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第7章 絶望の鐘
第33話 完全復活?
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涙を拭い、私は知らない天井で目を覚ました。
見覚えのない木目調の美しい天井、立派な調度品の揃う広い部屋。
ここはどこ?
……全身が怠い。起き上がることはできるが、ふらついてしまう。
部屋を一通り見回した後、私は自身が映る鏡を見た。
短い金色の髪、まるで妹アニスのよう。
ベッドの横に置かれているテーブルに、見覚えのある書物がある。
パルパティーン宰相が所持していて、エルフの長老アレゼルが回収した代物。
『これは人が持つべき類のものではない。書いた者の実体験を、そっくりそのまま次の所有者の経験値とする、世の理を乱すものよ』
パラパラと捲り、この子の、ローゼマリー・ベルガー、いえ、魔女ローゼ・スノッサの人生をあらかた理解した。
この書物を与えた名前も知り、意図も読めた。
「そう……そういうこと。まあいいわ。あなたの身体を使わせてもらうわ。あれから千年……ね。でも私がいなくなってない限り、ヒイラギも他の魔族どもも消滅してないわ」
そう呟き、虚ろなまま身体を起こすと、目の前に馬が2頭いて、私を見てニカッと微笑んだ。
「? なぜ部屋に? まあ、ちょうどいいわ。フタエゴとバラオビ、私をヒイラギの元まで運びなさい。これは命令よ」
私は右腕を伸ばし、笑みを浮かべ、2頭へ命令する。
なぜいるのかは知らないが、この身体の魔力は回復していない。足が必要だ。
起きてすぐ目の前に馬がいるなんて、好都合ではないか。
すると2頭が近寄って、私の目の前までやって来る。
「ふふふ、いい子たちね。ヒイラギも、あなたたちを気に入ると思うわ。彼は馬術に優れているの。魔王アリス・ディンレルが命じる。さあ! 私を愛する夫のもとまで連れていきなさい!」
優しく、2頭のたてがみを撫でていると……?
「「へ、へ、へ、ヘプシッ」」
フタエゴとバラオビのクシャミが直撃した。
……⁉
何これ! めっちゃ臭いんだけど⁉
全身白濁した粘液塗れが私に降り注ぎ、強烈な悪臭を放ってくる!
「って! フタエゴとバラオビ⁉ ちょっ⁉ マジで、どういう状況⁉ ていうか、私、起きた記憶ないのに立ってる⁉」
なんだこれ? 私、もしかして夢遊病だったりするの?
おにょれ、フタエゴとバラオビ!
前から薄々思っていたけど、こいつら私を格下と認識しているだろ!
リョウとクリス、それにヴィレッタとフィーリアには懐いているのに、私とベレニスとレオノールには舐めた態度を取りやがって。
……ああ、魔力が身体中から湧き上がる。
この魔女ローゼをコケにした報いを受けるがいい!
フッフッフ、それじゃ、馬の丸焼きでも頂くとしますか。
私は右手に炎の球体を、左手には氷の矢を作り出す。
馬肉は食べたことないけど、きっと美味しいよね?
リョウは好物みたいだし。
「さあ、地獄の業火に焼かれて、その身を散らすがいい! フタエゴ! バラオビ!」
「「へっ」」
2頭に向かって魔法を放とうとした私だが、奴らは私を鼻で笑い、器用に扉を開けると部屋を出ていく。
「舐めてんのか~。待て! フタエゴとバラオビ!」
追いかけ、私は勢いよくドアを開けた。
すると……
「ローゼ⁉ 目覚めたのですね⁉ よかった! 本当によかった……」
扉の外には私の着替えを持ったヴィレッタがいた。
彼女は驚きの声を上げ、私に抱きつこうとしたがピタッと止まる。
「……どうしたのです⁉ それ」
「ちょっ! 冷静に距離を取らないで! フタエゴとバラオビの仕業! てか、ここどこ?」
すごいお洒落で、お金持ちで、恐らくは貴族邸だと思われる一室。
後ろには天蓋付きのふかふかなベッドがある。
……あれ? 私、死んだよね?
たしか、私はバアフィンの闇の鎖に絡め取られ、それでも相討ち覚悟で、クリスにブレスを吐くように言って焼かれたはずだ。
「ローゼ、何を訳のわからないことを言ってるのですか。ともかくお風呂へ!」
ヴィレッタに手を引っ張られて、私はお風呂場へと向かう。
ふ~生き返るぅ! お風呂で冷えた身体を暖めるのって最高だよね~。
しばらく風呂を堪能する私だった。
「てか、時間的に深夜っぽいね。立派なお屋敷だし、ここどこ?」
広いお風呂場を見渡しながら、私はヴィレッタに聞いてみた。
「ここはガーデリア領主、アレイスター・ガーデリア伯爵様の屋敷です。ローゼは1週間、眠り続けていたのですよ」
ほうほう、領主の家か。
……ん?
「え⁉ 1週間?」
「そうです。……わたくしの神聖魔法ではどうにもなりませんでした」
私はヴィレッタから、この1週間の出来事を聞いていく。
バアフィンとの戦いで、魔力を根こそぎ使い果たした私はヴィレッタの神聖魔法でも回復せず、危険な状態で眠り続けていたらしい。
「わたくしはずっとローゼのお側にて、目覚めるのを待っていました」
ヴィレッタはそう言って、目に涙を溢れさせた。
……ごめん、また泣かしちゃって。
リョウたちは目覚めぬ私の状態を案じてどうすればいいのかと駆けずり回り、このガーデリア領に残る言い伝えで『雪の雫』を知り、それを手に入れるために出かけているという。
「雪の雫⁉」
「ローゼ、やはり知っているのですね」
ヴィレッタがそう言うってことは、ここにディルにまつわる書籍か逸話があったのだろう。
雪の雫。
私を魔女として育て鍛えた、魔女ディルの生み出した秘薬の一つ。
雪の結晶を凝縮させ、患者に飲ませることで肉体を活性化させる、要は気付け薬の魔女専用薬みたいなものだ。
ただ、あれって……うん、頭がクラクラしてきて、お腹がペコペコでやばい。
この1週間、私は眠り続けていたのだ。
早く、栄養を補給しなくっちゃ。
この状態って、普通は風呂よりご飯が先だよね?
くしゃみさえ浴びなければ、順番が逆だったのに。
「おにょれ、フタエゴとバラオビ。あいつら、どうしてくれようか」
「……そろそろ出ましょうか。フタエゴとバラオビの幻覚を見たというローゼは、まだ本調子ではありません。胃に優しい食事を摂り、もうしばらく休んでくださいませ」
「いやいや、幻覚じゃないって。ヴィレッタが現れる前に、2頭とも出てっちゃったけど」
「あの2頭でしたら、リョウ様たちと一緒のはずです。戻ってきたのなら、ベレニスたちは真っ先にローゼの部屋へと向かうでしょうし」
ほえっ⁉ あれが幻覚?
なんというリアルな幻覚だよ……って、じゃあ、ヴィレッタですら後ずさった、私へくしゃみを浴びせたのは誰ってなるぞ?
私たちは入浴を済まし、食事へと向かう。
「リョウ様たちが戻ってきたら、魔女ディル、それに『真実の眼』についての情報集めを再開しましょう。……ローゼ⁉」
食事中にヴィレッタが告げた言葉の刹那、私の脳裏に砂嵐のような残像と、ディンレル王国の仲間たちの顔が浮かび、消える。
「……夢を見たんだ。とっても悲しい悲劇の物語を。絶望と狂気に染まる、ただ、恋をしただけの女の子と、友達を誰も救えなかった、幸せな未来を夢見ていた女の子の話を」
泣き崩れる私の背中を、ヴィレッタがそっと撫でてくれた。
***
ヴィクティムの身体が崩壊し、バアフィンの粒子は雪原の雪に落ち、混じった。
(おのれ……この屈辱、必ずや晴らす)
バアフィンに死は存在しない。
だが、肉体が消滅して大地に縛られた状態では身動きが取れない。
千年前、魔女アニスの魔法による影響だが、よもや魔女ローゼとやらにも同じような憂き目に遭うとは想定外であった。
(クレマンティーヌめ……早く来て、また俺を復活させろ!)
そんな彼の願いは叶う。
粒子の真上に、クレマンティーヌが現れた。
2人の魔女を連れて。
「気分はどうかね?」
(最悪だ……早く……いや、最悪でございます宰相閣下。また、お助けくださいませ)
吹雪が猛威を振るい始める。
「ふむ……どうするかねえ? マツバ、どうだい? ローゼマリー姫は」
(何を話されているのだ……早く俺を助けてくれ)
バアフィンは訝しんだ。緑髪と黒髪の人間の少女2人に見覚えはない。
「魔女ローゼがアニス様であり、アリス様で間違いがないかと」
黒髪の少女の淡々と答える仕草に、バアフィンの混乱はさらに極まる。
(アニス! 忌まわしき奴だと! それにアリス様だと? 魔王様を名前で呼ぶとは不敬な! ……グハッ)
「うるさい」
アロマティカスは粒子を正確に踏んだ。
(何者だ……宰相閣下! なぜ、人間を連れているのです!)
縋るように言うバアフィンに、クレマンティーヌは嘆息する。
「バアフィン……あんたが最初にアニスを追った時に殺した7人の魔女、覚えてるかね?」
(?)
「そう……なら良いさね。……ふむ、思った通りだねえ。あんた、魔王様に盾突いたのさ。もう不死じゃないねえ」
(……何を言っている? 何を言っているのだ! 宰相閣下! いや、クレマンティーヌ!)
それが、バアフィンが最期に思った感情であった。
グシャ。
マツバとアロマティカスが足で踏み、バアフィンは完全なる死を迎えた。
「先生、魔女ローゼを、いかがなさいます?」
スッキリした顔で呟くアロマティカスと、穏やかな顔を向けるマツバに、クレマンティーヌはこう返す。
「面白いねえ。アリスでも、アニスでもあるなんてねえ」
「私たちも魔女ローゼに殺されたら、永劫の死を迎えられる可能性はありますか?」
「それはないねえ。不死と転生は違うさね。しかもアリスもアニスも、みんなの死を望んでいない。……さて、どうするかねえ」
マツバの問いに、クレマンティーヌは天を見上げた。
「アリスの気配が一瞬現れたけど、消えたねえ。素直に飲み込まれたほうが楽だろうが……ローゼマリー姫、いや、魔女ローゼ。君に全てを背負う覚悟はあるかね?」
雪原の猛吹雪は、それからもしばらく続いた。
見覚えのない木目調の美しい天井、立派な調度品の揃う広い部屋。
ここはどこ?
……全身が怠い。起き上がることはできるが、ふらついてしまう。
部屋を一通り見回した後、私は自身が映る鏡を見た。
短い金色の髪、まるで妹アニスのよう。
ベッドの横に置かれているテーブルに、見覚えのある書物がある。
パルパティーン宰相が所持していて、エルフの長老アレゼルが回収した代物。
『これは人が持つべき類のものではない。書いた者の実体験を、そっくりそのまま次の所有者の経験値とする、世の理を乱すものよ』
パラパラと捲り、この子の、ローゼマリー・ベルガー、いえ、魔女ローゼ・スノッサの人生をあらかた理解した。
この書物を与えた名前も知り、意図も読めた。
「そう……そういうこと。まあいいわ。あなたの身体を使わせてもらうわ。あれから千年……ね。でも私がいなくなってない限り、ヒイラギも他の魔族どもも消滅してないわ」
そう呟き、虚ろなまま身体を起こすと、目の前に馬が2頭いて、私を見てニカッと微笑んだ。
「? なぜ部屋に? まあ、ちょうどいいわ。フタエゴとバラオビ、私をヒイラギの元まで運びなさい。これは命令よ」
私は右腕を伸ばし、笑みを浮かべ、2頭へ命令する。
なぜいるのかは知らないが、この身体の魔力は回復していない。足が必要だ。
起きてすぐ目の前に馬がいるなんて、好都合ではないか。
すると2頭が近寄って、私の目の前までやって来る。
「ふふふ、いい子たちね。ヒイラギも、あなたたちを気に入ると思うわ。彼は馬術に優れているの。魔王アリス・ディンレルが命じる。さあ! 私を愛する夫のもとまで連れていきなさい!」
優しく、2頭のたてがみを撫でていると……?
「「へ、へ、へ、ヘプシッ」」
フタエゴとバラオビのクシャミが直撃した。
……⁉
何これ! めっちゃ臭いんだけど⁉
全身白濁した粘液塗れが私に降り注ぎ、強烈な悪臭を放ってくる!
「って! フタエゴとバラオビ⁉ ちょっ⁉ マジで、どういう状況⁉ ていうか、私、起きた記憶ないのに立ってる⁉」
なんだこれ? 私、もしかして夢遊病だったりするの?
おにょれ、フタエゴとバラオビ!
前から薄々思っていたけど、こいつら私を格下と認識しているだろ!
リョウとクリス、それにヴィレッタとフィーリアには懐いているのに、私とベレニスとレオノールには舐めた態度を取りやがって。
……ああ、魔力が身体中から湧き上がる。
この魔女ローゼをコケにした報いを受けるがいい!
フッフッフ、それじゃ、馬の丸焼きでも頂くとしますか。
私は右手に炎の球体を、左手には氷の矢を作り出す。
馬肉は食べたことないけど、きっと美味しいよね?
リョウは好物みたいだし。
「さあ、地獄の業火に焼かれて、その身を散らすがいい! フタエゴ! バラオビ!」
「「へっ」」
2頭に向かって魔法を放とうとした私だが、奴らは私を鼻で笑い、器用に扉を開けると部屋を出ていく。
「舐めてんのか~。待て! フタエゴとバラオビ!」
追いかけ、私は勢いよくドアを開けた。
すると……
「ローゼ⁉ 目覚めたのですね⁉ よかった! 本当によかった……」
扉の外には私の着替えを持ったヴィレッタがいた。
彼女は驚きの声を上げ、私に抱きつこうとしたがピタッと止まる。
「……どうしたのです⁉ それ」
「ちょっ! 冷静に距離を取らないで! フタエゴとバラオビの仕業! てか、ここどこ?」
すごいお洒落で、お金持ちで、恐らくは貴族邸だと思われる一室。
後ろには天蓋付きのふかふかなベッドがある。
……あれ? 私、死んだよね?
たしか、私はバアフィンの闇の鎖に絡め取られ、それでも相討ち覚悟で、クリスにブレスを吐くように言って焼かれたはずだ。
「ローゼ、何を訳のわからないことを言ってるのですか。ともかくお風呂へ!」
ヴィレッタに手を引っ張られて、私はお風呂場へと向かう。
ふ~生き返るぅ! お風呂で冷えた身体を暖めるのって最高だよね~。
しばらく風呂を堪能する私だった。
「てか、時間的に深夜っぽいね。立派なお屋敷だし、ここどこ?」
広いお風呂場を見渡しながら、私はヴィレッタに聞いてみた。
「ここはガーデリア領主、アレイスター・ガーデリア伯爵様の屋敷です。ローゼは1週間、眠り続けていたのですよ」
ほうほう、領主の家か。
……ん?
「え⁉ 1週間?」
「そうです。……わたくしの神聖魔法ではどうにもなりませんでした」
私はヴィレッタから、この1週間の出来事を聞いていく。
バアフィンとの戦いで、魔力を根こそぎ使い果たした私はヴィレッタの神聖魔法でも回復せず、危険な状態で眠り続けていたらしい。
「わたくしはずっとローゼのお側にて、目覚めるのを待っていました」
ヴィレッタはそう言って、目に涙を溢れさせた。
……ごめん、また泣かしちゃって。
リョウたちは目覚めぬ私の状態を案じてどうすればいいのかと駆けずり回り、このガーデリア領に残る言い伝えで『雪の雫』を知り、それを手に入れるために出かけているという。
「雪の雫⁉」
「ローゼ、やはり知っているのですね」
ヴィレッタがそう言うってことは、ここにディルにまつわる書籍か逸話があったのだろう。
雪の雫。
私を魔女として育て鍛えた、魔女ディルの生み出した秘薬の一つ。
雪の結晶を凝縮させ、患者に飲ませることで肉体を活性化させる、要は気付け薬の魔女専用薬みたいなものだ。
ただ、あれって……うん、頭がクラクラしてきて、お腹がペコペコでやばい。
この1週間、私は眠り続けていたのだ。
早く、栄養を補給しなくっちゃ。
この状態って、普通は風呂よりご飯が先だよね?
くしゃみさえ浴びなければ、順番が逆だったのに。
「おにょれ、フタエゴとバラオビ。あいつら、どうしてくれようか」
「……そろそろ出ましょうか。フタエゴとバラオビの幻覚を見たというローゼは、まだ本調子ではありません。胃に優しい食事を摂り、もうしばらく休んでくださいませ」
「いやいや、幻覚じゃないって。ヴィレッタが現れる前に、2頭とも出てっちゃったけど」
「あの2頭でしたら、リョウ様たちと一緒のはずです。戻ってきたのなら、ベレニスたちは真っ先にローゼの部屋へと向かうでしょうし」
ほえっ⁉ あれが幻覚?
なんというリアルな幻覚だよ……って、じゃあ、ヴィレッタですら後ずさった、私へくしゃみを浴びせたのは誰ってなるぞ?
私たちは入浴を済まし、食事へと向かう。
「リョウ様たちが戻ってきたら、魔女ディル、それに『真実の眼』についての情報集めを再開しましょう。……ローゼ⁉」
食事中にヴィレッタが告げた言葉の刹那、私の脳裏に砂嵐のような残像と、ディンレル王国の仲間たちの顔が浮かび、消える。
「……夢を見たんだ。とっても悲しい悲劇の物語を。絶望と狂気に染まる、ただ、恋をしただけの女の子と、友達を誰も救えなかった、幸せな未来を夢見ていた女の子の話を」
泣き崩れる私の背中を、ヴィレッタがそっと撫でてくれた。
***
ヴィクティムの身体が崩壊し、バアフィンの粒子は雪原の雪に落ち、混じった。
(おのれ……この屈辱、必ずや晴らす)
バアフィンに死は存在しない。
だが、肉体が消滅して大地に縛られた状態では身動きが取れない。
千年前、魔女アニスの魔法による影響だが、よもや魔女ローゼとやらにも同じような憂き目に遭うとは想定外であった。
(クレマンティーヌめ……早く来て、また俺を復活させろ!)
そんな彼の願いは叶う。
粒子の真上に、クレマンティーヌが現れた。
2人の魔女を連れて。
「気分はどうかね?」
(最悪だ……早く……いや、最悪でございます宰相閣下。また、お助けくださいませ)
吹雪が猛威を振るい始める。
「ふむ……どうするかねえ? マツバ、どうだい? ローゼマリー姫は」
(何を話されているのだ……早く俺を助けてくれ)
バアフィンは訝しんだ。緑髪と黒髪の人間の少女2人に見覚えはない。
「魔女ローゼがアニス様であり、アリス様で間違いがないかと」
黒髪の少女の淡々と答える仕草に、バアフィンの混乱はさらに極まる。
(アニス! 忌まわしき奴だと! それにアリス様だと? 魔王様を名前で呼ぶとは不敬な! ……グハッ)
「うるさい」
アロマティカスは粒子を正確に踏んだ。
(何者だ……宰相閣下! なぜ、人間を連れているのです!)
縋るように言うバアフィンに、クレマンティーヌは嘆息する。
「バアフィン……あんたが最初にアニスを追った時に殺した7人の魔女、覚えてるかね?」
(?)
「そう……なら良いさね。……ふむ、思った通りだねえ。あんた、魔王様に盾突いたのさ。もう不死じゃないねえ」
(……何を言っている? 何を言っているのだ! 宰相閣下! いや、クレマンティーヌ!)
それが、バアフィンが最期に思った感情であった。
グシャ。
マツバとアロマティカスが足で踏み、バアフィンは完全なる死を迎えた。
「先生、魔女ローゼを、いかがなさいます?」
スッキリした顔で呟くアロマティカスと、穏やかな顔を向けるマツバに、クレマンティーヌはこう返す。
「面白いねえ。アリスでも、アニスでもあるなんてねえ」
「私たちも魔女ローゼに殺されたら、永劫の死を迎えられる可能性はありますか?」
「それはないねえ。不死と転生は違うさね。しかもアリスもアニスも、みんなの死を望んでいない。……さて、どうするかねえ」
マツバの問いに、クレマンティーヌは天を見上げた。
「アリスの気配が一瞬現れたけど、消えたねえ。素直に飲み込まれたほうが楽だろうが……ローゼマリー姫、いや、魔女ローゼ。君に全てを背負う覚悟はあるかね?」
雪原の猛吹雪は、それからもしばらく続いた。
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