あなたのおかげで吹っ切れました〜私のお金目当てならお望み通りに。ただし利子付きです

67

「ユージン様…」

甘く見つめ合う二人の空気に耐えきれなくなったアリアナが咳払いするか真剣に検討し始めた時、アリアナの部屋がノックされた。

「どうぞ」

入ってきたクレメントにこれほど感謝の念を抱いたのは、本性を知って以来初めてかもしれない。そうアリアナが思った瞬間、クレメントは口を開いた。

「ベス、ゾーイの屋敷に戻ると聞いたがアリアナと何かあったのか」

アリアナのいる前で、直接ベスに聞く無神経さにアリアナが呆れて口を挟む。

「クレメント様。私のメイドのことでしたら私にお聞きくださいませ。クレメント様から私を差し置いて問われたとあれば、ベスも居心地が悪いでしょう」

暗にゾーイ家のことに口を挟むな、と告げたつもりだったが、クレメントには届かなかったらしい。それどころか何を勘違いしたのか、アリアナに食ってかかる。

「まさか君がベスを追い出そうとしているのか。ずっと尽くしてくれた相手に何という仕打ちをするんだ」

自分のことを棚に上げて好き勝手言うクレメントに言い返すのも馬鹿らしくなった時、ユージンが冷えた声で口を挟んだ。

「義兄上、挨拶に伺わず申し訳ございません。そういえば、顔を合わせるのは式以来ですが、あのあと姉はこちらの家で問題なく過ごせているでしょうか」

そしてアリアナから見ると、意地の悪さを感じさせる爽やかな笑みとともに会心の一撃を放った。

「クレメント様は女性の心を掴むのがお上手だと言う噂を耳にしまして。駆け引きなどできない姉は泣かされているのでは、と密かに心配していたのです。」

そして笑みを深めると優しくベスの肩を引き寄せながら続ける。

「実はベスをゾーイ家に戻すのも姉の希望なんです。ベスには想い人がいるにもかかわらず、クレメント様が私に嫉妬させるために、ベスをやたら気にかけるのが辛い、と。あまり姉を虐めないでやってください。」

好き勝手話すユージンをげんなりした表情でアリアナは見た。
まるでアリアナが、クレメントに恋心をまだ抱いていると強く印象づけたいような物言いを不思議に思う。
しかし、クレメントは最初の部分に気を取られたらしい。妻とその弟が目の前にいるにも関わらず、発したのはベスの裏切りを責める罵倒の言葉だった。

「嘘だろ、ベス。あんなに潤んだ瞳で誘うように私を見つめてきたじゃないか。他に男がいるにも関わらず…よくそんなはしたない真似ができたものだ。」