香死妃(かしひ)は香りに埋もれて謎を解く 

液体猫(299)

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第一章 後宮の出会い

おてんば少女

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 ある夜のこと。一人の侍女が亡くなった。死因は不明。殺されたのか、自ら命を絶ったのか。それすら解明されないまま、ときは過ぎていった──






「──ここが、噂の殿だっぺか?」

 人の世が闇にまみれ、悪しき気を一点に集めた後宮。
 そこの門前に一人の少女──香 麗然コウ レイラン──が立っていた。
 格好はみすぼらしく、大きな布で顔や体を隠している。薄汚れた風呂敷を背負い、小柄な体を一生懸命動かしていた。ただ、やはり、お世辞にも清潔とは言えないような身なりだ。
 布の隙間からのぞく長い前髪に隠された瞳で、よく前が見えるものだと、通りすぎる人々は思っただろう。それでも気にすることなく、門番に話しかけた。

「あ、あのぉー。おら、妃試験受けに来たんだけんども……どこさ行けば、いいんだっぺ?」

 なまりが酷く、門番たちは怪訝けげんな顔をする。顔をしかめてはしっしっと、香 麗然コウ レイランを追い払うような仕草をした。

「追い払うってことは、違うってことだっべ? 参っただ……おら、ここしか場所知らないだよ」

 はあーと深いため息をつく。背中を丸め、風呂敷を背負いながらトボトボと歩いた。直後──

「わっぷ!?」

 前を見ていなかったせいで、何かにぶつかってしまう。ヒリヒリとする鼻を押さえて、その何かを確認しようとした。けれど……

「この! 無礼者!」

「……っ!?」

 男たちにより、その場で拘束されてしまう。

 (え? な、何だっぺ!?)

 ふりほどこうにも、相手は鍛え上げられた肉体を持つ強固な人たちだ。ただでさえ香 麗然コウ レイランはか細い。到底、力比べで敵うような相手などではない。
 
 (ぶつかっただけでこれだべか!?)

 かろうじて動く首から上を動かした。見上げた先にいるのは身綺麗な侍女たち。白い華服に包まれ、うっすらとした化粧のなかにきれいさがあった。どの侍女も美女と言っても差し支えないほど。
 そして彼女たちに囲まれるようにして、一人の女性が馬車の中から顔を出していた。

 (うわっ。化粧、濃いなぁ。あれじゃ、肌痛めちゃうよ。それに似合ってないし)

 まだ幼さが残る顔立ちの少女だったが、化粧はお世辞にも適量とは言えない。頬には白粉がべったりと塗られ、口紅にいたっては、たらこ唇ようになっていた。いわゆる厚化粧というやつだろう。
 少女が何かを言おうと口を開いた。けれど侍女たちに一斉に睨まれてしまう。彼女は押し黙るしかなく、顔を伏せってしまった。
 肩を震わせ、嗚咽を我慢するかのような声がする。

 (……ああ、多分これって……)

 侍女たちによる、女性への陰湿な苛めだと考えた。案の定女性は侍女たちに何かを言おうとしている。けれど、誰一人として聞いていない。
 そんな馬車は有無を言わさずに、後宮へと入っていった。
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