後宮の死体は語りかける

炭田おと

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45_欲しいもの

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「・・・・殿下、もし苦しいと思っているのなら、そうおっしゃってください」

 私の言葉を唐突に感じたのか、殿下は小首を傾げた。

「どうして突然?」

「す、すみません、唐突で・・・・あはは」

 私は、笑って誤魔化した。

「私は、今の自分の生き方を受け入れていますが、それでも時々苦しくなることがあります。・・・・もしかしたら殿下も時々は、皇子という役割を、重く、苦しく感じることがあるのかもしれないと思ったんです」

「・・・・・・・・」


「私には何の力もないので、殿下にして差し上げられることと言えば、聞き役だけですが・・・・もしそれだけでもいいのなら、いつでも頼ってください」


 不意に、俊煕しゅんき殿下が手を伸ばしてきた。


 身を引く間もなく、殿下の手が私の頬を包み込む。


「その言葉を、嬉しく思います」


 俊煕しゅんき殿下は少しはにかんだ様子を見せながらも、まっすぐ私を見ていた。


「・・・・欲しいものは、自分で手に入れるしかない。昔から父上はよくそう言っていましたが、その言葉の意味が、ようやくわかった気がします」


 俊煕しゅんき殿下の眼差しから、熱を感じた。私も金縛りにあったように、視線を外すことができない。


 その時、遠くに誰かの気配を感じたのか、殿下の視線が私から外れた。

 それでようやく、金縛りも解ける。


 胸に手を当てると、速くなった鼓動の振動を感じた。


「人が来ました」

 振り返ると、宦官かんがん帽を被った人達の列が見えた。

「見つかると厄介です。そろそろ、君雲殿に戻りましょうか」

 私は頷く。こんな人気がない場所に二人きりでいたら、誤解されてしまうだろう。

「行きましょう」

 殿下と並んで、歩き出した。


 もう殿下の手は私を離れているのに、いまだに鼓動は速いままだ。


「・・・・明日からまた、事件の手がかりを探さなければなりませんね」

 歩きながら、殿下は呟く。

 それで私は、殿下に相談しようと思っていた事柄を思い出した。


「殿下、一つお願いしたいことがあります。翠蘭すいらんさんを殺した犯人を知るために、あることを知りたいのです」


 話題が変わって、殿下も皇子の顔に戻っていた。

「犯人を捜しだすための方法を、思いついたんですか?」

「ええ。・・・・でもその方法で犯人を捜すには、少し厄介な問題があります」

「どんな問題ですか?」

「・・・・一部の方々しか知ることができないことを知りたいのです」

 俊煕しゅんき殿下の表情が、少し険しくなる。

「それは、どのようなことなのでしょうか?」


「――――莫氏ばくしの病歴です」


 殿下は息を呑み、じっと私の顔を見つめる。

「皇宮の医官いかん達は、莫氏ばくしの病歴について、くわしく知っているでしょう。書物に書き記しているはず。ですがたとえ今回の件の調査のためであっても、私にはその書物を見ることは許されません。ですから私の代わりに、殿下に確かめてもらいたいのです」

「私に?」

「ええ、陛下も殿下も、ご兄弟を何人か、病で失ったと聞いています。亡くなられる前、どんな症状が出ていたのか、それを知りたいんです。――――もし、私の推測通りなら、それで謎が解けると思います」

「わかりました」

 意外にも俊煕しゅんき殿下は、あっさりと引き受けてくれた。


 莫一族の病歴に関わる文書は、内廷ないていの中で、もっとも重要な機密のはず。なのに俊煕しゅんき殿下は、理由を聞こうともしない。そのことに内心、驚いていた。


「・・・・理由を聞かなくて、いいのですか?」


翠蘭すいらんを殺した人物を特定するために、必要なことなのでしょう? あなたがそう信じているのなら、俺も信じます」


 俊煕しゅんき殿下は微笑した。


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