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「こんなブスと結婚なんていやだ!」
その日、一つのお見合いがあった。
互いに十歳。
ヤロール伯爵家の三男、ライアンと。
クラレンス辺境伯家の跡取り娘、リューゼットの。
そして互いに挨拶を交わすその場にて。
ライアンが開幕早々、ぶちかましたのであった。
ライアンはまるで妖精のようだと美貌を讃えられた母親に似て、プラチナブロンドにトパーズのような透明感あるオレンジ色の瞳の美少年であった。
ふんわりとした髪を肩口で切りそろえていて、また都の流行りであり母の見立てだというふわふわとしたフリルたっぷりのシャツを着て……美少年というより、母親似の美少女と言われてもしっくりくる。ヤロール伯爵夫人はむしろそう息子が褒められることを喜びにしていた。つまりは元である自分をも讃えられているわけだから。
そんな息子を溺愛していた母親は、ライアンが言い放った言葉に「あら、この子ったら」と、ホホホと口元に手をあて笑っていた。叱りもしないで。
それは婿入りする息子に彼女がそう入れ知恵したからでもあり。
はじめが肝心。
自分が優位に。
自分のように可愛く美しい人間が、婿になってやることを感謝し、崇めさせねば。
しかし……――。
「そうか。私も貴様のような生っ白くてか弱そうな、女みたいな顔の屑はごめんだ。気が合うな」
――?
何を言われたのだろうと、ライアンはポカンと口をあけた。
今までずっと「かわいい」「美しい」「女の子みたい」「将来が楽しみ」といった賛辞しか聞いたことがなかった少年には、脳が処理するまで時間がかかったのだ。
生っ白い?
か弱そう?
女みたいな……屑?
「く、屑?」
「屑だろう? 初対面で挨拶もできないでひとを馬鹿にするようなやつは?」
そう、リューゼットはきちんと「クラレンス辺境伯家のリューゼットと申します」と述べたのだ。
その返事が「こんなブス」だった。
――屑だな。
リューゼットがあっさりと三倍返ししたことにショックを受けて、わなわなと震えているライアン。
リューゼットは癖があるせいで炎が燃えているような見事な赤毛に、また深い黒の瞳をした少女だった。
鼻の頭と頬にうっすらとそばかすがあるが、この年頃の子には逆に愛らしいくらいであろう。よく日に焼け、健康であるという証しだ。
しかしライアンよりもスッキリとしたシャツに、サイドに刺繍はあるがすっきりとした黒地のスボンといい、彼女の方が――凛々しかった。
見合いの場にドレスじゃないなんて……と、ヤロール夫人はそのことにも気分を害していて。
それは今は侍従に預けた上着を彼女が着れば、それはきちんと仕立てられた辺境伯家の騎士服であると解っただろう。リューゼットは決して、礼儀に反してはいなかった。
辺境伯家において、跡取りである彼女はすでに――齢十歳にして、騎士の資格を持っていたのだ。
騎士の資格は礼儀作法確認を含む面接と。筆記試験と騎馬の腕前、そしてハンデはつけてもらえるが現役の騎士を相手にし、何人勝ち抜けるかという――それをこの幼さで。
その空気を感じていたリューゼットはそうそうに肩をすくめて、付き添いであった叔父のカインにあっさりと帰宅しようと話していた。
「まったく、ヤロール家の息子が見合いをしたいからと言うからわざわざ出向いてみれば、次男ではなかったとは……」
「はい……次男で……?」
リューゼットの叔父は王都の騎士団で副団長をしている。この度の姪への見合い話を彼が仲立ちしたのは、ヤロール家から持ち出された話を――相手を勘違いしたからだ。
てっきり次男が相手だと思っていたから、兄に連絡して、姪を王都に呼んだのだ。
辺境住まいの、姪を。わざわざ。
そのことに驚いていたのは、ライアンの母で、次男であるジョージの母でもある、イザベルだった。
「な、何故ジョージが……」
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