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第4章 竜は泉で静かに踊る
第11話 魔獣戦争
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ファインダ王国の異常を知らせる狼煙がラフィーネより立ち上る。
夕暮れの早まったこの季節、沈む太陽に照らされ赤く染まる大地に魔獣の軍団が迫っていた。
目算で1万匹から10万匹以上。
オーガやゴブリン、オークを中心とした無数の魔獣たち。
その軍団が、とこしえの森より押し寄せる様は人を絶望させるのに十分であった。
「おお! 何たること!」
ラフィーネ領主ヘルムートは絶句した。
逃げて汚名に塗れ生き恥を晒すか、死して王国の奮起に繋げるか。
迷う時間さえ惜しいのが現状だ。
ここ数週間の散発的な襲撃により、王都より兵が派遣されているが、その数は千。
ベルガー王国と国境を接しているラフィーネは、元々は千の常備兵がいた。
だが親善交渉の始まりによって、その部隊は南部諸国連合郡との国境へと派遣されている。
狼煙により半日後には、その千の兵と近隣諸侯の部隊数百が駆けつけるだろうが、来たところでこの状況を変えられるのだろうか?
「領主様! 王都より返答の狼煙が! 至急増援を送るとのこと!」
配下の兵が、慌てふためきながら告げてきた。
「ううむ。兵を編成して王都からここまで、騎馬隊でも早くて5日はかかる。それまで持ち堪えられるか。……うん? 何ぞや、あの狼煙は⁉」
別の火急の狼煙が上がり、ヘルムートは絶句した。
「レアード王国が侵攻してきただと⁉ 何故だ! あ奴らとは不可侵を結んでいるではないか⁉」
レアード王国は、ファインダ王国の東にある陸続きになっている国家だ。
西の街の魔獣侵攻のタイミングで東側で裏切る。
それは答え合わせのようなものであった。
「8年前の再来か。あの時はベルガー、南部諸国、ダーランドと同時に攻め込まれ、全て陛下と宰相の奇策で跳ね返したが、今回は魔獣と手を組みおったか!」
ヘルムートの脳裏に滅亡の二文字がよぎる。
この規模の魔獣襲来など、おとぎ話の魔王との戦い以来、有史にない。
領主は絶望に染まりそうな心を必死に奮い立たせるが、視界に魔獣の群れを捉えると心が折れそうになる。
その時、涼やかなのに素っ頓狂な声が響き渡り、領主は耳を疑った。
目を向けると、そこには灰色髪に白銀の鎧を纏った、美しい少女が魔獣の群れを眺めていた。
「おお! これは絶景! こんな魔獣の大軍を眺める日が来ようとは! 見てくださいテレサ叔母様! これは早く戦ってみたいですね‼」
その陽気な声の主にヘルムートは慌てて跪いた。
「レ! レオノール様⁉」
「ラフィーネ伯爵、久しぶりだね」
にこやかに告げるレオノール姫は、腰の剣を2本抜いた。
そこには、ファインダ王国王位継承権第一位であるレオノール・ファインダ姫殿下がいたのであった。
レオノール姫がこの近隣で、魔獣に襲撃される村々を護っている報告は聞いていた。
なので、現れたことには驚かない。
驚くべきは、まだこの場にいて逃げようとしないことだ。
従者は何をしている! この未曾有の事態で、大切な姫殿下を戦地に置くとは愚行としか言いようがないではないか!
だが、姫殿下の従者はただ1人だけ。
その人物に、ヘルムートが怒りの言葉を浴びせられるわけはなかった。
「テ、テレサ様……」
と、苦言を申したい顔をするのが精一杯だ。
「ここまでの規模の魔獣の群れが襲来するとは。……ラフィーネ伯爵様。指揮権はレオノール様へ。私が副官でよろしいですね?」
青い修道服に身を包む清楚な金髪美人。
手にする武器がモーニングスターでなければ、男は全員惚れてしまうだろう。
元王族で、今はアラン傭兵団に所属する傭兵、テレサ・ファインダの言葉にヘルムートはこう言うしかない。
「この命、お預けします」
ラフィーネの街中に、ピーッという魔獣の群れから甲高い笛の音のような鳴き声が響き渡る。
いよいよ開戦だ。
ゴブリンやオークの群れが一斉に動き出し、魔獣の群れが津波となって押し寄せてきた。
轟音を上げながら押し寄せる魔獣の大軍は、一つ一つが凶暴な個体で構成されており、その数は限りないかのように見えた。
獣の叫び声と金属の鳴り響く音が重なり合い、ラフィーネ兵に恐怖感を抱かせる。
「白兵戦は無謀! 城門を死守! 力果てるまで弓を射よ! 熱湯を浴びせて撹乱せよ!」
テレサの的確な指示に兵たちも冷静に動き、弓や投石器からの攻撃が始まる。
レオノールは指揮官の役目なんてなにそれと言わんばかりに、城壁をよじ登ってくる敵を、2本の剣を縦横無尽に振るい叩き落としていった。
テレサはモーニングスターで敵を殴り倒しながら、レオノールの背中に合わせて今後の展望を述べる。
「このままぶっ通しで数日戦えば勝てます。お怪我をなさらぬように!」
「つまり今のところ、勝率は限りなく低いってことですね! 燃えてきました‼」
戦は数と体力の差が決定打になる。
当然、テレサはレオノールに生きていてほしいので必死に守る。
それにしてもとテレサは思う。
レオノールの、楽しそうな笑顔が眩しい。
戦闘狂とも、血を見るために戦う姿とも違う。
レオノールの剣技は、純粋に己の腕を存分に振るう機会と、守る戦いに心が高揚しているようだ、と。
テレサとレオノールは息ぴったりに連携し、敵の隙を突いて次々と魔獣を倒す。
モーニングスターを振り下ろすテレサの背中に、剣を華麗に舞わせるレオノールの姿は、2人の息の合ったダンスのようにも見えた。
必死に城壁から矢を放つ兵士たちの手は震えていた。
しかし、レオノールとテレサの姿を目にするたび、士気を取り戻し、一層の集中力を発揮する。
だがやはり数は力だ。
矢も底を尽き、投石器からの攻撃もなくなった。
城門もミシミシと悲鳴を上げる。
もはや死ぬまでよ。
そうラフィーネ兵たちが覚悟を決める中、夜空より咆哮が木霊する。
「テレサ叔母様! あれは⁉」
「……赤竜ですね。もし敵なら大勢が決する」
テレサは舌打ちした。
魔獣だけではなく、伝説の赤竜までもが戦場に飛来したら勝ち筋が見えない。
だが、赤竜は再び咆哮すると何かを落とした。
敵の魔獣かと身構えるが、魔力により着地したのは、エルフと一目でわかる者を含む4人の少女と、アランの傭兵の証の黄土色の鎧を着ている少年と、リザードマンだった。
少年はテレサと目が合い、一瞬硬直したが頷き合うと、剣を抜いて味方が手薄な場所を見つけて駆け出した。
「ちょっ⁉ ちょい待てリョウ! 俺を1匹にしたら人間どもに狙われるだろ! あ~もう! このザイルーガ! 仕方がないから、防衛側に加勢する! 人間ども! 俺に攻撃するなよ‼」
ザイルーガはそう吐き捨てるとリョウに続き、斧を手にして城壁を駆けた。
リョウの漆黒の剣が鋭い切れ味を発揮し、ザイルーガも斧を振るい、その巨体で魔獣を押し潰す凶暴な戦闘スタイルを見せつける。
「のわっ⁉ 味方⁉ 援軍⁉ 空から⁉ 竜に落とされて⁉ くわ~っ! 何その体験、めっちゃ羨ましいんですけど‼」
レオノールも英気を回復させたかのように駆け出す。
テレサは、魔法を魔獣に向けて放ちながらも、困惑げに自分を見る赤竜に運ばれた少女に目を合わせた。
「ジーニア・クレッセントという邪教の少女と同じ修道服で困惑ってとこですか? フフフ、安心なさい。そもそも、その者の修道服姿が擬態なのですから」
言いつつ、周囲の魔獣をモーニングスターで一掃するテレサに、ベレニスがピューと口笛を吹いた。
「アラン傭兵団のテレサ・ファインダです。以後お見知り置きを。魔女ローゼ」
「……後で色々教えてください。ヴィレッタ、負傷兵を見てあげて。フィーリアはヴィレッタの補助をお願い。ベレニスは……もう行っちゃったか。さて、私も行きますか」
ローゼはテレサに挨拶すると、両手を大きく掲げ、魔力を一瞬にして高める。
その魔力が一斉に解き放たれると、魔獣の群れを一掃するかのように金色の光が広がった。
夕暮れの早まったこの季節、沈む太陽に照らされ赤く染まる大地に魔獣の軍団が迫っていた。
目算で1万匹から10万匹以上。
オーガやゴブリン、オークを中心とした無数の魔獣たち。
その軍団が、とこしえの森より押し寄せる様は人を絶望させるのに十分であった。
「おお! 何たること!」
ラフィーネ領主ヘルムートは絶句した。
逃げて汚名に塗れ生き恥を晒すか、死して王国の奮起に繋げるか。
迷う時間さえ惜しいのが現状だ。
ここ数週間の散発的な襲撃により、王都より兵が派遣されているが、その数は千。
ベルガー王国と国境を接しているラフィーネは、元々は千の常備兵がいた。
だが親善交渉の始まりによって、その部隊は南部諸国連合郡との国境へと派遣されている。
狼煙により半日後には、その千の兵と近隣諸侯の部隊数百が駆けつけるだろうが、来たところでこの状況を変えられるのだろうか?
「領主様! 王都より返答の狼煙が! 至急増援を送るとのこと!」
配下の兵が、慌てふためきながら告げてきた。
「ううむ。兵を編成して王都からここまで、騎馬隊でも早くて5日はかかる。それまで持ち堪えられるか。……うん? 何ぞや、あの狼煙は⁉」
別の火急の狼煙が上がり、ヘルムートは絶句した。
「レアード王国が侵攻してきただと⁉ 何故だ! あ奴らとは不可侵を結んでいるではないか⁉」
レアード王国は、ファインダ王国の東にある陸続きになっている国家だ。
西の街の魔獣侵攻のタイミングで東側で裏切る。
それは答え合わせのようなものであった。
「8年前の再来か。あの時はベルガー、南部諸国、ダーランドと同時に攻め込まれ、全て陛下と宰相の奇策で跳ね返したが、今回は魔獣と手を組みおったか!」
ヘルムートの脳裏に滅亡の二文字がよぎる。
この規模の魔獣襲来など、おとぎ話の魔王との戦い以来、有史にない。
領主は絶望に染まりそうな心を必死に奮い立たせるが、視界に魔獣の群れを捉えると心が折れそうになる。
その時、涼やかなのに素っ頓狂な声が響き渡り、領主は耳を疑った。
目を向けると、そこには灰色髪に白銀の鎧を纏った、美しい少女が魔獣の群れを眺めていた。
「おお! これは絶景! こんな魔獣の大軍を眺める日が来ようとは! 見てくださいテレサ叔母様! これは早く戦ってみたいですね‼」
その陽気な声の主にヘルムートは慌てて跪いた。
「レ! レオノール様⁉」
「ラフィーネ伯爵、久しぶりだね」
にこやかに告げるレオノール姫は、腰の剣を2本抜いた。
そこには、ファインダ王国王位継承権第一位であるレオノール・ファインダ姫殿下がいたのであった。
レオノール姫がこの近隣で、魔獣に襲撃される村々を護っている報告は聞いていた。
なので、現れたことには驚かない。
驚くべきは、まだこの場にいて逃げようとしないことだ。
従者は何をしている! この未曾有の事態で、大切な姫殿下を戦地に置くとは愚行としか言いようがないではないか!
だが、姫殿下の従者はただ1人だけ。
その人物に、ヘルムートが怒りの言葉を浴びせられるわけはなかった。
「テ、テレサ様……」
と、苦言を申したい顔をするのが精一杯だ。
「ここまでの規模の魔獣の群れが襲来するとは。……ラフィーネ伯爵様。指揮権はレオノール様へ。私が副官でよろしいですね?」
青い修道服に身を包む清楚な金髪美人。
手にする武器がモーニングスターでなければ、男は全員惚れてしまうだろう。
元王族で、今はアラン傭兵団に所属する傭兵、テレサ・ファインダの言葉にヘルムートはこう言うしかない。
「この命、お預けします」
ラフィーネの街中に、ピーッという魔獣の群れから甲高い笛の音のような鳴き声が響き渡る。
いよいよ開戦だ。
ゴブリンやオークの群れが一斉に動き出し、魔獣の群れが津波となって押し寄せてきた。
轟音を上げながら押し寄せる魔獣の大軍は、一つ一つが凶暴な個体で構成されており、その数は限りないかのように見えた。
獣の叫び声と金属の鳴り響く音が重なり合い、ラフィーネ兵に恐怖感を抱かせる。
「白兵戦は無謀! 城門を死守! 力果てるまで弓を射よ! 熱湯を浴びせて撹乱せよ!」
テレサの的確な指示に兵たちも冷静に動き、弓や投石器からの攻撃が始まる。
レオノールは指揮官の役目なんてなにそれと言わんばかりに、城壁をよじ登ってくる敵を、2本の剣を縦横無尽に振るい叩き落としていった。
テレサはモーニングスターで敵を殴り倒しながら、レオノールの背中に合わせて今後の展望を述べる。
「このままぶっ通しで数日戦えば勝てます。お怪我をなさらぬように!」
「つまり今のところ、勝率は限りなく低いってことですね! 燃えてきました‼」
戦は数と体力の差が決定打になる。
当然、テレサはレオノールに生きていてほしいので必死に守る。
それにしてもとテレサは思う。
レオノールの、楽しそうな笑顔が眩しい。
戦闘狂とも、血を見るために戦う姿とも違う。
レオノールの剣技は、純粋に己の腕を存分に振るう機会と、守る戦いに心が高揚しているようだ、と。
テレサとレオノールは息ぴったりに連携し、敵の隙を突いて次々と魔獣を倒す。
モーニングスターを振り下ろすテレサの背中に、剣を華麗に舞わせるレオノールの姿は、2人の息の合ったダンスのようにも見えた。
必死に城壁から矢を放つ兵士たちの手は震えていた。
しかし、レオノールとテレサの姿を目にするたび、士気を取り戻し、一層の集中力を発揮する。
だがやはり数は力だ。
矢も底を尽き、投石器からの攻撃もなくなった。
城門もミシミシと悲鳴を上げる。
もはや死ぬまでよ。
そうラフィーネ兵たちが覚悟を決める中、夜空より咆哮が木霊する。
「テレサ叔母様! あれは⁉」
「……赤竜ですね。もし敵なら大勢が決する」
テレサは舌打ちした。
魔獣だけではなく、伝説の赤竜までもが戦場に飛来したら勝ち筋が見えない。
だが、赤竜は再び咆哮すると何かを落とした。
敵の魔獣かと身構えるが、魔力により着地したのは、エルフと一目でわかる者を含む4人の少女と、アランの傭兵の証の黄土色の鎧を着ている少年と、リザードマンだった。
少年はテレサと目が合い、一瞬硬直したが頷き合うと、剣を抜いて味方が手薄な場所を見つけて駆け出した。
「ちょっ⁉ ちょい待てリョウ! 俺を1匹にしたら人間どもに狙われるだろ! あ~もう! このザイルーガ! 仕方がないから、防衛側に加勢する! 人間ども! 俺に攻撃するなよ‼」
ザイルーガはそう吐き捨てるとリョウに続き、斧を手にして城壁を駆けた。
リョウの漆黒の剣が鋭い切れ味を発揮し、ザイルーガも斧を振るい、その巨体で魔獣を押し潰す凶暴な戦闘スタイルを見せつける。
「のわっ⁉ 味方⁉ 援軍⁉ 空から⁉ 竜に落とされて⁉ くわ~っ! 何その体験、めっちゃ羨ましいんですけど‼」
レオノールも英気を回復させたかのように駆け出す。
テレサは、魔法を魔獣に向けて放ちながらも、困惑げに自分を見る赤竜に運ばれた少女に目を合わせた。
「ジーニア・クレッセントという邪教の少女と同じ修道服で困惑ってとこですか? フフフ、安心なさい。そもそも、その者の修道服姿が擬態なのですから」
言いつつ、周囲の魔獣をモーニングスターで一掃するテレサに、ベレニスがピューと口笛を吹いた。
「アラン傭兵団のテレサ・ファインダです。以後お見知り置きを。魔女ローゼ」
「……後で色々教えてください。ヴィレッタ、負傷兵を見てあげて。フィーリアはヴィレッタの補助をお願い。ベレニスは……もう行っちゃったか。さて、私も行きますか」
ローゼはテレサに挨拶すると、両手を大きく掲げ、魔力を一瞬にして高める。
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