【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ

文字の大きさ
134 / 314
第4章 竜は泉で静かに踊る

第11話 魔獣戦争

しおりを挟む
 ファインダ王国の異常を知らせる狼煙がラフィーネより立ち上る。

 夕暮れの早まったこの季節、沈む太陽に照らされ赤く染まる大地に魔獣の軍団が迫っていた。

 目算で1万匹から10万匹以上。
 オーガやゴブリン、オークを中心とした無数の魔獣たち。
 その軍団が、とこしえの森より押し寄せる様は人を絶望させるのに十分であった。

「おお! 何たること!」

 ラフィーネ領主ヘルムートは絶句した。
 逃げて汚名に塗れ生き恥を晒すか、死して王国の奮起に繋げるか。
 迷う時間さえ惜しいのが現状だ。

 ここ数週間の散発的な襲撃により、王都より兵が派遣されているが、その数は千。
 ベルガー王国と国境を接しているラフィーネは、元々は千の常備兵がいた。
 だが親善交渉の始まりによって、その部隊は南部諸国連合郡との国境へと派遣されている。

 狼煙により半日後には、その千の兵と近隣諸侯の部隊数百が駆けつけるだろうが、来たところでこの状況を変えられるのだろうか?

「領主様! 王都より返答の狼煙が! 至急増援を送るとのこと!」

 配下の兵が、慌てふためきながら告げてきた。

「ううむ。兵を編成して王都からここまで、騎馬隊でも早くて5日はかかる。それまで持ち堪えられるか。……うん? 何ぞや、あの狼煙は⁉」

 別の火急の狼煙が上がり、ヘルムートは絶句した。

「レアード王国が侵攻してきただと⁉ 何故だ! あ奴らとは不可侵を結んでいるではないか⁉」

 レアード王国は、ファインダ王国の東にある陸続きになっている国家だ。
 西の街の魔獣侵攻のタイミングで東側で裏切る。
 それは答え合わせのようなものであった。

「8年前の再来か。あの時はベルガー、南部諸国、ダーランドと同時に攻め込まれ、全て陛下と宰相の奇策で跳ね返したが、今回は魔獣と手を組みおったか!」

 ヘルムートの脳裏に滅亡の二文字がよぎる。
 この規模の魔獣襲来など、おとぎ話の魔王との戦い以来、有史にない。

 領主は絶望に染まりそうな心を必死に奮い立たせるが、視界に魔獣の群れを捉えると心が折れそうになる。

 その時、涼やかなのに素っ頓狂な声が響き渡り、領主は耳を疑った。
 目を向けると、そこには灰色髪に白銀の鎧を纏った、美しい少女が魔獣の群れを眺めていた。

「おお! これは絶景! こんな魔獣の大軍を眺める日が来ようとは! 見てくださいテレサ叔母様! これは早く戦ってみたいですね‼」

 その陽気な声の主にヘルムートは慌てて跪いた。

「レ! レオノール様⁉」

「ラフィーネ伯爵、久しぶりだね」

 にこやかに告げるレオノール姫は、腰の剣を2本抜いた。

 そこには、ファインダ王国王位継承権第一位であるレオノール・ファインダ姫殿下がいたのであった。

 レオノール姫がこの近隣で、魔獣に襲撃される村々を護っている報告は聞いていた。
 なので、現れたことには驚かない。

 驚くべきは、まだこの場にいて逃げようとしないことだ。
 従者は何をしている! この未曾有の事態で、大切な姫殿下を戦地に置くとは愚行としか言いようがないではないか!

 だが、姫殿下の従者はただ1人だけ。
 その人物に、ヘルムートが怒りの言葉を浴びせられるわけはなかった。

「テ、テレサ様……」

 と、苦言を申したい顔をするのが精一杯だ。

「ここまでの規模の魔獣の群れが襲来するとは。……ラフィーネ伯爵様。指揮権はレオノール様へ。私が副官でよろしいですね?」

 青い修道服に身を包む清楚な金髪美人。
 手にする武器がモーニングスターでなければ、男は全員惚れてしまうだろう。

 元王族で、今はアラン傭兵団に所属する傭兵、テレサ・ファインダの言葉にヘルムートはこう言うしかない。

「この命、お預けします」

 ラフィーネの街中に、ピーッという魔獣の群れから甲高い笛の音のような鳴き声が響き渡る。

 いよいよ開戦だ。
 ゴブリンやオークの群れが一斉に動き出し、魔獣の群れが津波となって押し寄せてきた。

 轟音を上げながら押し寄せる魔獣の大軍は、一つ一つが凶暴な個体で構成されており、その数は限りないかのように見えた。
 獣の叫び声と金属の鳴り響く音が重なり合い、ラフィーネ兵に恐怖感を抱かせる。

「白兵戦は無謀! 城門を死守! 力果てるまで弓を射よ! 熱湯を浴びせて撹乱せよ!」

 テレサの的確な指示に兵たちも冷静に動き、弓や投石器からの攻撃が始まる。

 レオノールは指揮官の役目なんてなにそれと言わんばかりに、城壁をよじ登ってくる敵を、2本の剣を縦横無尽に振るい叩き落としていった。
 テレサはモーニングスターで敵を殴り倒しながら、レオノールの背中に合わせて今後の展望を述べる。

「このままぶっ通しで数日戦えば勝てます。お怪我をなさらぬように!」

「つまり今のところ、勝率は限りなく低いってことですね! 燃えてきました‼」

 戦は数と体力の差が決定打になる。
 当然、テレサはレオノールに生きていてほしいので必死に守る。

 それにしてもとテレサは思う。
 レオノールの、楽しそうな笑顔が眩しい。
 戦闘狂とも、血を見るために戦う姿とも違う。
 レオノールの剣技は、純粋に己の腕を存分に振るう機会と、守る戦いに心が高揚しているようだ、と。

 テレサとレオノールは息ぴったりに連携し、敵の隙を突いて次々と魔獣を倒す。
 モーニングスターを振り下ろすテレサの背中に、剣を華麗に舞わせるレオノールの姿は、2人の息の合ったダンスのようにも見えた。

 必死に城壁から矢を放つ兵士たちの手は震えていた。
 しかし、レオノールとテレサの姿を目にするたび、士気を取り戻し、一層の集中力を発揮する。

 だがやはり数は力だ。
 矢も底を尽き、投石器からの攻撃もなくなった。
 城門もミシミシと悲鳴を上げる。

 もはや死ぬまでよ。
 そうラフィーネ兵たちが覚悟を決める中、夜空より咆哮が木霊する。

「テレサ叔母様! あれは⁉」

「……赤竜ですね。もし敵なら大勢が決する」

 テレサは舌打ちした。
 魔獣だけではなく、伝説の赤竜までもが戦場に飛来したら勝ち筋が見えない。
 だが、赤竜は再び咆哮すると何かを落とした。

 敵の魔獣かと身構えるが、魔力により着地したのは、エルフと一目でわかる者を含む4人の少女と、アランの傭兵の証の黄土色の鎧を着ている少年と、リザードマンだった。

 少年はテレサと目が合い、一瞬硬直したが頷き合うと、剣を抜いて味方が手薄な場所を見つけて駆け出した。

「ちょっ⁉ ちょい待てリョウ! 俺を1匹にしたら人間どもに狙われるだろ! あ~もう! このザイルーガ! 仕方がないから、防衛側に加勢する! 人間ども! 俺に攻撃するなよ‼」

 ザイルーガはそう吐き捨てるとリョウに続き、斧を手にして城壁を駆けた。
 リョウの漆黒の剣が鋭い切れ味を発揮し、ザイルーガも斧を振るい、その巨体で魔獣を押し潰す凶暴な戦闘スタイルを見せつける。

「のわっ⁉ 味方⁉ 援軍⁉ 空から⁉ 竜に落とされて⁉ くわ~っ! 何その体験、めっちゃ羨ましいんですけど‼」

 レオノールも英気を回復させたかのように駆け出す。
 テレサは、魔法を魔獣に向けて放ちながらも、困惑げに自分を見る赤竜に運ばれた少女に目を合わせた。

「ジーニア・クレッセントという邪教の少女と同じ修道服で困惑ってとこですか? フフフ、安心なさい。そもそも、その者の修道服姿が擬態なのですから」

 言いつつ、周囲の魔獣をモーニングスターで一掃するテレサに、ベレニスがピューと口笛を吹いた。

「アラン傭兵団のテレサ・ファインダです。以後お見知り置きを。魔女ローゼ」

「……後で色々教えてください。ヴィレッタ、負傷兵を見てあげて。フィーリアはヴィレッタの補助をお願い。ベレニスは……もう行っちゃったか。さて、私も行きますか」

 ローゼはテレサに挨拶すると、両手を大きく掲げ、魔力を一瞬にして高める。
 その魔力が一斉に解き放たれると、魔獣の群れを一掃するかのように金色の光が広がった。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...