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43_寵妃の本領
しおりを挟む「・・・・まったく、これはどういうことだろうか」
――――目の前に立ち塞がる趙徳妃を見て、私はそう呟かずにはいられなかった。
「あらあら陛下。・・・・こんな夜分に、どこに行かれるおつもりですか?」
側仕えを引き連れて、客人のもとへ向かっている途中で、まるで待ち構えるように通路の真ん中に立っていた趙徳妃と出くわした。
しかも趙徳妃は、顔は笑っているものの、頬は怒りで紅潮している。私がこれからどこで、誰と会おうとしていたのか、知っていることは一目瞭然だ。
「陛下」
楚々とした仕草で、趙徳妃は私に歩み寄ってくる。
「それで、どこに行かれるおつもりだったのですか?」
「・・・・客人に会いに行くつもりで――――」
「客人? 今、客人とおっしゃいましたか?」
趙徳妃は厚い唇を、笑みの形に歪める。
「陛下、客人の中には若い娘もおります。かような夜分に訪ねれば、あらぬ噂の種となりましょう」
「・・・・・・・・」
趙徳妃の目を、直視できない。彼女だけじゃなく、彼女に付き従う宮女達まで、一様に眼光を尖らせていた。
その団結力が生み出す威圧感に耐えられず、私の側仕えは全員、萎れた花のように項垂れてしまう。
「は、話がしたいだけで――――」
「さすれば、明日、清和殿でゆるりとお話すればよろしいでしょう。わざわざ夜、客人の部屋にお渡りになる必要はありませぬ」
「・・・・・・・・」
趙徳妃は、妃嬪の中で一番素直に、嫉妬心をぶつけてくる。
だが彼女が特別、嫉妬深いというわけじゃない。
彼女は素直なだけだ。他の妃嬪達は感情を抑え、あるいは隠している。
私は趙徳妃の素直な面を気に入っていたが、こういうときは厄介だった。
「いったい、誰が告げ口したやら――――いや、考えるまでもないか」
私は趙徳妃を睨む。
「俊煕の奴だな? まったく、告げ口をするとは、あやつも卑劣な真似を・・・・」
「まあ、殿下のことを悪くおっしゃるなんて」
趙徳妃は大仰に、呆れてみせる。
「俊煕殿下は皇子の中でもっとも高潔な方ですよ。・・・・お父上に似ずに、まこと誠実なお方に成長されました」
「・・・・その言葉は痛いな」
生真面目な俊煕が、こんな手段を使ったことが意外だった。
だがすぐに怒りは静まり、おかしさが込み上げてくる。
「くくく・・・・」
「・・・・陛下。何がおかしいのですか?」
堪えきれずに笑い声を零すと、趙徳妃は目を吊り上げた。
「怒るな。そなたを笑っているのではない」
「では、何がおかしいのです?」
「俊煕のことだ。生真面目なあやつが、こんな小細工をするとはな」
ひとしきり笑って、私は趙徳妃を見る。
「今晩はいい気分だ。そなたの言う通り、客人とは明日話すことにしよう。もともと、俊煕を少しからかうつもりで、それ以上の意図はなかったのだ」
「まあ、お人が悪い」
私の意図が別にあると知り、趙徳妃の怒りは、静まったようだった。彼女は袖で口元を隠して、くすくすと笑う。
「なぜ、そのようなことをなさるのです? 俊煕殿下は、誰よりも皇子らしくいようと、常に心がけていらっしゃるのに」
「だからこそだ。あやつは、品格だの徳だの規範だのといった壁を、破るべきなのだ。・・・・もっと広い視野を持たなければ、私が倒れた後、帝位を巡る争いに巻き込まれ、兄弟に殺されることになるだろう」
「・・・・・・・・」
趙徳妃は青ざめ、笑顔は露のように消えてしまう。
「・・・・すまん。そなたにする話ではなかったな。このような辛気臭い話はやめよう」
「では、客人のもとへはお渡りにならないのですね?」
「ああ、やめておく。・・・・だから誤解をするなと言っておるに。まことに、俊煕をからかおうと思っただけなのだ」
「まことですか? ・・・・陛下は嘘をつくのがお上手ですから」
「しつこいぞ。まことだと、何度も言っているだろう」
「失礼しました。――――それでは、陛下」
趙徳妃はにこりと笑う。
「本日は華藍宮においでください。陛下がご所望だった、西域の冷酒を用意しております」
「それはよい。では、華藍宮に行くとしよう」
私が手を差し出すと、機嫌がよくなった趙徳妃は、私の手の上に自分の手を重ねた。
そして並んで歩き出す。
私達の後を、側仕えと宮女が列を成してついてきた。
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