木こりと騎士〜不条理に全てを奪われた元宰相家令嬢は、大切なものを守るために剣をとる〜

温故知新

文字の大きさ
559 / 606
最終章 木こりと騎士は……

第525話 2人の宮廷魔法師

しおりを挟む
 コロッセオでフェビルとグレアが対峙していた頃、テレポートでコロッセオからほど近い草原に転移したルベルとロスペル。

 そこは、つい先程までメスト達がリアンや魔物達と戦っていた街道からほど近い場所だった。


「ルベル団長、随分とバカなことをしていますね」


 街道の上で未だに気を失っているリアンや騎士達を一瞥したロスペルが、視線をルベルに戻した瞬間、ノルベルトの傀儡であるルベルがロスペルに杖を向ける。


「ノルベルトサマノジャマ、ゼッタイニサセナイ」
「……今の言葉、録音魔法で録っておくべきでした。そしたら、しばらくは仕事を押し付けるようなことはしなくなるでしょうから」


 目にハイライトを失っている上司相手に、冗談を口にしつつも悲しい目を向けるロスペル。

 すると、杖を掲げたルベルが空を覆い尽くさんとばかりの巨大な赤い魔法陣を展開する。

 そして、ロスペルに向かって杖を振ると、魔法陣から巨大な火の玉が現れ、そのままロスペルがいる方に向かって飛んだ。


「火属性の上級魔法の《ヘブンズファイヤー》ですか。本当、私より不器用な団長が、そんな物騒な魔法を無詠唱で唱えられるはずがないのに」


 呆れたように呟いたロスペルは、銀色の杖を火の玉に向けると、ルベルが展開した魔法陣より少し小さい青色の魔法陣を展開する。

 (水属性の中級魔法、《ウォーターレイン》)

 無詠唱で降らした冷たい雨は、随分前にラピスが降らした雨よりも冷たく、そして広範囲に地面を濡らし、ルベルの放った巨大な火の玉を一瞬にして消し去った。


「それに、僕の知っている団長はこんな雑な魔力の練りで魔法を撃つなんて愚行はしない」


 杖を降って雨を消し去ったロスペルは、ルベルの放った魔法の精度の低さに怒りを覚える。

 (僕の知っている団長は、中級魔法に負ける上級魔法を撃つような魔力の練り方はしない)

 すると突然、ルベルが宙に浮かび、ロスペルに向けて再び杖を向ける。


「フッ、久しぶりにですか。良いでしょう。私もここ7年、自己鍛錬以外でまともに魔法を使っていませんでしたから、リハビリがてらお手合わせいただきましょう」


 ロスペルの言う『撃ち合い』とは、宮廷魔法師団で行われている鍛錬の1つで、魔法詠唱速度向上を目的とした一騎打ちである。

 ルールは、互いに宙に浮いた状態で、得意な属性の中級魔法を撃ちあい、相手が戦意喪失、もしくは魔力枯渇、またはリタイヤを宣言したら勝ちというものである。

 フッと笑みを零したロスペルは、飛行魔法で宙に浮いた刹那、ルベルとの本気の撃ち合いが始まった。

 (基本的に撃ち合いは一属性のみなんだけど、僕も団長も全属性使える。加えて、今の団長は無詠唱で上級魔法も使える。だから、ノルベルトの影響下にあるとはいえ、油断できないんだよねぇ)

 何度かルベルと撃ち合いをしたことがロスペルにとって、あらゆる属性の中級魔法や上級魔法を無詠唱で撃ってくる今のルベルは、改竄魔法の影響があるとはいえ、油断ならない相手だった。

 そんな一瞬の油断が命取りになる撃ち合いの中、ルベルは本気で殺しにかかってきている上司に話しかける。


「団長、覚えていないでしょうが、私はあなたの『お前はお前のままでいい』という言葉、今でも忘れていないんですよ」


 それは、ルベルが宮廷魔法師団に入って間もない頃、先輩宮廷魔法師に悪絡みされたいるロスペルを偶然ルベルが見つけ、悪絡みしていた部下を叱った後、落ち込んでいるロスペルにかけた言葉だった。

 (あの言葉で、僕はどれだけ救われたことか)

 リュシアンとフリージアの言葉で魔法を極めることを決意をしたロスペル。
 それでも、彼の中には、無効化魔法が使えないことに対する罪悪感と劣等感が僅かに残っていた。

 そんな彼の胸中を知っていたのか、悪絡みしていた部下を叱ったルベルが、快活な笑みを浮かべながら言ったのだ。


「『サザランス公爵家で無効化魔法が使えない奴』と後ろ指をさされていた僕に『稀代の天才魔法師』という二つ名で見返す機会をくださったのは紛れもなくあなたでした。ですから……!」
「ぐはっ!」


 ロスペルの洗練された風属性の上級魔法をもろに食らったルベルは、地面に叩きつけられるとそのまま気を失った。


「今は、少しだけ寝ていてください、ルベル団長。後は、いつものように私がしておきますから」


 悲しそうに呟いたロスペルは、気を失ったルベルを束縛魔法で縛り、転移魔法で客席に転移させた。

 その時、コロッセオから複合魔法特有の魔力が、風に乗って流れてきた。


「カトレア嬢、どうやら複合魔法を使ったみたいだね」


 (相変わらず強気な性格が出ている魔法だね)


「とりあえず、様子だけ見ようかな」


 弟子の魔法に苦笑したロスペルは、飛行魔法を使ってコロッセオ上空に移動した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】公爵家の秘密の愛娘 

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。 過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。 そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。 「パパ……私はあなたの娘です」 名乗り出るアンジェラ。 ◇ アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。 この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。 初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。 母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞  🔶設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞 🔶稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇‍♀️

冷酷侯爵と政略結婚したら、実家がざまぁされました

鍛高譚
恋愛
「この結婚は、家のため。ただの政略結婚よ」 そう言い聞かせ、愛のない結婚を受け入れた公爵令嬢リゼット。 しかし、挙式後すぐに父が「婚約破棄しろ」と命じてきた!? だが、夫であるアレクシス・フォン・シュヴァルツ侯爵は冷たく言い放つ。 「彼女を渡すつもりはない」 冷酷無慈悲と噂される侯爵が、なぜかリゼットを溺愛し始める!? 毎日甘やかされ、守られ、気づけば逃げ場なし! さらに、父の不正が明るみに出て、公爵家は失墜―― リゼットを道具として利用しようとした者たちに、ざまぁの鉄槌が下される! 政略結婚から始まる、甘々溺愛ラブストーリー! 「愛なんてないはずなのに……どうしてこんなに大切にされるの?」

追放された落ちこぼれ令嬢ですが、氷血公爵様と辺境でスローライフを始めたら、天性の才能で領地がとんでもないことになっちゃいました!!

六角
恋愛
「君は公爵夫人に相応しくない」――王太子から突然婚約破棄を告げられた令嬢リナ。濡れ衣を着せられ、悪女の烙印を押された彼女が追放された先は、"氷血公爵"と恐れられるアレクシスが治める極寒の辺境領地だった。 家族にも見捨てられ、絶望の淵に立たされたリナだったが、彼女には秘密があった。それは、前世の知識と、誰にも真似できない天性の《領地経営》の才能! 「ここなら、自由に生きられるかもしれない」 活気のない領地に、リナは次々と革命を起こしていく。寂れた市場は活気あふれる商業区へ、痩せた土地は黄金色の麦畑へ。彼女の魔法のような手腕に、最初は冷ややかだった領民たちも、そして氷のように冷たいはずのアレクシスも、次第に心を溶かされていく。 「リナ、君は私の領地だけの女神ではない。……私だけの、女神だ」

【完結】捨てられた皇子の探し人 ~偽物公女は「大嫌い」と言われても殿下の幸せを願います~

ゆきのひ
恋愛
二度目の人生は、前世で慕われていた皇子から、憎悪される運命でした…。 騎士の家系に生まれたリュシー。実家の没落により、生きるために皇宮のメイドとなる。そんなリュシーが命じられたのは、廃屋同然の離宮でひっそりと暮らすセレスティアン皇子の世話係。 母を亡くして後ろ盾もなく、皇帝に冷遇されている幼い皇子に心を寄せたリュシーは、皇子が少しでも快適に暮らしていけるよう奮闘し、その姿に皇子はしだいに心開いていく。 そんな皇子との穏やかな日々に幸せを感じていたリュシーだが、ある日、毒を盛られて命を落とした……はずが、目を開けると、公爵令嬢として公爵家のベッドに横たわっていた。けれどその令嬢は、リュシーの死に因縁のある公爵の一人娘……。 望まぬ形で二度目の生を享けたリュシーと、その死に復讐を誓った皇子が、本当に望んでいた幸せを手に入れるまでのお話。 ※本作は「小説家になろう」さん、「カクヨム」さんにも投稿しています。 ※表紙画像はAIで作成したものです

偽聖女と追放された私は、辺境で定食屋をはじめます~こっそり生活魔法で味付けしていたら、氷の騎士団長様が毎日通ってくるんですけど!?~

咲月ねむと
恋愛
【アルファポリス女性向けHOTランキング1位達成作品!!】 あらすじ 「役立たずの偽聖女め、この国から出て行け!」 ​聖女として召喚されたものの、地味な【生活魔法】しか使えず「ハズレ」の烙印を押されたエリーナ。 彼女は婚約者である王太子に婚約破棄され、真の聖女と呼ばれる義妹の陰謀によって国外追放されてしまう。 ​しかし、エリーナはめげなかった。 実は彼女の【生活魔法】は、一瞬で廃墟を新築に変え、どんな食材も極上の味に変えるチートスキルだったのだ! ​北の辺境の地へ辿り着いたエリーナは、念願だった自分の定食屋『陽だまり亭』をオープンする。 すると、そこへ「氷の騎士団長」と恐れられる冷徹な美形騎士・クラウスがやってきて――。 ​「……味がする。お前の料理だけが、俺の呪いを解いてくれるんだ」 ​とある呪いで味覚を失っていた彼は、エリーナの料理にだけ味を感じると判明。 以来、彼は毎日のように店に通い詰め、高額な代金を置いていったり、邪魔する敵を排除したりと、エリーナを過保護なまでに溺愛し始める。 ​最強の騎士団長と騎士たちに胃袋を掴んで守られながら、エリーナは辺境で幸せなスローライフを満喫中?

白い結婚で結構ですわ。愛人持ちの夫に興味はありません

鍛高譚
恋愛
公爵令嬢ルチアーナは、王太子アルベルトとの政略結婚を命じられた。だが彼にはすでに愛する女性がいた。そこでルチアーナは、夫婦の義務を果たさない“白い結婚”を提案し、お互いに干渉しない関係を築くことに成功する。 「夫婦としての役目を求めないでくださいませ。その代わり、わたくしも自由にさせていただきますわ」 そうして始まった王太子妃としての優雅な生活。社交界では完璧な妃を演じつつ、裏では趣味の読書やお茶会を存分に楽しみ、面倒ごととは距離を置くつもりだった。 ——だが、夫は次第にルチアーナを気にし始める。 「最近、おまえが気になるんだ」 「もっと夫婦としての時間を持たないか?」 今さらそんなことを言われても、もう遅いのですわ。 愛人を優先しておいて、後になって本妻に興味を持つなんて、そんな都合の良い話はお断り。 わたくしは、自由を守るために、今日も紅茶を嗜みながら優雅に過ごしますわ——。 政略結婚から始まる痛快ざまぁ! 夫の後悔なんて知りませんわ “白い結婚”を謳歌する令嬢の、自由気ままなラブ&ざまぁストーリー!

無能だとクビになったメイドですが、今は王宮で筆頭メイドをしています

如月ぐるぐる
恋愛
「お前の様な役立たずは首だ! さっさと出て行け!」 何年も仕えていた男爵家を追い出され、途方に暮れるシルヴィア。 しかし街の人々はシルビアを優しく受け入れ、宿屋で住み込みで働く事になる。 様々な理由により職を転々とするが、ある日、男爵家は爵位剥奪となり、近隣の子爵家の代理人が統治する事になる。 この地域に詳しく、元男爵家に仕えていた事もあり、代理人がシルヴィアに協力を求めて来たのだが…… 男爵メイドから王宮筆頭メイドになるシルビアの物語が、今始まった。

【完結】元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?

雨宮羽那
恋愛
 元社畜聖女×笑顔の腹黒宰相のラブストーリー。 ◇◇◇◇  名も無きお飾り聖女だった私は、過労で倒れたその日、思い出した。  自分が前世、疲れきった新卒社会人・花菱桔梗(はなびし ききょう)という日本人女性だったことに。    運良く婚約者の王子から婚約破棄を告げられたので、前世の教訓を活かし私は逃げることに決めました!  なのに、宰相閣下から求婚されて!? 何故か甘やかされているんですけど、何か裏があったりしますか!? ◇◇◇◇ お気に入り登録、エールありがとうございます♡ ※ざまぁはゆっくりじわじわと進行します。 ※「小説家になろう」「エブリスタ」様にも掲載しております(アルファポリス先行)。 ※この作品はフィクションです。特定の政治思想を肯定または否定するものではありません(_ _*))

処理中です...