【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ

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第4章 竜は泉で静かに踊る

第13話 マーガレット妃

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 ファインダ王国とレアード王国の国境は険しい山岳が聳え立つ。

 そのファインダ側の国境の街ワヴュールが、現在レアード軍に包囲されている。
 ワヴュールの城壁は、灰色の巨石で築かれ、その背後には鋭く尖った山々が聳え立っていた。
 険しい地形が天然の要塞となり、少数の城兵でレアード軍の猛攻を耐えていた。

「あの若武者は誰だ?」

 レアードの指揮官アーロン将軍が、城壁で鼓舞する敵の将校を見る。
 年齢は20歳半ばだろうか?
 槍を振り回し兵士を鼓舞し、その華麗さと勇猛さにファインダ側は奮起していた。

「近衛隊長のアレックス・シオーレンですな。ということは、やはりラインハルトもいると思われます」

「ううむ。あの男は自ら先頭に立ちそうなのに、未だ姿が見えぬ。さて、これをどう見るか?」

 侵攻の気配を察知されたのは、本国の軍の編成で見破られたからであろう。
 ファインダ王自らがワヴュールに入城したとの情報に、英雄王め、とアーロン将軍は舌打ちした。
 だが今更作戦の変更はできない。
 8年前の雪辱を果たすための絶好の機会だからだ。

「あのアレックスを仕留めよ。それでラインハルトが何らかの反応を見せるだろう」

 アーロン将軍はそう結論付け、弓隊が一斉に矢を放つ。

 雨あられのように降り注ぐ矢は、全てアレックスを狙っていくのだが……

「なんと……⁉」

 矢は全て風で押し戻され、弓兵たちに刺さった。

 態勢を立て直すべく両陣営が距離を取る。
 すると城壁の上に、戦場には場違いな紫色のドレス姿の女が立ち、レアード側へと演説を始めた。

「我が王国とレアード王国は不可侵条約を結んでいるが、何ゆえ攻め入るのか? 大人しく軍を引き返すなら、追い討ちなどせず見逃してやらんこともない!」

 明らかに見下した内容に、アーロン将軍は激怒し叫び返す。

「魔女だな! 場違い感甚だしいわ! 先程の風を起こしたのは貴様か! ええい! 弓を構えろ! 力強くだ! 魔法なんぞに押し返されるな!」

 アーロンの命令に矢が再び雨あられと降り注ぐ。
 だが女性が手を掲げると、空気が震え、強烈な風が巻き起こり、飛来する矢を全て押し返した。
 その様子は圧巻で、女性の表情には微かな自信が浮かんでいた。

「お、おのれ! このような魔女がファインダにいるだと⁉ 何者だ貴様! なぜファインダに味方する!」

「……これは愚かなレアードの将軍よ。攻め入る国の王妃の顔すら知らぬとはのう」

 金色の髪に妙齢な美女のドレスが風に靡く。
 それは戦場に似つかわしくない気品と美しさがあった。

「……マーガレット・ファインダだと? まさか⁉」

 噂はあった。ファインダの王族の女は魔女の確率が高いと。
 8年前の4カ国同時侵攻の際、王宮を護る王妃マーガレットは、とある貴族の裏切りを即断即決で弑した。
 それは魔女だからできたと、まことしやかに流布されている。

「たかが魔女1人。城兵は千にも満たぬ。ふふふ、王妃とは好都合。しかも王妃があんな口上をしてラインハルトの姿はなし。マーガレット王妃を捕らえよ! さすれば英雄王も成すすべなくなるだろうぞ!」

 アーロンの言葉に、兵士たちは雄叫びを上げて突撃を開始した。

「やれやれ。どうもレアードの連中、説得は無理そうね」

「我が国とベルガーが友誼になるのを恐れているゆえの行動。そう宰相様は仰っていましたが、いやはやアーロンも愚かな。レアードは確実に、アーロンを切り捨てて知らぬ存ぜぬと言い通すでしょう。旗印にレアードの国旗がなく、アーロン家の紋章が使われているのが証拠」

「アレックス。仕方がありません。ハルト様が用意した最終手段を」

 その言葉にアレックスは花火を打ち上げ、空に虹がかかる。

「アーロン将軍! は、背後から敵兵が‼」

「なっ⁉」

 アーロンは後方より斬り込んでくる敵を見て絶句した。

「アランの傭兵どもだ! 数は10名ほど! ですが、団長のグレンにアレクシアら幹部の姿も見えます!」

 戦況は一瞬で逆転した。
 団長グレンの巨体が敵陣に突っ込み、アレクシアの素早い弓矢が敵兵を次々と倒していった。
 他の団員たちも剣や槍を縦横無尽に振るう。
 レアード軍は予想外の展開に戸惑い、隊列が乱れた。

 城からもアレックス率いるファインダ軍が突入した。
 アーロン以下、生き残った者は全て捕縛され、ワヴュールでの戦いは終わった。

「捕虜は手厚く扱いなさい。あ、お酒は飲ませないように」

 マーガレット妃の言葉に兵士は苦笑した。
 酒豪のマーガレット妃であったからだ。

 捕らえられたレアード兵たちは、予想外の寛大な扱いに戸惑いの色を隠せなかった。
 ファインダの兵士たちはマーガレット妃の指示通り、彼らに毛布を与え、軽い食事を用意した。

「グレン・アルバース殿、及びアラン傭兵団の者たちよ。我がファインダを救って頂き感謝します」

 捕虜の処遇を決めると、マーガレット妃はアラン傭兵団へと向き直り深々と頭を下げた。

「いやあ、金は貰っているので気になさらず。しっかし間に合ってよかった。結構ギリギリでしたので……」

 団長のグレンは、美しい王妃に頭を下げられ恐縮した。

 グレンはブラウンの髪の大男で、年齢相応の貫禄ある姿だがイケメンではない。
 40の歳を過ぎた己のおっさん顔が失礼にならないかと、戦々恐々としながら返答した。

「ハルト様と同い年の親友であると伺っております。どうぞお気楽に。ハルト様の妻である私をも親友と思ってくれて構いません」

「いやあ、それは恐れ多い……だが、ハルトの奥方様とは光栄です」

 グレンの言葉にマーガレット妃が微笑むと、副団長であるアレクシアが王妃に訊ねる。

「聞いたんですけど、西のとこしえの森で魔獣が大量発生しているんですって? 王都にラインハルト王が残ったのも、王都が狙われる可能性があるからなんですよね? そっちの方は大丈夫なんですか?」

 髪を虹色に染めている、妙齢の美女アレクシアの言葉にマーガレット妃は力強く頷いた。

「策は講じています。あとは結果のみ。もしも万が一があるならば、その時はご助力をお願いします」

「ああ、それは勿論です。お金は貰いますがね」

 団長が即答する様子を見つつ、王妃様が頭を下げるなんて他国の王族にはない態度だと、アラン傭兵団の面々は思ったのであった。
 
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