木こりと騎士〜不条理に全てを奪われた元宰相家令嬢は、大切なものを守るために剣をとる〜

温故知新

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最終章 木こりと騎士は……

第524話 騎士団長VS副騎士団長

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 お姫様抱っこされたフリージアがリュシアンと共に国王達のもとに逃れていた頃、闘技場の壁にグレアを叩きつけたフェビルは、強化魔法をかけるとグレアとの距離を詰める。


「さて、グレア。改めてだが、久しぶりに本気の手合わせをしようじゃないか!」


 大剣を担いでニヤリと笑ったフェビルに、グレアがノロノロと立ち上がる。


「……ノルベルトサマノジャマ、ゼッタイニサセナイ」
「…………」


 (本当に傀儡になったんだな)

 静かに短剣を構えるグレアをフェビルが苦々しい気持ちで見た刹那、僅かに砂埃を巻き上げたグレアは、フェビルの前から消えると、背後に逆手で持った短剣でフェビルの後頭部を狙う。


「おいおい、グレア。俺に向かって本気の闇討ちなんて珍しいじゃねぇかよ」


 そう言って、くるりと振り返ったフェビルは、冗談を口にしながら大剣でグレアの攻撃を受け止める。


「っ!」
「そう言えば、初めてお前と出会った時、こんな感じで尖っていたな」


 懐かしそうに昔話をするフェビルに、僅かに苦い顔をしたグレアは、フェビルから一旦距離を離れると、無詠唱で土属性の中級魔法を唱え、フェビルに向かって無数の土の短剣を放つ。


「そうそう。そうやって当時、襲いかかってくる魔物を屠っていたな。いやいや、懐かしいぜ」


 飛んできた土の短剣を全て切り落としたフェビルは、グレアと鍔迫り合いになっても、楽しそうに昔話を続ける。


「今は俺の右腕として常に冷静であるが、お前が第二騎士団に入団し、俺のいた部隊に入った時、お前は物凄く尖っていて、何かあれば俺や隊長に楯突いていたな」


 グレアの攻撃を難なく弾き返したフェビルは僅かに笑みを潜めると哀れな目を向ける。


「当時は『どうして、こんな危ない奴が新人として入ってきたんだ』って思ったが……お前、騎士団に入団する少し前に、親父さんと一番上のお兄さんを魔物に殺されたんだったな」


 隠密を得意とするハースキー男爵家で、治癒魔法が使えるグレアは当初、両親の強い意向で治癒師を目指していた。

 だが、治癒師として騎士団に入る少し前、突如としてハースキー男爵領がスタンピードに襲わた。

 領民を守ろうと、グレアの父親と一番上の兄は前線に立ち、魔物達の死闘の末、己の命と引き換えに領民と家族を守ったのだ。

 グレアにとって父は、母と共に治癒師の道を進めてくれた1人で、三男であるグレアにたくさんの愛情を注いでくれた大切な人。

 そして、一番上の兄は、グレアに貴族としての所作や隠密の極意など様々なことを教えてくれた尊敬する人。

 そんな2人を同時に亡くしたグレアは、治癒師としてではなく、騎士として騎士団に入団し、自らの手で魔物を屠る決意をした。

 グレアと再び鍔迫り合いになったフェビルの表情から笑みが消える。


「魔物を見れば、お前は自我を失ったかのように突っ込んでいった。それが、俺はどうにもそれは復讐のためではなく、自ら命を投げ出すように見えた」


 グレアとの鍔迫り合いに勝った刹那、至近距離で飛んできた土の短剣を全て撃ち落としたフェビルは、グレアの目を見て話しかける。

 まるで、騎士団内で当時、問題児扱いされていたあの頃のグレアを諭すように。


「だから俺は、お前が無茶をする度に言った。『そんな無茶苦茶な戦い方をしたって、親父や兄貴は喜ばないぞ』と。例え、お前に声をかける奴が誰もいなくなっても、俺だけは何度も言った」


 グレアが騎士団で問題行動を起こす度に、グレアと距離を取る団員が増える中、フェビルだけはグレアの中にある熱い思いを良い方向に変えようと何度も諭した。

 そうしていくうちに、グレアの尖った態度も徐々に軟化し、グレアは今までの行いが間違いだったとようやく気づいた。

 猛省したグレアは、次第に物事を冷静に考えるようになり、劣悪だった周りとの関係を良好にしていった。

 いつしか、グレアは魔物を見ても捨て身で突っ込まず、仲間と冷静に対処出来るようになっていった。


「俺が隊長を任された時、お前言ってくれたじゃねぇか。『隊長は粗雑だから、こういう細かいのは私の仕事になりますね』って」


 フェビルと行動を共にするにつれ、騎士としての有能さが開花したグレアは、今では第二騎士団から頼られる存在になった。

 それもこれも全て、フェビルが熱心にグレアと向き合ってくれたから。

 だが彼と向き合っていたフェビル自身も、グレアは自分にとってかけがえのない存在になった。

 第二騎士団から近衛騎士団の団長になる際、彼を副団長に任命するくらいに。


「そのお前が、あの頃にみたいに正気を失ってどうするんだよ」


 情に厚くて無茶無謀が得意なフェビルと冷静沈着で的確な采配を得意とするグレア。

 正反対な2人は今、あの頃のように戦った。


「全く、お前は働きすぎだ」


 (俺が何度も『休め』って言っているのに無視するから、ノルベルトの野郎に操られるんだよ)

 苦々しい顔で愚痴を零したフェビルは、大剣を鞘に納め、開いていたグレアとの距離を詰めると、グレアの鳩尾に強烈な一発を入れた。


「うぐっ!」


 血を吐いたグレアは、転がるように倒れ込むとピクリとも動かなくなった。


「すまんな、グレア。だが、少しは休め」


 彼が気絶しているのを確認したフェビルは、コロッセオの観客席にグレアを投げ込むと、レクシャとディロイスと合流しようと駆けた。
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