いつか優しく終わらせてあげるために。

イチイ アキラ

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 それは側妃との、ガブリエーレとの蜜なる夜――初夜が恙無く終わった日に。

「ガブリエーレが、私を愛してくれていると……!」
 感極まったように内緒話をしてきた息子に、ヨハンは良かったと――。
「いや、まて。愛しているとは言ってはならぬと」
 どこに帝国の耳があるかはわからない。
 ガブリエーレは「側妃」なのだ。
 子ができなかったから、仕方なく、娶ったのだ――その形を忘れてはならない。
「解っていますよ、父上。ちゃんと閨の中だけです。他の誰にも聞こえないように」

 そう――ガブリエーレはうなずいた。
 愛していると言われて。

 うなずかれた。
 言葉なく。

 返事なく――けれども、うなずいてくれた。

 ガブリエーレも解ってくれているのだと。
「彼女は涙を流しながら……」
 嬉しそうにしている息子に、良かったなぁと……父親はもほっとした。

 嗚呼――ガブリエーレのあの目は、自分の見間違いだったのだ。

 あの、亡くなった妻と同じ目は――……。



「どうして? わたしも青色の宝石が欲しいわ?」
 ガブリエーレの指に小さな青色の宝石があることに、エリーゼは不満をもった。
 それを久しぶりのユリアンとの閨のとき、暗闇で強請った。
 ユリアンは暗闇で気がつかれないことを良いことに――声だけ優しく。顔はみせられない。

「許しておくれ。正妃には格が必要だから……君には最高のダイヤモンドを贈らせておくれ」

 ――誰がお前に。

 ユリアンはガブリエーレが側妃になった時に指輪を贈っていた。
 飾りの宝石は小さいながらも深く青く、澄み渡った――自分の瞳色を。
 自分の心は、ずっとガブリエーレにあるのだと、想いをこめて。
 王家の血を同じく引いて、淡くもあるけれど金の髪の。そして母方の薄い空色の瞳をしたガブリエーレに、この青色はなんて似合うのだろうと感激しながら。
 バルグレラ公爵家は王家の血を繋いではいるが、濃くなりすぎないよう他家からも伴侶を選んでくれていた。
 だからガブリエーレが幼い頃より、ユリアンの婚約者だったのだ。

 ユリアンはその空色の瞳が愛しかった。自分の海のような深い青より、天高く気高いその色が。

 ――自分も、空色の指輪をしたかった。

「ふぅん……?」
 格。自分は男爵家の産まれだから、そうしたものもいるのかしら。
 それを考えてくれている夫に、エリーゼはさらに愛が深まった。

 彼女は最期まで。贈られた大半が輝きだけは、見事な硝子だとは知らないままに。


 たかが風邪だった。
「ごめんなさいね、ガブリエーレさま……」
 自分を立ててくれる公爵令嬢は、見舞いに来ても優しかった。丁寧に、恭しく。微笑んで。
「王妃の仕事はどうかお気になさらず。休んで・・・くださいませ……」
 だから、彼女は最期まで苦しまなかった。
 ガブリエーレが優しかったから。

 エリーゼは眠るように死んだ。
 まさか寝る前に飲んだ薬が毒とは思いもしないで。
 それを飲んで眠れば、明日には元気に……――。


 そしてユリアンも同じように。
 ただ、彼は最期に油断した。

「君が妃になってくれて良かった……愛している――」

 言ってはいけないその言葉を。
 多くが見守る、その最期の別れに。
 そして彼も優しく眠りについた――苦しむことなく。


 そうして優しく、終わり――……。


 ――始まった。


「そして帝国に……お爺さまにバレました」
 ルドルフから明かされた真実。
 ガブリエーレは真実、自分が、自分こそが愛されていたと聞いて、頭が真っ白になった。
 震える指には、青色の宝石。

 唯一、自分だけに贈られた。

 そして――同じく息子も愛する妻となる娘に贈った色。

 人払いをしていた部屋に、静かにその娘が入って来たことに、ガブリエーレは気がついた。
 ここは、今は入って来てはいけないと伝えようとしたが、声が――喉が渇いて声がでなかった。
 瞳から涙が止まらないのだと、ようやく。だから喉が渇いて――。

「ああ、お疲れ様」

 そのかわりに帝国の王子が。けれどもとても気安く。や、と片手すらあげて。

「長の任務、ご苦労だったねロベリア――いや、毒の娘」


 嗚呼、どうりで。

 どこからも毒がみつからないわけだ。
 どうやって運ばれたのかもわからないわけだ。
 どうやって飲ませたのかもわからないわけだ。


 ――ここに、毒の塊がいたのだから。






 …と、いうわけでした。
 もう察している方もいらしたかと。
 毒の娘については私なぞが説明するより、有名漫画や有名アプリゲームの暗殺者にてお調べくださいな。どっちも好き。
 そういえば、柱のあの方も、つまり…と思ったのが書くきっかけに…。
 
 エピローグまでお付き合いお願いします。
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