暗殺者の少女、四大精霊に懐かれる。〜異世界に渡ったので、流浪の旅人になります〜

赤海 梓

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第1章 精霊と一人の少女

第2話 真なる目覚め

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「……全部、思い出した」





 頭の中に、かつての自分の記憶が一気に流れ込んだ。

 私は、蝶華 瑠蜜。
 暗殺一族、蝶華の長。

 最期の記憶は曖昧だ。脳が思い出すのを拒絶している。だがこれだけははっきりと覚えている。
 私の最期は、仲間の裏切りであった。背後から刺され、そのまま死んだ。

 人を殺して生業を立てている、クズだ。






「……あははっ、こんな私が、第2の生を……ねぇ……」

「……どうしたんだ」

「私はクズなんだよ。言われるがままに人を殺し、金を貰い、悠々自適に暮らしてる。人としてありえない。そんな私が別世界に転生してのんびり暮らすって? はっ、反吐が出るね」

 私の声は震えていた。かつて殺した人間の視線を不思議と感じて仕方がない。

「そういう一族に産まれたから仕方がない? 親にそう育てられたから当然? そんなの、ただの言い訳だ。私は人殺しを生業とするクズである事に変わりはない」

 私の記憶が戻る。それと同時に流れた記憶から、自分がどれだけ醜悪な人間であるかを自認させられる。

 部屋の中には沈黙が響いた。誰も言葉を発しない。私もこれ以上何かを言う気力もない。

 そんな中口を開いたのは、モースの小さな声であった。

「……主よ」

「何? こんな私に何か言う事でも?」

 私は八つ当たりかのように強く問う。それに対してモースは穏やかに返事を返す。

「主が前世で何があったかはわからん。主の辛さを理解できるとも言えん。だが、私たちにもっと事細かに話してくれれば相談にだって乗ろう。いいよな?」

「うん! えっと…ルミツ?だよね! 君は私が認めた人間! なんでも言ってくれていいんだよ!」

「私も大丈夫よ~。ルミツちゃん? なんでも相談してね?」

「……」

「彼女らもそう言っている。世界全ての生命が主の敵だと思ってはいけぬ。そしてこれだけは言えよう」

「……?」

「主の人格は、心優しいごく普通の少女だ」

「……!」

「我々精霊は人間の心を読み取ることができる。人格、性格、犯罪歴までも、魂の穢れから読み取ることが出来る。だからこそ言い切れるのだよ。ルミツ、主はクズなどではない。心の奥底から優しい少女である。自身を卑下するな」

「……あ」

 上手く言葉が発せられない。嗚咽が漏れる。
 今まで私を雁字搦めにしていた視線の鎖が、少しだけ解けた気がして。どこからともなく感じる殺気を、打ち払えたような気がして。

「……私、私はぁっ……」

「……」

「自由に生きても……良いんですかぁっ……?」

「……あぁ。もちろんだ」

「うっ、ううっ……」







「うわーーーーーん!!!」

























 ◇◇◇

 柄にもなく大泣きした日の夜。私は夢を見た。
 暗い暗い夢。いつも通りの、怖い夢。
 私はいつもこの夢に怯えていた。
 今まで私が殺してきた人間の視線、仕事としてしか関係のない家族、裏に何が潜んでいるのかすらわからない仲間。誰も彼も私の腹の中を覗き込んでいるんじゃないかと、辛くて、辛くて、仕方がなかった。

 でも今日は、ちっとも怖くなかった。

 いちばん私が怖かったのはどんな他人なんかじゃない。クズで残虐な自分なのだと気がついた。
 私はクズが嫌いだった。だから、自分が酷く嫌いで、ずっと自分を殺したいと、心のどこかで思っていたのだろう。





「それも今日で終わりだ」






















 朝、目が覚めると知らない天井がそこにはあった。
 いや、僅かに知っている。これは昨日モースに紹介され、連れてこられた家だ。

「ん……」

 私は起き上がり伸びをする。すると、横の方から高い声が聞こえてきた。

「あっ、起きたよー! モース!」

「えっと君は……、シルフ」

「そうだよ!」

 やっぱりこの異世界というのは夢じゃなかったのか。

「おはよ、ルミツ!」

「うん、おはよう」

 前世の記憶を取り戻した私だが、寝覚めは案外良かった。スッキリと目が覚め、疲れも取れている。

「じゃあモースがご飯作ってくれている頃だろうし、そっちに向かおっかー!」

 ひゅんひゅんと飛びながら案内をしてくれるシルフ。
 私とシルフしかいなかった部屋を出て廊下に出る。するとそこにはいい匂いが広がっており、思わず顔が緩む。

「ふぁ~、いい匂いだねぇ~」

「うん、美味しそう」

 そして比較的広い部屋に出た時、そこにはモースとウンディーネがいた。モースは料理を作っており、、ウンディーネは食卓のところで座っていた。

「おう、丁度いい所に来たな。今朝食が出来上がるから、そこ座っといてくれ」

「おはよ~、ルミツちゃ~ん」

「おはよう、2人とも」

 私はウンディーネの隣に座り、モースのご飯を待つ。
 こんなゆったりとご飯が食べられるのはいつ以来だろうか。
 かつては自分をこじられすぎて、永遠の闇を彷徨って……

「ルミツー、暗い顔してるー」

「あまりそういう顔はしない方がいいわよ~?」

「えっ……?」

 確かに私はすぐ暗い方向へと思考を持っていっていた。

「……ごめん! ご飯くらい明るく食べないとね!」

「うん、うん!」

「ルミツちゃんは笑顔が似合うわ~」

「ほれ、お待ちどおさま。今日は目玉焼きとベーコンだ」

 机に5人分、朝食が置かれる。

「来た来た! いただきまーす!」

「いただきま~す」

「……あ」

「いいぞ、ルミツ。遠慮なく食べなさい」

「いただきます……!」

 私は1口、カリカリに焼かれたベーコンと卵の欠片を口に運ぶ。

「はむっ、もぐもぐ……」

 ……!?

「……なんで、こんなに……!?」

「どうかしたか?」

「めちゃくちゃ美味しい……!!」

 私は驚いてしまった。前世のご飯のほうが技術も材料も洗練されているはずなのに……。

「美味しい、美味しい!!」

「良かったね、ルミツちゃーん! うん、今日のも美味しい!」

「モースの腕は流石ね~」

「ふっ、舐めてもらっちゃ困るな」

 ……そっか、前世は基本独りで1日3食を食べていた。誰かと一緒にご飯を食べると美味しいっていうのは聞いたことがあったが、これ程とは思わなかった。

「モース、おかわり!」

「ルミツちゃん早ーい!」

「いいわね~、育ち盛りね~」

「わかった。じゃあ皿を渡してくれ」

「うん」

 そして私は皿を渡す。

「うし、ちょっと待っとれ」

 皿を持ってキッチンへと歩いていくモース。

「成長期って言ったけど、ルミツちゃんはどのくらいの年齢なのかしら?」

「私? 私は今16歳だよ」

「16歳!?」

「あれぇ!?」

 2人ともすごい驚いてしまった。…なんで?成長期って言ったら丁度16とかそこらじゃないの…?

「精霊の齢で考えすぎだ、2人とも。ルミツよ、この阿呆2人は200歳前後を予想していたのだ。獣人及び人間は長くて100歳とかそこらしか生きられないのだから、16歳でも普通であろう」

「「あ~、確かに……」」

「全く…。ほれルミツ、おかわりだ」

「ありがとう、モース」

 こうして私たちは朝食を済ませたのであった。

「洗い物手伝うよ」

「おぉ、助かる」

 食後、私はモースの皿洗いを手伝いながら今後について考える。
 せっかく別世界に来たのだ。これを機に今までできなかった何かをしてみたい。

「ねー、ウンディーネ。そういえばアイツは?」

「そういえば見てないわね」

 ……殺気を感じる。なぜだ? なぜ私に殺気を?
 近づいてきた。明らかに私に敵意があるな。

「……そこか」

 私は洗い物の中から包丁を取り出し、外へ出る。

「おい、ルミツ!?」

「ちょっ、えぇっ!?」

「ルミツちゃん!?」

 急いで外に出たが、辺りにそれらしき姿はない。

 でも残念、私の情報源は視覚だけじゃないんだ。
 集中する。すると2時の方向の木の後ろに、何かが隠れているのを感じる。

「見つけた」

 私は木に向かう。
 そして殺気の根源の首に包丁を突きつける。

「なっ……!」

「君、誰?」

「ちっ……」

 舌打ちをしたかと思えば対象が消えた。
 いや、逃げ出してはいない。

「何があった!」

「私を狙っている何者かがいた。そいつが今この近くにいる。気を付けて」

「あ、モース、上のアレじゃない?」

「あ、アイツ……」

 シルフが指さした上の方向。そこには羽の生えたトカゲ……、いや最早あれは伝説のドラゴン…!

「アイツがなにか知ってるの?」

「知ってるも何も、アイツは四大精霊が1人、サラマンダーだ」

 サラマンダー……。名前は知っているが、なぜそんな精霊が私に殺気を向けてくるのだろうか。
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