【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ

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第5章 籠の中の鳥

第5話 怪奇現象

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 その夜もまた悲鳴が聞こえた。

 ガバっと起き上がって、寝巻き姿で愛剣の二対の剣を手にし、レオノールは悲鳴の聞こえた方角へと走りだす。

「どうしましたか⁉」

 駆けつけた場所では、寝巻き姿の寮生2人が抱きあって震えながらしゃがみこんでいた。

 この寮生の部屋と思われる扉の先は、窓が開き冷たい風が吹き込んでくる。
 他に異変はなさそうだった。

「お化けというのでも見たのでしょうか? 私はお化けというのを見たことがありません。是非、一度見てみたいものです。それとも不審者でしょうか? それなら、このレオノール! 王家の威信をかけて成敗します!」

 レオノールは剣を頭上に掲げて構え、ぶんっと振り下ろした。

 他の寮生たちと、モリーナ寮長も駆けつけ、悲鳴をあげた寮生に事情を聞くと思いきや?

「今度は貴女方ですか? 一応訊きますが、何を見たのですか?」

 今度は貴女方? と思いながら、レオノールも震えている2人の寮生の言葉を待つ。

「は、はい。突然、天井がカサカサっと動き、目のようなものがあって覗かれて……」

 その寮生は、もう1人の肩を抱きつつ、思い出しながら続きを語る。

「窓が開いて、突風が吹いた途端、その何かは消えたんです。……怖いです! またこんなことが、今度は私たちの部屋で起きるなんて!」

「おお! 怪奇現象というのですね! あ、いえ、このレオノールに任せてください! ささ、一緒に部屋へ入りましょう!」

 被害者2人を落ち着かせるように、レオノールは力を込めて口走った。

 意気軒昂なレオノールだったが、モリーナに肩を掴まれ、歩みを止めざるを得なくなる。

「レオノール姫殿下、この寮で御身が一番大事な存在なのです。寮生が安心して夜を過ごせるよう、私が見回りしますので姫殿下は夜は休み、勉学に備えてください」

 レオノールは瞬間的に、昼の勉学中に寝ればよいのです! と言いそうになったがギリギリ堪えた。
 真面目なモリーナ寮長を、困らせるのは申し訳ないと思ったからだ。

「さあさあ、皆さん、お部屋に戻りなさい! まったく、情緒不安定な年頃の女の子は、とかく何かを勘違いして怖がるものです」

 モリーナがそう告げると、寮生たちは部屋へと戻っていった。

「あっ! でも、この2人は不安でしょう! なんなら、私の部屋にて休んでもらいましょうか?」

 そう提案するレオノールだったが、2人とも『そんな畏れ多い!』と全力で断り自室へと入ってしまった。

「こういうことがあっても、今まで同じ日に2度目はありませんでしたので……失礼します!」

「あっ! ちょっ⁉ こういうことが?」

 閉まる扉に釈然としないレオノールだったが、モリーナの眼鏡がキラリと光る。

「姫殿下、寝坊されては皆に示しがつきません。さあ、お部屋でお休みください」

「今までもあったのですか?」

「先程も申しましたが、年頃の少女は情緒不安定であります。昔からよくある出来事ですので、姫殿下もお気になさらないでください」

 モリーナは、ランプを手にして見回りを開始すべく歩き出した。

(ふむ、よくあることなんですかねえ? テレサ叔母様も母上も旧女子寮出身ですが、そんな話を聞いた記憶がありません)

 レオノールは、トイレに行ってから寝ようと歩きだすと?

(おや? あれは?)

 トイレから出てきた寮生の姿を見て、レオノールは駆けだした。

「おお! またお会いしましたね! 大丈夫ですか? またネズミの大群を見たりはしていませんか⁉」

 声をかけられた少女はビクン! と身体を震わせ、恐る恐るレオノールに向き直る。
 この寮生は、夕食前にベーベル派に囲まれて蹲っていた、薄桃色の髪の少女だった。

「……レオノール様、お手洗いでしたら、どうぞ私に構わずお使いくださいませ」

「あ~いえいえ、私は明日の朝まで我慢できるので大丈夫です。それよりも、お聞きしたいことがあるのです! この女子寮では、不可思議なことが起きているそうなのですが、どのようなことが起きているのかを教えてもらえませんか? おっと、そういえば名前を窺っていませんでしたね? 尋ねるなら私から挨拶からですね。私の名はレオノール・ファインダです! って、知ってますよね。あはは」

 レオノールは興奮気味に話し続けていた。
 その様子は、王女というよりも冒険に憧れる少女そのものだった。

 少女はくすりと笑った。
 その仕草は気品に満ちており、育ちの良さを感じさせるもので、同時にとても親しみやすい雰囲気も醸し出していた。

「ルリア・ニーマイヤーです。私の姓でおわかりかと思いますが、姫殿下と会話できる立場ではございません。どうぞお聞きしたいことがあるのでしたら、ソフィア様かベーベル様にお聞きしてください」

「ニーマイヤー……ああ、あの」

 クーデターの記憶が蘇るレオノール。
 幼かった自分を守ろうとするテレサとイリスの必死の表情、王宮に響く剣戟の音、そして恐怖に震える自分の姿が鮮明によみがえった。

「でも私は気にしませんよ? そういうのはもう過去の話ですしね」

「いえ、そういうわけには……」

 ニーマイヤー侯爵家。
 ファインダ王国建国の功臣の家柄であったが、8年前の他国の連合軍の侵攻を受けた際、当時の当主であったゲルグ・ニーマイヤー侯爵がクーデターを実行した。

 ゲルグは王都守備隊に配置されていたが、突如王宮を急襲したのである。

 ラインハルト王もダリム宰相も不在の中、このクーデターに対応したのはマーガレット王妃だった。
 果断に動いた王妃の活躍によりクーデターは鎮圧され、首謀者のゲルグは舌を噛みちぎって死んだ。

 王国に平穏が戻ったあと、ニーマイヤー家の処分は一族全て処刑をという声が大多数であった。
 だがラインハルト王はそれを拒否した。

 甘い王よ、所詮他国出身の婿入り王よ、と陰口を叩く貴族は多くいる。
 そのような者たちが向ける、ニーマイヤー侯爵家に対する冷たい視線は今も消えていない。

 そんな経緯をレオノールも当事者なので知っている。
 クーデターの時に、王宮でテレサとイリスの2人に護られて生き延びた記憶は脳裏に深く刻まれているのだ。

 そのニーマイヤー家のルリアが、そのような視線を浴びながらも王立学校の寮生となり、ただ黙々と勉学に励む日々を送っているのであった。

 ルリアの薄桃色の髪は月明かりに照らされて輝いていた。
 その姿は儚げで、しかし芯の強さも感じさせる不思議な魅力を持っていた。

「こんなところでする話でもないですね。私の部屋へ行きましょう! 安心してください。なんと、4人は眠れるぐらい広いんですよ!」

 レオノールはルリアの手を取り、自室へと連れていくのであった。

 手を握られては逃げられない。
 何しろレオノール姫殿下は、同年代の少女とは違い、武勇誉れ高いのだ。

 部屋に入るや、レオノールはいきなり叫んだ。

「しまった!」

「な、何事ですか、レオノール様⁉」

「茶葉もお茶菓子もありません。残念です」

「い、いえ、お気遣いなく」

「しまった!」

「は、はい⁉」

「ルリアさんの相部屋の子が、ルリアさんが戻って来ないと騒ぐかもしれません。これは失敗しました!」

「い、いえ、私の相部屋の人は、先月退学しまして、領地に帰っております。今は部屋に1人でございます」

 レオノールがしまったと口にする度に、ルリアはビクッとした。

 と同時に、ルリアも内心しまったと思った。
『そうなのです、相部屋の子が心配しますので戻らせて頂きます』と言えばよかったと。

「おお! それならよかった。今日はここで寝ても大丈夫ですよ、ルリアさん!」

 これは知っていることを話さないと、本当にそうなってしまいそうだ。
 ルリアはレオノールに向かい合いながら、複雑な思いに駆られていた。
 親しみやすい姫の態度に心が和む一方で、自分の立場を考えると不安が募る。

 この状況をソフィアやベーベルに知られたら、どんな不興を買うかに姫殿下は気づいてほしいと思いつつ、嘆息一つ吐いてからルリアは語りだした。
 
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