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しおりを挟む「な、何故ジョージが……」
ヤロール家には三人の息子がいた。
長男のヴィンセントは碧眼な夫に似ているし、大事な跡取りだ。瞳は自分の色目を受け継いでいなくて残念だったが、プラチナブロンドだし、夫の顔立ちはイザベルのお眼鏡にかなう美形であったのが。
三男のライアンは何もかもが自分に似ていて可愛く、誰にも好かれて……年の離れた末っ子だから、余計に愛しく。本当は女の子だったらとは、少しだけ思ったけれど、これだけ美しいなら……。
そして次男。
ぱっとしない茶色の髪に茶色の瞳の。夫の祖父の若いころに似ているらしいが……本当にぱっとしない。義両親が父親似と喜んでいたのも馬鹿らしい。
せめて顔立ちくらい良ければ……いや、せめて女の子であれば可愛がったものを。男は長男がいたのだから。
次男は確かもう学園に入学して……そうだ、騎士学校に入学したとか。長男の息子が寮を手配したとか言っていたが、ライアンに新しい服を作るのが大事で聞いていなかった。
……長男が「こんな毒親からはさっさと離れたほうが良い。お前だけでも」と、すでにあきらめた眼をして弟の肩を叩いていたのも彼女らは知らなかった。
跡取りとして大事にはされていたヴィンセントは、幼い頃よりずいぶんとできた少年だった。そう、まだ彼も少年と呼ばれる時期から、見た目に差をつける母に。そんな母に惚れているから言いなりの父に。
大事な弟を蔑ろにする両親に。
ヴィンセントは既に両親を見限っているのは察するにあまりあり。彼は自分が成人したら両親は領地に押し込む予定であると、祖父と相談しているらしいが――それはまだ先のお話し。
そんな存在すら忘れていた次男を、何故いま?
イザベルの様子に、カインは「本当に知らないのか?」と、逆に驚いてしまった。
「ジョージ君は騎士学校の首席ですからな」
騎士団にて副団長をしていた叔父は、当然騎士学校からあがってくる話を聞いていて。
十五歳のジョージは、その世代の学年の首席であった。
実家の辺境伯家の兄には娘がひとり。
当然彼女が跡取りだし、ならば良い婿が必要だと、カインは兄が悩んでいることを上司である騎士団長に話したりしていて。
そうした話しがどこからか漏れたのか、ヤロール家から見合いが持ちこまれたのだ。
ジョージは十五歳だが、五歳差など貴族には珍しい話ではない。むしろ近い方。そして学校での優等生の評価。
良いかもしれないと、兄も頷いて。
まだ学生で忙しいであろうジョージに辺境にまできてもらうのは大変だろう。
ならば久しぶりに叔父にも会いたいし、王都のレベルも見てみたい……と、リューゼットが出向いてくることになり。
そして勘違いに。
ヤロール家は辺境伯家に婿入りできると喜んで。何せ領地も小さなヤロール家には、余っている爵位もなく。長男は跡取りだけど、可愛いライアンにも貴族に婿入りさせたい。伯爵家よりも高位ならなおさら良い。ヤロール家は妻の実家が太いくらいしか今や自慢できるものはなくて。
そしてヤロール伯爵、ライアンの父は、宮廷で辺境伯家が婿を探していると聞いてしまい。
妻の実家は力があるし、その妻に似て美形の息子ならば喜んで婿に欲しがられる――と、クラレンス家からの好意的な返事にほくほくしていたのだが。
すっかりと、次男の存在を忘れていて。
ちなみに……実は、ヤロール伯爵自身もこの場にはいる。影は薄いが、とんでもないことを言った息子を「おやおや」と、止めなかった一人だ。
けれども今、自分の勘違いに――すっかりと次男を忘れていたことに、青い顔をしていた。
見合いの了承は、次男であったからだと。彼もようやく。
そして次男が首席だという栄誉を得ていることに――はっと、目の曇りがとれた。
他人にそのことを教えられるだなんて。実の息子だというのに。
そんな彼は、可愛がっている末っ子を甘やかしてしまったことにも、ようやく気がつくことになった。
「こ、この……女のくせに生意気だ!」
存在すら忘れてた次男と比べられて、馬鹿にされていることにライアンは気がついてしまった。
やがて彼はしてはいけないことをしてしまった。両親がさすがにそれは駄目だと止める間もなく――意外と素早く――リューゼットを殴ろうと、その襟を掴み――。
「ほう、良い動きだ――だが!」
頭に血が登ったとしてもしてはいけないことはある。
だから、それは、当然の罰。
――次の瞬間、ライアンは宙を飛んだ。
カウンターで殴り返されたのだと、その時の彼にはわからなかった。
ただ。
――空が、青いのに、星が瞬いていた。
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