【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ

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第4章 竜は泉で静かに踊る

第12話 ノイズが動く

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 風雲急を告げる狼煙を見て、ファインダ王国宰相ダリム・クリムトは皺に隠れた眼光をキラリと光らせた。
 すでに軍の準備は整えている。

「総大将は儂。将軍はグラー侯爵、ハートランド侯爵、グランペール伯爵! 兵数は三千! 出発せい!」

「宰相! 東からもレアード侵攻を報せる狼煙が!」

 配下の兵が焦りを滲ませ報告する。
 西に魔獣、東に敵国……挟撃の形となった状況に兵士たちが動揺した。

「ふむ。想定通りじゃな。兵諸君よ! 東は陛下がすでに向かっておるので安心せよ! 我らは眼前の敵を討ち滅ぼすのみ!」

 宰相の言葉に兵士たちは迷いを捨てる。
 自分たちが仕える主は最強だ! と誇らしく。

「ラインハルト陛下が東へ?」

「姫殿下が家出したとかで、マーガレット妃殿下に怒られて謹慎していたと聞いたが?」

「近衛部隊は動いてないな。あ~、だが隊長のアレックスは最近見てなかったわ。他にも数名密かに連れ出しているんかね?」

「如何に陛下とはいえ、東の駐留部隊だけでレアードに勝てるんかね?」

 だが一部の兵たちはひそひそ話を始めた。
 やはり不安は尽きないのである。

「何をごちゃごちゃ言っている! 我らは陛下が留守の今、この国を護らねばならんのだ。行くぞ!」

 グラー将軍が一喝すると、その兵たちも気持ちを引き締め進軍の歩を早めた。

 そんなファインダ軍を、遠望鏡という魔導具で観察する者がいた。
 無精髭の黒髪の壮年。
 漆黒の鎧を纏い、ロングソードを持ち、背後には100を超える黒フードの者たちが控えている。

「ハハッ! かかりおった。ラインハルトやダリムも、ここまでは読めなかったようだな! これでファインダは滅びる」

 上機嫌の男へ、黒フードの1人が近づき低い声で囁く。

「ノイズ様。お戯れがすぎます。我等の目的はファインダの滅亡ではありません」

 その忠告に、ノイズと呼ばれた男はうるさそうに耳を掻きながら、黒フードに目を向けるとニヤリと嗤う。
 それは人というよりも獲物を狩る野獣の顔だった。

「細けえ事はいいんだよ。俺を楽しませろ」

 ノイズ・グレゴリオ。
 5年前に終結したパルケニア王国デリムの叛乱の首謀者にして、多くの犠牲者を生み出した大陸最悪の人物と呼ばれる者。

 破滅を告げる使者が、ファインダ王国侵攻の狼煙を上げたのであった。

 大陸七剣神にも数えられるノイズは、自ら率いる黒フード集団に告げる。

「さあ、楽しいゲームをしようぜ? ラインハルトは東でレアードに釘付け。ダリムの爺は慌てて軍を王都に戻すだろうが、戻ってきた時は王都は火の海よ。ハハハ、ハハッ! さあ、ゲーム開始だ!」

 ノイズは高らかに嗤い出す。
 その嗤い声に呼応するかのように、黒フードの集団も一斉に武器を掲げ進軍を開始した。

「我らの内通者が全て、ダリムの部隊に編成されているのが気になります。これは偶然でしょうか?」

 黒フードの1人がノイズに尋ねた。
 その疑問も当然だ。ファインダ側が王都の護りを空にするとは想定していなかった。

「あん? それだけ追い詰めたってことだろ? 英雄王に神算鬼謀の宰相ってのが不幸だったな~って話よ。読みすぎて対策を練るから、足元を俺に掬われるのさ。ハハッ! 今頃、王宮は王妃と僅かの近衛兵のみ。王妃はまだ30過ぎたぐらいだろ? 味見するのも悪くねえなあ」

 ノイズはペロリと舌を舐めずった。

 ファインダ王国に住まう民は皆、英雄王ラインハルトを信頼している。
 その王が不在の時に、王都が攻められるなど夢にも思わないだろう。

 それは油断だ。
 そして、その油断こそがノイズ・グレゴリオの付け入る隙となるのだ。

 ノイズは城門を難なく攻略して王都に入った。

 夕闇の王都の石畳の道は人影もなく、普段の賑わいが嘘のように静まり返っている。
 華やかな商店や邸宅が立ち並ぶ通りは、今や不気味な静寂に包まれ、ノイズたちの足音だけが響いていた。

「チョロいねえ。物足りないねえ。ハハッ! テメエ等! 街へ火を放て! 俺と何人かはこのまま王宮へ乗り込む! ……ったく、この程度とは笑わせてくれるぜ」

 ノイズの命令に黒フードたちは無言で従う。

 黒フードたちが放った火は、乾いた建物を次々と飲み込んでいった。
 オレンジ色の炎が夜空を照らし、黒煙が立ち昇る様子は、まるで地獄絵図のようだった。
 しかし、予想に反して悲鳴や混乱の声は聞こえず、不自然な静けさが支配していた。

「民衆が全然いねえだと?」

 火は人々の心を恐怖に陥れる。
 その恐怖で民たちは逃げ惑い、俺に斬られる予定だったのにとノイズは頭を掻いた。

(ああ、こりゃあ謀られたか)

 ノイズは目の前に現れた人物を見て舌打ちした。

「久しいなノイズ・グレゴリオ。20年ぶりか」

「ちっ! テメエが王都に残っているとはな! ハルト・アルバースよ!」

 黒髪に黒髭、白銀の鎧に黒マントの偉丈夫が、ノイズの前に立ち塞がった。
 その名と目の前の人物を見て、黒フードたちも舌打ちした。

 その名はファインダ王となる前の、傭兵時代のラインハルト・ファインダの名だったからだ。

 黒フードたち数人が一斉にラインハルトへ襲いかかった。
 だがラインハルト王は歯牙にもかけず、剣閃が奔り黒フードたちは血飛沫を上げて倒れた。

「バカだねえ。力量も弁えねえ雑魚がしゃしゃり出てきおって」

「ノイズ様! 貴方も奴に襲いかかられよ!」

「はっ! やるなら俺1人でやるさ。テメエ等は王宮に向かえ。女官ぐらいは残っているだろ。ひょっとしたら隠し扉でもあって、王都の民が隠れているかもな。それでも虐殺してろ!」

 黒フードたちは散開して王宮へと駆け出した。
 と、同時に、ノイズとラインハルトの剣が激突する。

「英雄王様は余裕の表情で俺と一騎討ちに応じたか。……よう、俺と遊んでいていいのかあ? 東はレアード、西はとこしえの森の魔獣が攻めてきているんだぜ? ここで俺を食い止めたところで、遅かれ早かれファインダは滅亡よ。判断を誤ったな! テメエが東へ行っていりゃ、レアードは追い返しただろうによ!」

 激しい攻防の中、ノイズは嗤う。

 それを聞いたラインハルトは剣戟を弾くと距離を取り……ニヤリと笑った。

「判断を誤った? その言葉は、そっくりそのままお返ししよう」

「ちっ! 負け惜しみを! テメエの国の傑物はテメエとダリムだけよ! フフッ‼ ハハハ、東も西も見捨てられた街は悲惨だなあ! 今頃は死にまくっているぜ! テメエの可愛い民たち、テメエの部下は! ハハッ!」

 勝ち誇ったように嗤うノイズに、ラインハルトは冷静に告げる。

「さあて、そいつはどうかな? いずれにせよ、同じパルケニア出身者として貴様はここで討ち取る! 覚悟せよ! ノイズ・グレゴリオ!」

「乞食上がりが同郷を気取るか? 怖気が走るわ!」

 その言葉が合図となったかの如く、ラインハルトとノイズの剣舞が始まった。
 
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