47 / 57
辺境伯夫人は頑張ります
10【エリザベス視点】
しおりを挟む
「お久しぶりです。王妃様」
優雅に笑う前ドゥイエ伯爵夫人は、確実に怒っておられた。
「……き、急にどうしたのかしら?」
「あら? いつ来ても構わないと仰ったのは王妃様でしょう? それとも、過去の誓いなんてお忘れになってしまったのかしら?」
王妃であるお義母様にこんな態度を取れるご夫人をわたくしは知らない。
それだけで、どれほどの非常事態か分かる。
「エリザベス様、はじめまして。いつも娘がお世話になっておりますわ」
彼女の産んだ子どもは2人。フレッド様と、カール様だけ。娘は産んでいない。つまり、彼女の言う娘とはシャーリーの事だ。
良かったわね。シャーリー。貴女を大事にしてくれるお母様が出来たのね。
「はじめまして。エリザベスですわ。シャーリーとは仲良くさせて頂いております」
「ええ、存じております。シャーリーはエリザベス様の事をとても大切に思っておりますわ」
表面上は穏やかな語らい。だけど彼女はわたくしに、いや、王家に疑いを持っている。
当然ね。
辺境伯の宝物を奪おうとしたんですもの。どうしてあんな事をしたのか、何度聞いても教えてくれない。シャーリーが断ってくれて良かった。でないと、フレッド様がどれだけお怒りになるか……。辺境伯が出来るのは現在はフレッド様だけ。彼の圧倒的な強さのおかげで、戦争にならず平和に過ごせている。
そんな事も分からないなんて思えない。一体どうなっているの?
フレッド様は王家に忠実なお方。
だから、何をしても良いと思ったの?
そんな事ない。フレッド様だって意思のある人間。フレッド様がシャーリーを溺愛しているのは分かっていたでしょうに。
わたくしはシャーリーを相談役に欲しいなんて思ってない。確かに、会える時間は短いし辺境伯の屋敷は通信魔法も出来ないから気軽には話せない。でも、それは王城も同じ。わたくしは特別な魔道具を与えられているからどこでも魔法が使えるけど……。
魔道具を与えられるのは、王族と……王族に尽くしたと認められる者だけ。サリバン先生は魔道具をお持ちだから、いつでもお話が出来る。まさか、それが理由?
確かにいつでもシャーリーと話せれば良いけど、それだけの為にフレッド様を怒らせるなんて……。いや、それは違うかしら。もしわたくしの為なら、わたくしが嫌だと言った時点で諦めて下さる筈。
シャーリーはフレッド様の側に居るのがいちばん幸せなのよ。岩穴に住んでも構わないなんて思うほど好きな方なのに、引き離す事なんて出来ない。
あんなに苦労していたシャーリーがやっと掴んだ幸せなのよ。
通いで相談役の仕事が出来る訳ない。通いで良いとか、休みがあるとか嘘ばっかり吐いてシャーリーを誘おうとするなんて……どうしてよ……。
何度も駄目だと訴えた、シャーリーとは友達のままでいたいと言った。それに、フレッド様がお怒りになるとも言ったのに、あの人は鼻で笑った。必ずシャーリーをわたくしの相談役にすると言って出て行ってしまった。
そんなに、わたくしは頼りないのかしら。
シャーリーを付けないといけないと思われる程、王太子妃として不足があったの?
それとも……何か別の理由でシャーリーが必要なの? わたくしではいけないの?
夫の意図が全く分からない。
心の奥を悟られないように、笑顔の仮面を被る。彼女は間違いなく王家を探りに来ている。シャーリーを奪おうとした王家に疑いを持っているに決まっている。
これ以上辺境伯の機嫌を損ねる事はあってはならない。既に、シャーリーを相談役にと望んだ事で王家の印象は最悪だ。でないと、前辺境夫婦が揃って王城に現れるなんてあり得ない。彼らは王家に釘を刺しに来たのだ。
「嬉しいですわ。これからもシャーリーと仲良くしたいと思っております。たまにシャーリーと2人きりで行う茶会は、わたくしの息抜きなんですの。今まで通り、辺境伯夫人のシャーリーと交流を深めたいですわ」
シャーリーを相談役にするつもりはない。彼女は辺境伯夫人なんだから。
わたくしの言外の訴えは、届いたようだ。彼女を纏う圧がなくなり、穏やかな笑みを浮かべていらっしゃる。
「エリザベス様は今まで通りのお付き合いをお望みなのですね。嬉しいですわ。シャーリーに伝えておきますわね」
わたくしの意思は伝わったのだろう。良かった。最悪の事態は、避けられそうだ。
優雅に笑う前ドゥイエ伯爵夫人は、確実に怒っておられた。
「……き、急にどうしたのかしら?」
「あら? いつ来ても構わないと仰ったのは王妃様でしょう? それとも、過去の誓いなんてお忘れになってしまったのかしら?」
王妃であるお義母様にこんな態度を取れるご夫人をわたくしは知らない。
それだけで、どれほどの非常事態か分かる。
「エリザベス様、はじめまして。いつも娘がお世話になっておりますわ」
彼女の産んだ子どもは2人。フレッド様と、カール様だけ。娘は産んでいない。つまり、彼女の言う娘とはシャーリーの事だ。
良かったわね。シャーリー。貴女を大事にしてくれるお母様が出来たのね。
「はじめまして。エリザベスですわ。シャーリーとは仲良くさせて頂いております」
「ええ、存じております。シャーリーはエリザベス様の事をとても大切に思っておりますわ」
表面上は穏やかな語らい。だけど彼女はわたくしに、いや、王家に疑いを持っている。
当然ね。
辺境伯の宝物を奪おうとしたんですもの。どうしてあんな事をしたのか、何度聞いても教えてくれない。シャーリーが断ってくれて良かった。でないと、フレッド様がどれだけお怒りになるか……。辺境伯が出来るのは現在はフレッド様だけ。彼の圧倒的な強さのおかげで、戦争にならず平和に過ごせている。
そんな事も分からないなんて思えない。一体どうなっているの?
フレッド様は王家に忠実なお方。
だから、何をしても良いと思ったの?
そんな事ない。フレッド様だって意思のある人間。フレッド様がシャーリーを溺愛しているのは分かっていたでしょうに。
わたくしはシャーリーを相談役に欲しいなんて思ってない。確かに、会える時間は短いし辺境伯の屋敷は通信魔法も出来ないから気軽には話せない。でも、それは王城も同じ。わたくしは特別な魔道具を与えられているからどこでも魔法が使えるけど……。
魔道具を与えられるのは、王族と……王族に尽くしたと認められる者だけ。サリバン先生は魔道具をお持ちだから、いつでもお話が出来る。まさか、それが理由?
確かにいつでもシャーリーと話せれば良いけど、それだけの為にフレッド様を怒らせるなんて……。いや、それは違うかしら。もしわたくしの為なら、わたくしが嫌だと言った時点で諦めて下さる筈。
シャーリーはフレッド様の側に居るのがいちばん幸せなのよ。岩穴に住んでも構わないなんて思うほど好きな方なのに、引き離す事なんて出来ない。
あんなに苦労していたシャーリーがやっと掴んだ幸せなのよ。
通いで相談役の仕事が出来る訳ない。通いで良いとか、休みがあるとか嘘ばっかり吐いてシャーリーを誘おうとするなんて……どうしてよ……。
何度も駄目だと訴えた、シャーリーとは友達のままでいたいと言った。それに、フレッド様がお怒りになるとも言ったのに、あの人は鼻で笑った。必ずシャーリーをわたくしの相談役にすると言って出て行ってしまった。
そんなに、わたくしは頼りないのかしら。
シャーリーを付けないといけないと思われる程、王太子妃として不足があったの?
それとも……何か別の理由でシャーリーが必要なの? わたくしではいけないの?
夫の意図が全く分からない。
心の奥を悟られないように、笑顔の仮面を被る。彼女は間違いなく王家を探りに来ている。シャーリーを奪おうとした王家に疑いを持っているに決まっている。
これ以上辺境伯の機嫌を損ねる事はあってはならない。既に、シャーリーを相談役にと望んだ事で王家の印象は最悪だ。でないと、前辺境夫婦が揃って王城に現れるなんてあり得ない。彼らは王家に釘を刺しに来たのだ。
「嬉しいですわ。これからもシャーリーと仲良くしたいと思っております。たまにシャーリーと2人きりで行う茶会は、わたくしの息抜きなんですの。今まで通り、辺境伯夫人のシャーリーと交流を深めたいですわ」
シャーリーを相談役にするつもりはない。彼女は辺境伯夫人なんだから。
わたくしの言外の訴えは、届いたようだ。彼女を纏う圧がなくなり、穏やかな笑みを浮かべていらっしゃる。
「エリザベス様は今まで通りのお付き合いをお望みなのですね。嬉しいですわ。シャーリーに伝えておきますわね」
わたくしの意思は伝わったのだろう。良かった。最悪の事態は、避けられそうだ。
70
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました
由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。
彼女は何も言わずにその場を去った。
――それが、王太子の終わりだった。
翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。
裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。
王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。
「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」
ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。
真実の愛がどうなろうと関係ありません。
希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令息サディアスはメイドのリディと恋に落ちた。
婚約者であった伯爵令嬢フェルネは無残にも婚約を解消されてしまう。
「僕はリディと真実の愛を貫く。誰にも邪魔はさせない!」
サディアスの両親エヴァンズ伯爵夫妻は激怒し、息子を勘当、追放する。
それもそのはずで、フェルネは王家の血を引く名門貴族パートランド伯爵家の一人娘だった。
サディアスからの一方的な婚約解消は決して許されない裏切りだったのだ。
一ヶ月後、愛を信じないフェルネに新たな求婚者が現れる。
若きバラクロフ侯爵レジナルド。
「あら、あなたも真実の愛を実らせようって仰いますの?」
フェルネの曾祖母シャーリンとレジナルドの祖父アルフォンス卿には悲恋の歴史がある。
「子孫の我々が結婚しようと関係ない。聡明な妻が欲しいだけだ」
互いに塩対応だったはずが、気づくとクーデレ夫婦になっていたフェルネとレジナルド。
その頃、真実の愛を貫いたはずのサディアスは……
(予定より長くなってしまった為、完結に伴い短編→長編に変更しました)
新しい人生を貴方と
緑谷めい
恋愛
私は公爵家令嬢ジェンマ・アマート。17歳。
突然、マリウス王太子殿下との婚約が白紙になった。あちらから婚約解消の申し入れをされたのだ。理由は王太子殿下にリリアという想い人ができたこと。
2ヵ月後、父は私に縁談を持って来た。お相手は有能なイケメン財務大臣コルトー侯爵。ただし、私より13歳年上で婚姻歴があり8歳の息子もいるという。
* 主人公は寛容です。王太子殿下に仕返しを考えたりはしません。
姉の婚約者であるはずの第一王子に「お前はとても優秀だそうだから、婚約者にしてやってもいい」と言われました。
ふまさ
恋愛
「お前はとても優秀だそうだから、婚約者にしてやってもいい」
ある日の休日。家族に疎まれ、蔑まれながら育ったマイラに、第一王子であり、姉の婚約者であるはずのヘイデンがそう告げた。その隣で、姉のパメラが偉そうにふんぞりかえる。
「ぞんぶんに感謝してよ、マイラ。あたしがヘイデン殿下に口添えしたんだから!」
一方的に条件を押し付けられ、望まぬまま、第一王子の婚約者となったマイラは、それでもつかの間の安らぎを手に入れ、歓喜する。
だって。
──これ以上の幸せがあるなんて、知らなかったから。
[完結中編]蔑ろにされた王妃様〜25歳の王妃は王と決別し、幸せになる〜
コマメコノカ@女性向け・児童文学・絵本
恋愛
王妃として国のトップに君臨している元侯爵令嬢であるユーミア王妃(25)は夫で王であるバルコニー王(25)が、愛人のミセス(21)に入り浸り、王としての仕事を放置し遊んでいることに辟易していた。
そして、ある日ユーミアは、彼と決別することを決意する。
「帰ったら、結婚しよう」と言った幼馴染みの勇者は、私ではなく王女と結婚するようです
しーしび
恋愛
「結婚しよう」
アリーチェにそう約束したアリーチェの幼馴染みで勇者のルッツ。
しかし、彼は旅の途中、激しい戦闘の中でアリーチェの記憶を失ってしまう。
それでも、アリーチェはルッツに会いたくて魔王討伐を果たした彼の帰還を祝う席に忍び込むも、そこでは彼と王女の婚約が発表されていた・・・
【完結】さようなら、婚約者様。私を騙していたあなたの顔など二度と見たくありません
ゆうき
恋愛
婚約者とその家族に虐げられる日々を送っていたアイリーンは、赤ん坊の頃に森に捨てられていたところを、貧乏なのに拾って育ててくれた家族のために、つらい毎日を耐える日々を送っていた。
そんなアイリーンには、密かな夢があった。それは、世界的に有名な魔法学園に入学して勉強をし、宮廷魔術師になり、両親を楽させてあげたいというものだった。
婚約を結ぶ際に、両親を支援する約束をしていたアイリーンだったが、夢自体は諦めきれずに過ごしていたある日、別の女性と恋に落ちていた婚約者は、アイリーンなど体のいい使用人程度にしか思っておらず、支援も行っていないことを知る。
どういうことか問い詰めると、お前とは婚約破棄をすると言われてしまったアイリーンは、ついに我慢の限界に達し、婚約者に別れを告げてから婚約者の家を飛び出した。
実家に帰ってきたアイリーンは、唯一の知人で特別な男性であるエルヴィンから、とあることを提案される。
それは、特待生として魔法学園の編入試験を受けてみないかというものだった。
これは一人の少女が、夢を掴むために奮闘し、時には婚約者達の妨害に立ち向かいながら、幸せを手に入れる物語。
☆すでに最終話まで執筆、予約投稿済みの作品となっております☆
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる