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第4章 竜は泉で静かに踊る
第28話 ノイズ・グレゴリオ(前編)
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「へえ? ワニさんは戦闘に加勢しないんじゃなかったのか」
「ワニじゃねえ……リザードマンだ。リザードマンの誉れ高き戦士ザイルーガだ。……覚えて……おけ」
ノイズが2人目の鮮血を噴き上げさせたのは、ヴィレッタではなかった。
ノイズの剣がヴィレッタを斬り裂く寸前に、ザイルーガが間に立ったのだった。
リョウがノイズの背へ剣を振り、剣を重ね合わせ斬撃が始まる中、私たちは倒れているクリスとヴィレッタ、それにザイルーガのもとに駆け出す。
ザイルーガは見るも無惨な姿だった。
「クリスさんはまだ息があります!」
「ヴィレッタも大丈夫よ! 気絶しただけ!」
レオノールとベレニスの報告に安堵はするが……
「ザイルーガ! なんで⁉」
「誇りと……意地よ」
ザイルーガの目から光が消えていった。
生きる者に等しく訪れる、終わりの証。
何……これ?
どうしてこうなった?
エルフたちも、弓を構えノイズに連射する。
リザードマンたちも、遠吠えを上げながら武器を構えてノイズへ突進した。
「ありゃりゃ、テメエらに触発でもされたんかねえ。つまりワニさんの死はテメエらが原因。リョウを置いて、とっとと逃げればよかったのになあ。ぷぷぷ、思い出すなあリョウ。デリムで俺がガキどもを皆殺しにした時の光景をよぉ」
リョウが正面から、左右からリザードマンの戦士たちが、背後からエルフたちの弓矢がノイズを捉えた。
だが血飛沫を上げたのはノイズ以外だった。
攻撃を躱すや剣でリザードマンたちを切り裂き、複数の短剣がエルフたちを射抜いた。
リョウは飛ばされ大地に叩きつけられ、うずくまっていた。
「よくも……!」
ベレニスが激昂しながら風魔法を纏い、レイピアで突進した。
「駄目! ベレニス!」
私は魔法を発動し、ベレニスとノイズの間に強靭な防御結界を施す。
だが……無意味だった。
私の結界をいとも簡単に破ったノイズは、ベレニスのレイピアを弾き、腹部へと横薙ぎに一閃した。
「ベレニス‼」
「カハッ……」
だが、その直前にリョウが剣の鞘をベレニスに投げ、吹き飛ばして難を逃れさせたのだ!
ノイズの剣は空を切った。
「おお? 今のは面白えぜリョウ。しかしいいのか? この長耳娘ちゃん、今のはかなりの大ダメージだぜ? 恨むんじゃねえかぁ? 起き上がってこねえぞ~?」
そう、ノイズの言う通り、リョウのおかげでベレニスは助かったものの、激重のリョウの剣を納める鞘が猛スピードで当たったのだ。
下手したら骨が砕け内臓もヤバいかもしれない。
……それでも生きている!
「ベレニスさんは、リョウ様に感謝こそすれ恨まないっすよ。あんたに殺されなかっただけマシっす」
「まあでも、ベレニスさんの性格ですから師匠を何千発かは後でぶん殴りそうですね! 早くその瞬間に持っていきたいです!」
フィーリアとレオノールの発言に、リョウも「そうだな」と短く呟いた。
「ノイズ・グレゴリオ……大体意図が読めたっす。とこしえの森に瘴気を広げ、ラフィーネを攻撃させたのは魂を回収するためっすね。ただ人間の死者が少なかったのが誤算だった。さらにクリスさんの盟約も覆された。だから現れたんじゃないんすか? 人間の犠牲者を少なくした存在がリョウ様と知って、今後の邪魔もされないために!」
フィーリアの推理を、ノイズは無精髭を擦りながら聞いていた。
「そうか……邪教『真実の眼』、その目的は死を多く振りまくこと! その死は、六賢魔と呼ばれる魔女たちの何らかの実験に使われる。禁忌の魔法の多くが、死んだ魂を使うというのは私も知っている! 許せない……どんな実験をしていようが、人も魔獣も、命はあなたたちのおもちゃじゃない!」
そう私が叫ぶと、ノイズはニヤリと嗤った。
「フッフッフ、ハッハッハ! こいつは愉快だ! 許せない? 無力で無知なガキが言うとはとんだお笑いだぜ! 当たっているよ! だからなんだ! 魔獣の魂は全部魔女のババアどもに献上済みよ! だがよ、ババアどもは赤竜を使う策すら破ったリョウに怒り心頭よ。だから俺がこうして出向いたんだぜぇ? 俺がリョウと一緒に、ごめんなさいって言えばババアどもも許してくれるだろうさあ。……魔女と聖女は殺すなって言われていたが、死体を持って帰れば怒られんだろ」
狂気が、残虐が、憎悪が、ノイズに充満する。
「フィーリア! レオノール! リョウの援護に徹して! ……リョウ!」
私の短い言葉、それでも伝わる。
私の意思を。私たちの想いが。
「元王女に、ハルトの娘の王女、それとくっそ頭がキレる小人のちびっ子。さあて、何かするんなら試してみな?」
私たちを蟻でも見るようにノイズは見下す。
リョウの剣が、フィーリアの魔導具とレオノールの二対の剣が、ノイズの動きを狭める。
私は意識を集中する。
機会は一度だ。
絶対確実に魔法で仕留める。
幾度か放った魔法は全て躱されているが、それは直撃すれば、ノイズもヤバいと本能的に感じているからだろう。
なら、確実に当てる!
生命力を燃やせ。魔力に変換しろ。
想いを力に、無念を力に!
私が魔法を放つ瞬間、リョウたちが今だと言わんばかりに、ノイズから距離を取ってくれる。
「あん? ……ぐおおおおおおおおおおおお」
ノイズの全身に炎を浴びせてやる!
もっとだ。一気に決めてやる‼
私は魔力を解き放つ!
「うわああああああああ! 熱い熱いいいいいいい!」
炎に包まれたまま、踊るようにノイズは悶える。
まだだ! これも喰らえ‼
紅蓮の炎に包まれたノイズに、さらなる炎を浴びせ続ける!
「ぎゃああああああああ!」
やったか⁉
膝から崩れるノイズの首を刎ねるべく、リョウが剣を振り下ろした。
「なんてな」
一転、私の眼前にリョウの背中があって直撃し、私も地面へと吹き飛ばされた。
何……が? 立ち込める煙の中、ノイズは余裕の笑みで立っていた。
「悪いねえ。俺、テメエごときの魔法は効かんのよ」
「グッ……ローゼすまん」
リョウは立ち上がり、私を護るべく剣を構えた。
私の魔法の直撃を喰らったにもかかわらず、ノイズはピンピンしている。
障壁? いや、そんなものはない。
嘘……私の魔法が効かない?
「ハッハッハ! 魔女ちゃんいい顔するねえ。今まで随分楽に生きてきてたんだなあ! 戦いも余裕余裕で勝ってきて『私ってすご~い』とでも勘違いしていたか? 『私たち英雄みた~い』なんて自惚れてたか? ハッ! おめでたいねえ! 本当の戦争も知らねえクソガキがよ!」
レオノールとフィーリアが、私の身体を起こしに側に来てくれた。
「姉様!」
「まずいっすね。あの黒ピカの鎧、魔法を無力化する魔導具っすね。とんでもない代物っす。……それに強さが異常っす。七剣神の肩書以上と思うべきっすね」
「……俺が引きつける。脱出しろ。その分の時間は稼ぐ」
リョウがノイズを睨みながら言ってきた。
逃げる? ……冗談じゃない。
ヴィレッタ、ベレニス、クリス。
それにザイルーガたちリザードマンや、クーリンディアさんやララノアさんたちエルフ。
みんなが倒れているのに……放置して逃げられるわけがない。
まだ息をしている者もいるんだ。
助けられる命を……私たちの我儘が招いた結果のここから逃げられるか。
私はみんなを助けたい! だからまだ、まだ諦めない!
……その時だった。
「ローゼさん! 炎魔法は……森が……」
息も絶え絶えなのに、懸命に振り絞るララノアさんの声が届いてきた。
ハッとして私は思い出す。
とこしえの森では、炎魔法を使うなとベレニスから言われていたことを。
突如、周囲の木々が不気味に揺れ始めた。
無数の蔦が地面から這い出し、生き物の如く蠢きながら私たちに絡みついてくる。
森全体が意思を持ったかのように、異様な空気が漂い始めた。
「姉様! おわっ⁉」
「くっ! しまったっす」
レオノールとフィーリアにも木の蔦は絡みつき、リョウも抵抗するが、剣すら動かせないほど蔦が絡まっていた。
「おいおいおい、とんでもねえ結末にすんじゃねえよ。とこしえの森さんよぉ」
ノイズは蔦を斬ろうとするが、蔦は意志を持つかのように不気味に避け、消え、現れて私たちだけに絡みつく。
そして私たちを宙へと吊り上げた。
リョウは必死に蔦に抵抗しているが……蔦の力が強まっていくのがわかる。
森が私たちを排除しに動く。
私の炎魔法が、とこしえの森の逆鱗に触れたのだ。
仲間たちの声が、まるで遠くから聞こえるエコーのように薄れていく。
最後に見えたのは、ノイズの唖然とした表情だった。
息もままならぬまま、私たちは森の木々の中へと消えたのであった。
「ワニじゃねえ……リザードマンだ。リザードマンの誉れ高き戦士ザイルーガだ。……覚えて……おけ」
ノイズが2人目の鮮血を噴き上げさせたのは、ヴィレッタではなかった。
ノイズの剣がヴィレッタを斬り裂く寸前に、ザイルーガが間に立ったのだった。
リョウがノイズの背へ剣を振り、剣を重ね合わせ斬撃が始まる中、私たちは倒れているクリスとヴィレッタ、それにザイルーガのもとに駆け出す。
ザイルーガは見るも無惨な姿だった。
「クリスさんはまだ息があります!」
「ヴィレッタも大丈夫よ! 気絶しただけ!」
レオノールとベレニスの報告に安堵はするが……
「ザイルーガ! なんで⁉」
「誇りと……意地よ」
ザイルーガの目から光が消えていった。
生きる者に等しく訪れる、終わりの証。
何……これ?
どうしてこうなった?
エルフたちも、弓を構えノイズに連射する。
リザードマンたちも、遠吠えを上げながら武器を構えてノイズへ突進した。
「ありゃりゃ、テメエらに触発でもされたんかねえ。つまりワニさんの死はテメエらが原因。リョウを置いて、とっとと逃げればよかったのになあ。ぷぷぷ、思い出すなあリョウ。デリムで俺がガキどもを皆殺しにした時の光景をよぉ」
リョウが正面から、左右からリザードマンの戦士たちが、背後からエルフたちの弓矢がノイズを捉えた。
だが血飛沫を上げたのはノイズ以外だった。
攻撃を躱すや剣でリザードマンたちを切り裂き、複数の短剣がエルフたちを射抜いた。
リョウは飛ばされ大地に叩きつけられ、うずくまっていた。
「よくも……!」
ベレニスが激昂しながら風魔法を纏い、レイピアで突進した。
「駄目! ベレニス!」
私は魔法を発動し、ベレニスとノイズの間に強靭な防御結界を施す。
だが……無意味だった。
私の結界をいとも簡単に破ったノイズは、ベレニスのレイピアを弾き、腹部へと横薙ぎに一閃した。
「ベレニス‼」
「カハッ……」
だが、その直前にリョウが剣の鞘をベレニスに投げ、吹き飛ばして難を逃れさせたのだ!
ノイズの剣は空を切った。
「おお? 今のは面白えぜリョウ。しかしいいのか? この長耳娘ちゃん、今のはかなりの大ダメージだぜ? 恨むんじゃねえかぁ? 起き上がってこねえぞ~?」
そう、ノイズの言う通り、リョウのおかげでベレニスは助かったものの、激重のリョウの剣を納める鞘が猛スピードで当たったのだ。
下手したら骨が砕け内臓もヤバいかもしれない。
……それでも生きている!
「ベレニスさんは、リョウ様に感謝こそすれ恨まないっすよ。あんたに殺されなかっただけマシっす」
「まあでも、ベレニスさんの性格ですから師匠を何千発かは後でぶん殴りそうですね! 早くその瞬間に持っていきたいです!」
フィーリアとレオノールの発言に、リョウも「そうだな」と短く呟いた。
「ノイズ・グレゴリオ……大体意図が読めたっす。とこしえの森に瘴気を広げ、ラフィーネを攻撃させたのは魂を回収するためっすね。ただ人間の死者が少なかったのが誤算だった。さらにクリスさんの盟約も覆された。だから現れたんじゃないんすか? 人間の犠牲者を少なくした存在がリョウ様と知って、今後の邪魔もされないために!」
フィーリアの推理を、ノイズは無精髭を擦りながら聞いていた。
「そうか……邪教『真実の眼』、その目的は死を多く振りまくこと! その死は、六賢魔と呼ばれる魔女たちの何らかの実験に使われる。禁忌の魔法の多くが、死んだ魂を使うというのは私も知っている! 許せない……どんな実験をしていようが、人も魔獣も、命はあなたたちのおもちゃじゃない!」
そう私が叫ぶと、ノイズはニヤリと嗤った。
「フッフッフ、ハッハッハ! こいつは愉快だ! 許せない? 無力で無知なガキが言うとはとんだお笑いだぜ! 当たっているよ! だからなんだ! 魔獣の魂は全部魔女のババアどもに献上済みよ! だがよ、ババアどもは赤竜を使う策すら破ったリョウに怒り心頭よ。だから俺がこうして出向いたんだぜぇ? 俺がリョウと一緒に、ごめんなさいって言えばババアどもも許してくれるだろうさあ。……魔女と聖女は殺すなって言われていたが、死体を持って帰れば怒られんだろ」
狂気が、残虐が、憎悪が、ノイズに充満する。
「フィーリア! レオノール! リョウの援護に徹して! ……リョウ!」
私の短い言葉、それでも伝わる。
私の意思を。私たちの想いが。
「元王女に、ハルトの娘の王女、それとくっそ頭がキレる小人のちびっ子。さあて、何かするんなら試してみな?」
私たちを蟻でも見るようにノイズは見下す。
リョウの剣が、フィーリアの魔導具とレオノールの二対の剣が、ノイズの動きを狭める。
私は意識を集中する。
機会は一度だ。
絶対確実に魔法で仕留める。
幾度か放った魔法は全て躱されているが、それは直撃すれば、ノイズもヤバいと本能的に感じているからだろう。
なら、確実に当てる!
生命力を燃やせ。魔力に変換しろ。
想いを力に、無念を力に!
私が魔法を放つ瞬間、リョウたちが今だと言わんばかりに、ノイズから距離を取ってくれる。
「あん? ……ぐおおおおおおおおおおおお」
ノイズの全身に炎を浴びせてやる!
もっとだ。一気に決めてやる‼
私は魔力を解き放つ!
「うわああああああああ! 熱い熱いいいいいいい!」
炎に包まれたまま、踊るようにノイズは悶える。
まだだ! これも喰らえ‼
紅蓮の炎に包まれたノイズに、さらなる炎を浴びせ続ける!
「ぎゃああああああああ!」
やったか⁉
膝から崩れるノイズの首を刎ねるべく、リョウが剣を振り下ろした。
「なんてな」
一転、私の眼前にリョウの背中があって直撃し、私も地面へと吹き飛ばされた。
何……が? 立ち込める煙の中、ノイズは余裕の笑みで立っていた。
「悪いねえ。俺、テメエごときの魔法は効かんのよ」
「グッ……ローゼすまん」
リョウは立ち上がり、私を護るべく剣を構えた。
私の魔法の直撃を喰らったにもかかわらず、ノイズはピンピンしている。
障壁? いや、そんなものはない。
嘘……私の魔法が効かない?
「ハッハッハ! 魔女ちゃんいい顔するねえ。今まで随分楽に生きてきてたんだなあ! 戦いも余裕余裕で勝ってきて『私ってすご~い』とでも勘違いしていたか? 『私たち英雄みた~い』なんて自惚れてたか? ハッ! おめでたいねえ! 本当の戦争も知らねえクソガキがよ!」
レオノールとフィーリアが、私の身体を起こしに側に来てくれた。
「姉様!」
「まずいっすね。あの黒ピカの鎧、魔法を無力化する魔導具っすね。とんでもない代物っす。……それに強さが異常っす。七剣神の肩書以上と思うべきっすね」
「……俺が引きつける。脱出しろ。その分の時間は稼ぐ」
リョウがノイズを睨みながら言ってきた。
逃げる? ……冗談じゃない。
ヴィレッタ、ベレニス、クリス。
それにザイルーガたちリザードマンや、クーリンディアさんやララノアさんたちエルフ。
みんなが倒れているのに……放置して逃げられるわけがない。
まだ息をしている者もいるんだ。
助けられる命を……私たちの我儘が招いた結果のここから逃げられるか。
私はみんなを助けたい! だからまだ、まだ諦めない!
……その時だった。
「ローゼさん! 炎魔法は……森が……」
息も絶え絶えなのに、懸命に振り絞るララノアさんの声が届いてきた。
ハッとして私は思い出す。
とこしえの森では、炎魔法を使うなとベレニスから言われていたことを。
突如、周囲の木々が不気味に揺れ始めた。
無数の蔦が地面から這い出し、生き物の如く蠢きながら私たちに絡みついてくる。
森全体が意思を持ったかのように、異様な空気が漂い始めた。
「姉様! おわっ⁉」
「くっ! しまったっす」
レオノールとフィーリアにも木の蔦は絡みつき、リョウも抵抗するが、剣すら動かせないほど蔦が絡まっていた。
「おいおいおい、とんでもねえ結末にすんじゃねえよ。とこしえの森さんよぉ」
ノイズは蔦を斬ろうとするが、蔦は意志を持つかのように不気味に避け、消え、現れて私たちだけに絡みつく。
そして私たちを宙へと吊り上げた。
リョウは必死に蔦に抵抗しているが……蔦の力が強まっていくのがわかる。
森が私たちを排除しに動く。
私の炎魔法が、とこしえの森の逆鱗に触れたのだ。
仲間たちの声が、まるで遠くから聞こえるエコーのように薄れていく。
最後に見えたのは、ノイズの唖然とした表情だった。
息もままならぬまま、私たちは森の木々の中へと消えたのであった。
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