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第21話:芽生える想い
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数週間に及んだ領地視察の旅から戻って数日。首都ヴァルテンシュタットは、すっかり初夏の装いを見せていた。公爵邸の庭園では、色とりどりの花々が咲き乱れ、甘い香りが風に乗って運ばれてくる。あの旅は、まるで夢の中の出来事だったかのように、私の心に鮮やかな記憶を残していた。そして、その記憶の中心には、いつもライオネル公爵の姿があった。
(公爵様……)
執務室で公爵と向き合い、様々な案件について議論を交わす日常は変わらない。けれど、私の心の中には、以前とは明らかに違う感情が芽生え始めていた。それは、尊敬や信頼という言葉だけでは表しきれない、もっと温かくて、胸の奥がきゅっと締め付けられるような、そんな想い。
領地視察で見た彼の姿が、私の脳裏に焼き付いて離れないのだ。民の声に真摯に耳を傾ける真剣な眼差し。時には厳しく、しかしその根底には常に深い慈愛を感じさせる言葉。そして何よりも、このガルディアという国を、そこに住む人々を、心から愛し、より良い未来へと導こうとする燃えるような情熱。
エスタードのレオンハルト殿下は、常に自分のことばかりだった。自分の名誉、自分の権力、自分の享楽。民のことなど、所詮は自分の地位を盤石にするための駒程度にしか考えていなかったように思う。それに比べて、ライオネル公爵は……。
(この方は、本物の為政者なのだわ……)
彼の公正さ、その厳しさの中に隠された優しさ、そして国へのひたむきな想い。それらを知るにつれて、私の胸の中で、彼に対する感情は、憧れから、もっと個人的な、強い引力へと変わっていった。それは、おそらく……恋、というものなのだろう。
婚約破棄された私が、再び誰かに恋心を抱くなんて、思ってもみなかった。ましてや、相手があの冷徹と噂されるライオネル公爵だなんて。けれど、この感情は、もう自分ではどうすることもできないほど、大きく育ってしまっている。
ある日の午後、公爵と二人で、隣国との間で懸案となっている交易協定の改定案について話し合っていた時のこと。議論が一段落し、ふと窓の外に目をやると、美しい夕焼けが空を染めていた。
「……綺麗ですわね」
思わず呟くと、公爵もペンを置き、窓の外へと視線を向けた。
「ああ……そうだな」
その横顔は、夕陽に照らされて、いつもよりも少しだけ柔らかく見える。私は、その姿から目が離せなくなってしまった。
「公爵様は……時々、何か大きなものと戦っていらっしゃるように見えます」
口をついて出たのは、自分でも意外な言葉だった。公爵は、少し驚いたように私に視線を戻した。
「……大きなもの、か」
「はい。それは、この国の未来であったり、あるいは……公爵様ご自身の、何か……」
彼は、しばらくの間、黙って私を見つめていた。その黒い瞳の奥に、深い孤独の色が揺らめいたような気がして、私の胸が小さく痛んだ。
「……君には、そう見えるのか」
やがて、彼は静かにそう言った。肯定も否定もしない、その言葉の裏に、彼が抱えるものの重さを感じずにはいられなかった。
「もし……もし私に何かできることがございましたら、どんなことでもお申し付けください。公爵様のお力に、少しでもなりたいのです」
それは、私の偽らざる本心だった。この人の隣で、この人の支えになりたい。そう強く願う自分がいた。
私の言葉を聞くと、公爵はほんのわずかに目を見開き、そして……初めて見るような、とても優しい、穏やかな表情を浮かべた。
「……ありがとう、アリアナ。君のその言葉だけで、私は十分に救われている」
その微笑みは、私の心を一瞬で捕らえて離さなかった。ああ、私は、この人のこんな顔をもっと見たい。この人の心の重荷を、少しでも軽くしてあげたい。
芽生えた想いは、もう止められそうになかった。この冷たくも美しい公爵の隣で、私は自分の運命を、そして彼との未来を、真剣に考え始めていた。
(公爵様……)
執務室で公爵と向き合い、様々な案件について議論を交わす日常は変わらない。けれど、私の心の中には、以前とは明らかに違う感情が芽生え始めていた。それは、尊敬や信頼という言葉だけでは表しきれない、もっと温かくて、胸の奥がきゅっと締め付けられるような、そんな想い。
領地視察で見た彼の姿が、私の脳裏に焼き付いて離れないのだ。民の声に真摯に耳を傾ける真剣な眼差し。時には厳しく、しかしその根底には常に深い慈愛を感じさせる言葉。そして何よりも、このガルディアという国を、そこに住む人々を、心から愛し、より良い未来へと導こうとする燃えるような情熱。
エスタードのレオンハルト殿下は、常に自分のことばかりだった。自分の名誉、自分の権力、自分の享楽。民のことなど、所詮は自分の地位を盤石にするための駒程度にしか考えていなかったように思う。それに比べて、ライオネル公爵は……。
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ある日の午後、公爵と二人で、隣国との間で懸案となっている交易協定の改定案について話し合っていた時のこと。議論が一段落し、ふと窓の外に目をやると、美しい夕焼けが空を染めていた。
「……綺麗ですわね」
思わず呟くと、公爵もペンを置き、窓の外へと視線を向けた。
「ああ……そうだな」
その横顔は、夕陽に照らされて、いつもよりも少しだけ柔らかく見える。私は、その姿から目が離せなくなってしまった。
「公爵様は……時々、何か大きなものと戦っていらっしゃるように見えます」
口をついて出たのは、自分でも意外な言葉だった。公爵は、少し驚いたように私に視線を戻した。
「……大きなもの、か」
「はい。それは、この国の未来であったり、あるいは……公爵様ご自身の、何か……」
彼は、しばらくの間、黙って私を見つめていた。その黒い瞳の奥に、深い孤独の色が揺らめいたような気がして、私の胸が小さく痛んだ。
「……君には、そう見えるのか」
やがて、彼は静かにそう言った。肯定も否定もしない、その言葉の裏に、彼が抱えるものの重さを感じずにはいられなかった。
「もし……もし私に何かできることがございましたら、どんなことでもお申し付けください。公爵様のお力に、少しでもなりたいのです」
それは、私の偽らざる本心だった。この人の隣で、この人の支えになりたい。そう強く願う自分がいた。
私の言葉を聞くと、公爵はほんのわずかに目を見開き、そして……初めて見るような、とても優しい、穏やかな表情を浮かべた。
「……ありがとう、アリアナ。君のその言葉だけで、私は十分に救われている」
その微笑みは、私の心を一瞬で捕らえて離さなかった。ああ、私は、この人のこんな顔をもっと見たい。この人の心の重荷を、少しでも軽くしてあげたい。
芽生えた想いは、もう止められそうになかった。この冷たくも美しい公爵の隣で、私は自分の運命を、そして彼との未来を、真剣に考え始めていた。
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