【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ

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第4章 竜は泉で静かに踊る

第27話 〜そして〜 全滅へ

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 ―大陸暦1112年―

 パルケニア王国南部デリム城。
 ここは隣国レアード王国との国境であるため、要塞化された高い城壁が特徴的である。

 デリム領主が叛乱を起こして7年が経過した。
 2年前にレアード王国に亡命し、すでに処刑されパルケニア王国に引き渡されている。

 だが叛乱は終わらなかった。
 パルケニア王国公爵家にして将軍職の人物がデリム城で全権を握り、少年兵を率いて抵抗を継続していたからだ。

「リョウ、俺は決めた。今日の戦いで撤退しないで死ぬわ」

 起きたリョウに、いの一番に開口したのはマサトだ。
 その眼には決意が宿っていた。

 デリム城の生き残りは、もはや100名足らずだ。
 少年兵の誰しもが、陥落が目前であると自覚している。
 それでも絶望していないのは、父に等しきノイズへの信頼感からだ。

「昨日、トーマが死んで、父さん号泣しただろ? 俺にも、そんなふうに泣いてもらいたいのさ」

 マサトは朝が来る空を澄んだ眼で見つめた。
 食糧も底をついている。

 ノイズは食事も自分を優先させず、少年兵たちと平等に分け合った。
 その事実が、少年兵たちは空腹感を覚えながらも心は満たされるのだ。

 少年兵たちはノイズを父と呼び、ノイズも満更でもない面持ちで笑顔を見せた。

「俺も、そうしよう」

 リョウも空を見上げ、決意した。
 5歳頃に突然連行され、デリム城で訓練兵として正規兵から虐待された過去。
 ノイズに救われ、剣の持ち方から教わり少年兵として戦った2年間。

 12歳になった今、特に思い残すことはない。
 昨日のトーマの死で、リョウと同年齢はマサトだけとなった。
 人として扱ってくれたノイズのために死のう。
 それだけが唯一の生きがいなのだから。

「マサト、リョウ。父さんが呼んでいる。今日の作戦だろう」

 生き残っている最年長の少年に呼ばれ、2人は瓦礫広がる城壁を歩いていった。

 生き延びている全員が揃う。
 五体満足の者も少ない。片腕や片足、片目を欠損している者が大半だ。

「揃ったな!」

 ノイズの力強い声が響き渡る。
 誰もがノイズに心酔し、ノイズのために死ぬ瞬間を待ち望んでいるのだ。
 一言一句聞き逃すまいと集中する。

「みんな、よく戦ってくれた。俺たちの戦いは歴史の転換点となるだろう。全員、騎士でも貴族でもない、ただデリム近隣に産まれ巻き込まれただけの存在だ。それなのに、パルケニア王国の正規軍を何度も壊滅させた。誇っていい。みんな、最高の戦士だ!」

 ノイズの演説に、胸が高鳴った。
 俺は……俺たちは最強だ! ノイズと共に歴史を作っているんだ。

 ノイズは目を瞑り、息を吸い込み、両手を広げた。
 その姿は、まさに少年たちを導く救世主のようだ。

 希望と勇気がリョウの胸に湧いてきた。

「父さん! 今日の先陣は俺とリョウがやります!」

 マサトが立ち上がり叫び、リョウも頷くが、ノイズは手で制した。

「……昨日の戦いで、この7年に及ぶ死者は10万になったんだ」

 目を瞑ったままのノイズの声に、少年兵たちは、多くの者が死んだこと、そして自分たちも多くの敵を殺してきたことを改めて認識し誇らしく感じた。

 ……次の一言を聞くまで。

「実験は成功だ。お前らもう死んでいいぜ」

 ノイズの目の前にいた少年兵数人の首が飛んだ。

 何が起こったのか?
 父と呼び慕っていたノイズが、どうして俺たちを殺す?

 絶句したまま殺される者、悲鳴を上げ混乱したまま殺される者、逃げようと背中を見せて殺される者。
 同じなのはノイズに殺されるという点のみ。

「何が……? 父さん」

 そう呟いたマサトの首が飛んだ。
 マサトの瞳は信じられないほどの絶望の色で染まっていた。
 それは、まるで、リョウへの最後のメッセージのように。

「うあああああああああああああああ!」

 リョウは思考を一点に集中させる。
 ノイズを殺し、仲間を……これ以上殺させてなるものかと剣に力を込めて。

 ノイズの顔面に向けて放った剣閃は空を斬り、リョウは腹部に強烈な痛みを感じ、血飛沫を噴出しているのがわかった。

 身体よ……動け。仲間を……殺されてなるものか。
 父とまで慕った奴の凶行を許してなるものか。

 視界が赤く染まるリョウが耳にするのは、仲間たちの断末魔とノイズの高笑い。
 冷酷で、残酷で、無慈悲な笑い声だ。

 やがて音は聞こえなくなり、目にするのは闇のみとなった。

 ***

 ―大陸暦1117年11月―

 とこしえの森最深部。

「あの人間! ペンダントを巻きつけたのはあいつだよ!」

 クリスの叫び声に、私たちも武器を構えた。

 こいつがクリスを……とこしえの森を瘴気に染めた張本人か!
 なら倒すのみ!

「雑魚が群れてママゴトかぁ? ハハハ、そんな目をすんなよ。俺は戦いに来たんじゃねえよ。聞いただろ? 俺の賛辞の拍手をよぉ!」

 リョウの斬撃は凄まじい風圧を伴い、ノイズの剣に激しくぶつかった。
 金属のぶつかり合う音は、森全体に響き渡り、鳥たちの悲鳴がこだまする。

 ノイズはリョウの斬撃を余裕で捌きながら、ニヤニヤと嗤う。

「おのれ! みんなの仇! 必ずここで貴様を倒す!」

「まあそう言うなよ。おっと、長耳どもに、二足歩行のワニども、動くなよ? そっちの女たちもだ。動けば皆殺しにするぜ。なあに、動かなければ俺は用事を済ませて帰るからよ」

 リョウの一撃を首の皮一枚で避けつつ、ノイズは嗤い続ける。

「用事だと?」

 斬撃が重なる金属音の響く中、リョウは怒声を発した。

「お前を連れて帰るだけだ。それで誰も死なないハッピーエンド。な? いい話だろ?」

 ノイズはリョウを吹き飛ばして指差しながら、まるで当然のように言った。

 私は嫌な予感がしてならない。
 こいつの笑みは全てが悪意に満ちている!

「連れてくだと? 面白い。俺はそれで構わん! ここで貴様と地獄に落ちるぞノイズ!」

 リョウは立ち上がりノイズへ剣を振り下ろすが、また剣戟音が鳴るだけであった。

「ムムッ……わかった。我らエルフは手を引こう」

「クーリンディア! ……くっ!」

「……ベレニス様にもわかるはず。あの人間はおかしい。条件がリョウだけなら、森の民は関与すべきではないと」

 クーリンディアさんの言葉に激怒するベレニスだが、エルフたちの表情で二の句を継げない。
 エルフたちはノイズに怯えているのだ。
 クリスを初めて見たときの比ではない絶望が、クーリンディアさんやララノアさんたちの表情に浮かんでいた。

「ちっ! あんたらには悪いが……リザードマンの我らも手を引かせてもらう。奴は危険だと本能が告げている!」

 ザイルーガも震えながら、率いるリザードマンたちに戦いの不参加を宣言した。

 ……何故こんな状況に? ハッピーエンド……?

 この男が出てこなければそうだった。
 でも、こいつはリョウを……

「アッハッハッハ、リョウよ。そうツンケンすんなって。言うことを聞かねえなら、俺を睨んで隙を見てテメエに加勢しようとしている女を1人ずつ殺そうか?」

「何⁉」

 リョウは弾き返される反動を利用して、私たちの前まで後退してくる。

「早く行け! こいつの用は俺だ‼」

「ふざけないで! 私はどこにも行かない。リョウと戦う!」

 冗談じゃない! 私の足は動く!

「傭兵ってホント、バカね。私たちがあんたの言うことを聞くわけないわ!」

 ベレニスも声を震わせながら叫ぶ。

「ノイズは何か意図があるように思えるっす。みすみす乗っかっては駄目っすよ、リョウ様」

 フィーリアは冷静だ。でも手が震えているのがわかった。

「仲間の危機に黙って見ているなんてできません! 師匠! 私も協力します!」

 レオノールは二対の剣を震わせながら気合を入れる。

「前に負けてペンダントで縛られた時とは違う。護る戦いを見せてやる」

 クリスが赤い目を輝かせ、私たちを守るように前へと出た。

「リョウ様! 傷が! 早く回復を!」

 ヴィレッタは全身を震わせていても、自らができることを必死に行おうとしていた。

 そんな私たちの声、それは決意の証。
 リョウは顔を歪め、剣を握り締める。

 すると……ノイズの高笑いが静寂の森に響き渡った。

「リョウよぉ。いい人生送っているじゃねえか。俺に感謝しろよ? ただの農奴の生まれだ。俺が叛乱しなけりゃ、今頃畑を耕す日々で、たまに街に出稼ぎに行く程度だったろうさ。育ちも良くて、教養もありそうな女に囲まれて、羨ましいねえ」

 ノイズはニヤニヤと嗤いながら剣を構えた。

 そして……リョウが斬りかかると同時に、私たちも武器を手に駆け出した!

 刹那。ヴィレッタの眼前にノイズは短剣を投げた。

「なっ! ヴィレッタ!」

 驚いて悲鳴をあげる私だったが、寸前で気づいたリョウが後退して弾き飛ばし、ヴィレッタは無事だった。

「最初の犠牲者にわたくしを選びましたか。……よろしいでしょう。戦闘にお役に立てないわたくしです! 避けることに集中しましょう!」

 震える声だが、ヴィレッタは気丈に振る舞った。

「クリスはヴィレッタを護って! ベレニスはフィーリアと行動! レオノールは私と一緒に……⁉」

 言い終わる前に、私の頬をノイズが放った短剣が掠めた。

 ヴィレッタの護りを固めたら次は私が標的か!
 でもそれは好都合だ。とことんやってやる!

「後衛から狙うとは卑怯ですな! 師匠! 姉様は私が護りますので御安心を!」

 そんなレオノールの挑発にノイズは爆笑した。

「後衛とかではない! ヴィレッタとローゼは回復魔法が使える! 医者や薬のある陣地から潰す。……それがノイズのやり口だ! お前たちは絶対手を出すな!」

 リョウの叫びにノイズは正解正解と満悦至極の拍手を、またしてきた。

「少年兵を率いて、パルケニアの正規軍と戦った日々を思い出すぜ。リョウはよく働いてくれたっけなあ。なあ、リョウ?」

「黙れ! こいつらに手出しはさせん!」

 リョウの一撃がノイズへと再び放たれ、剣と剣が火花を散らす。

 そこへフィーリアが操る魔導具の煙幕がノイズの視界を遮り、ベレニスの風魔法が、レオノールの剣撃と噛み合うように飛び交った。

 だが、3人の連携攻撃をノイズは余裕で躱した。
 だけど……端からそのつもり!

「リョウ!」

 私の声に呼応して、リョウたちが後ろへ飛んだ。
 そこへ私が渾身の魔力弾をノイズへ放つ!
 決まれ! お願い!

 だがノイズは、それすらも躱し、ヴィレッタを仕留めるべく動いてしまった。

「させるか!」

「邪魔だ、赤竜。つーか、なんで人の形しているんだ?」

 唯一、ヴィレッタの側にいたクリスがノイズに殴りかかるも、ノイズの剣がクリスの腹部を薙ぎ払い、赤い鮮血が舞った。

 私も、リョウも、ベレニスも、レオノールも、フィーリアも、距離を離されてしまっていた。

 全員が、倒れていくクリスと、ノイズに攻撃される寸前のヴィレッタへと走る。

 ヴィレッタは目を見開き、確固たる意志を叫ぶ。

「わたくしの死で隙が作れるなら本望です!」

 ヴィレッタは瞳を大きく見開いて、ノイズを見据えていた。
 彼女の顔に恐怖の表情はない。
 代わりに静かで強い決意が宿っている。
 まるで、自らの命を捧げる覚悟を決めた聖女のように。

 駄目! ヴィレッタまでやられる!
 私は駆けながら魔法障壁をヴィレッタに放つも、目に映るのは鮮血と、崩れてゆくヴィレッタの身体。

 そのノイズの背後へ、吠えながら向かうリョウ。
 ノイズの狂気を含んだ嗤い声は、まるで巨象が蟻を踏み潰しているかのようだった。
 
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