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「ありがとうございます、ユージン様。とても嬉しく思います。」

そう答えて、話しだそうとしたベスに、ユージンは片手を挙げて制した。反対側の手で顔を覆っている。手で隠しきれなかったところが赤く染まっているのを見て、アリアナとベスは驚く。いつも飄々とした様子のユージンが照れているのはアリアナにとっては一種感動的ですらあった。

「ユージンってば、今になって照れてるの?」

からかうつもりはなかったが、思わず聞いてしまったアリアナにユージンは無言を貫く。

「あ、あのユージン様…」
「ごめん、ベス。返事はゾーイの屋敷に着いてから貰えると嬉しい。」

それまでと打って変わってぼそりと呟く姿にアリアナが無邪気に問いかけた。

「さっきまではかっこ良く、かけがえのない人なんだ、って言ってたのにいきなりどうしたの?」
「姉さん、黙っててくれる?」
「もしかして、私の前で返事を貰うのが嫌とか?確かに二人きりの時に返事を貰う方がロマンチックよね」

ベスのユージンに対する想いを知ってるアリアナは、二人が両思いだと言うことを分かっている。しかし、それを知らないユージンはついにうんざりした様子でアリアナに答えた。

「姉さん、ベスがここで僕を断ったら帰りの馬車、お互い気まずいと思うんだけど。」

少し声に苛立ちが含まれているのを感じて、アリアナはきょとんとする。ベスはベスで笑いそうになるのを、口元に手を当てることで辛うじて抑え込んでいる。しばらくして落ち着いたらしいベスがユージンに尋ねた。

「気まずくないお返事でしたら、今しても構いませんか?」

口元に笑みを称えたベスを、ユージンはまじまじと見つめる。

「ユージン様?」
「あ、うん」

思わず間の抜けた返事をしたユージンに、ベスはさらに笑みを深めた。

「私にとってもユージン様は特別な男性です。叶うのであればこれから先の未来、ユージン様の隣でお役に立ちたいと思います」

答えを聞いたユージンは、瞬時なんとも言えない複雑な表情を見せた。

「あの、ユージン様…私なにかお気に触ることでも申し上げたでしょうか」

喜びの表情の一つでも見せてもらえると思っていたベスは、動揺したように尋ねた。ユージンは気を取り直すように、頭を軽く左右に振ってから笑みを浮かべて答えた。

「役に立つとか、考えなくていいんだ。君が側にいてくれるだけで、僕は幸せなんだから。」
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