5 / 8
目眩
しおりを挟む
「武蔵…腹がゴロゴロいってるからちょっと抜ける…」
2限目があと30分ほどで終わるという辺りで、仁が弱々しく袖を引っ張ってきた。
羽織っている上着の内側に、腹を労るように擦る腕が見える。
夏が始まったばかりで、外の茹だるような暑さと講義室内の芯が冷える寒さとの温度差にまだ体が慣れていない。
病気知らずの俺と違い、仁にはこの温度差は辛かろうと家を出る時に仁用の上着を持って出たのだが、それを使っても体が限界を超えたらしい。
「仁の分もノートを取っとくな。帰りたくなったら連絡くれ」
声を落として喋る俺へ、消え入りそうな声で『うん』と応えた仁はスマホをポケットに滑り込ませて講義室を出て行く。
さっきまで仁が書き込んでいたルーズリーフを引き寄せて、どこまで書いているのか目を通した。
『思い遣りのある字だ』
男友達の中には字ともつかぬ何かを書く奴も居たが、仁は後から見直しやすく、読みやすい字を書く。
字はその人の内面を表すってのは、あながち間違いじゃねえんだろう。
進捗を把握してその下に連なるように書き始める。
俺が書道の行書の如く字を書くせいで、仁の凛とした字と並ぶと荒々しく見えるな。
出来るだけ楷書をイメージしてシャーペンを動かしていると、後ろに座っていた友人の和が俺が座っている椅子を下から小さく蹴ってきた。
振り返れば、机上から頭しか見えないほど滑り落ちていた和が座り直している。
「産気づいたん?」
「保健体育の授業、爆睡してたのか?」
「冗談、ジョーダン!希少種見るような目で見るんじゃねぇー」
和は視線を振りほどくように小さく左右に揺れて、「病気じゃ無いんか?」と少し真面目な顔をして聞いてきた。
「冷え過ぎだな。今日は特に暑ちぃから」
和の方へ傾いていた姿勢を戻しながら、僅かに眉間に皺を寄せて返答する。
ファッ◯ンサマー、と呟いて和の意識が教壇の方に移った。
あまりに長く話すとこの教授は注意してくるんで、会話は最小限だ。
教授がこっち向きながら話してるのを見るに、トイレに出ていったのは気付いてそうだな。
和に習って俺も黙々とノートを取っていると、カバンに入れているスマホが震えた。
教授の目から見えないよう机の影で立ち上げ、連絡内容を確認する。
『頭がクラクラしてきたから、大至急ポラリ買ってくる』
『大学内の保健室に行ったらどうだ?スポドリくれるって聞いたぞ』
『どうせ本調子になるまでに1時間ぐらいかかるし…。次の1コマ休んで家帰って寝たほうが治る気がする』
『この授業はどうすんだ?最後にちょっとだけ戻ってくるか?』
『最後10分だけ戻る。戻って来なかったら荷物一緒に持って出といて』
一緒に帰ってやりたいが、『次の授業のノートも取っといて!』と言われるのが目に見えている。
昼休み中に終わらせなきゃいけねえ課題もあるし、短時間で往復できるほど近くに住んでる訳でもない。
腹立たしいが、しっかり注意をすることで手を打つか。
『何かする"前"にポラリ飲めよ。
荷物は纏めとくからゆっくり休んで戻って来たら良い』
『ありがとう』
仁の返答に少年漫画のキャラクターがウィンクをしているスタンプが後続する。
このキャラクター、チャラい性格の癖に俺と同じ「ムサシ」なんだよな。ちっと承服しかねる。
ちなみに仁と俺はウィンクが出来ない。
何度かウィンク練習会を開催したが、俺も仁もうっっっすら片目を開けることしか出来なかった。
いつだったかそれを和に話したら、小器用に左右交互でウィンクを連投してきたため、顔面を鷲掴みにして地面から浮かそうとしたことは、和が今でも根に持っている。
あの時仁に止められなかったら振りかぶって投げてやったんだがなぁ…。
幾許か体感温度が下がった席でノートを取り続けていると、驚いたことに授業が5分早く終わった。
いつも時間ぴったりにしか終わらねぇくせにどうした。
背後で和が教授を2度見した気配を感じる。リアクションが暑苦しいぞ。
まあ良い。
仁を労る時間が出来たんだ。有効活用しねぇとな。
俺の荷物と仁の荷物を大急ぎで纏めて教室を出た。
2限目があと30分ほどで終わるという辺りで、仁が弱々しく袖を引っ張ってきた。
羽織っている上着の内側に、腹を労るように擦る腕が見える。
夏が始まったばかりで、外の茹だるような暑さと講義室内の芯が冷える寒さとの温度差にまだ体が慣れていない。
病気知らずの俺と違い、仁にはこの温度差は辛かろうと家を出る時に仁用の上着を持って出たのだが、それを使っても体が限界を超えたらしい。
「仁の分もノートを取っとくな。帰りたくなったら連絡くれ」
声を落として喋る俺へ、消え入りそうな声で『うん』と応えた仁はスマホをポケットに滑り込ませて講義室を出て行く。
さっきまで仁が書き込んでいたルーズリーフを引き寄せて、どこまで書いているのか目を通した。
『思い遣りのある字だ』
男友達の中には字ともつかぬ何かを書く奴も居たが、仁は後から見直しやすく、読みやすい字を書く。
字はその人の内面を表すってのは、あながち間違いじゃねえんだろう。
進捗を把握してその下に連なるように書き始める。
俺が書道の行書の如く字を書くせいで、仁の凛とした字と並ぶと荒々しく見えるな。
出来るだけ楷書をイメージしてシャーペンを動かしていると、後ろに座っていた友人の和が俺が座っている椅子を下から小さく蹴ってきた。
振り返れば、机上から頭しか見えないほど滑り落ちていた和が座り直している。
「産気づいたん?」
「保健体育の授業、爆睡してたのか?」
「冗談、ジョーダン!希少種見るような目で見るんじゃねぇー」
和は視線を振りほどくように小さく左右に揺れて、「病気じゃ無いんか?」と少し真面目な顔をして聞いてきた。
「冷え過ぎだな。今日は特に暑ちぃから」
和の方へ傾いていた姿勢を戻しながら、僅かに眉間に皺を寄せて返答する。
ファッ◯ンサマー、と呟いて和の意識が教壇の方に移った。
あまりに長く話すとこの教授は注意してくるんで、会話は最小限だ。
教授がこっち向きながら話してるのを見るに、トイレに出ていったのは気付いてそうだな。
和に習って俺も黙々とノートを取っていると、カバンに入れているスマホが震えた。
教授の目から見えないよう机の影で立ち上げ、連絡内容を確認する。
『頭がクラクラしてきたから、大至急ポラリ買ってくる』
『大学内の保健室に行ったらどうだ?スポドリくれるって聞いたぞ』
『どうせ本調子になるまでに1時間ぐらいかかるし…。次の1コマ休んで家帰って寝たほうが治る気がする』
『この授業はどうすんだ?最後にちょっとだけ戻ってくるか?』
『最後10分だけ戻る。戻って来なかったら荷物一緒に持って出といて』
一緒に帰ってやりたいが、『次の授業のノートも取っといて!』と言われるのが目に見えている。
昼休み中に終わらせなきゃいけねえ課題もあるし、短時間で往復できるほど近くに住んでる訳でもない。
腹立たしいが、しっかり注意をすることで手を打つか。
『何かする"前"にポラリ飲めよ。
荷物は纏めとくからゆっくり休んで戻って来たら良い』
『ありがとう』
仁の返答に少年漫画のキャラクターがウィンクをしているスタンプが後続する。
このキャラクター、チャラい性格の癖に俺と同じ「ムサシ」なんだよな。ちっと承服しかねる。
ちなみに仁と俺はウィンクが出来ない。
何度かウィンク練習会を開催したが、俺も仁もうっっっすら片目を開けることしか出来なかった。
いつだったかそれを和に話したら、小器用に左右交互でウィンクを連投してきたため、顔面を鷲掴みにして地面から浮かそうとしたことは、和が今でも根に持っている。
あの時仁に止められなかったら振りかぶって投げてやったんだがなぁ…。
幾許か体感温度が下がった席でノートを取り続けていると、驚いたことに授業が5分早く終わった。
いつも時間ぴったりにしか終わらねぇくせにどうした。
背後で和が教授を2度見した気配を感じる。リアクションが暑苦しいぞ。
まあ良い。
仁を労る時間が出来たんだ。有効活用しねぇとな。
俺の荷物と仁の荷物を大急ぎで纏めて教室を出た。
15
あなたにおすすめの小説
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*不定期連載です。
俺の好きな男は、幸せを運ぶ天使でした
たっこ
BL
【加筆修正済】
7話完結の短編です。
中学からの親友で、半年だけ恋人だった琢磨。
二度と合わないつもりで別れたのに、突然六年ぶりに会いに来た。
「優、迎えに来たぞ」
でも俺は、お前の手を取ることは出来ないんだ。絶対に。
家を追い出されたのでツバメをやろうとしたら強面の乳兄弟に反対されて困っている
香歌奈
BL
ある日、突然、セレンは生まれ育った伯爵家を追い出された。
異母兄の婚約者に乱暴を働こうとした罪らしいが、全く身に覚えがない。なのに伯爵家当主となっている異母兄は家から締め出したばかりか、ヴァーレン伯爵家の籍まで抹消したと言う。
途方に暮れたセレンは、年の離れた乳兄弟ギーズを頼ることにした。ギーズは顔に大きな傷跡が残る強面の騎士。悪人からは恐れられ、女子供からは怯えられているという。でもセレンにとっては子守をしてくれた優しいお兄さん。ギーズの家に置いてもらう日々は昔のようで居心地がいい。とはいえ、いつまでも養ってもらうわけにはいかない。しかしお坊ちゃん育ちで手に職があるわけでもなく……。
「僕は女性ウケがいい。この顔を生かしてツバメをしようかな」「おい、待て。ツバメの意味がわかっているのか!」美貌の天然青年に振り回される強面騎士は、ついに実力行使に出る?!
こっそりバウムクーヘンエンド小説を投稿したら相手に見つかって押し倒されてた件
神崎 ルナ
BL
バウムクーヘンエンド――片想いの相手の結婚式に招待されて引き出物のバウムクーヘンを手に失恋に浸るという、所謂アンハッピーエンド。
僕の幼なじみは天然が入ったぽんやりしたタイプでずっと目が離せなかった。
だけどその笑顔を見ていると自然と僕も口角が上がり。
子供の頃に勢いに任せて『光くん、好きっ!!』と言ってしまったのは黒歴史だが、そのすぐ後に白詰草の指輪を持って来て『うん、およめさんになってね』と来たのは反則だろう。
ぽやぽやした光のことだから、きっとよく意味が分かってなかったに違いない。
指輪も、僕の左手の中指に収めていたし。
あれから10年近く。
ずっと仲が良い幼なじみの範疇に留まる僕たちの関係は決して崩してはならない。
だけど想いを隠すのは苦しくて――。
こっそりとある小説サイトに想いを吐露してそれで何とか未練を断ち切ろうと思った。
なのにどうして――。
『ねぇ、この小説って海斗が書いたんだよね?』
えっ!?どうしてバレたっ!?というより何故この僕が押し倒されてるんだっ!?(※注 一月十日のアルファポリス規約改定を受け、サブ垢にて公開済みの『バウムクーヘンエンド』をこちらへ移しましたm(__)m サブ垢の『バウムクーヘンエンド』はこちらへ移動が出来次第、非公開となりますm(__)m)
勇者様への片思いを拗らせていた僕は勇者様から溺愛される
八朔バニラ
BL
蓮とリアムは共に孤児院育ちの幼馴染。
蓮とリアムは切磋琢磨しながら成長し、リアムは村の勇者として祭り上げられた。
リアムは勇者として村に入ってくる魔物退治をしていたが、だんだんと疲れが見えてきた。
ある日、蓮は何者かに誘拐されてしまい……
スパダリ勇者×ツンデレ陰陽師(忘却の術熟練者)
来世はこの人と関りたくないと思ったのに。
ありま氷炎
BL
前世の記憶を持つ、いずる。
彼は前世で主人だった三日月と、来世で関わらない事を願った。
しかし願いは叶わず、幼馴染として生まれ変わってしまった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる