【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ

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第7章 絶望の鐘

第32話 決着! vsヴィクティム戦

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 ヴィクティムがバアフィンの粒子を吸収し、恍惚とした表情で新たな力を漲らせている間、リョウたちはクリスのブレスで焼け焦げ、未だ熱気を帯びる雪原へと急いだ。

「ローゼ! しっかりしろ、ローゼ!」

 雪の上に倒れ、意識を失っているローゼをリョウは慎重に抱きかかえる。
 幸い、呼吸はあり、脈も弱いが動いている。
 リョウは張り詰めていた息を、安堵と共に細く長く吐き出した。

「……まったく、無茶ばかりして……」

『ローゼ……生きてる……? よかった……本当に……』

 赤竜の姿のまま全身おびただしい傷を負い、ぐったりと雪の上に伏しているクリスが、か細い声でローゼの生存を喜んだが、赤い瞳は疲労困憊の色を隠せない。

「ローゼとクリスの治癒は、わたくしにお任せください」

 ヴィレッタが2人のそばに駆け寄り、両手に柔らかな神聖魔法の光を灯す。

「ですが、あれほどのブレスの直撃を受けて、よくローゼはご無事でした。奇跡としか……」

「まあ、姉様ですから」

 レオノールがヴィレッタの言葉に頷きつつ、2人の守護を固めるように、二対の剣を構えて周囲を警戒していると、リョウの足元の雪が不自然に盛り上がり、声が聞こえてくる。

「ちょっと傭兵! 早く気づきなさいよ! 下! 下だってば!」

「いやいや、このくらいの雪なら何とかなるっす。ベレニスさん、もうちょっとだけ辛抱っすよ!」

 次の瞬間、ゴッと鈍い音が響き、地面がひび割れたかと思うと、そこからベレニスとフィーリアが勢いよく飛び出してきた。
 フィーリアが持ち前の怪力と小型の削岩用魔導具で、凍った土と雪を無理やり叩き割ったのだ。

「2人とも! ご無事で何よりです! ですが、一体どうして地中に⁉」

 レオノールが驚いて尋ねる。

『ベレニス~! フィーリア~! 生きてて良かったよ~!』

 クリスが巨体を起こそうとする。

「ちょっ⁉ 傷だらけの竜の姿で抱きつかないでくれる⁉ 重いし血塗れになるし、確実に圧死するわよ!」

 ベレニスが慌てて叫ぶ。

「自分も人間に戻ってからお願いしたいっすね、クリスさん」

 フィーリアも苦笑いを浮かべる。

「……さて、ローゼさんは……と。うん、意識はないっすが、命に別状はなさそうっすね。いやはや、本当に危なかったっす。まさか、相打ち覚悟でクリスさんに自分ごとブレスを撃たせるなんて、無茶苦茶にも程があるっすよ」

 フィーリアは肩についた雪を払いながら説明を続ける。

「バアフィンに吹き飛ばされた時、自分たちは比較的近くの雪溜まりに落ちたんす。それでローゼさんたちの状況を隠れながら窺っていたんすけど、これはマズイってことで、ベレニスさんと相談して地中からの奇襲を狙ってたんすよ。ドワーフ秘伝の土遁術で真下まで何とか辿り着いて……」

「そうよ! ローゼがやられる寸前、この私の風の精霊魔法でローゼの全身をギリギリ包み込んで、ブレスの直撃から守ったのよ! 私がいなかったらローゼは一瞬で蒸発してたわ! もっと感謝しなさい!」

 ベレニスがふふんと得意げに胸を張る。

「まあ、魔法効果を限界まで高めたのは自分が渡しておいた、ドワーフ製の魔力増幅ペンダントのおかげっすけどね」

 フィーリアが冷静にツッコミを入れる。

「なんですって~⁉ あんたねえ!」

「事実っす」

 また始まった2人のいつもの口喧嘩を、「今はそれどころではありません!」とヴィレッタがぴしゃりと宥める。

『みんな……無事で……よかった……』

 クリスが安堵の息をつくが、巨体は再びぐらりと傾いた。

「クリス! あなたも酷い怪我なのですから! 今は治療に専念して、ゆっくり休んでくださいませ!」

 ヴィレッタが厳しい声で言う。

 ローゼは依然、意識が戻らない。クリスも深手を負い、もはや戦闘は不可能だ。
 回復魔法に集中するヴィレッタは戦いには参加できない。
 状況は依然として厳しい。今すぐここから撤退するのが最善策だろう。

 だが……バアフィンを吸収し終えたヴィクティムが禍々しい魔力をさらに増大させながら、こちらを歪んだ愉悦と憎悪の入り混じった表情で見つめている。
 戦いはまだ終わっていないのだ。

「……あれが、魔族という存在か。まさか、己の主すら喰らって力を増すとはな」

 リョウは漆黒の剣を構え直し、低い声で呟いた。
 彼の瞳には目の前の異質な存在に対する警戒と、仲間を守るという強い決意が宿っている。

「七英雄の時代から伝わる文献によれば、魔族が人類側に降伏したり、共感を示した例は皆無っす。我々とは根本的に思考回路が異なる、異世界の種族……それが魔族っす」

 フィーリアが筒状の索敵用魔導具を構えながら、冷静に解説する。

「魔王軍五大将軍の一角、バアフィンを屠った姉様とクリスさんの武勇は、きっと後世まで英雄譚として語り継がれることでしょう! そこに私の名前が刻まれないのは非常に残念ですが、この残るヴィクティムを、このレオノール・ファインダが討ち取り、私も英雄譚に名を連ねてみせます!」

 レオノールが両手の二対の剣を構え直し、闘気を漲らせる。
 先ほどの戦いで覚醒したのか、剣からは依然として淡い聖なる光が漏れていた。

「ふん、まあ、ローゼとクリスがいない今、この私が格の違いってやつを教えてあげるしかないわね! 言わばここからが、本当のガーデリア雪原最終決戦でしょ? 2人に、後でたっぷり自慢して悔しがらせてやるんだから!」

 ベレニスも細身のレイピアを構え、刀身に翠色の風を纏わせていく。

「先程までとは、比較にならないほどの邪悪な圧力を感じます……皆様、どうか、気を抜かれませんように!」

 ヴィレッタはローゼとクリスの治療に集中しながら、仲間たちに鋭く警告を発した。

 警告通り、バアフィンを取り込んだヴィクティムから放たれる魔力は、以前とは比較にならないほど強大になっている。
 彼は不気味な笑みを浮かべると、身体から無数の漆黒の触手を繰り出した。
 最初は数本、それが瞬く間に数十本、百本へと数を増す。

「来るぞ!」

 リョウの短い声と共に、触手の津波が襲いかかった!

「速いっ……!」

 今までとは段違いの速度と密度で迫る触手に、リョウは毒づきながらも剣を振るい、薙ぎ払い、突き刺し、切り裂く。
 だが斬っても斬っても、次から次へと新たな触手が襲いかかってくる。

 フィーリアが魔導弾で広範囲の触手を焼き切るが、一瞬の隙を突いて、別の触手が鋭利な先端を槍のように突き出してくる。
 それをベレニスの疾風のレイピアと、レオノールの輝く二対の剣が紙一重で弾き返す!

 だが、ヴィクティムの触手は斬られても焼かれても、瞬時に再生し、勢いは衰えるどころか増した。
 迷宮での戦いと同じ消耗戦。
 あの時はローゼの機転と強力な魔法があった。
 今は回復役のヴィレッタも、強大な力を誇るクリスも動けず、火力も手数も半減している。
 何より、敵の力が違いすぎる。

 触手はさらに数を増やし、波状攻撃を仕掛けてくる。
 ついに、レオノールが捌ききれず、二対の剣ごと粘液を纏った太い触手に絡め取られてしまった!

「くっ……! このネバネバ、剣が……!」

 それは他の触手と違い、物理的な攻撃だけでなく魔力さえも吸い取ろうとしているようだ。

 さらに、ベレニスとフィーリアも、バアフィンが得意としていた闇の鎖へと変化した触手に捕らえられてしまった!

「きゃっ! なによこれ!」

「まずいっす! 魔導具が!」

 ヴィクティムは捕らえた3人の魔力を吸い上げ、恍惚とした表情を浮かべる。

「ふはははは! リョウ・アルバースよ! 残るは貴様だけだ! さあ、どうする? 面白いことを思いついたぞ!」

 ヴィクティムはリョウを見下ろし、愉悦に歪んだ笑みを浮かべた。

「この3人の女の命、後ろで治療に専念している女と、瀕死の女2人。貴様がここで潔く自害するならば、この女たちは生きたまま宰相閣下とやらの元へ、丁重に送り届けてやろう! さあ、選ぶがいい、英雄!」

 ヴィクティムの言葉を聞いても、リョウの表情は変わらない。
 彼はフッと、鼻で笑うかのように息を漏らすと、漆黒の剣を構え直した。

「……なるほどな。魔族というのは人間が絶望する様を見るのがよほど好きらしい。だが、貴様のような奴は戦場では真っ先に死ぬタイプだ。ノイズなら捕らえた瞬間に、あの3人の命はなかっただろう。人間の戦場では有利になったからと油断し、敵を弄ぶような真似をする奴から死ぬ。貴様のように、命を何とも思っていない奴は特にな」

 リョウは言葉を終えると同時に、地面を蹴り、ヴィクティムへと一直線に駆け出した!

「ほざけ! 人間風情が! ならばまずはこの生意気な女どもを、目の前でミンチにしてくれるわ!」

 ヴィクティムは激昂し、捕らえたレオノール、ベレニス、フィーリアに絡みつく触手に、更なる力を込めた!

 ヴィクティムは3人の女たちが、ただやられるのを待つ柔な者たちでないことを理解していなかった。
 それが勝敗を、生死を分ける。

「させません!」

 レオノールの二対の剣が聖なる光を爆発させ、粘液ごと触手を弾き飛ばす!

「風よ荒ぶれ!」

 ベレニスのレイピアから放たれた風の刃が、闇の鎖を切り裂く!

「どりゃあああっす!」

 フィーリアがドワーフの血に秘められた怪力を全開にし、力ずくで闇の鎖をもぎ取る!

「なっ⁉ 馬鹿な! この僕の力を、自力で⁉」

 3人が同時に拘束から脱出したことに、ヴィクティムは信じられないといった表情で硬直し、その一瞬の隙を、リョウは見逃さない。

「人類を……俺の仲間を、舐めるな、魔族!」

 黒髪黒瞳の剣士が、瞬く間に眼前に迫る。
 振り下ろされた漆黒の剣はもはや何の抵抗も許さず、ヴィクティムの身体を、核ごと真っ二つに両断した。

「こ……んな……あり……え……な……! バアフィン……さまぁぁぁ……!」

 驚愕と絶望の表情を浮かべたまま、ヴィクティムの身体は光の粒子となって霧散し、断末魔の叫びだけが、吹雪の雪原に虚しく木霊した。

 リョウが剣の血振りをした横顔に、安堵の色はない。
 完全に消滅するまで、ヴィクティムを睨み続けていた。

「……ノイズなら、こうはいかなかった。……奴より弱くて、助かったよ」

 リョウの小さな呟きは誰に聞かれることもなく、冷たい風の中に消えていった。
 
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