ひとりぼっちの千年魔女、転生したら落ちこぼれ令嬢だったので、家族を守るために魔法を極めます! 〜新たな家族ともふもふに愛されました!〜

空月そらら

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序章

第33話 最弱令嬢と黒猫、奇跡を灯す

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「……離して、クライブ。まだ、まだ苦しんでいる人が……」 

「ダメだ! あんたが死んでどうするんだよ! 旦那様も、奥様も、デイル様も……みんな泣くぞ!」

 クライブの悲痛な叫び。

 周囲の村人たちも、涙ながらに声を上げる。

「お嬢様、もう十分です!」 

「俺たちのために、あんな小さな体で……」 

「もう休んでくだせぇ! これ以上は見てられねぇ!」

 誰もが、私の身を案じていた。

 自分の夫や息子が死にかけているかもしれないのに。

 それでも、ボロボロになりながら魔法を使う私を見て、「もういい」と言ってくれる。

 その優しさが、胸に染みた。

 ああ……なんて、温かいんだろう。

 視界が涙と汗で滲む。

 前世の記憶が蘇る。

 圧倒的な力を持ちながら、「魔女」と呼ばれ、恐れられ、石を投げられた日々。
 
 だから私は塔に引きこもり、誰のためでもない魔法の研究に没頭し、孤独の中で死んだ。

 でも、今は違う。

「ありがとう……お嬢様……」 

「なんてお優しい……」

 感謝の言葉。心配の眼差し。

 魔女だから、貴族だからではない。

 エルシアという一人の人間を、彼らは見てくれている。

 嬉しい。

 こんなにも、誰かのために力を使えることが、誇らしいなんて。

 胸の奥が熱くなる。

 魔法は、人を傷つけるためでも、強さを誇示するためでもない。

 人を守り、笑顔にするためにあるのだ。

私はようやく、その答えにたどり着いた気がした。

「……まだ、やれるわ」

 私は震える足に力を込めた。

 クライブの腕を押しのけ、立ち上がろうとする。

「お嬢様!」 

「諦めない。私は、アシュレイン家の娘だもの……!」

 だが、意思とは裏腹に、体が鉛のように重い。

 視界が暗転しかける。  魔力が、底をつく。

 悔しさに歯を食いしばった、その時だった。

「ミャウ」

 柔らかい鳴き声と共に、ふわふわとした黒い影が私の目の前に降り立った。

 クロは心配そうに私を覗き込むと、その小さな肉球の前足を、そっと私の手の甲に乗せた。

「……クロ?」

 ――ドクン。

 心臓が、大きく跳ねた。

「え……?」

 温かい。

 いや、熱いほどの奔流。

 クロの小さな体から、信じられない質量の魔力が流れ込んでくるのを感じた。

 それは森で感じた時よりも遥かに太く、力強く、そして優しい波動だった。

 普通、他者への魔力譲渡(マナ・トランスファー)は至難の業だ。

 波長が合わなければ拒絶反応でショック死するし、送る側にも命を削るリスクがある。

 だというのに。

「ミャ~!」

 クロは平気な顔をして、尻尾を振っている。

 苦しむ様子など微塵もない。

 まるで、底なしの泉から水を汲み上げるかのように、無尽蔵の魔力を私に注ぎ込んでくる。

 この子……魔力の回復スピードが尋常じゃないのね。

 生きる魔力炉(リアクター)だわ。

 枯渇して悲鳴を上げていた私の魔力が、黄金色の光で満たされていく。

 頭痛が消える。手足に力が漲る。

 冷え切っていた指先に、熱が宿る。

「……ふふ。ありがとう、クロ」

 私はクロの頭を撫で、しっかりと大地を踏みしめて立ち上がった。

 先ほどまでのふらつきが嘘のように、背筋が伸びる。

 全身から、抑えきれない魔力の余波が青白いオーラとなって立ち昇る。

「お、お嬢様……? なんか、雰囲気が……」

 クライブが呆気にとられた顔をする。

 私はニヤリと不敵に笑ってみせた。

「ええ。完全復活よ」

 私は集会所を見渡した。

 まだ治療を待つ人々が大勢いる。

 セーブしながらも、クロのバックアップがあれば連続行使が可能だ。

「さあ、第二ラウンドといきましょうか」

 私は両手を広げ、次の患者へ向かった。

「次! そこの足の人!」

「は、はい!」 

「あなたも! 腕を出して!」

 詠唱、発動、治療。

 踊るように、流れるように。

「癒えよ! 『局所活性(ローカル・ブースト)』!」

 光が次々と灯る。

 一人、また一人と、死の淵から生還していく。

 クライブも、医師も、村人たちも、涙を流してその光景を見つめていた。

 最弱の令嬢と、最強の黒猫による、奇跡の治療劇。

 それは、外の絶望的な戦況をも覆す、反撃の狼煙となるはずだ。
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