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第4章 竜は泉で静かに踊る
第22話 赤竜クリス
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クリスは人の姿で泉に入り、もうすぐ雪が降るであろう森の景色を眺めていた。
身につけるは、自らを死に追いやる首からぶら下がるネックレスのみ。
別にどうだっていいが、ラフィーネでの人間側の完勝には少し驚いた。
丁度いいサンプルとしてリザードマンを置いてみたが、人間側として尽力した亜人に人は大いに感謝し、亜人もまた満更でもない様子で応えた。
それがクリスには理解できない。
人が勝つのは、エルフの里にいたヘンテコな人間や精霊族を運んだために、そうなる結果は想像していた。
だが、全員ズタボロになって意識絶え絶えで、誰に殺されたかわからないような状況になってもらう予定だった。
なので、ブレスでラフィーネを消滅させようと考えた瞬間、間抜けな声で自分を呼ぶローゼに腹が立った。
自分が殺そうとして、なぜ? という顔をされるのを見たくなかったからだ。
何も知らぬまま死ねばよかったのに。
そうすれば、もっと酷い目に遭わないのに。
(そういえば、母さんから聞いたことあったっけ。母さんも若い頃に、東の地で街を消滅させようとしたって。どうなったって言ってたかなあ)
母ドラルゴは、朝と昼が何千回と変わる前に死んだ。
もう二度と会えないのは知っている。
淋しいが、それが命ある者の定めだ。
クリスは泉から夜になった空を眺める。
静かな夜で、ここには魔獣も亜人種も精霊族もいない。
小動物や小鳥がいるぐらいだ。
それなのに、木々が揺れ、来訪者を告げる足音が聞こえてきた。
クリスは泉に入ったまま口にする。
「やあ~、みんな~。どうしたの~?」
知らない少女もいるが、ローゼに似ているなあとクリスは思った。
「よかった。もうクリス! 無言で去らないでよ。ザイルーガは怒ってたよ。俺を置いてくな~って。服は竜に変身して破れたんだよね。ほらリョウ! あっちを向いてて! また裸なんだから! クリスに似合いそうな服も持ってきたんだよ。ラフィーネまで運んでくれたお礼で受け取ってくれるかな?」
ローゼはクリスに服を渡そうと泉に近づいてきた。
「ローゼ、タオルが先です。濡れたままでは風邪を引いてしまいます」
「おお! 美人さんです! 赤く長い髪がとても素敵です! 私も泉に入っていいですか⁉」
「ちょっ⁉ レオノールさん落ち着くっす。もう真冬っすよ。リョウ様もいるんですから脱いじゃ駄目っすよ」
「ふわ~、早くしてよ~。そんじゃ里に帰って寝るわよ~」
ヴィレッタも、レオノールと呼ばれた少女も、フィーリアも、ベレニスも、静かな森を一変させる騒々しさにクリスは微笑んだ。
「ん~。会いに来てくれて嬉しいよ~。でも、もう暗いし帰ったら~?」
「何言ってるの? クリスも一緒に行くの。ここで1人で、ずっといる気なの? エルフの里に居づらいなら、私たちと一緒に旅をするのはどうかな? アハハ、本音を言うと、クリスが旅の仲間に加わると七英雄みたいになるかなって思ったんだ。傭兵に魔女に聖女にエルフにドワーフに剣士に赤竜。全く一緒のパーティ編成になるでしょ? うん、ごめんなさい。ちょっと悪ノリ。でもクリスが一緒なら楽しいかなって。また空も飛んでみたいし」
ローゼの照れ隠しの言い訳に、クリスはクフクフと笑った。
「わたくしはクリスさんの意思を尊重しますが、ずっと森に1人でいるのはお勧めできません。クリスさんは図体は大人でも、まだ子供のようですから」
ヴィレッタの優しさが身に沁みる。
「しょうがないわねえ。私たちの仲間になって、一緒にローゼのお布団で寝る権利をあげるわ!」
「ちょっ⁉ そんな権利なんてないから‼」
ベレニスの冗談が心地良い。
「赤竜の鱗は凄かったっす。人に形態する時とか興味深いっす。是非仲良くなって色々教えて欲しいっす」
フィーリアの探究心に心が揺れる。
「ひーふーみーよーいつむー……おお! 嬉しいです姉様! 私も数に入っているのですね! レオノールと申します! クリスさんこれからよろしくお願いします‼」
レオノールの元気な声に心が温まる。
この人間や精霊族の仲間になる未来は、きっと楽しいだろう。
でも、そんな未来は存在しない。
「リョウはどうなの~? 泉から出ないから振り向いていいよ~」
律儀に後ろ向きのままだった、唯一の男性に問う。
「これも縁だろう。クリスと出会っていなかったらラフィーネの戦いに間に合わなかった。恩には報いたいし、何かを成したいなら、力になると約束しよう」
リョウの言葉に、ローゼたちは力強く頷き、クリスへ視線を集める。
結論を出さないといけない時がきたのだ。
「みんなの気持ちはわかったよ~。ありがとう」
クリスは泉から出た。
リョウの目を慌てて隠すローゼとヴィレッタ。
他の少女たちも「服! その前にタオル!」とあたふたしている中、クリスは告げる。
「服もタオルも要らないよ~。これから竜に戻るから~」
クリスは水を手で掬うと丸め、リョウ目掛けて投げた。
リョウは予期していたのかローゼとヴィレッタを護り、前に出てクリスの攻撃を防いだ。
「クリス⁉」
動揺するローゼの声が泉に響く。
「いいよ~。仲間になっても。……でもそれはリョウが勝ったらね~。他のみんなは手を出しちゃ駄目だよ~」
泉の周りの木々の紅葉が揺れる。
クリスの目が妖しく光り、人の形態から赤竜の姿へと変身した。
周囲の小動物たちが一斉に逃げ出し、森全体が緊張感に包まれた。
「本気みたいね……何? 傭兵が気に食わないってこと⁉」
「何が何だかわかりませんが、力を見せよということですね! 私もお相手します!」
ベレニスもレイピアを構え戦闘態勢に入り、レオノールも二対の剣を手にした。
「リョウ様、ローゼ。回復はわたくしにお任せください!」
「うん……クリス! どういうつもりかは知らないけど、戦いたいなら私たちは相手になるから!」
ヴィレッタもローゼも、リョウの隣で魔力を練りだした。
『う~ん。話聞いてた? そっちが戦うのはリョウだけ。それ以外の参戦は認めない』
赤竜クリスの森を震わせる咆哮に、泉の水が波となりリョウたちに襲いかかる。
「なっ⁉」
波はリョウ以外を飲み込み、戦闘の間合いから引き剥がされ、リョウとクリスだけがその場に残る。
リョウは一瞬の間に状況を把握し、仲間たちの安全を確認すると同時に、クリスとの戦いに向けて心を引き締めた。
その瞳には、戦いへの覚悟と同時に、クリスの真意を探ろうとする鋭い光が宿る。
リョウとクリスが向かい合った瞬間、森全体が息を呑んだかのように静まり返った。
風が止み、木々のざわめきさえ聞こえなくなり、2人の間に張り詰めた緊張感だけが漂っていった。
身につけるは、自らを死に追いやる首からぶら下がるネックレスのみ。
別にどうだっていいが、ラフィーネでの人間側の完勝には少し驚いた。
丁度いいサンプルとしてリザードマンを置いてみたが、人間側として尽力した亜人に人は大いに感謝し、亜人もまた満更でもない様子で応えた。
それがクリスには理解できない。
人が勝つのは、エルフの里にいたヘンテコな人間や精霊族を運んだために、そうなる結果は想像していた。
だが、全員ズタボロになって意識絶え絶えで、誰に殺されたかわからないような状況になってもらう予定だった。
なので、ブレスでラフィーネを消滅させようと考えた瞬間、間抜けな声で自分を呼ぶローゼに腹が立った。
自分が殺そうとして、なぜ? という顔をされるのを見たくなかったからだ。
何も知らぬまま死ねばよかったのに。
そうすれば、もっと酷い目に遭わないのに。
(そういえば、母さんから聞いたことあったっけ。母さんも若い頃に、東の地で街を消滅させようとしたって。どうなったって言ってたかなあ)
母ドラルゴは、朝と昼が何千回と変わる前に死んだ。
もう二度と会えないのは知っている。
淋しいが、それが命ある者の定めだ。
クリスは泉から夜になった空を眺める。
静かな夜で、ここには魔獣も亜人種も精霊族もいない。
小動物や小鳥がいるぐらいだ。
それなのに、木々が揺れ、来訪者を告げる足音が聞こえてきた。
クリスは泉に入ったまま口にする。
「やあ~、みんな~。どうしたの~?」
知らない少女もいるが、ローゼに似ているなあとクリスは思った。
「よかった。もうクリス! 無言で去らないでよ。ザイルーガは怒ってたよ。俺を置いてくな~って。服は竜に変身して破れたんだよね。ほらリョウ! あっちを向いてて! また裸なんだから! クリスに似合いそうな服も持ってきたんだよ。ラフィーネまで運んでくれたお礼で受け取ってくれるかな?」
ローゼはクリスに服を渡そうと泉に近づいてきた。
「ローゼ、タオルが先です。濡れたままでは風邪を引いてしまいます」
「おお! 美人さんです! 赤く長い髪がとても素敵です! 私も泉に入っていいですか⁉」
「ちょっ⁉ レオノールさん落ち着くっす。もう真冬っすよ。リョウ様もいるんですから脱いじゃ駄目っすよ」
「ふわ~、早くしてよ~。そんじゃ里に帰って寝るわよ~」
ヴィレッタも、レオノールと呼ばれた少女も、フィーリアも、ベレニスも、静かな森を一変させる騒々しさにクリスは微笑んだ。
「ん~。会いに来てくれて嬉しいよ~。でも、もう暗いし帰ったら~?」
「何言ってるの? クリスも一緒に行くの。ここで1人で、ずっといる気なの? エルフの里に居づらいなら、私たちと一緒に旅をするのはどうかな? アハハ、本音を言うと、クリスが旅の仲間に加わると七英雄みたいになるかなって思ったんだ。傭兵に魔女に聖女にエルフにドワーフに剣士に赤竜。全く一緒のパーティ編成になるでしょ? うん、ごめんなさい。ちょっと悪ノリ。でもクリスが一緒なら楽しいかなって。また空も飛んでみたいし」
ローゼの照れ隠しの言い訳に、クリスはクフクフと笑った。
「わたくしはクリスさんの意思を尊重しますが、ずっと森に1人でいるのはお勧めできません。クリスさんは図体は大人でも、まだ子供のようですから」
ヴィレッタの優しさが身に沁みる。
「しょうがないわねえ。私たちの仲間になって、一緒にローゼのお布団で寝る権利をあげるわ!」
「ちょっ⁉ そんな権利なんてないから‼」
ベレニスの冗談が心地良い。
「赤竜の鱗は凄かったっす。人に形態する時とか興味深いっす。是非仲良くなって色々教えて欲しいっす」
フィーリアの探究心に心が揺れる。
「ひーふーみーよーいつむー……おお! 嬉しいです姉様! 私も数に入っているのですね! レオノールと申します! クリスさんこれからよろしくお願いします‼」
レオノールの元気な声に心が温まる。
この人間や精霊族の仲間になる未来は、きっと楽しいだろう。
でも、そんな未来は存在しない。
「リョウはどうなの~? 泉から出ないから振り向いていいよ~」
律儀に後ろ向きのままだった、唯一の男性に問う。
「これも縁だろう。クリスと出会っていなかったらラフィーネの戦いに間に合わなかった。恩には報いたいし、何かを成したいなら、力になると約束しよう」
リョウの言葉に、ローゼたちは力強く頷き、クリスへ視線を集める。
結論を出さないといけない時がきたのだ。
「みんなの気持ちはわかったよ~。ありがとう」
クリスは泉から出た。
リョウの目を慌てて隠すローゼとヴィレッタ。
他の少女たちも「服! その前にタオル!」とあたふたしている中、クリスは告げる。
「服もタオルも要らないよ~。これから竜に戻るから~」
クリスは水を手で掬うと丸め、リョウ目掛けて投げた。
リョウは予期していたのかローゼとヴィレッタを護り、前に出てクリスの攻撃を防いだ。
「クリス⁉」
動揺するローゼの声が泉に響く。
「いいよ~。仲間になっても。……でもそれはリョウが勝ったらね~。他のみんなは手を出しちゃ駄目だよ~」
泉の周りの木々の紅葉が揺れる。
クリスの目が妖しく光り、人の形態から赤竜の姿へと変身した。
周囲の小動物たちが一斉に逃げ出し、森全体が緊張感に包まれた。
「本気みたいね……何? 傭兵が気に食わないってこと⁉」
「何が何だかわかりませんが、力を見せよということですね! 私もお相手します!」
ベレニスもレイピアを構え戦闘態勢に入り、レオノールも二対の剣を手にした。
「リョウ様、ローゼ。回復はわたくしにお任せください!」
「うん……クリス! どういうつもりかは知らないけど、戦いたいなら私たちは相手になるから!」
ヴィレッタもローゼも、リョウの隣で魔力を練りだした。
『う~ん。話聞いてた? そっちが戦うのはリョウだけ。それ以外の参戦は認めない』
赤竜クリスの森を震わせる咆哮に、泉の水が波となりリョウたちに襲いかかる。
「なっ⁉」
波はリョウ以外を飲み込み、戦闘の間合いから引き剥がされ、リョウとクリスだけがその場に残る。
リョウは一瞬の間に状況を把握し、仲間たちの安全を確認すると同時に、クリスとの戦いに向けて心を引き締めた。
その瞳には、戦いへの覚悟と同時に、クリスの真意を探ろうとする鋭い光が宿る。
リョウとクリスが向かい合った瞬間、森全体が息を呑んだかのように静まり返った。
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