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第5章 籠の中の鳥
第9話 その頃リョウたちは?
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「うへえ、ローゼもヴィレッタも、レオノールと同じ所に幽閉されたの?」
ベレニスは優雅にソファに寝そべりながら、長い銀髪を指で弄んでいる。
彼女の背後には、ファインダ王宮の一室を彩る豪華な調度品が並ぶ。
部屋の中央には大理石のテーブルが置かれ、その上には銀製のティーポットと未開封のクッキー缶が無造作に置かれている。
マーガレット王妃の侍女から、ローゼとヴィレッタが学校へ通いつつ女子寮で起きている怪奇現象解決の依頼を受けたと聞き、ベレニスは同情するように口にした。
「私が指名されなくてよかったわ~。授業中に寝たらゲンコツが飛んできたり、ノートに落書きしたら怒られたり、暗記とか言って何千回も同じ言葉を書かされる地獄の場所によく行くわね~」
ベレニスの表情には、学校生活を回避できた安堵感が滲んでいる。
彼女はソファの背もたれに肘をかけ、髪をくるくると指に巻きつけた。
「ベレニスさん、学校という場所をそう記憶しているのはベレニスさんだけっすよ」
フィーリアがツッコミを入れるが、ベレニスは「そんなことないわよ」と、真顔で全人類の劣等生の立場を代表するかのように言い放った。
彼女らは王宮の一室で寛いでいたが、豪華な調度品に囲まれながらも、どこかリラックスした雰囲気を漂わせていた。
「てゆーか、その間、私たちは暇でいいのよね? フフーン♪ ふかふかのベッドでずっと寝っ転がって、春までのんびりしているのもありよねえ」
「食っちゃ寝はダメっすよ。自分たちにもやれることがあるっすよ」
「ウエイトレスならもうやらないからね! あんなに目をグルグル回して、狭い中で走ったのなんて初めてよ!」
ベレニスの脳裏に、カフェでの忙しい1日の光景が蘇った。
客の笑顔や、自分の奮闘ぶりが走馬灯のように駆け巡る。
彼女はソファから身を起こし、両手で顔を覆って大げさにため息をついた。
「でもベレニスさん、自分のぬいぐるみ当たって喜んでいる人を見て、めっちゃ喜んでいたっすよねえ。……まあ、ガッカリしていた人に、噛みついたのはアレっすけど」
「当たり前でしょ? 本人が目の前で働いているのよ? なのに、なんでガッカリするのよ。あのおっさん! ああ、今思い出してもムカムカしてきたわ」
「アハハ、ベレニスは大変だったんだね~。私は練兵場で、ローゼとヴィレッタが作ったサンドイッチを全部食べれて満足したよ~」
クリスがのんびりした口調で言うと、ベレニスは朝にローゼが作っている光景を思い出し、全部食べられてローゼは怒ったんじゃないか? と内心呆れた。
フィーリアはクスクスと笑いながらティーポットから紅茶を注いだ。
そんなベレニスとフィーリア、クリスの話を耳にしつつ、リョウは武具の手入れをしている。
「それでフィーリア、俺たちのやれることとはなんだ?」
「は? 何、傭兵。ウエイトレスやりたいの?」
ベレニスの言葉に想像したのか、プハッと、フィーリアは吹いた。
彼女はティーポットの蓋を持ち上げ、中の紅茶の香りを確かめながら、いたずらっぽい笑みを浮かべた。
「……いや、ローゼたちが受けた依頼のほうでだ」
「相変わらずつまらない男ね~。こういう時はね、ノリノリで『ウエイトレスやりたい』って言わなきゃね。それじゃ明日は、傭兵がカフェの手伝いってことで。安心しなさい♪ 私がお客として、一日中傭兵のウエイトレス姿を見て笑っててあげるから♪」
「プハッ。ベレニスさん、それも面白いっすけど、その時はベレニスさんもきっちり働いてもらうっすよ。ホールにリョウ様1人で接客させたら、お客様がかわいそうっすからね。と、まあ冗談はここまでっす。リョウ様、そんな困惑しないでくださいっす」
困惑どころではない。接客はともかく、いや、接客も無理だが、ウエイトレス服を着せられるのは絶対に嫌だと思うリョウであった。
「まずは陰謀の有無の確認っすかね。王立学校の女子寮には地方の貴族階級の令嬢が入寮しているっす。令嬢の中に、邪教と接触される可能性がある者がいないか、もしくは魔女の家系がいないかっすね。ローゼさんとヴィレッタさんは、レオノールさんと一緒に内側を調査。ならば残る自分らは外側から調査、って感じっすね」
フィーリアの瞳には、年齢以上の知恵が宿っている。
彼女の言葉の一つ一つには、深い洞察力が感じられた。
彼女はティーポットをテーブルに置き、手元の書類を広げた。
それは王立学校の入寮者リストの写しだった。
紙には貴族の家名や出身地が細かく記載されており、彼女の指が特定の行をなぞるたびに、鋭い視線が光った。
「具体的にどう進めるつもりだ?」
リョウが尋ねると、フィーリアは一瞬書類から目を離し、彼を見上げた。
「まずはこのリストを基に、邪教『真実の眼』と関わりがありそうな人物がいないかチェックっすね。歴史や魔導書の記録に詳しい人物に協力を仰ぐのが早いっす。たとえば、王宮の図書館にいるような学者や、貴族階級の歴史に詳しい専門家とかっすね」
フィーリアの言葉に、リョウは頷きながらも、内心では学者や専門家との面倒なやり取りを想像し、わずかに眉をひそめた。
だが、彼女の提案が理にかなっていることは認めざるを得なかった。
リョウの脳裏にアレックス・シオーレンの顔が浮かぶ。
近衛隊長の彼なら人脈も多いだろう。
「それと、もう一つ気になることがあるっす。女子寮の怪奇現象が本当に『真実の眼』の魔女の仕業なら、外部に協力者がいるはずっすね。それが連中の手口っす。となるとリョウ様は連中の標的っすので、1人で行動はしないでくださいっす。ベレニスさんは……」
「私はふかふかのソファで待機して指示する役でよくない?」
ベレニスが即座に遮ると、フィーリアはため息をつきながらも笑みを浮かべた。
「ベレニスさんの長いエルフ耳は、せっかく嘘を見破れる能力があるんすから、市場や貴族街での雑談から何か手がかりを得る外回り決定っす。クリスさんは鼻が優れているんすから、匂いで異変があれば知らせてくださいっす。どっちも頼りにしているっすよ」
ベレニスもクリスも大きく頷く。
なんだかんだ言っても、ベレニスは頼られるとやる気を出すのだ。
フィーリアは再び笑いながら紅茶を一口飲んだ。
リョウは武具の手入れをしながら、ローゼたちの安全を気遣っていた。
彼の無表情な顔の奥に僅かな不安の色が表れる。
肩に力が入り、武具の手入れに集中する動作に緊張感が漂っていた。
「了解。貴族絡みのゴタゴタはなるべくなら避けたいが、ローゼとヴィレッタがすでに巻き込まれているからな。ラインハルト陛下には恩義もあるし、邪教が関わっているなら手をこまねくつもりはない」
リョウの言葉にフィーリアは力強く頷くと、ふと思い出したかのように口を開いた。
「ああ、そうそう、リョウ様ってローゼさんと出会ってから、最長で何日一緒にいなかったんすか?」
「ローゼとは出会った日から今日まで、毎日行動を共にし、毎日会っていたな」
唐突な質問だとリョウは思いつつ答えた。
「それがどうかしたか?」
「いや、なんでもないっす」
リョウが出ていって、ベレニスがあくびをしながら「不味いわね」と呟く。
「う~ん、ローゼさんの精神状況が心配っす。そっちの方も策を講じておくっす」
「傭兵を女装させて、女子寮に潜入させるってのは?」
「プハッ! まあ、それは最終手段にするっすか」
「私の服貸す~?」
クリスが無邪気に言うと、ベレニスは笑い、フィーリアは女子制服姿のリョウを想像して吹き出す。
そしてフィーリアはホレイショカフェの、おまけの手のひらサイズのぬいぐるみを優しく撫でながら、思案するのであった。
そのぬいぐるみはリョウの姿を模したもので、目つきの悪さが妙にリアルに再現されていた。
彼女は手元の書類を再び広げ、調査の優先順位を頭の中で整理し始めた。
***
ファインダ王国の歴史編纂官に、ガードン子爵という人物がいる。
白髭と、瞼が隠れてしまう白眉が特徴の、御年70の老人である。
「ふむう、ファインダの魔女の家系を、簡潔にして報告せよと申されても困るわい。1週間は語れるというのにのう」
彼は本日の昼、マーガレット妃から命じられ、夜更けの今も、自室の書庫に籠もってペンを走らせている。
ダリム宰相から、別件の調査も受け持っているのだ。
マーガレット妃からは以前に、魔女ディルについて調べるようにも言われている。
「ふう、こんなもんじゃろ。さて……ん?」
ガードンは我が目を疑った。
今、資料として読んでいるのは地方の歴史書である。
「金髪ウェーブヘアのディル、赤髪巻き毛のチャービル、黒髪ボブヘアのマツバ。いずれも美しい少女……」
ディル。
マーガレット妃の姉、今は亡きローラ妃の娘ローゼマリー姫の師匠の名。
チャービルとマツバ。
邪教『真実の眼』で六賢魔と呼ばれる魔女の名。
「これは大発見じゃ。夜中なのが惜しいわい」
昼なら、すぐに謁見を申し出ていたのにとガードンは悔しがった。
「おっと、そうじゃ。あっちの書庫に、この千年前の記述についての魔導書があったはず」
ガードンはランプを手にして、魔導書を保管している第二書庫へと移動してしまった。
「ん?……誰じゃ?」
部屋は光球で照らされていた。
魔法で作られた光は、淡く柔らかく部屋全体を照らしている。
ソファで、書庫の魔導書を寛いで読んでいる金髪ウェーブヘアの美少女。
黒のとんがり帽子がテーブルに置かれ、身に纏うは黒のローブ。
美少女は、ガードンを一瞥して、フンと鼻を鳴らした。
「あの、ここ、儂の書庫」
「知っている。それがどうした?」
ガードンは、後ずさりたい気持ちを抑え、勇気を振り絞る。
「そのお姿、老婆でなく少女でも儂にはわかります。魔女ディル様とお見受けします。よろしければ、色々教えていただけませぬか? 六賢魔と袂を分かち『真実の眼』を離脱し、ローゼマリー様を育てたとのこと。どうかラインハルト陛下や、マーガレット妃ともお会いになってくだされ」
礼を尽くすガードンだったが、次の瞬間、今まで経験したことのない痛みが彼を襲い、うめき声をあげ、うつ伏せで倒れた。
それを一瞥し、ディルは読んでいた本へ目線を戻す。
「何を勘違いしているのやら。儂とマツバたちは、やり方は違えど、目的は同じよ。さて、しばらく読書三昧とするか」
ガードン子爵邸の部屋の一つは、一晩中、明かりが灯った。
ベレニスは優雅にソファに寝そべりながら、長い銀髪を指で弄んでいる。
彼女の背後には、ファインダ王宮の一室を彩る豪華な調度品が並ぶ。
部屋の中央には大理石のテーブルが置かれ、その上には銀製のティーポットと未開封のクッキー缶が無造作に置かれている。
マーガレット王妃の侍女から、ローゼとヴィレッタが学校へ通いつつ女子寮で起きている怪奇現象解決の依頼を受けたと聞き、ベレニスは同情するように口にした。
「私が指名されなくてよかったわ~。授業中に寝たらゲンコツが飛んできたり、ノートに落書きしたら怒られたり、暗記とか言って何千回も同じ言葉を書かされる地獄の場所によく行くわね~」
ベレニスの表情には、学校生活を回避できた安堵感が滲んでいる。
彼女はソファの背もたれに肘をかけ、髪をくるくると指に巻きつけた。
「ベレニスさん、学校という場所をそう記憶しているのはベレニスさんだけっすよ」
フィーリアがツッコミを入れるが、ベレニスは「そんなことないわよ」と、真顔で全人類の劣等生の立場を代表するかのように言い放った。
彼女らは王宮の一室で寛いでいたが、豪華な調度品に囲まれながらも、どこかリラックスした雰囲気を漂わせていた。
「てゆーか、その間、私たちは暇でいいのよね? フフーン♪ ふかふかのベッドでずっと寝っ転がって、春までのんびりしているのもありよねえ」
「食っちゃ寝はダメっすよ。自分たちにもやれることがあるっすよ」
「ウエイトレスならもうやらないからね! あんなに目をグルグル回して、狭い中で走ったのなんて初めてよ!」
ベレニスの脳裏に、カフェでの忙しい1日の光景が蘇った。
客の笑顔や、自分の奮闘ぶりが走馬灯のように駆け巡る。
彼女はソファから身を起こし、両手で顔を覆って大げさにため息をついた。
「でもベレニスさん、自分のぬいぐるみ当たって喜んでいる人を見て、めっちゃ喜んでいたっすよねえ。……まあ、ガッカリしていた人に、噛みついたのはアレっすけど」
「当たり前でしょ? 本人が目の前で働いているのよ? なのに、なんでガッカリするのよ。あのおっさん! ああ、今思い出してもムカムカしてきたわ」
「アハハ、ベレニスは大変だったんだね~。私は練兵場で、ローゼとヴィレッタが作ったサンドイッチを全部食べれて満足したよ~」
クリスがのんびりした口調で言うと、ベレニスは朝にローゼが作っている光景を思い出し、全部食べられてローゼは怒ったんじゃないか? と内心呆れた。
フィーリアはクスクスと笑いながらティーポットから紅茶を注いだ。
そんなベレニスとフィーリア、クリスの話を耳にしつつ、リョウは武具の手入れをしている。
「それでフィーリア、俺たちのやれることとはなんだ?」
「は? 何、傭兵。ウエイトレスやりたいの?」
ベレニスの言葉に想像したのか、プハッと、フィーリアは吹いた。
彼女はティーポットの蓋を持ち上げ、中の紅茶の香りを確かめながら、いたずらっぽい笑みを浮かべた。
「……いや、ローゼたちが受けた依頼のほうでだ」
「相変わらずつまらない男ね~。こういう時はね、ノリノリで『ウエイトレスやりたい』って言わなきゃね。それじゃ明日は、傭兵がカフェの手伝いってことで。安心しなさい♪ 私がお客として、一日中傭兵のウエイトレス姿を見て笑っててあげるから♪」
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「まずは陰謀の有無の確認っすかね。王立学校の女子寮には地方の貴族階級の令嬢が入寮しているっす。令嬢の中に、邪教と接触される可能性がある者がいないか、もしくは魔女の家系がいないかっすね。ローゼさんとヴィレッタさんは、レオノールさんと一緒に内側を調査。ならば残る自分らは外側から調査、って感じっすね」
フィーリアの瞳には、年齢以上の知恵が宿っている。
彼女の言葉の一つ一つには、深い洞察力が感じられた。
彼女はティーポットをテーブルに置き、手元の書類を広げた。
それは王立学校の入寮者リストの写しだった。
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「具体的にどう進めるつもりだ?」
リョウが尋ねると、フィーリアは一瞬書類から目を離し、彼を見上げた。
「まずはこのリストを基に、邪教『真実の眼』と関わりがありそうな人物がいないかチェックっすね。歴史や魔導書の記録に詳しい人物に協力を仰ぐのが早いっす。たとえば、王宮の図書館にいるような学者や、貴族階級の歴史に詳しい専門家とかっすね」
フィーリアの言葉に、リョウは頷きながらも、内心では学者や専門家との面倒なやり取りを想像し、わずかに眉をひそめた。
だが、彼女の提案が理にかなっていることは認めざるを得なかった。
リョウの脳裏にアレックス・シオーレンの顔が浮かぶ。
近衛隊長の彼なら人脈も多いだろう。
「それと、もう一つ気になることがあるっす。女子寮の怪奇現象が本当に『真実の眼』の魔女の仕業なら、外部に協力者がいるはずっすね。それが連中の手口っす。となるとリョウ様は連中の標的っすので、1人で行動はしないでくださいっす。ベレニスさんは……」
「私はふかふかのソファで待機して指示する役でよくない?」
ベレニスが即座に遮ると、フィーリアはため息をつきながらも笑みを浮かべた。
「ベレニスさんの長いエルフ耳は、せっかく嘘を見破れる能力があるんすから、市場や貴族街での雑談から何か手がかりを得る外回り決定っす。クリスさんは鼻が優れているんすから、匂いで異変があれば知らせてくださいっす。どっちも頼りにしているっすよ」
ベレニスもクリスも大きく頷く。
なんだかんだ言っても、ベレニスは頼られるとやる気を出すのだ。
フィーリアは再び笑いながら紅茶を一口飲んだ。
リョウは武具の手入れをしながら、ローゼたちの安全を気遣っていた。
彼の無表情な顔の奥に僅かな不安の色が表れる。
肩に力が入り、武具の手入れに集中する動作に緊張感が漂っていた。
「了解。貴族絡みのゴタゴタはなるべくなら避けたいが、ローゼとヴィレッタがすでに巻き込まれているからな。ラインハルト陛下には恩義もあるし、邪教が関わっているなら手をこまねくつもりはない」
リョウの言葉にフィーリアは力強く頷くと、ふと思い出したかのように口を開いた。
「ああ、そうそう、リョウ様ってローゼさんと出会ってから、最長で何日一緒にいなかったんすか?」
「ローゼとは出会った日から今日まで、毎日行動を共にし、毎日会っていたな」
唐突な質問だとリョウは思いつつ答えた。
「それがどうかしたか?」
「いや、なんでもないっす」
リョウが出ていって、ベレニスがあくびをしながら「不味いわね」と呟く。
「う~ん、ローゼさんの精神状況が心配っす。そっちの方も策を講じておくっす」
「傭兵を女装させて、女子寮に潜入させるってのは?」
「プハッ! まあ、それは最終手段にするっすか」
「私の服貸す~?」
クリスが無邪気に言うと、ベレニスは笑い、フィーリアは女子制服姿のリョウを想像して吹き出す。
そしてフィーリアはホレイショカフェの、おまけの手のひらサイズのぬいぐるみを優しく撫でながら、思案するのであった。
そのぬいぐるみはリョウの姿を模したもので、目つきの悪さが妙にリアルに再現されていた。
彼女は手元の書類を再び広げ、調査の優先順位を頭の中で整理し始めた。
***
ファインダ王国の歴史編纂官に、ガードン子爵という人物がいる。
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「ふむう、ファインダの魔女の家系を、簡潔にして報告せよと申されても困るわい。1週間は語れるというのにのう」
彼は本日の昼、マーガレット妃から命じられ、夜更けの今も、自室の書庫に籠もってペンを走らせている。
ダリム宰相から、別件の調査も受け持っているのだ。
マーガレット妃からは以前に、魔女ディルについて調べるようにも言われている。
「ふう、こんなもんじゃろ。さて……ん?」
ガードンは我が目を疑った。
今、資料として読んでいるのは地方の歴史書である。
「金髪ウェーブヘアのディル、赤髪巻き毛のチャービル、黒髪ボブヘアのマツバ。いずれも美しい少女……」
ディル。
マーガレット妃の姉、今は亡きローラ妃の娘ローゼマリー姫の師匠の名。
チャービルとマツバ。
邪教『真実の眼』で六賢魔と呼ばれる魔女の名。
「これは大発見じゃ。夜中なのが惜しいわい」
昼なら、すぐに謁見を申し出ていたのにとガードンは悔しがった。
「おっと、そうじゃ。あっちの書庫に、この千年前の記述についての魔導書があったはず」
ガードンはランプを手にして、魔導書を保管している第二書庫へと移動してしまった。
「ん?……誰じゃ?」
部屋は光球で照らされていた。
魔法で作られた光は、淡く柔らかく部屋全体を照らしている。
ソファで、書庫の魔導書を寛いで読んでいる金髪ウェーブヘアの美少女。
黒のとんがり帽子がテーブルに置かれ、身に纏うは黒のローブ。
美少女は、ガードンを一瞥して、フンと鼻を鳴らした。
「あの、ここ、儂の書庫」
「知っている。それがどうした?」
ガードンは、後ずさりたい気持ちを抑え、勇気を振り絞る。
「そのお姿、老婆でなく少女でも儂にはわかります。魔女ディル様とお見受けします。よろしければ、色々教えていただけませぬか? 六賢魔と袂を分かち『真実の眼』を離脱し、ローゼマリー様を育てたとのこと。どうかラインハルト陛下や、マーガレット妃ともお会いになってくだされ」
礼を尽くすガードンだったが、次の瞬間、今まで経験したことのない痛みが彼を襲い、うめき声をあげ、うつ伏せで倒れた。
それを一瞥し、ディルは読んでいた本へ目線を戻す。
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