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序章
第32話 治癒の奇跡、その代償
私は医師を押しのけ、震える両手を騎士の傷口にかざした。
これは、ただの魔法ではない。
外科手術にも等しい、精密な魔力操作が必要だ。
失敗すれば、細胞が暴走して癌化するリスクもある。
だからこそ、省略はできない。
私は静かに、しかし朗々と、完全詠唱を開始した。
「――源泉より湧き出でよ、清浄なる水の記憶。赤き海を巡り、脈動する命の律動に干渉せん」
六歳の少女の声ではない。
厳かで、神秘的な言霊が集会所の空気を震わせた。
私の足元から淡い青緑色の光が溢れ出し、周囲を照らす。
「な、なんだ……?」
「光が……」
クライブが、村人たちが、息を呑んで見つめる中、私は詠唱を紡ぎ続ける。
「時は戻らず、ただ加速するのみ。 綻びを紡げ。断絶を繋げ。我が魔力を糧とし、眠れる再生の灯火を燃え上がらせよ」
長文の詠唱。
だが、これは患者の細胞一つ一つに「起きろ」と命令するための必要な儀式。
私は目を見開き、魔力を流し込んだ。
「――『局所活性(ローカル・ブースト)』!!」
ジュワァァ……ッ。
水が蒸発するような音と共に、信じがたい光景が展開された。
ぱっくりと裂けていた騎士の傷口が、まるで早回しの映像のように蠢き始めたのだ。
肉が盛り上がり、血管が結ばれ、新しい皮膚が覆っていく。
数ヶ月かかるはずの治癒過程が、わずか数秒に圧縮される。
「……う、あ……?」
土気色だった騎士の顔に赤みが戻り、苦悶の表情が消えた。
呼吸が安定する。
「す、すごい……」
「傷が、消えた……?」
村の医師が腰を抜かす。
王都の筆頭神官でも、これほど効率的で、美しい治癒は行えないだろう。
私は汗を拭いながら、小さく笑ってみせた。
「これくらい、朝飯前だわ」
強がりを言った。
だが、現実は非情だ。
たった一人。それも消費を十分の一に抑えた魔法。
それでも、六歳の未発達な体には、強烈な反動が襲いかかっていた。
「っ……、はぁ、はぁ……ッ」
視界がグラリと揺れた。
激しい目眩。
心臓が早鐘を打ち、肺が焼き付くように熱い。
額から大粒の脂汗が滴り落ち、膝がガクガクと震える。
まだだ。まだ一人目だ。
次を治さなければ。
「つ、次は……そこの毒を受けている人……!」
私はふらつく足で、次の患者へ向かおうとした。
だが、体がいうことをきかない。
足がもつれ、その場に崩れ落ちそうになる。
「お嬢様ッ!」
クライブが飛び込んできて、私を支えた。
彼の顔は、恐怖と心配で引きつっていた。
「もうやめてください! 顔色が紙のように真っ白っすよ! これ以上やったら、お嬢様が壊れちまう!」
これは、ただの魔法ではない。
外科手術にも等しい、精密な魔力操作が必要だ。
失敗すれば、細胞が暴走して癌化するリスクもある。
だからこそ、省略はできない。
私は静かに、しかし朗々と、完全詠唱を開始した。
「――源泉より湧き出でよ、清浄なる水の記憶。赤き海を巡り、脈動する命の律動に干渉せん」
六歳の少女の声ではない。
厳かで、神秘的な言霊が集会所の空気を震わせた。
私の足元から淡い青緑色の光が溢れ出し、周囲を照らす。
「な、なんだ……?」
「光が……」
クライブが、村人たちが、息を呑んで見つめる中、私は詠唱を紡ぎ続ける。
「時は戻らず、ただ加速するのみ。 綻びを紡げ。断絶を繋げ。我が魔力を糧とし、眠れる再生の灯火を燃え上がらせよ」
長文の詠唱。
だが、これは患者の細胞一つ一つに「起きろ」と命令するための必要な儀式。
私は目を見開き、魔力を流し込んだ。
「――『局所活性(ローカル・ブースト)』!!」
ジュワァァ……ッ。
水が蒸発するような音と共に、信じがたい光景が展開された。
ぱっくりと裂けていた騎士の傷口が、まるで早回しの映像のように蠢き始めたのだ。
肉が盛り上がり、血管が結ばれ、新しい皮膚が覆っていく。
数ヶ月かかるはずの治癒過程が、わずか数秒に圧縮される。
「……う、あ……?」
土気色だった騎士の顔に赤みが戻り、苦悶の表情が消えた。
呼吸が安定する。
「す、すごい……」
「傷が、消えた……?」
村の医師が腰を抜かす。
王都の筆頭神官でも、これほど効率的で、美しい治癒は行えないだろう。
私は汗を拭いながら、小さく笑ってみせた。
「これくらい、朝飯前だわ」
強がりを言った。
だが、現実は非情だ。
たった一人。それも消費を十分の一に抑えた魔法。
それでも、六歳の未発達な体には、強烈な反動が襲いかかっていた。
「っ……、はぁ、はぁ……ッ」
視界がグラリと揺れた。
激しい目眩。
心臓が早鐘を打ち、肺が焼き付くように熱い。
額から大粒の脂汗が滴り落ち、膝がガクガクと震える。
まだだ。まだ一人目だ。
次を治さなければ。
「つ、次は……そこの毒を受けている人……!」
私はふらつく足で、次の患者へ向かおうとした。
だが、体がいうことをきかない。
足がもつれ、その場に崩れ落ちそうになる。
「お嬢様ッ!」
クライブが飛び込んできて、私を支えた。
彼の顔は、恐怖と心配で引きつっていた。
「もうやめてください! 顔色が紙のように真っ白っすよ! これ以上やったら、お嬢様が壊れちまう!」
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