ひとりぼっちの千年魔女、転生したら落ちこぼれ令嬢だったので、家族を守るために魔法を極めます! 〜新たな家族ともふもふに愛されました!〜

空月そらら

文字の大きさ
22 / 63
序章

第22話 黒猫クロ、家族の前に現る

しおりを挟む
 食堂の重厚な扉が開かれる。

 その音は、まるで断頭台へ向かう足音のように重く響いた。

 広い食堂には、沈黙が支配していた。

 長テーブルの上座には、腕を組み、仁王像のような険しい顔をした父・ローウェン。

 その隣には、ハンカチを握りしめ、目を腫らした母・ヘルミナ。

 そして、何も知らずにスプーンでスープを遊ばせている弟のデイル。

「……戻りました」

 私が蚊の鳴くような声で言うと、三人の視線が一斉に私に集まった。

 泥だらけの服。ボサボサの髪。

「エルシア!!」

 父の怒号が響き渡った。

 ビリビリと窓ガラスが震えるほどの大音声。

 父は椅子を蹴倒す勢いで立ち上がり、大股で私の方へと歩み寄ってきた。

 怖い。

 森で出会ったベアロスよりも、遥かに恐ろしい迫力だ。

「今までどこに行っていた! こんな時間まで、連絡ひとつ寄越さずに!」 

「お父様、その……」 

「お前は自分の体がどういう状態か分かっているのか!? もし外で倒れていたら、もし何かに襲われていたら……! 我々がどれほど心配したか!」

 父の大きな手が、私の両肩を掴んだ。 

 痛いほど強い力。

 けれど、その手は小刻みに震えている。

 怒りではない。これは、恐怖だ。

 娘を失うかもしれないという、親としての根源的な恐怖。

「エルシア! ああ、よかった……!」

 母が駆け寄ってきて、父ごと私を抱きしめた。

 母からは、優しい花の香りと、涙の味がした。

「もうダメかと思ったわ……。あなたがいない部屋を見た時、心臓が止まるかと……」 

「ごめんなさい、お母様。お父様」

 私は二人の腕の中で、小さくなった。

「おねえちゃん?」

 その時、空気の読めない、しかし救いのような声が響いた。

 デイルだ。

 彼は椅子から降りて、トテトテとこちらへ歩いてきた。

「おねえちゃん、どろんこ! どこいってたのー?」

 無邪気な笑顔。

 その明るさに、張り詰めていた緊張の糸が少しだけ緩んだ。

「……ちょっとね、冒険に行ってたのよ、デイル」

 「ぼうけん? ずるい! ぼくもいきたかった!」

 デイルが頬を膨らませる。

 父は大きく深呼吸をし、私から体を離して膝をつき、目線を合わせた。

 その瞳は、まだ厳しい光を宿している。

「……デイル、席に戻っていなさい。エルシア、説明しろ。その格好、そしてその怪我。それから――なぜお前の身体から、これほどの魔力を感じるのだ」

元・四大騎士の鋭い眼光。 

 誤魔化しは効かない。

 私は覚悟を決めた。

「お父様。私は……嘆きの森へ行っていました」 

「森だと!?」

 父の顔色が変わり、母が悲鳴のような声を上げて口元を覆った。

後ろに控えていたアミナも息を呑む。

『嘆きの森』は、騎士団ですら警戒する危険地帯だ。

「魔法を……試したかったのです」 

「魔法?」 

「はい。庭で練習していましたが、もっと広い場所で試したくて。……そうしたら、魔物に出会いました」

 正直に話す。

 父の眉間の皺が深くなる。

「魔物……だと? エルシア、嘘をつくな。魔物に出会って、お前が無事で済むはずが……」 

「嘘ではありません。私は……」

 そう言いかけたとき、服の内側で、もぞりと何かが動いた。

「ミャウ」

 私の首元から、ひょっこりと黒い顔が覗く。
 
 次の瞬間、その小さな身体は、ふわりと宙へ浮かび上がった。

「「「ッ!?」」」

 三人が同時にのけぞった。 

 まるで重力がないかのように、優雅に空中を泳いでテーブルの上へと着地した漆黒の子猫。

 そのアメジストの瞳が、静かに家族を見回す。

「エルシア、離れろッ!!」

 父の反応は劇的だった。

 彼は私を背中に庇い、帯剣していない腰に手を伸ばし、それがないと知るや近くにあったテーブルナイフを逆手に構えた。

 全身から、凄まじい殺気が放たれる。

「あなた、何を……!」

「分からんのかヘルミナ! こいつから漂う魔力を!」

父は脂汗を滲ませながら、クロを鋭く睨み据えた。

「先ほどから、なぜかエルシアの身体から異常な濃度の魔力を感じていた……。まさか、それが服の中に潜んでいたとは……! 見た目は猫だが、中身は――化け物だ。こんな小さな体に、高位魔物クラスの魔力が圧縮されている!」

 さすがは元・四大騎士。

 見た目の愛らしさに騙されず、クロの魔力を瞬時に見抜いたようだ。

 アミナも即座に戦闘態勢に入り、デイルを抱きかかえて距離を取る。

「パパ、だめー! ねこちゃんいじめないでー!」

 デイルが泣き叫ぶが、父の警戒は解けない。

「お父様、待ってください! その子は敵じゃないです!」
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

転生能無し少女のゆるっとチートな異世界交流

犬社護
ファンタジー
10歳の祝福の儀で、イリア・ランスロット伯爵令嬢は、神様からギフトを貰えなかった。その日以降、家族から【能無し・役立たず】と罵られる日々が続くも、彼女はめげることなく、3年間懸命に努力し続ける。 しかし、13歳の誕生日を迎えても、取得魔法は1個、スキルに至ってはゼロという始末。 遂に我慢の限界を超えた家族から、王都追放処分を受けてしまう。 彼女は悲しみに暮れるも一念発起し、家族から最後の餞別として貰ったお金を使い、隣国行きの列車に乗るも、今度は山間部での落雷による脱線事故が起きてしまい、その衝撃で車外へ放り出され、列車もろとも崖下へと転落していく。 転落中、彼女は前世日本人-七瀬彩奈で、12歳で水難事故に巻き込まれ死んでしまったことを思い出し、現世13歳までの記憶が走馬灯として駆け巡りながら、絶望の淵に達したところで気絶してしまう。 そんな窮地のところをランクS冒険者ベイツに助けられると、神様からギフト《異世界交流》とスキル《アニマルセラピー》を貰っていることに気づかされ、そこから神鳥ルウリと知り合い、日本の家族とも交流できたことで、人生の転機を迎えることとなる。 人は、娯楽で癒されます。 動物や従魔たちには、何もありません。 私が異世界にいる家族と交流して、動物や従魔たちに癒しを与えましょう!

不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます

天田れおぽん
ファンタジー
 ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。  ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。  サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める―――― ※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。

150年のりんご採取で異世界最強の大魔導士になった私は、林檎の聖女と讃えられ可愛い弟子たちと平和なスローライフを満喫します!

風戸輝斗
ファンタジー
「誰かのためにがんばれる子になりなさい」という母からの教えを忠実に守り過労死した降幡理央は、プリオリという若々しい少女となって魔法やモンスターが存在する異世界に転生する。 彼女が転移した地は「林檎の森」と呼ばれる(結界が張られているために世界からは隔絶されている)場所だった。 どれだけ採取しても底尽きることのないりんごであふれるその森で、プリオリはりんご採取の日々に明け暮れる。その間、彼女のスキルである【採取】が機能し、それによりりんごを採取するだけで経験値が入る。 そんな日々を150年繰り返し、プリオリは異世界最強の魔導士となる。 結界の存在を知らず異世界に存在する人間は自分ひとりだけだと思っていたプリオリだが、意図せず結界を壊したことで世界が拓け、人間と交流を育むようになる。 林檎の森が突如現れた謎の地であるため、そこに住んでいたプリオリは魔女だと恐れられ皇女から処刑宣告までされてしまうが、人間と魔族の争いに終止符を打つことで不信感は払拭される。そして、世界を救った林檎の聖女だと人間と魔族双方から讃えられるようになる。林檎の森の聖女様だから、林檎の聖女である。 こうしてはじまる林檎の聖女となったプリオリの新たなスローライフ。 ダンジョンの奥底で助けた謎の金色もふもふペットメープルとふたりで過ごす日常に、盗みたくないけど盗みを繰り返していた13歳の少女モカモカが弟子として加わり、魔族王妃の娘であり人類滅亡を悲願とする13歳の少女ギルティアも弟子として加わって……。 これは、異世界最強の魔導士である林檎の聖女様がスローライフを満喫しようとする物語。 あるいは、お師匠様として、お母さんとして、ふたりの少女を幸せに導こうと奮闘する物語。 ※「小説家になろう」「カクヨム」様にもマルチ投稿しています。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

異世界転生旅日記〜生活魔法は無限大!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
☆1/19〜1/27まで、予約投稿を1話ずつ行います。 農家の四男に転生したルイ。   そんなルイは、五歳の高熱を出した闘病中に、前世の記憶を思い出し、ステータスを見れることに気付き、自分の能力を自覚した。  農家の四男には未来はないと、家族に隠れて金策を開始する。  十歳の時に行われたスキル鑑定の儀で、スキル【生活魔法 Lv.∞】と【鑑定 Lv.3】を授かったが、親父に「家の役には立たない」と、家を追い出される。   家を追い出されるきっかけとなった【生活魔法】だが、転生あるある?の思わぬ展開を迎えることになる。   ルイの安寧の地を求めた旅が、今始まる! 見切り発車。不定期更新。 カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

元公爵令嬢は年下騎士たちに「用済みのおばさん」と捨てられる 〜今更戻ってこいと泣きつかれても献身的な美少年に溺愛されているのでもう遅いです〜

日々埋没。
ファンタジー
​「新しい従者を雇うことにした。おばさんはもう用済みだ。今すぐ消えてくれ」  ​かつて婚約破棄され、実家を追放された元公爵令嬢のレアーヌ。  その身分を隠し、年下の冒険者たちの身の回りを世話する『メイド』として献身的に尽くしてきた彼女に突きつけられたのは、あまりに非情な追放宣告だった。  ​レアーヌがこれまで教育し、支えてきた若い男たちは、新しく現れた他人の物を欲しがり子悪魔メイドに骨抜きにされ、彼女を「加齢臭のする汚いおばさん」と蔑み、笑いながら追い出したのだ。 ​ 地位も、居場所も、信じていた絆も……すべてを失い、絶望する彼女の前に現れたのは、一人の美少年だった。 ​「僕とパーティーを組んでくれませんか? 貴方が必要なんです」  ​新米ながら将来の可能性を感じさせる彼は、レアーヌを「おばさん」ではなく「一人の女性」として、甘く狂おしく溺愛し始める。  一方でレアーヌという『真の支柱』を失った元パーティーは、自分たちがどれほど愚かな選択をしたかを知る由もなかった。  ​やがて彼らが地獄の淵で「戻ってきてくれ」と泣きついてきても、もう遅い。  レアーヌの隣には、彼女を離さないと誓った執着愛の化身が微笑んでいるのだから。

異世界で目覚めたら、もふもふ騎士団に保護されてました ~ちびっ子だけど、獣人たちの平穏のためお世話係がんばります!!~

ありぽん
ファンタジー
神のミスで命を落とした芽依は、お詫びとして大好きな異世界へ転生させてもらえることに。だが転生の際、またしても神のミスで、森の奥地に幼女の姿で送られてしまい。転生の反動で眠っていた瞳は、気づかないうちに魔獣たちに囲まれてしまう。 しかしそんな危機的状況の中、森を巡回していた、獣人だけで構成された獣騎士団が駆け付けてくれ、芽依はどうにかこの窮地を切り抜けることができたのだった。 やがて目を覚ました芽依は、初めは混乱したものの、すぐに現状を受け入れ。またその後、同じ種族の人間側で保護する案も出たが、ある事情により、芽依はそのまま獣騎士団の宿舎で暮らすことに。 そこで芽依は、助けてくれた獣騎士たちに恩を返すため、そして日々厳しい任務に向かう獣人たちが少しでも平穏に過ごせるようにと、お世話係を買って出る。 そんな芽依に、当初は不安だった獣人たちだったが、元気で明るい瞳の存在は、次第に獣人たちの力となっていくのだった。 これはちびっ子転生者の芽依が、獣人や魔獣たちのために奮闘し、癒しとなっていく。そんな、ほっこりまったり? な物語。

おせっかい転生幼女の異世界すろーらいふ!

はなッぱち
ファンタジー
赤ん坊から始める異世界転生。 目指すはロマンス、立ち塞がるのは現実と常識。 難しく考えるのはやめにしよう。 まずは…………掃除だ。

処理中です...