【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ

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第5章 籠の中の鳥

第34話 双子の魔女

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 女子寮生たちにモリーナさんの現状を伝えに行くレオノールと別れ、私たちはリリ・クラークとロロ・クラークが収監されている地下牢へと向かった。

 ひと月前、私たちがとこしえの森でノイズと戦っていた頃、クラーク侯爵家の屋敷は謎の火災で焼失し、双子は女子寮を退寮して姿を消した。
 表向きは怪奇現象による心神喪失とされていたが、実際に2人が何を見たのか、詳細は不明のまま。
 そして、その噂を最初に流したのは、どうやらルリアさんらしい。

 牢のある建物に入ると、壁際で腕を組んで神妙な顔つきで立っているリョウが視界に入った。
 さて、まずは確認しておかないといけないことがある。

「ねえ、リョウ? あの双子のことだけど……本当に『抱いてください』なんて言ってきたの? 命を狙ってきたかもしれない相手なんでしょう?」

 私はできるだけ平静を装って尋ねる。
 隣にいたヴィレッタも鋭い視線をリョウに向けた。

「リョウ様、邪教の魔女かもしれない相手に、まさか油断なさったのではありませんか? ローゼに万が一のことがあったら、どう責任を取るおつもりだったのですか?」

 じりじりと詰め寄る私とヴィレッタの気迫に、リョウは若干たじろいだ。

「いや、だからそれは……! 突然のことで驚いて、それで……! 不覚だったのは認めるが、油断したわけでは……!」

「待て待て、ローゼマリーにヴィレッタよ、その話は後にせい。今は目の前の問題じゃ」

「うむ、それよりもこの双子に聞きたいことがあるのであろう?」

 ダリム宰相とラインハルト王に窘められてしまった。
 おにょれリョウ、命拾いしたな。

「……ところでダリム宰相。以前から少し気になっていたのですが、私たちが女子寮の事件に関わるまで、私たちを何かと理由をつけて王都に留めていたのは、もしかしてこの双子が行方不明だったからですか? リョウを狙うかもしれないと、目の届く範囲に置いておきたかった、とか?」

 私が核心を突くと、ダリム宰相は「ガッハッハ」と豪快に笑った。

「鋭いのう、ローゼマリー。まあ、確証もなかったし、余計な心配をかけても仕方あるまいと思ってのう。それに、お主らを自由にさせすぎると、どこで厄介事に首を突っ込むか、わかったものではないからのう!」

 ……やっぱり。まあ、結果的にそれが事件解決に繋がったわけだが、最初から情報を共有してほしかったぞ!

 私たちは鉄格子の前に立ち、中にいる双子の姉妹に向き合った。
 隣同士の牢の中で、2人は壁に背を預け、人形のように無表情で座っている。

 豪奢な黒と白のゴスロリドレス。
 輝く金と銀のツインテール。左右対称の眼帯。
 まるで鏡合わせのような、不気味なほど整った姿だ。

「この2人は、取り調べには完全黙秘じゃ。リョウ殿には僅かながら敵意のようなものを示すが、それ以外はまるで反応がない」

「状況的に、女子寮の前に男がいたから、不審者として排除しようとした、とも考えられる。クラーク家が邪教と関与していたとしても、この双子自身が積極的に関わっていたという確証は、まだないのだ」

 ダリム宰相とラインハルト王の説明を聞きながら、私はじっと双子を見つめる。
 たしかに私や他の者には何の反応も示さない。敵意すら感じられない。
 ただ、その眼帯をしていない方の瞳は、ずっと私だけを見つめているような気がした。

「モリーナ寮長のように魂が変質したり、摩耗したりしている様子はないっす。ちゃんと自我を持って、自分たちの意思でここにいるっすね。ただ、感情というものがほとんど感じられないっすが」

 フィーリアが2人を観察し、小さな声で分析結果を告げる。

「傭兵を牢の中に放り込んで、何か反応を見るとか?」

 こらベレニス! リョウを実験動物みたいに言うんじゃない!

「すでにやってみたわ。じゃが、反応は同じじゃったわい。リョウめも、もう少し積極的に接触してみよというのに、頑なに拒んでのう」

 って! 何を平然と言っているんだ、このクソジジイ宰相は!

「よかったね~、リョウ。もし本当に接触していたら、今頃ローゼとヴィレッタに……」

「わたくしをなんだと思っているのですか、クリス。……一度の死でわたくしは満足しません」

 クリスの暢気な呟きに、ヴィレッタが静かに恐ろしい一言を添える。
 リョウが背筋を凍らせたのは言うまでもない。

「俺と師父が側にいたのだ。リョウの身の安全は確保するつもりだった」

 ラインハルト王も真面目な顔でフォローするが、そういう問題じゃない!
 ……まあ、でも、そこまで追い詰められていたということか。

 このまま何も喋らなければ、彼女たちは一生をこの薄暗い牢の中で過ごすことになるかもしれない。
 それはあまりにも不憫に思える。

「私の名前はローゼ。魔女のローゼ・スノッサ。少し、お話しない?」

 私は鉄格子越しに、できるだけ穏やかに語りかけた。
 2人の瞳が、ぴくりと動いた気がした。

「邪教『真実の眼』について、何か知っていることがあれば教えてほしい。それと……もし貴女たちが魔女なら、魔女同士、少し話をしてみたい、かな? 好きな魔法とか、ある? 私は炎魔法が得意なんだけど、貴女たちは……?」

 返答はない。ただ、じっと私を見つめる瞳。
 その瞳を見ていると、私の脳裏に、一瞬、断片的な映像がフラッシュバックした。

(……明るい陽射しの中、よく似た顔立ちの2人の少女と、笑顔で語り合っている『私』。楽しそうな、穏やかな時間。……そして次の瞬間、場面は一転し、燃え盛る教会の炎の中、血に濡れた自分の手で、その少女たちを……殺めている『私』……?)

「……っ⁉」

 思わず息を呑み、後ずさる。
 なんだ、今の……?
 遠い昔の、忘れていた記憶……いや、そんなはずはない。
 こんな恐ろしい記憶、私にあるはずがない。
 なのに、どうしてこんなにも鮮明に……?

「ローゼ? どうした?」

 リョウが心配そうに私の顔を覗き込む。

「……ううん、なんでもない。ちょっと、眩暈がしただけ」

 私は動揺を悟られまいと、無理に笑顔を作る。

「……ルリア・ニーマイヤーについて、何か知りませんか? 彼女も、貴女たちと同じ目的で動いているのでしょうか?」

 ヴィレッタが冷静に問いかけるが、双子はやはり無反応だ。

「クラーク家は代々、魔女の家系の者を嫁に迎えてきた。じゃが、これほど強力な魔女が生まれたのは、この双子が初めてじゃろう。邪教がクラーク家に接触したのか、それとも力をつけたクラーク家が邪教を利用しようとしたのか……」

 ダリム宰相の詰問にも、2人はただ私を見つめ続ける。

「この双子が生まれたから、用済みになったクラーク家は邪教に消された……そういう可能性は考えられないでしょうか?」

 リョウの鋭い推測に、双子の瞳が、ほんの僅かに揺らいだように見えた。

「ふむ。邪教の非情さを考えれば、リョウの意見も十分あり得るな。……どうかな? 君たち」

 ラインハルト王が静かに問いかける。
 だが、双子の視線は再び私へと戻る。

「……これは、今は無理か。ラインハルトよ、当分この2人をここで保護するしかあるまい」

「そうだな……リリ・クラーク、ロロ・クラーク。俺は君たちの敵になるつもりはない。ファインダの民として、君たちを守りたいと考えている。だが、もし民に危害を加えるというのなら、話は別だ」

 ダリム宰相とラインハルト王が、一旦尋問を打ち切ることを決め、私たちは牢を後にする。

 でも立ち去る前に、どうしても伝えておきたかった。

「私は……貴女たちと、友達になりたいと思っている。もし話したくなったら、いつでも私を呼んで。どこにいても、必ず駆けつけるから」

 私の言葉に、双子の反応はなかった。
 踵を返して歩き出す。
 その背中に、重なるように2人の声が静かに響いた。

「「目覚めの時は近い。その時まで待つ」」

 その不気味な囁きがどういう意味なのか、今の私には知る由もなかった。
 
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