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第4章 竜は泉で静かに踊る
第20話 長閑なエルフの里
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エルフの里は巨木の幹を利用した家々が立ち並んでいる。
葉の間から漏れる光の中、エルフたちは木の枝を編んで作った籠を持ち、森の恵みを集めて歩く姿が見えた。
心が落ち着く、長閑な光景だ。
とこしえの森に広がっていた瘴気は、人の街ラフィーネに魔獣の群れが攻撃し敗北して以降、確認されなくなったようだ。
ラフィーネからエルフの森へ続く道も、魔獣が姿を見せなくなり、今では静かすぎる森になっていた。
「エルフは美男美女ばかりと伝えられていますが、その通りですね! 目が保養されます!」
初めてのエルフの里に、レオノールは目を輝かせながら、エルフたちの優雅な動きや美しい容姿を食い入るように観察しては声をかけ続ける。
時折、人間の都市との違いに驚きの声を上げ、周囲のエルフたちを困惑させていた。
エルフたちは女王であるベレニスの仲間と紹介されたレオノールを無下にできないだけで、適当にあしらっているが。
「じゃあやっぱり、クリスはここには戻っていないんですね」
ララノアさんに確認すると、あの日以降、クリスの姿を見ていないという。
「悪い子ではないとはわかっていますが、ホッとしている同胞が多いですね。もし住み着かれたら、食事はどうするのかと不安に思う者もいました。いえ、赤竜がエルフを食べるというわけではありませんよ」
エルフは森の恵みで生きる種族だ。
赤竜が巨体で居座ったら、1日でエルフ何百人分の食糧を食べてしまうだろう。
木を伐って開拓しているわけでもないし、食糧問題は切実なのかも。
となると、私たちがお世話になるのも心苦しい。
「そんな心配いらないわよ、ローゼ。私たちが何人いようが、里が飢えるなんてならないから大丈夫よ」
ベレニスは気にせず食事を頬張っていた。
「ええ、何年いてくれても構いません。50年ぐらい、里でのんびりするのも悪くないでしょう」
「えっと、ベレニスとフィーリアはともかく、私とヴィレッタとレオノールはおばあちゃんになっちゃいますので……」
ララノアさんもしっかりしているようで、やっぱりエルフ、長命種の時間の感覚は人と違うようだ。
「クリスですが、わたくしたちと最初に出会った泉にいるのでしょうか?」
「う~ん。そこにいなかったらお手上げかなあ。赤竜の姿で空でも飛んでいたらわかるけど、人形態で動いていたら見つけるのは困難かも」
ヴィレッタと私も食事のシチューを口にしつつ、クリスの手掛かりについて思案する。
「そういえば聞いてなかったすが、赤竜の活動地域ってどこら辺だったんすか?」
手製のとこしえの森の地図を広げ、フィーリアはクーリンディアさんとララノアさんに見せた。
「ほう、ドワーフの小娘は器用だな。これなら口で説明する手間が省ける」
クーリンディアさんが、フィーリアの地図を見て感心の声を漏らした。
ドワーフは手先の器用さから建築や工芸に優れた種族で、フィーリアも大得意。
毎度毎度助かるよ。
「ただ、赤竜についてだが、この辺りにドラルゴ様が住んでいると伝承で伝え聞いていたのみだ。我らもクリスと名乗る赤竜の小娘と出会い、初めて赤竜の存在を確認したのだ。詳しい事は知らぬ」
森の最深部を指さして、クーリンディアさんは述べた。
「交流とかはなかったのでしょうか?」
ヴィレッタが尋ねると、クーリンディアさんとララノアさんの頷きが返ってくる。
「フォレスタ様はしていたようだが、詳しくは知らぬ。魔王により住処を奪われた最後の赤竜ドラルゴ様を、とこしえの森に誘ったのはフォレスタ様でな。元々この森の民ではなかった」
「そして移り住んでから千年以上、どの種族にも干渉した形跡はありません。存在すら忘れられるほど、静かに過ごされていたのです」
ううむ。七英雄の赤竜王ドラルゴ。穏やかな晩年を過ごしていたんだなあ。
そういえば赤竜王ドラルゴは、魔王すら破れなかった赤竜固有の結界を張ることができたんだっけ。
結界の外に、自らが暴れても被害が及ばないように。
もしかするとずっと結界を張って、誰からも干渉されないで過ごしていたのかもしれない。
でも疑問が浮かぶ。
「最後の赤竜ですか! でも、クリスという赤竜はドラルゴ王の御息女なのですよね! 父親が存在するのではないでしょうか!」
「わたくしも気になっています。クリスは知らないと言っていましたが、赤竜という種族は、他種族との交配は可能なのでしょうか? それとも、細胞を分裂させて増殖させるのでしょうか?」
レオノールとヴィレッタが疑問を口にした。
「はたまた、他に男の赤竜が残っていたって可能性かな? 実はドラルゴ以外に生き残っていました~、的なオチ」
「一応クリスを擁護しておくけど、あの子は嘘は一切言っていなかったわ。物心つく前に父親は死んで、母親のドラルゴは最近まで生きていたけど寿命で亡くなった。こんなオチでしょ」
私の説にベレニスも乗っかってきた。
「となると、また疑問が浮かぶっす。赤竜王ドラルゴの年齢は、史書通りなら500歳頃に七英雄として活躍していたっす。最近まで生きていたとなると、1600歳を超えているっすね。でもクリスさんは、生まれてから20年も経っていない感じだったっす。赤竜の繁殖適齢期は不明っすけど、かなりの高齢出産っすよね。生き残っていた異性の赤竜がいたとして、それ以前に産んでいないのも疑問っす」
「1600歳って想像つかんな。……人間でいうと何歳ぐらいで出産したことになるんだ?」
フィーリアが口にした言葉にう~んと唸る私たちを横目に、リョウが質問した。
うんうん。
リョウもみんなから色々言われて凹んでいたが、汚名返上って感じで会話に混ざろうとしてきたのはいい傾向だよ。
「さあ? ローゼさんは知っているっすか?」
「……七英雄以前ですでに数が少なかったし、幻の種族って言われていたよね。何歳ぐらいで出産とかの本なんて読んだ記憶はないかな。寿命に関しては、ハイエルフ同様無限に生きられるって伝承があるけど」
「我らも無限ではありません。戦いで命を落とせば死にますし、疫病で命を落とすこともございます。千年以上生きれば、フォレスタ様のように徐々に大地へと同化が始まり、肉体は風化していくのです。出産ですが……その、最近は事例がなく、詳しいことは……」
ララノアさんが私たちにわかりやすく説明してくれるが、性に関しては曖昧だった。
長生きできる分、子孫をあんまり必要としていない感じなのかな?
ただ赤面するララノアさん可愛いし、私たちもこれ以上詮索するのは気が引けるし、恥ずかしくなる。
なのでこの場の空気は、こんな話になったのはリョウのせいで落ち着く。
ごめんリョウ。落ち込まないで。
クーリンディアさんがリョウの肩に手を置いて憐れんでくれているが、リョウってそういうのが多いなあ。
じゃあ、クリスって赤竜がどうやって生まれてきたのか。
謎は深まるばかりだが、とにかく行ってみなければ始まらない。
食事後、私たちはクリスと初めて出会った泉を目指すのであった。
葉の間から漏れる光の中、エルフたちは木の枝を編んで作った籠を持ち、森の恵みを集めて歩く姿が見えた。
心が落ち着く、長閑な光景だ。
とこしえの森に広がっていた瘴気は、人の街ラフィーネに魔獣の群れが攻撃し敗北して以降、確認されなくなったようだ。
ラフィーネからエルフの森へ続く道も、魔獣が姿を見せなくなり、今では静かすぎる森になっていた。
「エルフは美男美女ばかりと伝えられていますが、その通りですね! 目が保養されます!」
初めてのエルフの里に、レオノールは目を輝かせながら、エルフたちの優雅な動きや美しい容姿を食い入るように観察しては声をかけ続ける。
時折、人間の都市との違いに驚きの声を上げ、周囲のエルフたちを困惑させていた。
エルフたちは女王であるベレニスの仲間と紹介されたレオノールを無下にできないだけで、適当にあしらっているが。
「じゃあやっぱり、クリスはここには戻っていないんですね」
ララノアさんに確認すると、あの日以降、クリスの姿を見ていないという。
「悪い子ではないとはわかっていますが、ホッとしている同胞が多いですね。もし住み着かれたら、食事はどうするのかと不安に思う者もいました。いえ、赤竜がエルフを食べるというわけではありませんよ」
エルフは森の恵みで生きる種族だ。
赤竜が巨体で居座ったら、1日でエルフ何百人分の食糧を食べてしまうだろう。
木を伐って開拓しているわけでもないし、食糧問題は切実なのかも。
となると、私たちがお世話になるのも心苦しい。
「そんな心配いらないわよ、ローゼ。私たちが何人いようが、里が飢えるなんてならないから大丈夫よ」
ベレニスは気にせず食事を頬張っていた。
「ええ、何年いてくれても構いません。50年ぐらい、里でのんびりするのも悪くないでしょう」
「えっと、ベレニスとフィーリアはともかく、私とヴィレッタとレオノールはおばあちゃんになっちゃいますので……」
ララノアさんもしっかりしているようで、やっぱりエルフ、長命種の時間の感覚は人と違うようだ。
「クリスですが、わたくしたちと最初に出会った泉にいるのでしょうか?」
「う~ん。そこにいなかったらお手上げかなあ。赤竜の姿で空でも飛んでいたらわかるけど、人形態で動いていたら見つけるのは困難かも」
ヴィレッタと私も食事のシチューを口にしつつ、クリスの手掛かりについて思案する。
「そういえば聞いてなかったすが、赤竜の活動地域ってどこら辺だったんすか?」
手製のとこしえの森の地図を広げ、フィーリアはクーリンディアさんとララノアさんに見せた。
「ほう、ドワーフの小娘は器用だな。これなら口で説明する手間が省ける」
クーリンディアさんが、フィーリアの地図を見て感心の声を漏らした。
ドワーフは手先の器用さから建築や工芸に優れた種族で、フィーリアも大得意。
毎度毎度助かるよ。
「ただ、赤竜についてだが、この辺りにドラルゴ様が住んでいると伝承で伝え聞いていたのみだ。我らもクリスと名乗る赤竜の小娘と出会い、初めて赤竜の存在を確認したのだ。詳しい事は知らぬ」
森の最深部を指さして、クーリンディアさんは述べた。
「交流とかはなかったのでしょうか?」
ヴィレッタが尋ねると、クーリンディアさんとララノアさんの頷きが返ってくる。
「フォレスタ様はしていたようだが、詳しくは知らぬ。魔王により住処を奪われた最後の赤竜ドラルゴ様を、とこしえの森に誘ったのはフォレスタ様でな。元々この森の民ではなかった」
「そして移り住んでから千年以上、どの種族にも干渉した形跡はありません。存在すら忘れられるほど、静かに過ごされていたのです」
ううむ。七英雄の赤竜王ドラルゴ。穏やかな晩年を過ごしていたんだなあ。
そういえば赤竜王ドラルゴは、魔王すら破れなかった赤竜固有の結界を張ることができたんだっけ。
結界の外に、自らが暴れても被害が及ばないように。
もしかするとずっと結界を張って、誰からも干渉されないで過ごしていたのかもしれない。
でも疑問が浮かぶ。
「最後の赤竜ですか! でも、クリスという赤竜はドラルゴ王の御息女なのですよね! 父親が存在するのではないでしょうか!」
「わたくしも気になっています。クリスは知らないと言っていましたが、赤竜という種族は、他種族との交配は可能なのでしょうか? それとも、細胞を分裂させて増殖させるのでしょうか?」
レオノールとヴィレッタが疑問を口にした。
「はたまた、他に男の赤竜が残っていたって可能性かな? 実はドラルゴ以外に生き残っていました~、的なオチ」
「一応クリスを擁護しておくけど、あの子は嘘は一切言っていなかったわ。物心つく前に父親は死んで、母親のドラルゴは最近まで生きていたけど寿命で亡くなった。こんなオチでしょ」
私の説にベレニスも乗っかってきた。
「となると、また疑問が浮かぶっす。赤竜王ドラルゴの年齢は、史書通りなら500歳頃に七英雄として活躍していたっす。最近まで生きていたとなると、1600歳を超えているっすね。でもクリスさんは、生まれてから20年も経っていない感じだったっす。赤竜の繁殖適齢期は不明っすけど、かなりの高齢出産っすよね。生き残っていた異性の赤竜がいたとして、それ以前に産んでいないのも疑問っす」
「1600歳って想像つかんな。……人間でいうと何歳ぐらいで出産したことになるんだ?」
フィーリアが口にした言葉にう~んと唸る私たちを横目に、リョウが質問した。
うんうん。
リョウもみんなから色々言われて凹んでいたが、汚名返上って感じで会話に混ざろうとしてきたのはいい傾向だよ。
「さあ? ローゼさんは知っているっすか?」
「……七英雄以前ですでに数が少なかったし、幻の種族って言われていたよね。何歳ぐらいで出産とかの本なんて読んだ記憶はないかな。寿命に関しては、ハイエルフ同様無限に生きられるって伝承があるけど」
「我らも無限ではありません。戦いで命を落とせば死にますし、疫病で命を落とすこともございます。千年以上生きれば、フォレスタ様のように徐々に大地へと同化が始まり、肉体は風化していくのです。出産ですが……その、最近は事例がなく、詳しいことは……」
ララノアさんが私たちにわかりやすく説明してくれるが、性に関しては曖昧だった。
長生きできる分、子孫をあんまり必要としていない感じなのかな?
ただ赤面するララノアさん可愛いし、私たちもこれ以上詮索するのは気が引けるし、恥ずかしくなる。
なのでこの場の空気は、こんな話になったのはリョウのせいで落ち着く。
ごめんリョウ。落ち込まないで。
クーリンディアさんがリョウの肩に手を置いて憐れんでくれているが、リョウってそういうのが多いなあ。
じゃあ、クリスって赤竜がどうやって生まれてきたのか。
謎は深まるばかりだが、とにかく行ってみなければ始まらない。
食事後、私たちはクリスと初めて出会った泉を目指すのであった。
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