【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ

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第4章 竜は泉で静かに踊る

第10話 開戦前

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 お風呂から上がり、リビングで待つリョウのところへ向かうと話し声が聞こえてきた。

「クーリンディア? それと誰だっけ、このリザードマン?」

 リビングに入るや、ベレニスが小首を傾げた。
 そこにはエルフの里で2番目に偉い、美壮年って感じのクーリンディアさんと、昨日私たちが一悶着を起こしたリザードマンがリョウと座っていた。

「誰だっけじゃねえよ、このちんちくりんエルフ! 俺は族長の代理のザイルーガだ。覚えておけ!」

 大きな口で、大きな濁声を出すこいつを忘れるわけないでしょ。
 リザードマンの戦士って言っていたけど、斧より口を動かしている姿しか記憶にないぐらい喋りまくっていたし。

「えっと、またリョウを勧誘なら帰ってくれるかな? でないと、昨日お見せしなかった魔法を浴びせちゃうかもしんないんだけど」

 ムカムカしてきたぞ。
 こいつはリョウをリザードマンの里に留めて、私たち女子陣を追い払おうとしてきたし。

「ゲエ! 魔女の嬢ちゃん、落ち着けや! そっちの青髪の別嬪さんも睨むなっての! そりゃあよ、この男の剣の扱いは見事で欲しいよ。でも種族が違うんだし、あんなの社交辞令だろうがよ! 俺はエルフの里へ正式な使者として来たんだっての!」

 ザイルーガは大きな口でまくしたてたあと、もう面倒臭え! と頭を掻きむしり、クーリンディアさんに向き直ろうとしてひっくり返った。

 クリスを見たからだ。
 当のクリスはあくびをしていた。

「なんで赤竜がここにいるんだよ! 初めて見たぞ‼」

「私も、ザイルーガを初めて見たよ~」

「お、おう。そりゃそうだろうよ……って違う! 俺は本当にエルフの里へ正式な使者として来たんだよ!」

「それで何? 昨日の文句? あれは謝ったじゃないの。傭兵が」

 不愉快そうに、ベレニスが口と耳を尖らせた。

「いやいや、最後交渉したのは自分っすよ。リョウ様は結局、リザードマンの戦士と剣を交えただけでしたっす」

「こっちはお酒を飲めないのに、詫びだとか言って自分たちだけでめっちゃ盛り上がって、リョウにお酒の匂いを嗅がせて寝かせちゃったよねえ。私の魔法で浮かせたの簡単に見えた? あれ結構苦労したんだ~」

 フィーリアと私も口を尖らすと、ザイルーガは言い返す気力もなくなったかのように口をパクパクさせている。

「それで、お話とは? リョウ様はすでに聞かれたのですか?」

 ヴィレッタは大人だなあ。文句を言いたそうだが、それよりも今の現状の確認をする姿勢を見せるなんて。

「ああ、ザイルーガ殿も昨日から森の異変について本腰を入れて調査してくれたんだが、とある事実を持ってきてくれた」

 リョウはザイルーガに同情しているみたいだ。
 奴にすまんという視線を送ってから、私たちに告げた。

「ゴブリン、コボルト、オーク、オーガ。人間どもが魔獣と呼んでいる連中が、普段と違い徒党を組み、集団で行動し移動しているんだよ」

 ザイルーガも気を取り直して告げてきた。

 ゴブリンとオークは集団行動するが、同種でも言い争って仲間の寝首を掻こうとする種族だ。
 それなのに他種族と、軍隊のように連携して動くなんて考えにくい。

「北や東や西の魔獣どもも南に移動している。うちのシャーマンの話では、普段見かけない魔獣も見かけたそうだ」

 リザードマンは戦士が多いが、シャーマンと呼ばれる魔法に長けた者もいる。
 この情報は信じていいだろう。

 ゴブリンやオークは、他種族を蔑み見下し侮るも臆病な性格で、基本縄張りから出ようとしない。
 それなのに大移動とは……何者かが指揮しているようにしか思えない。

 リョウも同じ考えなのか、難しい顔で顎に手をやり考え込む。

「南って……ラフィーネの方角なの?」

「ああ、たしかそんな街の名だったな。そう、そっち方面に集まっている。数は10万てとこか? 魔獣はどいつも知性が低いし、強いのはゴブリンキングやオークキングぐらいで、他は雑魚だが数がな。人間の人口は1万ぐらいだろ? 戦える戦力は100か200ぐらいか。一瞬で陥落するだろうなあ」

 ザイルーガは人間の死には興味ないみたいに言ってきたが、それでどうするんだ? と問うような目もしていた。

 そんなの決まっている!

「ローゼ。転移魔法は使えるか?」

「当然。行ったことある場所だし大丈夫」

 リョウの確認に私は即答して、転移の術式を発動させる。

「ザイルーガ、知らせてくれてありがとう。クーリンディアさん、ララノアさん。片付けてきたら報告のためにまた戻ってきます。……クリス。よかったら一緒に来て。手を貸してくれると嬉しい」

 だが次の瞬間、私の術式は崩壊し、転移魔法の発動が強制解除された。

「なっ⁉」

「ローゼ様、ここでは転移魔法は使えません。とこしえの森とはそういうところなのです」

 ララノアさんが申し訳なさそうに説明した。
 その横でベレニスがポンと手を打っているが、その情報、忘れていただろ。

 嘘でしょ? ラフィーネの街から1週間かけてエルフの里に着いたんだぞ。
 同じ道を同じ時間をかけて戻っていられないのに!

「ほっとけばいいのに~。何で行くの~? そんなことより~、お腹空いた~。木の実がいっぱいだと嬉しいな~」

 クリスの暢気な声が、リビングに響いた。

「ちょ、ちょい赤竜ちゃんよ。今はそれどころじゃないのよ。人間の街がピンチなんだって。そんでもってこいつらは、それを救うために向かおうとしたってわけなのさ」

「ザイルーガって人間好きなの~?」

「い、いや、別にどうでもいいけどよ」

「クーリンディアとララノアは~?」

「俺もどうでもいいが、森の民が襲撃するのは不愉快だ。ただそれだけよ」

「私は血が流れるのは嫌いです。人も私たち精霊の民も魔獣もです」

 質問に答える2人を見て、なるほどね~と呟くクリス。

「じゃあ、どうしてローゼたちは人間たちを助けようとするの~? 不愉快なの? 血が流れるのが嫌なの~?」

 私たちが人間を助ける理由?
 そんなの……決まっている。

「理不尽が許せないから。奪われる命を見ているだけは我慢ならないから」

 私は即答した。

「わたくしはララノアさんと同じです。人だろうと魔獣だろうと、傷つく姿を見たくありません」

 ヴィレッタも決意を口にする。

「ムカついたから動く! そこに理由なんていらないでしょ!」

 ベレニスはフンスと胸を張った。

「この大地は争うためのものじゃないっすよ。ただそれだけっす」

 フィーリアも当然のように答えた。

 私たち女子4人が言い終わると、クリスはリョウを見る。
 その場の誰もがリョウの発言に注目した。

「俺は争いで糧を得る人間だ。立派な考えも信念もない。この道に進んだのも、復讐のみを考えていたからな」

 そこでリョウは言葉を区切り、息を吸った。

「ただ、俺が戦えば、誰かの命が救えるなら俺は戦う。もう二度と何も失いたくないからな」

 リョウの言葉が終わると、部屋の空気が一変した。

 クーリンディアさんやララノアさんがフッと笑みを浮かべ、ザイルーガは高笑いした。
 ヴィレッタは目を輝かせ、ベレニスは誇らしげな表情を浮かべている。
 フィーリアは小さく拍手し、私は胸が熱くなるのを感じた。

 クリスは、へえ~っと、今までの気の抜けた顔から一変させ、鋭い目つきをしてきた。

 そこへエルフの里一番の知恵者、イズレンディアさんがやって来て告げる。

「ベレニス様。クーリンディア様。森の瘴気の原因ですが、何者かの邪な力によって起きたものと判明しました。その力は、ゴブリンやオーガどもに強力な催眠効果があり逃れられないと思われます」

「その根本はどこだ?」

「不明ですが瘴気の拡がり具合から、恐らくは集結している魔獣群と重なるかと」

 イズレンディアさんの報告に、最早黙って立ち竦んでいるわけにはいかない。
 転移魔法をもう一度試すが、やはり無効化された。
 ここは走って行くしかないか。

「おいおいおい、1週間はかかるぜ? その頃にはラフィーネは全滅しているぞ!」

「なら背中に乗せて走ってくれるの⁉ できないなら、引き止めの言葉はなしにして!」

 ザイルーガの文句に、私は言い返し走り出そうとするが……

「背中に乗せればいいの~?」

 家屋の外に出たクリスの身体が変貌する。
 骨格が変形し、筋肉が膨張する音が聞こえてくる。
 肌が赤く輝き始め、鱗が浮かび上がる様子は圧巻だった。

 クリスは人化を解くとその大きな身体を屈め、背中に乗るように促してきた。
 ザイルーガは口を開けて呆けている。

 私は仲間たちと目が合い、頷き合う。
 迷うことなくクリスの背中に乗り、南へ飛び立つのだった。

 ひょい、パクッとクリスはザイルーガを捕まえた。

「ちょっ! 何で俺もなのよ~‼」

 悲鳴をあげるザイルーガも、私たちと一緒に南へと飛び立つのであった。

 初めてのフライトに、最初は戸惑ったが風を切り裂いて空を飛ぶのは凄く気持ちいいかも。
 ちょっと、いやかなり寒いけど。

 空を飛びながら、私は仲間たちの表情を確認した。
 ベレニスは興奮気味に周囲を見回し、ヴィレッタは目を固く閉じている。
 フィーリアは冷静に地上の様子を観察して、リョウはラフィーネの方角を見つめていた。

 ザイルーガは最初、目も口も皿のように大きくして絶句していたが、斧を手にして覚悟を決めたみたい。
 意外と義理堅い奴だな。

 この仲間たちと共に戦えることに、私は密かな誇りを感じたのであった。
 
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