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第5章 籠の中の鳥
第6話 練兵場
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王都リオーネの練兵場は、王と宰相の視察というのもあって、兵たちには緊張感が走っていた。
先日の魔獣とレアード王国との戦は、ファインダ王国の勝利に終わったとはいえ、兵たちも気合を入れて訓練に励んでいる。
練兵場には汗と鉄の匂いが漂い、兵士たちの息遣いや掛け声が響いていた。
地面には無数の足跡が刻まれ、激しい訓練の痕跡を物語っている。
空には白い雲が浮かび、時折吹く風が兵士たちの汗ばんだ肌を冷やしていった。
遠くには王都リオーネの壮麗な城壁が見え、その威容が練兵場の緊張感をさらに高めていた。
この訓練に、ファインダ王国の騎士や兵でない者が2人参加している。
休憩となり、近衛隊長のアレックス・シオーレンが金髪の貴公子に相応しい毅然とした仕草で、アラン傭兵団の傭兵、リョウ・アルバースに話しかけた。
リョウは宰相の娘、クリスに剣の持ち方を指南していた。
「クリス嬢は武器を持つのが初めてのようだが、身体能力がずば抜けているな。すぐに並の兵士を凌駕しそうだ。さすがはダリム宰相閣下の娘だ」
ていやーと、剣をブンブン振っているクリスを目にしながらアレックスは言った。
「ええ、きっと俺より強い剣士となるでしょう」
「謙遜するな。リョウ殿の腕前には並大抵の努力ではなれまい。……ときにリョウ殿。この私と模擬戦をしてみないか?」
アレックスは槍を振りながらリョウに提案した。
リョウは少し驚いたが、二つ返事で了承する。
休憩中の兵たちは、2人の突然の対決に、こぞって前のめりで見つめる。
「ほう、俺も参加したいぞ」
「ガッハッハ、ラインハルトよ、それは無粋というものじゃ。にしてもアレックスめも直情な男よの。あいつ絶対儂の策で、とこしえの森ではなくレアード戦に向かわされたことを根に持っているぞ。自分がラインハルトの側にいれば、リョウなんぞいなくてもノイズを討ち倒したと思ってそうじゃ」
ダリムの豪快な笑い声が練兵場に響き渡る。
その威圧的な存在感と、どこか憎めない人柄が、周囲の緊張を和らげていた。
「聞こえていますぞ宰相閣下! 私は純粋に、リョウ殿と戦ってみたいだけです!」
ありゃ聞こえておったわい、とダリムはペロリと舌を出した。
「ほれ、詫びで儂が審判をやろう。時間は休憩終わりの残り5分間。始め!」
その声で模擬戦はスタートした。
開始直後、リョウは唐竹に一閃し、アレックスはそれを受け止めた。
(ほう! これはなかなかの剛剣)
受け止めてニヤリと笑い、リョウへカウンター気味に槍を振り下ろすアレックス。
リョウが受け止め、鍔迫り合いとなり、互いに弾かれるように距離を取る。
今度はアレックスからリョウへ仕掛ける。
上段から振り下ろされた槍をリョウは受け流し、その勢いのまま回転し、横薙ぎの一閃を繰り出す。
しかし読んでいたのか、アレックスは受け止めた。
リョウの剣とアレックスの槍がぶつかり合う度に、火花が散った。
金属のぶつかる鋭い音が練兵場中に響き渡り、見物人たちの息を呑む音さえ聞こえるほどだった。
2人の動きは目にも留まらぬ速さで、その姿は風のように練兵場を駆け巡っていた。
伯仲する2人の戦いに、兵たちからは歓声が上がっていった。
「ま~た、リョウが戦っている」
「リョウ様は、そういう星の下に生まれたかのようですね。まったく、ローゼを困惑させるなんて、リョウ様にはまたお説教をしなくてはなりません!」
ローゼとヴィレッタが手作りサンドイッチを持って、練兵場へやって来たのであった。
「ん~、いいんじゃない? リョウもあの人も楽しそうだし」
クリスはサンドイッチを頬張りながら、ニコニコして2人へ告げた。
たしかにそうだった。
リョウとアレックスの2人は、どちらも好敵手を見つけたような笑みを浮かべている。
剣と槍のぶつかり合いから、再び鍔迫り合いとなる。
力で押していたリョウだが、アレックスは受け流し、腹部へと蹴りを叩き込む。
吹き飛ぶリョウを追撃するアレックスだったが、着地するリョウは追撃の一手を捌くや、逆に鋭い一撃を放ちアレックスを飛び退かせた。
2人は仕切り直す。
「それまで! さあさあ、休憩終わりよ! グラー将軍! アーロン将軍! 訓練の続きをせい! アーロン将軍! 次はレアードの戦法を存分に振るうのじゃ! ほれアレックスもリョウも、グラー将軍とアーロン将軍の下へ戻らんかい」
ダリムはパンパンと手を叩き、休憩は終わりだと告げた。
「休憩終わりってリョウの分のサンドイッチは⁉ って、ないんですけど⁉」
一礼し、練兵場に溶け込むリョウを見ながら、ローゼは驚愕した。
「全部食べちゃった~。ありがとね~」
クリスも訓練へと戻っていった。
「もう、しょうがないな~クリスは。……あれ? 私たちの分もないんだけど⁉」
「クリスから目を離したのが敗因ですね。次からは気をつけましょう」
「せっかく作ってきたのに~。おにょれクリス。今度はクリスにも作らせてやるからな~」
ローゼは地団駄を踏み、ヴィレッタが宥めながらバスケットを片づけていると、ラインハルト王とダリム宰相が2人へ近づいてきた。
「リョウを借りてすまぬな」
「いえ、お世話になっていますし問題ありませんよ」
「ガッハッハ、そうじゃそうじゃラインハルトよ、遠慮は要らぬぞ。いかに恩人とはいえ、タダ飯を食わしておくだけではこやつらも居心地悪かろうて」
「聞き捨てなりません、ダリム宰相様。わたくしたちを引き止めているのは、貴方ではありませんか?」
ダリムの言葉にヴィレッタが反論した。
「ガッハッハ、細かいことは気にするな。情報もなくウロチョロされたとて邪魔なだけじゃ。今は動かぬが吉よ」
名宰相にして名参謀と名高いダリム宰相に引き留められ、絶対このクソジジイ、他に何か企んでいやがると思いつつも、ローゼたちはしばしの休息を王都リオーネで過ごしている。
たしかにダリムの言う通り、ローゼたちは手がかりを失っていた。
『真実の眼』と呼ばれる邪教徒達の本拠地がわからず、連中の手がかりすら掴めていない。
ローゼとヴィレッタの幼き頃の友人、ベルガー王国の公爵令嬢シャルロッテ・ルインズベリー。
彼女が邪教の魔女ジーニアにより、家族や使用人を皆殺しにされ連れ去られてから、既に3ヶ月が経過している。
何かしら噂が流れてもおかしくはないが、情報はない。
昨日、北へ旅立ったアラン傭兵団の団長グレン・アルバースからは、何か耳にしたら伝えようと約束してくれた。
こちらからも、気になる魔女を見つけたら報告するように約束している。
邪教は多くの魔女を抱え、人を騙し、嵌めて、始末する行為を各地で行っている。
闇に潜むように街に溶け込んでいるのが特徴でもある。
ローゼたちと因縁のあるジーニアも、教会に仕える敬虔なシスターのように街に溶け込んでいた。
そうして、街で協力者を作り、多くの災厄を振りまく手法をしている。
人を疑う、それも同じ魔女を疑うのは心が重いが、疑いが晴れれば魔女仲間ができるのだ。
そう思って、ローゼは密かにそう期待もしていた。
「フィーリア殿とベレニス殿とは、今日は一緒ではないのだな」
ラインハルト王の問いに、ローゼは苦笑いを浮かべた。
「フィーリアは知人のカフェを手伝っていまして、ベレニスもフィーリアについていきました。ウエイトレスという楽なバイトがあるっすよ~なんて言われて、やるって即決していましたけど、今頃逃げているかもです」
ベレニスの性格上、そんな話を持ち掛けられたらノリノリで引き受け、騙されたと知ったら即逃亡を図るだろう。
ただ、フィーリアの口車に乗せられて、給金のために最後までやるだろうなあとも、ローゼは思った。
ベレニスのウエイトレス姿を想像する、ラインハルト王とダリム宰相であった。
「あら、こちらにいましたか」
ふと、女性の声がしてローゼたちが振り向くと、マーガレット王妃の従姉妹にあたる、テレサ・ファインダがいた。
テレサが現れた瞬間、周囲の空気が変わったように優しい風が吹いた。
彼女の修道服姿の清楚な佇まいの中には、かつての王族としての威厳と、現在の傭兵としての強さが同居している。
アラン傭兵団の本隊が去ったあとも、王国側の要請でファインダに残っているのである。
「どうかしたか、テレサ殿?」
王は、もしや重大な事案が発生したかと身構えた。
「いえ、ローゼさんとヴィレッタさんに御用です。マーガレット姉様がお呼びなだけですよ」
マーガレット妃の姉、ローラはローゼの母だ。
そのためマーガレット妃はローゼを気にかけており、ローゼもマーガレット妃に安心感を抱いている。
『なんだろう?』と思いつつ、ローゼとヴィレッタは王宮へと向かった。
練兵場からは、剣を打ち合う音や、ぶつかり合う音が木霊した。
先日の魔獣とレアード王国との戦は、ファインダ王国の勝利に終わったとはいえ、兵たちも気合を入れて訓練に励んでいる。
練兵場には汗と鉄の匂いが漂い、兵士たちの息遣いや掛け声が響いていた。
地面には無数の足跡が刻まれ、激しい訓練の痕跡を物語っている。
空には白い雲が浮かび、時折吹く風が兵士たちの汗ばんだ肌を冷やしていった。
遠くには王都リオーネの壮麗な城壁が見え、その威容が練兵場の緊張感をさらに高めていた。
この訓練に、ファインダ王国の騎士や兵でない者が2人参加している。
休憩となり、近衛隊長のアレックス・シオーレンが金髪の貴公子に相応しい毅然とした仕草で、アラン傭兵団の傭兵、リョウ・アルバースに話しかけた。
リョウは宰相の娘、クリスに剣の持ち方を指南していた。
「クリス嬢は武器を持つのが初めてのようだが、身体能力がずば抜けているな。すぐに並の兵士を凌駕しそうだ。さすがはダリム宰相閣下の娘だ」
ていやーと、剣をブンブン振っているクリスを目にしながらアレックスは言った。
「ええ、きっと俺より強い剣士となるでしょう」
「謙遜するな。リョウ殿の腕前には並大抵の努力ではなれまい。……ときにリョウ殿。この私と模擬戦をしてみないか?」
アレックスは槍を振りながらリョウに提案した。
リョウは少し驚いたが、二つ返事で了承する。
休憩中の兵たちは、2人の突然の対決に、こぞって前のめりで見つめる。
「ほう、俺も参加したいぞ」
「ガッハッハ、ラインハルトよ、それは無粋というものじゃ。にしてもアレックスめも直情な男よの。あいつ絶対儂の策で、とこしえの森ではなくレアード戦に向かわされたことを根に持っているぞ。自分がラインハルトの側にいれば、リョウなんぞいなくてもノイズを討ち倒したと思ってそうじゃ」
ダリムの豪快な笑い声が練兵場に響き渡る。
その威圧的な存在感と、どこか憎めない人柄が、周囲の緊張を和らげていた。
「聞こえていますぞ宰相閣下! 私は純粋に、リョウ殿と戦ってみたいだけです!」
ありゃ聞こえておったわい、とダリムはペロリと舌を出した。
「ほれ、詫びで儂が審判をやろう。時間は休憩終わりの残り5分間。始め!」
その声で模擬戦はスタートした。
開始直後、リョウは唐竹に一閃し、アレックスはそれを受け止めた。
(ほう! これはなかなかの剛剣)
受け止めてニヤリと笑い、リョウへカウンター気味に槍を振り下ろすアレックス。
リョウが受け止め、鍔迫り合いとなり、互いに弾かれるように距離を取る。
今度はアレックスからリョウへ仕掛ける。
上段から振り下ろされた槍をリョウは受け流し、その勢いのまま回転し、横薙ぎの一閃を繰り出す。
しかし読んでいたのか、アレックスは受け止めた。
リョウの剣とアレックスの槍がぶつかり合う度に、火花が散った。
金属のぶつかる鋭い音が練兵場中に響き渡り、見物人たちの息を呑む音さえ聞こえるほどだった。
2人の動きは目にも留まらぬ速さで、その姿は風のように練兵場を駆け巡っていた。
伯仲する2人の戦いに、兵たちからは歓声が上がっていった。
「ま~た、リョウが戦っている」
「リョウ様は、そういう星の下に生まれたかのようですね。まったく、ローゼを困惑させるなんて、リョウ様にはまたお説教をしなくてはなりません!」
ローゼとヴィレッタが手作りサンドイッチを持って、練兵場へやって来たのであった。
「ん~、いいんじゃない? リョウもあの人も楽しそうだし」
クリスはサンドイッチを頬張りながら、ニコニコして2人へ告げた。
たしかにそうだった。
リョウとアレックスの2人は、どちらも好敵手を見つけたような笑みを浮かべている。
剣と槍のぶつかり合いから、再び鍔迫り合いとなる。
力で押していたリョウだが、アレックスは受け流し、腹部へと蹴りを叩き込む。
吹き飛ぶリョウを追撃するアレックスだったが、着地するリョウは追撃の一手を捌くや、逆に鋭い一撃を放ちアレックスを飛び退かせた。
2人は仕切り直す。
「それまで! さあさあ、休憩終わりよ! グラー将軍! アーロン将軍! 訓練の続きをせい! アーロン将軍! 次はレアードの戦法を存分に振るうのじゃ! ほれアレックスもリョウも、グラー将軍とアーロン将軍の下へ戻らんかい」
ダリムはパンパンと手を叩き、休憩は終わりだと告げた。
「休憩終わりってリョウの分のサンドイッチは⁉ って、ないんですけど⁉」
一礼し、練兵場に溶け込むリョウを見ながら、ローゼは驚愕した。
「全部食べちゃった~。ありがとね~」
クリスも訓練へと戻っていった。
「もう、しょうがないな~クリスは。……あれ? 私たちの分もないんだけど⁉」
「クリスから目を離したのが敗因ですね。次からは気をつけましょう」
「せっかく作ってきたのに~。おにょれクリス。今度はクリスにも作らせてやるからな~」
ローゼは地団駄を踏み、ヴィレッタが宥めながらバスケットを片づけていると、ラインハルト王とダリム宰相が2人へ近づいてきた。
「リョウを借りてすまぬな」
「いえ、お世話になっていますし問題ありませんよ」
「ガッハッハ、そうじゃそうじゃラインハルトよ、遠慮は要らぬぞ。いかに恩人とはいえ、タダ飯を食わしておくだけではこやつらも居心地悪かろうて」
「聞き捨てなりません、ダリム宰相様。わたくしたちを引き止めているのは、貴方ではありませんか?」
ダリムの言葉にヴィレッタが反論した。
「ガッハッハ、細かいことは気にするな。情報もなくウロチョロされたとて邪魔なだけじゃ。今は動かぬが吉よ」
名宰相にして名参謀と名高いダリム宰相に引き留められ、絶対このクソジジイ、他に何か企んでいやがると思いつつも、ローゼたちはしばしの休息を王都リオーネで過ごしている。
たしかにダリムの言う通り、ローゼたちは手がかりを失っていた。
『真実の眼』と呼ばれる邪教徒達の本拠地がわからず、連中の手がかりすら掴めていない。
ローゼとヴィレッタの幼き頃の友人、ベルガー王国の公爵令嬢シャルロッテ・ルインズベリー。
彼女が邪教の魔女ジーニアにより、家族や使用人を皆殺しにされ連れ去られてから、既に3ヶ月が経過している。
何かしら噂が流れてもおかしくはないが、情報はない。
昨日、北へ旅立ったアラン傭兵団の団長グレン・アルバースからは、何か耳にしたら伝えようと約束してくれた。
こちらからも、気になる魔女を見つけたら報告するように約束している。
邪教は多くの魔女を抱え、人を騙し、嵌めて、始末する行為を各地で行っている。
闇に潜むように街に溶け込んでいるのが特徴でもある。
ローゼたちと因縁のあるジーニアも、教会に仕える敬虔なシスターのように街に溶け込んでいた。
そうして、街で協力者を作り、多くの災厄を振りまく手法をしている。
人を疑う、それも同じ魔女を疑うのは心が重いが、疑いが晴れれば魔女仲間ができるのだ。
そう思って、ローゼは密かにそう期待もしていた。
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ラインハルト王の問いに、ローゼは苦笑いを浮かべた。
「フィーリアは知人のカフェを手伝っていまして、ベレニスもフィーリアについていきました。ウエイトレスという楽なバイトがあるっすよ~なんて言われて、やるって即決していましたけど、今頃逃げているかもです」
ベレニスの性格上、そんな話を持ち掛けられたらノリノリで引き受け、騙されたと知ったら即逃亡を図るだろう。
ただ、フィーリアの口車に乗せられて、給金のために最後までやるだろうなあとも、ローゼは思った。
ベレニスのウエイトレス姿を想像する、ラインハルト王とダリム宰相であった。
「あら、こちらにいましたか」
ふと、女性の声がしてローゼたちが振り向くと、マーガレット王妃の従姉妹にあたる、テレサ・ファインダがいた。
テレサが現れた瞬間、周囲の空気が変わったように優しい風が吹いた。
彼女の修道服姿の清楚な佇まいの中には、かつての王族としての威厳と、現在の傭兵としての強さが同居している。
アラン傭兵団の本隊が去ったあとも、王国側の要請でファインダに残っているのである。
「どうかしたか、テレサ殿?」
王は、もしや重大な事案が発生したかと身構えた。
「いえ、ローゼさんとヴィレッタさんに御用です。マーガレット姉様がお呼びなだけですよ」
マーガレット妃の姉、ローラはローゼの母だ。
そのためマーガレット妃はローゼを気にかけており、ローゼもマーガレット妃に安心感を抱いている。
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