がないので正確な理由は不明です。……ただ多くの研究家が、大乱が原因で人と決別したのではと言われています」
大乱の後、竜族や魔族は消えたが、ドワーフやエルフは大陸各地で細々と生きているのが確認されている。
……人と交流を深めないだけで。
ドワーフの行商人は大陸各地の街に人知れず出没しているそうだ。
ドワーフの鍛治職人は今も新しい武器や防具を開発し、行商人と売買しては酒や物資を購入している。
けれど人の世や争いに関わることなく、里も隠し、ひっそりと生きているのだ。
欲深い人がドワーフの武具を我が物にしようと行商人を捕らえようとした事例は多いが、成功例は皆無。
ドワーフの行商人は、身の危険を感じる嗅覚が優れているらしい。
または謎の魔導具でも所持しているのか、大好物の酒で酔わせて眠らせ縛り上げても、忽然と姿をくらますのだ。
「大乱で決別か。ま、当たらずも遠からずよ」
「違うんですか? なら教えてくれませんか? というか、大乱以前の記録がドワーフには残っているんですか? 残っているんですよね? 七英雄の行方とか全部知りたいですし、特にアニスが戦後どう生きていたのか知りたいです!」
「お、落ち着くんだ小娘よ! 儂の身体を揺さぶるでないわ! うっぷ……」
は! いかんいかん。つい興奮して我を忘れちゃったよ。
クルトさんは口元を押さえ、若干青ざめている。
これはちょっと悪いことしちゃったかな。
「妻から儂が学者と聞いたんだろ? 儂の家にある書物を読むがよい」
「あ、ありがとうございます!」
やったー! 以前からずっと疑問に思っていることはたくさんあるんだけど、特に気になるのがアニスの行方なんだよねえ~。
大陸暦1年の魔族との戦争終結後にレインと結婚して3人の子供を産み、大陸の安寧の為に旅を続けた。
完。
みたいな感じでしか、千年後の現在に伝わっていないから。
そこから55年後の大乱で、アニスとレインの子孫の名前が一切出てこないのも納得いってなかったんだよね~。
ほわわ~んと妄想に耽っている私は放置され、クルトさんはリョウへと向き合う。
「その剣を見せよ。……ふむ、手入れが良く出来ておる。若いのに大したもんよ。だが、暫し儂に貸せ。もっと良い状態にしてやる」
ドワーフが褒めるほどの手入れをしていたリョウ。
「そりゃまあ、空いた時間は素振りか武具の手入れしかしてなかったんだからそうよね。私たちがお喋りしていても、混ざろうとしないで黙々とやってて、フィーリアもドン引きしてたわよ」
ベレニスが遊び相手の少女たちと一緒にやって来る。
「ていうか、ローゼには書物で傭兵には剣。私にも何かちょうだい!」
「ひよっこエルフが何を抜かす。エルフは50年振りに見たが、前の奴に比べてもひよっこだな」
クルトさんの言葉に、ベレニスはぷく~と頬を膨らます。
「前の奴なんて知らないわよ! どうせドワーフはこの私に似合う優雅で軽やかで、そんでもって可愛い武具が造れないんでしょ!」
「何を抜かすか! エルフの小娘が! クルトの武具は大陸でも屈指の一流品よ! 見ておれ、今持っている武具の足元にも及ばぬ、技巧に優れた武具を造ってくれるわ!」
……何ていうか、フィーリアの父って感じだなあ。
いや、エルフとドワーフはこういうものなのか?
えへへやったーと、少女たちとハイタッチするベレニス。
いや、エルフとドワーフは案外仲が良いのか?
「コホン。……時にエルフの小娘よ。そなたらの女王フォレスタ様は息災か?」
「え? フォレスタって七英雄の? ハイエルフは永遠の命って話だけど本当にそうなんだ! ベレニス! 私も知りたい! フォレスタってどんな人なの?」
思わず出てきた七英雄の1人、フォレスタの名前に興奮してベレニスの手を掴む。
「ちょっ⁉ ローゼってそういうのを聞くと変なスイッチが入るわね。まあ、教えてもいいけど。っていうか私、フォレスタ様に会ったことないわよ。里のジジババから話をめっちゃされてるから、エルフの偉い人ってのは知ってるけど」
「小娘よ、里はどこだ?」
クルトさんの問い。
「とこしえの森よ」
「フォレスタ様のいる所の筈だな……旅に出ているなら噂になっておろう。となると、大地の一部に還ったのやもしれぬな」
大地に還る……つまり死んだってことだよね。
「あ~、そんな話を聞いた気がするわね」
あっさりと言うベレニスにとっては、会ったこともない御先祖様みたいな感覚なのかも。
く~勿体ない! もうちょっと長生きしてくれてれば、この私が色々話を聞けたのに!
七英雄の冒険譚を、本人の口から聞きたかったあああああ。
地団駄を踏んでいると、フィーリアがダッシュで走ってきた。
「父ちゃん! 自分の護衛の人たちに失礼なことしてないっすか! 皆さん大丈夫っすか? 変なことされませんでしたっすか?」
「あ~大丈夫。クルトさんが持ってる本を読ませてくれることになったんだ。リョウは剣の手入れをしてもらって、ベレニスも何か造ってくれるって」
「そっすか。ベレニスさん以外は、自分から頼もうと思ってたんすが」
「ちょっと! 私以外って何よ!」
またなんか、ワチャワチャと喧嘩を始めたフィーリアとベレニス。
「うるせえ!」
クルトさんの拳骨で、2人は沈黙するのであった。
「お姉ちゃん遊ぼ?」
裾を引っ張られ下を見ると、興味津々といった感じで私を見上げているドワーフの少女2人。
しゃあない♪ 本を今すぐ読みたいけど、小さな女の子から誘われたんだし遊んであげるか♪
「リョウも一緒に遊ぶ?」
「いや、俺はクルト殿と工房に行くよ」
少女2人は私の後ろに隠れて、去っていくリョウを眺めた。
「あ~、えっと……あれ、目つきは怖いけど怖くないよ?」
一応フォローしとくかな。
すると少女2人は私の顔を覗き込んできた。
「あれってお姉ちゃんの恋人?」
「愛する旦那様って感じ?」
「なっ! ち、違うからね。リョウとはそんな関係じゃないから!」
うああ。なんか顔が熱いぞお!
何て誤魔化そうかと焦っていると、2人はニヤニヤとして駆け回りだした。
もう! マセガキどもめ。
ベレニスもフィーリアも、年下の女の子からの遊びの誘いを断れるはずもなく、結局日暮れまで遊んでいた私たち。
いやもう、小さくてもドワーフの体力は凄いね。
ケロリとして帰る少女たちとフィーリアと違い、私とベレニスはクタクタになったのだった。
ふと、後ろから声をかけられた。
振り向くと、そこにはフィーリアの父であるクルトさんが長い髭を撫でながら立っていた。
どうやら奥さんにやられて気絶から醒めたようだ。
「人間の小娘にしては博識だが、まだまだ経験不足の魔女。傭兵として剣の腕は立つが、他人との付き合いが下手で機微に疎い少年。それに、エルフはひよっこで力の使い方も満足に出来ぬようだな。フィーリアめ、どんな連中を連れて来たかと思えば赤子のような者ばかりではないか」
あれ? 喧嘩を売られている?
長椅子にドンと座るクルトさんは、マジマジと私の顔を見つめてきた。
「我らが偉大なるシュタイン王が魔族との戦争後、再び人と距離を置いた理由を知っておるか?」
「いえ……ただ大陸暦55年に起きた人間同士の大乱。そのせいで、それ以前の記録が失われ、以降の時代でエルフも竜族もドワーフも文献に出てこなくなりました。それが、どういう過程でそうなったのかを記す本がないので正確な理由は不明です。……ただ多くの研究家が、大乱が原因で人と決別したのではと言われています」
大乱の後、竜族や魔族は消えたが、ドワーフやエルフは大陸各地で細々と生きているのが確認されている。
……人と交流を深めないだけで。
ドワーフの行商人は大陸各地の街に人知れず出没しているそうだ。
ドワーフの鍛治職人は今も新しい武器や防具を開発し、行商人と売買しては酒や物資を購入している。
けれど人の世や争いに関わることなく、里も隠し、ひっそりと生きているのだ。
欲深い人がドワーフの武具を我が物にしようと行商人を捕らえようとした事例は多いが、成功例は皆無。
ドワーフの行商人は、身の危険を感じる嗅覚が優れているらしい。
または謎の魔導具でも所持しているのか、大好物の酒で酔わせて眠らせ縛り上げても、忽然と姿をくらますのだ。
「大乱で決別か。ま、当たらずも遠からずよ」
「違うんですか? なら教えてくれませんか? というか、大乱以前の記録がドワーフには残っているんですか? 残っているんですよね? 七英雄の行方とか全部知りたいですし、特にアニスが戦後どう生きていたのか知りたいです!」
「お、落ち着くんだ小娘よ! 儂の身体を揺さぶるでないわ! うっぷ……」
は! いかんいかん。つい興奮して我を忘れちゃったよ。
クルトさんは口元を押さえ、若干青ざめている。
これはちょっと悪いことしちゃったかな。
「妻から儂が学者と聞いたんだろ? 儂の家にある書物を読むがよい」
「あ、ありがとうございます!」
やったー! 以前からずっと疑問に思っていることはたくさんあるんだけど、特に気になるのがアニスの行方なんだよねえ~。
大陸暦1年の魔族との戦争終結後にレインと結婚して3人の子供を産み、大陸の安寧の為に旅を続けた。
完。
みたいな感じでしか、千年後の現在に伝わっていないから。
そこから55年後の大乱で、アニスとレインの子孫の名前が一切出てこないのも納得いってなかったんだよね~。
ほわわ~んと妄想に耽っている私は放置され、クルトさんはリョウへと向き合う。
「その剣を見せよ。……ふむ、手入れが良く出来ておる。若いのに大したもんよ。だが、暫し儂に貸せ。もっと良い状態にしてやる」
ドワーフが褒めるほどの手入れをしていたリョウ。
「そりゃまあ、空いた時間は素振りか武具の手入れしかしてなかったんだからそうよね。私たちがお喋りしていても、混ざろうとしないで黙々とやってて、フィーリアもドン引きしてたわよ」
ベレニスが遊び相手の少女たちと一緒にやって来る。
「ていうか、ローゼには書物で傭兵には剣。私にも何かちょうだい!」
「ひよっこエルフが何を抜かす。エルフは50年振りに見たが、前の奴に比べてもひよっこだな」
クルトさんの言葉に、ベレニスはぷく~と頬を膨らます。
「前の奴なんて知らないわよ! どうせドワーフはこの私に似合う優雅で軽やかで、そんでもって可愛い武具が造れないんでしょ!」
「何を抜かすか! エルフの小娘が! クルトの武具は大陸でも屈指の一流品よ! 見ておれ、今持っている武具の足元にも及ばぬ、技巧に優れた武具を造ってくれるわ!」
……何ていうか、フィーリアの父って感じだなあ。
いや、エルフとドワーフはこういうものなのか?
えへへやったーと、少女たちとハイタッチするベレニス。
いや、エルフとドワーフは案外仲が良いのか?
「コホン。……時にエルフの小娘よ。そなたらの女王フォレスタ様は息災か?」
「え? フォレスタって七英雄の? ハイエルフは永遠の命って話だけど本当にそうなんだ! ベレニス! 私も知りたい! フォレスタってどんな人なの?」
思わず出てきた七英雄の1人、フォレスタの名前に興奮してベレニスの手を掴む。
「ちょっ⁉ ローゼってそういうのを聞くと変なスイッチが入るわね。まあ、教えてもいいけど。っていうか私、フォレスタ様に会ったことないわよ。里のジジババから話をめっちゃされてるから、エルフの偉い人ってのは知ってるけど」
「小娘よ、里はどこだ?」
クルトさんの問い。
「とこしえの森よ」
「フォレスタ様のいる所の筈だな……旅に出ているなら噂になっておろう。となると、大地の一部に還ったのやもしれぬな」
大地に還る……つまり死んだってことだよね。
「あ~、そんな話を聞いた気がするわね」
あっさりと言うベレニスにとっては、会ったこともない御先祖様みたいな感覚なのかも。
く~勿体ない! もうちょっと長生きしてくれてれば、この私が色々話を聞けたのに!
七英雄の冒険譚を、本人の口から聞きたかったあああああ。
地団駄を踏んでいると、フィーリアがダッシュで走ってきた。
「父ちゃん! 自分の護衛の人たちに失礼なことしてないっすか! 皆さん大丈夫っすか? 変なことされませんでしたっすか?」
「あ~大丈夫。クルトさんが持ってる本を読ませてくれることになったんだ。リョウは剣の手入れをしてもらって、ベレニスも何か造ってくれるって」
「そっすか。ベレニスさん以外は、自分から頼もうと思ってたんすが」
「ちょっと! 私以外って何よ!」
またなんか、ワチャワチャと喧嘩を始めたフィーリアとベレニス。
「うるせえ!」
クルトさんの拳骨で、2人は沈黙するのであった。
「お姉ちゃん遊ぼ?」
裾を引っ張られ下を見ると、興味津々といった感じで私を見上げているドワーフの少女2人。
しゃあない♪ 本を今すぐ読みたいけど、小さな女の子から誘われたんだし遊んであげるか♪
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「いや、俺はクルト殿と工房に行くよ」
少女2人は私の後ろに隠れて、去っていくリョウを眺めた。
「あ~、えっと……あれ、目つきは怖いけど怖くないよ?」
一応フォローしとくかな。
すると少女2人は私の顔を覗き込んできた。
「あれってお姉ちゃんの恋人?」
「愛する旦那様って感じ?」
「なっ! ち、違うからね。リョウとはそんな関係じゃないから!」
うああ。なんか顔が熱いぞお!
何て誤魔化そうかと焦っていると、2人はニヤニヤとして駆け回りだした。
もう! マセガキどもめ。
ベレニスもフィーリアも、年下の女の子からの遊びの誘いを断れるはずもなく、結局日暮れまで遊んでいた私たち。
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