「やはり鍛えることは、大切だな」

イチイ アキラ

文字の大きさ
1 / 6

01


「こんなブスと結婚なんていやだ!」

 その日、一つのお見合いがあった。
 互いに十歳。
 ヤロール伯爵家の三男、ライアンと。
 クラレンス辺境伯家の跡取り娘、リューゼットの。
 そして互いに挨拶を交わすその場にて。

 ライアンが開幕早々、ぶちかましたのであった。
 

 ライアンはまるで妖精のようだと美貌を讃えられた母親に似て、プラチナブロンドにトパーズのような透明感あるオレンジ色の瞳の美少年であった。
 ふんわりとした髪を肩口で切りそろえていて、また都の流行りであり母の見立てだというふわふわとしたフリルたっぷりのシャツを着て……美少年というより、母親似の美少女と言われてもしっくりくる。ヤロール伯爵夫人はむしろそう息子が褒められることを喜びにしていた。つまりは元である自分をも讃えられているわけだから。
 そんな息子を溺愛していた母親は、ライアンが言い放った言葉に「あら、この子ったら」と、ホホホと口元に手をあて笑っていた。叱りもしないで。
 それは婿入りする息子に彼女がそう・・入れ知恵したからでもあり。

 はじめが肝心。
 自分が優位に。
 自分のように可愛く美しい人間が、婿になってやることを感謝し、崇めさせねば。

 しかし……――。

「そうか。私も貴様のような生っ白くてか弱そうな、女みたいな顔の屑はごめんだ。気が合うな」

 ――?

 何を言われたのだろうと、ライアンはポカンと口をあけた。
 今までずっと「かわいい」「美しい」「女の子みたい」「将来が楽しみ」といった賛辞しか聞いたことがなかった少年には、脳が処理するまで時間がかかったのだ。

 生っ白い?
 か弱そう?
 女みたいな……屑?

「く、屑?」
「屑だろう? 初対面で挨拶もできないでひとを馬鹿にするようなやつは?」

 そう、リューゼットはきちんと「クラレンス辺境伯家のリューゼットと申します」と述べたのだ。
 その返事が「こんなブス」だった。

 ――屑だな。

 リューゼットがあっさりと三倍返ししたことにショックを受けて、わなわなと震えているライアン。

 リューゼットは癖があるせいで炎が燃えているような見事な赤毛に、また深い黒の瞳をした少女だった。
 鼻の頭と頬にうっすらとそばかすがあるが、この年頃の子には逆に愛らしいくらいであろう。よく日に焼け、健康であるという証しだ。
 しかしライアンよりもスッキリとしたシャツに、サイドに刺繍はあるがすっきりとした黒地のスボンといい、彼女の方が――凛々しかった。
 見合いの場にドレスじゃないなんて……と、ヤロール夫人はそのことにも気分を害していて。
 それは今は侍従に預けた上着を彼女が着れば、それはきちんと仕立てられた辺境伯家の騎士服であると解っただろう。リューゼットは決して、礼儀に反してはいなかった。

 辺境伯家において、跡取りである彼女はすでに――齢十歳にして、騎士の資格を持っていたのだ。
 騎士の資格は礼儀作法確認を含む面接と。筆記試験と騎馬の腕前、そしてハンデはつけてもらえるが現役の騎士を相手にし、何人勝ち抜けるかという――それをこの幼さで。

 その空気を感じていたリューゼットはそうそうに肩をすくめて、付き添いであった叔父のカインにあっさりと帰宅しようと話していた。

「まったく、ヤロール家の息子が見合いをしたいからと言うからわざわざ出向いてみれば、次男ではなかったとは……」
「はい……次男で……?」

 リューゼットの叔父は王都の騎士団で副団長をしている。この度の姪への見合い話を彼が仲立ちしたのは、ヤロール家から持ち出された話を――相手を勘違いしたからだ。
 てっきり次男が相手だと思っていたから、兄に連絡して、姪を王都に呼んだのだ。
 辺境住まいの、姪を。わざわざ。
 そのことに驚いていたのは、ライアンの母で、次男であるジョージの母でもある、イザベルだった。

「な、何故ジョージが……」


感想 3

あなたにおすすめの小説

【短編完結】婚約破棄なら私の呪いを解いてからにしてください

未知香
恋愛
婚約破棄を告げられたミレーナは、冷静にそれを受け入れた。 「ただ、正式な婚約破棄は呪いを解いてからにしてもらえますか」 婚約破棄から始まる自由と新たな恋の予感を手に入れる話。 全4話で短いお話です!

王子に買われた妹と隣国に売られた私

京月
恋愛
スペード王国の公爵家の娘であるリリア・ジョーカーは三歳下の妹ユリ・ジョーカーと私の婚約者であり幼馴染でもあるサリウス・スペードといつも一緒に遊んでいた。 サリウスはリリアに好意があり大きくなったらリリアと結婚すると言っており、ユリもいつも姉さま大好きとリリアを慕っていた。 リリアが十八歳になったある日スペード王国で反乱がおきその首謀者として父と母が処刑されてしまう。姉妹は王様のいる玉座の間で手を後ろに縛られたまま床に頭をつけ王様からそして処刑を言い渡された。 それに異議を唱えながら玉座の間に入って来たのはサリウスだった。 サリウスは王様に向かい上奏する。 「父上、どうか"ユリ・ジョーカー"の処刑を取りやめにし俺に身柄をくださいませんか」 リリアはユリが不敵に笑っているのが見えた。

突然倒れた婚約者から、私が毒を盛ったと濡衣を着せられました

恋愛
パーティーの場でロイドが突如倒れ、メリッサに毒を盛られたと告げた。 メリッサにとっては冤罪でしかないが、周囲は倒れたロイドの言い分を認めてしまった。

だって悪女ですもの。

とうこ
恋愛
初恋を諦め、十六歳の若さで侯爵の後妻となったルイーズ。 幼馴染にはきつい言葉を投げつけられ、かれを好きな少女たちからは悪女と噂される。 だが四年後、ルイーズの里帰りと共に訪れる大きな転機。 彼女の選択は。 小説家になろう様にも掲載予定です。

知らない男に婚約破棄を言い渡された私~マジで誰だよ!?~

京月
恋愛
 それは突然だった。ルーゼス学園の卒業式でいきなり目の前に現れた一人の学生。隣には派手な格好をした女性を侍らしている。「マリー・アーカルテ、君とは婚約破棄だ」→「マジで誰!?」

無表情な奴と結婚したくない?大丈夫ですよ、貴方の前だけですから

榎夜
恋愛
「スカーレット!貴様のような感情のない女となんて結婚できるか!婚約破棄だ!」 ......そう言われましても、貴方が私をこうしたのでしょう? まぁ、別に構いませんわ。 これからは好きにしてもいいですよね。

かわりに王妃になってくれる優しい妹を育てた戦略家の姉

菜っぱ
恋愛
貴族学校卒業の日に第一王子から婚約破棄を言い渡されたエンブレンは、何も言わずに会場を去った。 気品高い貴族の娘であるエンブレンが、なんの文句も言わずに去っていく姿はあまりにも清々しく、その姿に違和感を覚える第一王子だが、早く愛する人と婚姻を結ぼうと急いで王が婚姻時に使う契約の間へ向かう。 姉から婚約者の座を奪った妹のアンジュッテは、嫌な予感を覚えるが……。 全てが計画通り。賢い姉による、生贄仕立て上げ逃亡劇。

顔がタイプじゃないからと、結婚を引き延ばされた本当の理由

翠月 瑠々奈
恋愛
「顔が……好みじゃないんだ!!」  婚約して早一年が経とうとしている。いい加減、周りからの期待もあって結婚式はいつにするのかと聞いたら、この回答。  セシリアは唖然としてしまう。  トドメのように彼は続けた。 「結婚はもう少し考えさせてくれないかな? ほら、まだ他の選択肢が出てくるかもしれないし」  この上なく失礼なその言葉に彼女はその場から身を翻し、駆け出した。  そのまま婚約解消になるものと覚悟し、新しい相手を探すために舞踏会に行くことに。  しかし、そこでの出会いから思いもよらない方向へ進み────。  顔が気に入らないのに、無為に結婚を引き延ばした本当の理由を知ることになる。