【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ

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第4章 竜は泉で静かに踊る

第21話 胸騒ぎ

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 ラフィーネの街の至る所で、ファインダ王国の銀鎧とベルガー王国の黒鎧が入り混じり、共に汗を流しながら建物を修復している。

 民たちへの住処や食料の無料提供も行われ、冒険者だけでなく、職を求めた近郊の民たちもやってきた。
 新しくできた商業区では、さまざまな地方の言葉が飛び交い、魔獣襲来以前よりも活気に満ちた雰囲気が広がっていたのである。

 ラシルはその光景に頼もしいと思うよりも、一抹の不安を覚えた。
 ファインダ王国との同盟復活は、平和へと導く重要な国家政策である。
 だが、今後益々隆盛の兆しを見せるファインダ王国の結束力に慄いた。

「ラシル。何を考えている? 相談なら私が乗ろう。部下である以上、上司の悩みを解決するのも仕事だ。恋愛以外なら相談に乗るぞ」

「オルタナ、それは上司である僕が言うべきセリフだろ?」

 王立学校から士官学校までいつも一緒に過ごして、実技で一度も勝ったことのない女性に、ラシルは苦笑いした。

 オルタナの横では、清楚な修道服に身を包む美女テレサが微笑んでいる。

「お二方は仲がよろしいのですね。ですが、オルタナ。恋愛以外と言ってしまわれると、ラシル殿下は困ってしまうと思いますよ」

「そうかい? 私は背が高すぎるから異性からはモテないのでね。いかんせんそちら方面は疎いのさ」

 テレサの指摘に、オルタナは苦笑する。

 オルタナは背が高く、女性だが筋肉質だ。
 容貌は中性的なイケメンであり、女性からは非常にモテる。

 これで女らしく振る舞えるなら、男性からもモテるだろうと、ラシルは思うが口にはしない。

 オルタナが他の男性にモテてしまったら、ラシルは心穏やかでなくなるからだ。

 オルタナは、アラン傭兵団のテレサと仲が良くなったようで、ここ数日行動を共にしている。

 麒麟児オルタナと赤き女帝テレサが一緒に歩いている姿は、どんな敵だろうと打ち破ってしまうオーラを放っていた。

「いや、我がベルガー王国とファインダ王国がずっと平和であれと祈っていたのさ」

「ラシルは偉いな。永遠の平和は存在しないのは歴史が証明している。だが、平和のために戦うことはできる。その理想のために、存分に私を使いたまえ」

 オルタナの凛々しい回答に、ラシルは苦笑しつつも勇気が湧いてきた。

 そんな2人の様子を、テレサは穏やかに見守った。

 そんな和やかな空気に水を差すように、テレサたちに伝令が走ってきた。

「ラフィーネ領主より、陛下が数刻後に到着予定なので、出迎えの準備をとの通達です!」

「ラインハルト王が?」

 ラシルは思考する。
 来るのはいい。ラフィーネ領も大いに湧くだろう。
 労われる兵たちは、さらなる忠誠を誓うことだろう。

 そして大陸中に、魔獣との戦争に完勝したとは、さすがは英雄王と流布されるだろう。

(出迎えに、ベルガー王国の兵である我々が行くのは、国で騒ぐ貴族も出るかもしれぬ。街に残るのも非礼だろう。果たしてどうしたものか)

 まだ正式な同盟に至っていない両国である。
 他国の王を迎えるのに、ベルガーの者がいるのは将来的にどう響くのかと、ラシルは思案した。

 そこへ、察したテレサが口を開く。

「アデル・アーノルド様に兵の半分を授け、出迎えの一行に加えるでよろしいかと。かの者はラインハルト陛下と旧知の間柄でございます」

「なるほど、その手がありましたか」

「ラインハルト陛下が、早馬も使わず急行したのは事情があるのでしょうが、他国との礼節への配慮をすっかり忘れていると思われます。ラインハルト陛下は貴族の礼節に無頓着なので、マーガレット姉様もよく呆れております」

 テレサの提案と、意外な事実にラシルとオルタナは感謝と苦笑をした。

「ありがとうございます。その通りにしましょう」

「本国で問題にする者がいれば、こう告げればよいのです。アラン傭兵団のテレサ・ファインダにお願いされたと」

 ウインクするテレサに、さすがはこの人も元王族。
 宮廷の陰謀や対処を熟知しているなとラシルは感心した。

 ***

 ラフィーネ領主ヘルムートを筆頭に出迎える面々を見て、ラインハルト王は馬上のまま、全員に向けて此度の魔獣との戦いの労いの演説をした。

 ラインハルト王が馬上から演説を始めると、ラフィーネの街全体が静まり返った。
 その声は力強くも温かみがあり、聞く者の心を打つものだった。
 演説が終わると、民衆から歓声が沸き起こり、街全体が祝祭のような雰囲気に包まれた。

 そしてようやくラインハルト王は、一行の中にベルガー王国の旗印を見て、しまったと慌てた。
 ベルガー側の事情を、まったく考慮していなかった失策に気づいたのである。

 だがそこにアデル・アーノルドの赤毛の熊のような巨漢を見て、ラインハルト王は安堵し、馬から降りて手を取り合った。

「久しいなアデル殿よ。十数年ぶりですな」

「ローゼマリー姫殿下がお産まれになる前でしたなあ。儂も会えて感極まっておりますぞ」

「ベルガー王国がアデル殿のような英雄を我が国に派遣してくれたのを嬉しく思うぞ。この友誼に我がファインダ王国は必ずや応え、永遠なる友好を両国間で築くように努めようぞ」

 騎士の1人が『ラインハルト王万歳! ファインダ王国万歳! ベルガー王国万歳!』と叫ぶと兵や民衆が呼応した。

 ラフィーネ城に入り、ラシルとテレサを加えて報告を聞くラインハルト王であったが、胸騒ぎは消えない。

「して、以降はとこしえの森からの異常はないのだな?」

「はっ! あれ以降一匹のコボルトすら見かけませぬ。これも陛下の威光の賜物かと」

 ラフィーネ領主ヘルムートの声に、ラインハルト王は手で制した。

「俺は何もしておらん。実際に魔獣どもと戦ったのはそなたらだ。だが、そうか。以降何も起きておらぬか」

 テレサからの報告で、またもや1人娘であるレオノールが勝手に行動して、とこしえの森に向かったと耳にしたときは絶句して頭を抱えたが、胸騒ぎの正体はこれかと問われても、違うと断言できた。

「レオノールめ……今度ばかりは許せぬ。戻ってきたら王立学校の寮にぶち込むとしよう」

「脱走されると思いますけど? 私もよくイリスと脱走しましたし」

「テレサ殿よ、そう申すな。全く、ファインダ家の女性の血に付ける薬がないものか」

「今の発言はマーガレット姉様に報告しておきますね」

「……すまん。許せ。リオーネに帰れなくなる」

 ラインハルト王はラシルとは初対面であったが、特別威厳ある姿を見せず、1人の男として情けない姿を見せていた。

「申し訳ありませんラインハルト王、我が国の冒険者が同行しています。戻ってきたら厳重に叱っておくとしましょう」

「よいよいラシル殿。話を聞く限り、無理矢理ついていったのは娘のほうだ。逆にこちらから詫びをせねばなるまい」

「とこしえの森となると、無理に追えば永遠に出られなくなるので私も追えませんでした。一行にエルフやドワーフがついていますので、レオノール様は大丈夫だとは思いますが」

 テレサは、レオノールの行動を止められなかったことを謝罪する。

「それでラインハルト王。わざわざラフィーネまで来たのは、この街の戦闘で気になることでもありましたかな?」

 アデルとラインハルトは、時期が重なっていないが、元アラン傭兵団出身同士である。

 互いに立場を変えた後に出会い、意気投合している。

「うむ。此度の東西と王都での策謀、首謀者はノイズ・グレゴリオなのだが、その者が言ったのだ。西は俺の勝ちだと」

「詭弁では?」

 ラシルがそう発言するが、ラインハルト王の言葉にアデルもテレサも絶句した。

「かの男は狂人ですが、正直なのです。嘘を極度に嫌っています。なのに勝利宣言とは……余程の秘策でもあるのでしょうか?」

 アデルが腕を組んだ。

「デリムでの叛乱は、我らアラン傭兵団をも幾度となく窮地に陥れました。少年少女を兵の駒として前線に立たせる下郎であり、偽計を仕掛けたり急所を狙う嗅覚に長けた人物です。ですが、罵詈雑言を放つも事実と違う情報は一切口にしない男でした。それがまるで矜持であるかのように」

 テレサも地獄絵図であったデリム攻略戦を思い出す。

「ノイズは己の力に過信しておるが、失敗しても逃げればいいというしたたかさも持ち合わせている。奴め、今頃どこで俺をほくそ笑んでおるのやら」

 ラインハルト王の眉間に深い皺が寄った。
 ノイズの言葉を反芻しながら、過去の戦いの記憶と照らし合わせ、何か重要な点を見落としていないか必死に考えを巡らせる。

 ラインハルト王が思案する中、テレサがふと思い出したかのように告げる。

「そういえば、陛下が会いたがっていたリョウ・アルバースですが、今はレオノール様と一緒に行動しております」

「ほう? エルフとドワーフと一緒と聞いたから、もしやと思ったがそうであったか。一度森に入ったと聞いていたが戻っていたのだな」

「はい。魔獣との戦闘の真っ只中、赤竜に運ばれて現れました。今回森へと入ったのは、その赤竜に礼と文句を言うためです」

 テレサのその言葉に、ラインハルト王は驚いた。

「赤竜だと?」

「はあ。珍しいですよね。私も驚きました」

 テレサの報告に、ラインハルト王は胸騒ぎの正体はこれだと確信した。

「しまった! ノイズめ、そういうことか!」

 ラインハルト王の叫びにアデルとラシルが驚き、テレサが何事かと問う。

 ラインハルト王は事情を話した。

 話し終えるとラインハルト王は、王都にいる宰相ダリムへ急使を送り、自らは決死隊を編成して人が入れば二度と出れぬという、とこしえの森へと入るのであった。
 
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