ポメった幼馴染をモフる話

鑽孔さんこう

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お風呂

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洗い終わった皿を食器乾燥機に並べ乾燥を開始する。
ゴオォーと重そうな音がしてぬるい風が漏れ出てくるのを確認してから、風呂場の洗面台に移動する。

この食器乾燥機は仁と俺が共同で出資して購入したものだ。
シェアハウス、俺から言わせればプレ同棲、を始めてから1ヶ月が経った頃、仁が「何か家電を買いたい」と相談してきた。仁いわく「シェアハウスをする覚悟ができたから、それの証明が欲しい」ということだった。そこでシェアハウスを解消するか迷っていたことが露見したのだが、結局一緒に住めているので良しとする。
仁の覚悟の表れである乾燥機を使う度に、仁と一つ屋根の下で暮らせていることに感謝するのだ。

洗面所の棚に置かれている2本の歯ブラシを愛しく思いながら、左側に傾いている緑色の歯ブラシで歯磨きをする。

『仁が「オレ青色がいいな」って言ったから、消去法で俺が緑になったんだよな』

鏡の中の俺の目が呆れたように細められる。
毎日、歯ブラシを見る度に同じエピソードを思い出す自分にちょいと飽きてきた。
気分を変えようと風呂場の方に視線を移せば、シャンプー、リンス、ボディーソープが行儀良く収まっている棚に何となく意識が向く。

『犬用の出さねぇと、あれだとキツいんだよな』

もし仁の風呂がまだなら俺が洗わなければいけない。
本人がどんなに嫌がってもである。
忘れないうちにシャンプーを出しておこうと後ろを向いて、茶色い物体が足元にいることに気付いた。

「あうねぇあああいもをはやえろ(危ねえから足元はやめろ)」

出しそうになった足に当たるスレスレで、仁が手本のようなお座りをしている。
その右横にブラッシングの時にいつも使うブラシが置いてあり、長々と歯磨きをしている俺を待ちかねて催促しに来たのだと悟る。

「仁、風呂って入ったか」
「…キャゥ…」

少し左に顔をそらして頷くポメ。
嘘を付くのが下手なんだよ。

「洗濯物が増えてねぇから嘘だな。今から風呂入れるぞ。俺も風呂入んねぇといけねぇし」

そう言って、洗面台で口を濯ぎ歯ブラシを洗って片付けて、振り返ったらば。
ブラシだけ置いて本体は俺の部屋に逃げ帰っていた。

「どんだけ嫌なんだよ、俺に体洗われるの!」
「キャイキャンキャン!」

『当たり前じゃんか!』みたいなサブ音声が聞こえてきそうな鳴き声が返って来る。
鳴き声のくぐもり方からして毛布に埋まってるな。
仕方がないので、置いてけぼりのブラシを拾い上げて自分の部屋に向かう。

「シャンプー開封済みで放置してたら痛むんだから、ポメ化した時に積極的に使っ、かわいい…」
『隠れられてねぇ!お尻でてんぞ!』

起毛の毛布からはみ出るモフモフのポメ尻。
速攻でカメラを立ち上げて可愛すぎる瞬間をいろんな角度から激写する。
その可愛い姿に免じてシラフでの入浴は免除としよう。

「分かった分かった。ブラッシングするからベッドの上で寝そべっててくれ」

尻尾が元気に立ったのを横目に見ながらブラッシング道具を用意する。
ポメ化したからといって抜け毛の程度は人と変わらない。
だが、ブラッシングの気持ちよさと人に労られる心地よさがポメ化解除の一助になると言われている。

お手入れ道具を纏めたカゴを持ってベッドの上に足を伸ばして座り、壁に凭れる。
太ももの上に毛布を敷き、伏せの体勢で待機している仁に向けて太ももを軽く叩いた。

「やるぞ」

少し照れた足取りでよじよじと毛布の上に乗ってくる。
前足の脇に右手を差し込んで少しだけ持ち上げて体勢を変えさせる。
両足に左手を添えながら下ろし、俺の腹にもたれさせるように座らせた。
細い前足を左手で優しく持ち上げて、手で雑把に毛の流れを整えピンブラシで優しく梳いてやる。
両足が終わる頃には居心地の良い体勢を見つけてリラックスモードになるから、そこからは痛くしないよう、マッサージを意識した力加減を心がける。
胸元から下腹部にかけてゆっくりとブラシを通せば、より光を取り込んでミルク多めのカフェラテのような色合いへ変化した。
優しく、柔らかく、その動作を繰り返す。

「キャフ…」

溜め息とも寝息ともつかない掠れた音が漏れて、パッチリしていたお目目が3分の1まで閉じた。

「…仁、うつ伏せに寝かせるぞ」

睡眠の導入を妨げないように囁き声で知らせる。
睡魔で揺れている頭では返事は難しかったと見え、尻尾がパタリと一度動いたのみで完全に瞳を閉じてしまった。
眠る赤子のようなあどけなさに庇護欲を掻き立てられながら、慎重に胴体と頭を支えてうつ伏せる。
うつ伏せの姿は素晴らしく毛玉で、ブラッシングもしやすい。
体の部分にピンブラシを通し、後頭部のあたりにはコームを使う。
何度も梳いて艶が出てくるころには、仁の意識は深い眠りについてしまった。

完全に力の抜けた体を毛布でくるみ、揺らさないように右手で抱える。
俺の部屋を出て風呂場に行き、一度毛布だるまの仁を床に置いた。
給湯器をつけて浅型の湯桶に並々の湯を貯める。勿論大きな音を立てないように桶を蛇口にできるだけ近付けることも忘れない。
シャワーからも湯が出るように調整してから、毛布だるまの身ぐるみを剥がしに戻る。
急な気温差で起きないようにと風呂場の中で毛布を剥がし、ゆったりと湯の中に下ろす。
水の中で毛が広がってるの見るとなんかクラゲ思い出すんだよなぁ…。
毛に含んだ空気を手で押し出し、パシャパシャと湯をかけてやれば段々と毛のボリュームがなくなっていく。

『ほっそ。毎度思うけどほっそ』

Beforeのボリュームが凄いのもあるが、人間姿の仁が痩せ型であるために、ポメ姿ともなれば折れそうなほど細い。
食事量は人並み、運動嫌いで出不精の癖に太らないのは遺伝的なものなんだろうか。

桶から手を出して仁が息ができていることを確認してから、洗面台の下に収納した犬用シャンプーを持ってくる。
もう一つ空の桶を取り出して仁を移すと、一度手に取りだしたシャンプーを濡れた体毛に絡ませて泡立たせる。
すっかり全身泡まみれになったところでシャワーを取り出し、たっぷりの湯で洗い流した。
湯冷めしてしまう前にと風呂場横に積んであるタオルをトンビのように掠め取る。
先にタオルを太ももの上に広げとかなきゃいけない。
1つ目の桶を空にして、湯の中に浸かっているポメを水揚げする。そこから空の桶に移し、できるだけ水を絞ってタオルの上に載せる。起こさないように全身を拭いたら、タオルでポメ巻きを作ってオレの部屋まで運搬。

「なんとかシャワーは終わったから…。っし、ドライヤーか」

ベッドの上にポメ巻きを丁寧に置く。そのままべッドに腰を下ろしたら動けなくなる予感がして、すぐさま洗面所のドライヤーを取りに引き返した。
コードをほどきながら部屋に戻り延長コードにコンセントを挿し込んで、やっとベッドに腰を下ろした。
緩くカーブするスプリングに気を緩ませると眠気が背中から全身を包み込んでくる。

『俺はまだ風呂入ってねぇから寝ちゃいけねえ』

フルフルと頭を振って眠気を追い散らし、ドライヤーを右隣に置く。
ポメ巻きを太ももの上に載せてタオルを開いたら、寒風に触れたことでポメが少し丸まる仕草を見せた。
ドライヤーの音で起きる可能性を考えて、下腹部あたりをタオルで隠してドライヤーをオンにする。
理由は…毛に埋まっていたところが顕になる、で察してくれ。

「さらっさらだよなー。…お、ボリューム戻ってきた」

胸毛のボリュームが戻ってきたのでひっくり返して背中の毛も乾かしていく。
心許ない細身に貼り付く金色の毛並みに指を通し、温風を包ませるように逆向きに毛を立てる。掌を左右に振って残った水気を飛ばしていけば、少しずつ体のラインが隠れていった。

無防備な尻尾を指で挟むようにして乾かしていると、おもむろに尻尾の根元がピクリと動いた。
2、3度尻尾を根本から先に向かって撫で上げれば、ポメの体がころりと半回転して少し寝癖がついてしまったもこもこのお腹が視界を埋める。
それもほんの一瞬で、仁はさっさと俺の膝からベッドへ逃げ出し隅の掛け布団に挟まった。
尻尾がくるりと丸まって後姿はさながらお団子である。

「…風呂入ってくるわ」

多分恥ずかしすぎて震えている。
まー俺でもそうなるし、俺なら少しの間冷静になる時間が欲しい。
寝る前には話ができるぐらいのメンタルに戻っていてほしいと思いながら、着替えを手に風呂場に向かった。


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