ポメった幼馴染をモフる話

鑽孔さんこう

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ポメった幼馴染をモフりたい

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「ただい…おつかれ」

家の扉を開けたら、スマホを踏みつけた毛玉が耳を寝かせて丸まっていた。
拗ねているポメラニアンの中身は、幼馴染の居川 仁である。
ポメった後、同居人の俺を呼ぼうとしてバイトであることを思い出し、暇をつぶそうにもスマホが満足に操作できないことにむなしくなっているのだろうとアタリをつける。

「クウゥゥー」
「何言ってっか分かんねぇからな。玄関寒みぃから暖房のとこ行こうぜ」

背負っているリュックが擦り下がるのを感じながら、キャラメル色の毛に包まれたポメに両手を差し出し屈み込む。
下を向いて控えめに乗ってくる毛玉を優しく掬い上げて、胸元で抱き込んだ。
スマホも拾ってポケットに入れる。
くしゃみのように鼻を鳴らされたことでやっと、自分がバイト先の様々な匂いに塗れていることを思い出した。

「すまん、ちっと我慢してくれ」
「キャウ」

小声の返事に頭を撫でて感謝を示しながら居間に足を急がせる。
電気ストーブを下だけつけて、その下に敷いてある電気カーペットの電源もつける。
ストーブから少し離したところに仁を寝かせると、俺は自分の部屋へと着替えに走った。

「温まってるか?」

フカフカめの家着に着替えてから、心なし元気が戻ってきた仁の後ろに腰を下ろす。
尻と太ももに伝わる微熱と正面から来る赤外線の熱さに心地よい身震いをした。
座禅を組んだ足の間に丸いクッションを置く。
数分経って起毛のクッションが温まってきた頃に、目の前のモフモフをクッションの上に移動させた。
仰向けに寝かせてその魅惑のお腹にゆっくり顔を埋める。
繊細な毛にほんのりと温かさが籠もり、その奥にいつも使っているシャンプーの爽やかな香りと、仁独特の香りが潜んでいる。
顔全体に感じる細い毛の心地良さに深呼吸をした。

「キャウヴゥ゙ー…」

嫌そうな声が間近に聞こえる。
それでもなお日々の疲れが水蒸気のように消えていくのを感じて、心の中で謝った。

「止めらんねぇんだよ…。この姿も久々だしよ」
「ゥ゙ー…」

何やら言いたげな仁には構わずポメ吸いを続行。
やる気ゲージが満タンになったところでクッションごと膝から下ろした。

「メシ作るぞ。テレビ見るか?」

言いながらいつも見ているチャンネルをつける。
仁はクッションの上で手足を収納し丸くなってテレビを見ることにしたらしい。
流れるようにカメラを起動し、パシャリと撮って逃げる。
自動でクラウドに保存してんだけど、人型に戻ったら絶対写真消しにかかられんだよな。あのちょこちょこ追いかけてくる感じもポメっぽくてくっそカワイイ。
すっかり手慣れた犬ご飯を作りながら、仁の可愛さを回想する。

「仁、できた。先食ってな」
「キュー…キャンキャン」

日頃、このタイミングなら礼を言っている。
短い手足でフカフカのクッションから慎重に降りて、足早に近づいてくる彼に微笑みかけた。

「良んだよ。こんな時ぐらいゆっくり食えよ」

常日頃は大学の講義やバイトの時間に追われて、掻き込むようにご飯を食べる。
そのせいで仁はよく腹痛を訴えているのだから、ストレスが限界突破してポメった時ぐらい、自分のペースで食事を楽しんで欲しい。

ご飯を溢した時用のシートを敷き、その上に皿を置くと、ふわふわが皿に走り寄ってきた。
人型の時のように淑やかに食べ始める。
一口食べ終えたあたりで、膝立ちで様子を見ていた俺の膝に前足をかけてくる。

「キャウ!キャンキャン!」

尻尾も元気に振られているし、今回も美味しく作れたのだろう。
珍しくテンションの高い彼の背中をゆっくり撫でる。

「美味いか?」
「キャン!」
「そりゃ良かった。お代わり欲しかったら皿叩いてくれ」
「キャウ」

余分に2、3度撫でてから立ち上がる素振りを見せる。
仁が前足を下ろしたのを確認してから腰を上げて、さっきまで仁が当たっていた電気ストーブを消しに行く。
体毛が焦げていないか横目で確認し、台所に戻った。

冷蔵庫の中の余り物で夜ご飯プレートを作り、居間のテーブルに運ぶ。

「いただきます」

手を合わせながらちらりと横を見れば、依然嬉しそうな尻尾と、咀嚼に合わせて揺れるフカフカのポメ尻。
触りたいし揉みたいしあわよくば埋まりたい、が確実にセクハラである。

『飯食って紛らわせよう』

それでも見るのはタダだと、一切目をそらさずにご飯を口に運ぶ。
元の髪質が見事なストレートだからか、ポメ姿の毛も張りのある柔らかな直毛だ。

『あ、服』

前回は玄関でポメ化しちまったから玄関にできた服の山に埋まる羽目になってたな。
今回は自分の部屋でポメったっぽいか。
締め切りがヤバいレポートがないか聞いとかねぇと。

仁が完食する頃になって、尻尾の勢いが落ちてきたことに気付いた。
みるみる調子をなくして、遂に萎れる。
それでもじっと見ていると。
ものっっっ凄くこっそり俺を振り返った。

「お代わり用意するな」

円らな瞳が『お代わりしちゃダメですか?』と心に矢を放ってきた。
見事にど真ん中を射抜かれ、反射的に台所へ走る。
お代わり用のご飯を温めて素早く仁に献上する。
皿が一瞬で満たされた喜びから仁がその場でポヨポヨ跳ねる。少し遅れて、たっぷりした毛もふさふさと揺れた。

南無三かわいい!!」

突き飛ばされるような衝動のままにポメ顔をサンドして、全力でワシャワシャ撫でくり回してしまう。
ポメ化した時の定例行事ゆえに「無」の顔をしてされるがままになっている毛玉。
仕方なく受け入れていると仁は言い張るが、いつもはしないカワイイ行動を毎度するのだから期待されている、と…信じている。
本当に嫌ならすまん、仁。
後でたっぷりブラッシングとケアするからな。

歯を見せて唸る動作を見せたので、ある程度手櫛で毛を整えて離れる。
仁が全身をブルリと震わせて食事を再開した。
俺を視界に入れないぐらいに下を向いて食べる様子を見て、自分も名残惜しく食卓に戻った。

「ごっそさん」
「キャン!」

俺が皿を持って立ち上がると、仁も食べ終わったと声を上げた。
仁の皿も回収して、連れ立って台所に向かう。
布巾を濡らしてポメの口周りを拭いてやると、スッキリした顔をして俺の部屋に入っていった。
その後ろ姿をニヤけた顔で見送る。

「おし、さっさと皿洗い終わらせっか」

尻尾が見えなくなるまで見守ってから、シンクに向き合ってグイと袖を捲り上げた。


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